クラス転移した俺のスキルが【マスター◯―ション】だった件 (新版)

スイーツ阿修羅

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第六膜 見抜きと血煙の仮面舞踏会編

百九十九射目「アイリスの回想(1)」

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 ーアイリスの回想ー

 目が覚めるとそこには、いつも灰色の天井があった。
 立方体のなかに、おしくらまんじゅうにされた、耳と毛の生えた仲間たち。
 
 この部屋の外側には、青くてどこまでも高い天井があると、お母さんから聞かされた。
 それは、空という。
 大きな空には、白いふらふらが浮かんで、
 ボクらが眠くなる時間になると、真っ暗になって無数のキラキラを浮かべるのだそうだ。
 
 ナシュリお母さんが語ってくれた。外の世界は、まるで理想の美しい世界だった。
 話を聞いているだけで、この灰色の箱から出た気分になるのだ。
 
 物心ついたときには、ボクの毎日は決まっていた。
 目が覚めて、朝ご飯を食べる。
 いつも、どこからか泣き声が聞こえてきていた。
 みんな、順番に列になる。
 じぶんの順番がきたら、うでを机の上にのばす。
 白い服を来た大きなひとが、ボクの腕に針を刺しこんで、緑色のとうめいな水を身体のなかに入れるのだ。
 すごく痛くて、あたまがズキズキして、叫びだしそうになるのを、必死で歯を食いしばる。
 ちゅうしゃ、って、いうものらしい。

 痛いことをしてくる人のほとんどは、みんな、耳が大きくなくて肌がキレイな人間だった。
 
 みんな、毎日ちゅうしゃされる。
 それから薬をのまされて、走らされたり、触られたり、叩かれたり、
 いろんなことをさせられた。

 灰色の部屋には、変なひとがいっぱいいた。
 耳がとけたみたいに垂れ下がっているひと、目がおおきく飛び出たひと、骨がからだをつきやぶってでてきたり、口からくさいにおいのドロドロをはきだしたり、

 かくいうボクも、ほかのひととくらべて、へんな髪の色をしていたらしい。
 まわりのみんなは、うんちの色みたいに地味な髪の色をしているのに、
 ボクの髪は、キレイな青色で、毛のさきっぽが桃色に染まっていた。
 その髪が綺麗だったのか、ボクの髪は、周りの人達に、引っ張られて引っこ抜かれたりすることも多かった。

 ナシュリお母さんのおなかが、だんだん大きくなっていった。
 赤ちゃん、あたらしい命がうまれるらしい。
 ボクにも、兄弟がうまれるのだ。
 弟か、妹か、
 おちんちんがついているかどうかは、うまれてみないと分からないらしいけれど。

 そとの世界の獣族は、みんな、人間と同じように、服を着ているそうだ。
 ボクも、周りの小さい子たちも、うまれてから一度も、服というものを着たことがなかった。
 大人の女の人たちは、寒くなる時期に、身につける衣がないことを酷くうらめしそうにしていた。
 ボクは、服が羨ましかった。
 白い透き通るような服、たくさんの可愛い飾りがあって、外にはいろんな服があるらしい。

 この灰色の箱には、女の大人しかいなかった。
 子どもは、男の子も女の子もいるのに、どうして大人は女しか居ないのだろう?
 と、不思議に思っていたけれど、ナシュリお母さんは教えてはくれなかった。

 周りの人が、苦しんで、泣いて、痛そうにして。
 動かなくなるのを、何度も見てきた。
 動かなくなった人は、人間に連れ去られていなくなる。
 そして、鼻を刺すような匂いを上書きするように、強烈な匂いの白いスプレーが、撒き散らされるのだ。
 それは、死、というらしい。
 ボクというものが、完全に、無かったことになってしまう。
 そういうものだった。

 ボクに話しかけてくれた男の子も、女の子も、ボクを置き去りにしてみんな死んでいった。
 ボクは怖くてたまらなかった。
 次はボクの番なんじゃないか、ボクが死んで消えてしまうんじゃないか。
 たくさん泣いて、身体が震えて、
 ボクは、おなかの大きなお母さんに、抱きしめてもらった。

「……ーーー………♪」

 ナシュリお母さんは、ボクを温かい身体で抱きしめながら、鼻をいろんな音で鳴らながら、ゆりかごをしてくれた。

「真似してごらん、アイリス」

 優しい声で、母さんが言う。

「ふん……ふん、ふん……♪」

 母さんを真似して、母さんに合わせるように、ゆっくりと、
 上から下へ、上げて下げて、音をだんだんと変えながら、
 ボクは鼻を鳴らしていった。
 そうすると、不思議と、怖いのが大丈夫になってくる。

「……ー…………ーーー♪」

 まるで、奇跡が起きているような気分だった。
 ボクの胸は踊り、高揚して、
 そのまま疲れて、うとうとと眠りかけそうになった。

「これはね、うたっていうんだよ」

「うた?」

「そう。これは歌を歌っているの」

「うたを、うたってる」

「一緒に歌うと、落ち着くでしょう?」

「……うん!」

 その日は、お母さんの鼻歌を聴きながら、ボクは安心して眠りについた。

 次の日から、ボクはたくさん、歌を歌うようになった。
 人間に見つかったら、何をされるか分からないから、こっそりとだ。

「アイリスは歌うのが好きなんだね」

 と、お母さんに頭を撫でられた。

「うるさい」 と叫ぶ男の子もいたけれど、「うまいね」と褒めてくれる女の子がいた。
 ボクは、楽しくて楽しくて、どんどん歌うのが好きになっていった。

 楽しいことを、メロディに乗せて、歌にしていく。
 まるで灰色の世界が、外の世界に繋がっていくみたいに。
 歌を歌っているときだけは、ボクはどんな凄い場所にだっていける気がしてた。
 
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