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第一部 不毛の大地開拓 頑張ろう編
27 ドラゴンさんちょっとおこだね
しおりを挟む「ただいまー」
「お、おかえりないさい。詠斗さん」
転移で《不毛の地》の畑の場所に戻るとナイルが出迎えてくれた。
「あ、あのぉ」
「どしたの?」
「畑が…ごめんなさい!私のせいです!」
ナイルが深々頭を下げる、よく分からず畑を覗くと既に種芋から芽が出て根付いている状態だった。
「こんなに早く芽がでるんだ、この世界の芋」
「ち、違うんですぅ」
「え…」
涙目になりながらナイルの話を聞くと、どうやら森で採取した後畑の様子を眺めていたら、どうやら無意識に魔力を流していたようで野菜の成長が早くなってしまったらしい。
「なあんだ、ありがとう!早く野菜が食べれるよー。やった」
「うう、力コントロールできなくてごめんなさい」
「いいよ、いいよ。それより渡したい物もあるし、色々買い込んで来たからお茶にしよう」
丸太のテーブルと椅子を出して早速買って来た、焼き菓子や干し芋とお茶の準備を始めた。
少し時は遡り、ドラゴンの住み処にて…。
『ナイルはまだ戻らんのか』
『申し訳ありません、長。まともに遣いも出来ぬ愚息で…』
『チグリスに様子を見に行かせよう、チグリス!チグリス!』
長から名を呼ばれ面倒臭そうに、のそりと紅いドラゴンが動いた。
『はぃー、長ここに』
『今から《不毛の地》に赴きナイルを連れて戻って来るのだ。異界人からの婚礼への招待も確認を取る様に』
『えー…』
『えーではない、行ってこい!』
『へーい』
やれやれといわんばかりに、翼を広げ飛び立っていく。
『全く、あの者ももっと野心を足せば群れを幾つも率いる、若いドラゴンの導き手ななるんだが…』
『ですな…』
やれやれと、互いにため息を付きながら、2名の帰りを待つことにする。
『ったく、ちょっと帰ってこない位で迎えに行けって、これだから箱入りの坊っちゃんはー』
ぶつくさ文句を言いながらも高速で空を駆けていく、紅いドラゴンチグリスは、ナイルの幼馴染みという間だが、身分が違う。
そして臆病者のナイルと、好奇心が強く自由奔放なチグリスとでは決して仲が良いとも言えなかった。
『遣い位ちゃんとしろよー、それか異界人にもいじめられてんのか?』
臆病者で泣き虫のドラゴン、そんなナイルをいつもチグリスには疎ましく、苛立たしい存在だった。
『ん、あの辺だな』
《不毛の地》相変わらず気味が悪い、生命が枯れた大地、そんな土地を開拓しようとする、物好きな異界人にも呆れる。
『いた!ったく』
ナイルの姿を確認し、急降下を始める。
「ん、この気配。チグリス?」
「え?」
丸太のテーブルの上で木製のティーポットの下に平な掌サイズの石を置く、魔力を注ぐと石が熱を帯びてティーポットの中の水をゆっくり温めていく、暫くして中に茶葉を匙一杯分淹れ、また暫く待つとお茶が出来る、なんとも時間が掛かるやり方だが美味しいお茶を飲むにはどうやら温度の他に時間も必要だと良くわかる。
のんびりお茶を飲もうと準備をしていると、ナイルが空を見上げ呟く、詠斗も一緒に空を見上げると人が近くに天から降りてきた。
「おい、ナイル何してるんだよ」
深紅の髪が印象的なオレンジ色の瞳をした青年が、イライラしながら立っている。
「チグリス、どうしてここに?」
「どうしてって、婚礼の参加への答えは聞けたのか?」
「あ、あー!!忘れて…ました」
「ん…婚礼?ナイルさん結婚するの?」
「ち、ち違います!」
ナイルの顔が青ざめる、チグリスが呆れた眼差しでナイルに視線を送っている。
「えと、チグリスさん…?事情が良く分からないんで、とりあえずお茶でも飲みませんか?]
「チグリスでいい、俺はそっちのお坊ちゃんとは違うんで」
どかりと丸太の椅子に座りギロリとナイルの方を睨む、ナイルは気まずそうに明後日の方向を見ていた。
「こいつが、アンタに…」
「時永 詠斗って名前だけど」
「詠斗、アンタにドラゴンの長が息子の婚礼に招待をしたいから言伝を頼んだんだよ。だけどコイツは帰って来ない、だから俺にどうなっているのか見て来いって、それでコイツを連れて戻って来いって。ったく、遣いも禄に出来ないのか」
木のコップに蜂蜜を垂らしたお茶と、お茶屋で購入した焼き菓子、貰った干し芋を木皿に並べて真ん中に置く。
「ご、ごめん…」
「で、詠斗はどうする?神々から聖獣やら俺達ドラゴンなんかに、異界人に誠意と敬意をって事で手厚くするようにって神託が降りている。それでうちの群れの長は息子の婚礼に招待して交流を持とうというお考えな訳」
「そっか、婚礼って結婚式って事だよね。そして俺と交流を持ってくれるって事だよね…うーん、そうだ折角だからドラゴンの皆をこの《不毛の地》に招いて皆でお祝いして、俺とも交流を持って貰うってのどう?」
「ふうん、詠斗がそれでいいなら長に聞いてみるけど」
「こうしてナイルさんが一緒にここを開拓してくる事のお礼とか、感謝も伝えたいし」
「は?一緒に開拓ぅ?」
「そう、私はここで詠斗さんのお手伝いをしているんです!」
「本気かよ」
「はい!だからパパ…父様には帰らないと伝えて」
「伝えるのは良いけど俺は知らねぇからな」
「うん…」
真っ直ぐ見つめて視線を逸らさないナイルの瞳と向き合い、先にチグリスが逸らして伝言を預かる。
「話しはまとまったね、お茶にしよう。あ、チグリスはドラゴンの皆さんに何が好きか聞いてきて」
「まあ、良いけど。このお茶上手い、なんか花の香りがする」
「でしょ、お茶屋のおばあちゃんから美味しい淹れ方聞いてきたんだ。後蜂蜜入れて甘くしてる」
「この焼き菓子も美味しいです、干した果物が入ってますね」
「この芋も甘くて上手い、もっと食べたい」
「俺の分あげる」
チグリスが頬一杯に干し芋を頬張りお茶のお代わりもして、ビワモドキ(仮)や木苺も沢山食べて満足そうに腹を撫でた。
「…食べ過ぎ」
「まだまだ食べ物沢山あるし、沢山食べてくれて嬉しいよ」
「俺は一度戻る、伝言伝えて返事聞いたらすぐ戻ってくる。どっかの誰かさんと違うからな」
「う…」
「戻ってくる?夜ご飯用意するよ。好きな物ある?」
ナイルへの嫌味にナイルは俯き、詠斗は苦笑いを浮かべる。
「…魚、果物、甘いやつ…」
「オッケー」
チグリスがぼと呟き宙に浮かびそのまま上昇してどうやらそこでドラゴンの姿に戻ったらしく、影が大きくなりそのまま飛び去って行く。
「詠斗さん良かったんですか?招待を受けたのに持て成す側になって…」
「いいよ、沢山の人に《不毛の地》と呼ばれている此処が悪くない所だって知って欲しいから」
「詠斗さん…」
「さ、チグリスが戻ってくるまで湖で魚釣ろう!」
「はい!」
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