146 / 178
第5.5膜 帰郷──遺された者達の子守唄編
百四十六射目「飛べない鳥」
しおりを挟む俺とフィリアとマナトは、七人分だったはずの荷物を抱えて、三人でひたすら森の中を歩いた。
(もちろん、食糧分は荷物を減らして)
コンパスを頼りに、草木を掻き分け、獣族独立自治区を目指した。
一時間も立たないうちに、俺達は森を抜けて立ち尽くした。
目の前には、驚くべき光景があった。
「………―――!?」
「……こりゃ、ひでぇな……」
川沿いに家屋が立ち並ぶ美しい街、ガロン王国ギラギース地区の人口密集地。
……だったはずの場所は、瓦礫まみれの焼け跡になっていた。
そう、俺達がマグダーラ山脈に行く途中に空中で出くわした、黒竜の群れの襲撃による被害である。
五日前くらいだっただろうか?
深夜、空を飛んで川を渡ろうとしたとき、黒竜の群れがギラギースの街が襲撃していたのだ。
空にいた俺達も黒竜の襲撃を受けて、やむなく戦闘に突入したのだった。
あの夜、この街は、ところどころで火事が広がっていた。
もう、ずいぶんと昔のことのように思える。
「……オレはずっと気絶してたから、全く記憶にないが、外はこんな惨劇になっていたのか……」
俺達三人は、思わず息を飲みこんでいた。
瓦礫まみれの街のなかを、ガロン王国軍の軍服が何人も飛び回っていた。
救助活動を続けているのだろうか?
そして街の奥へ目を凝らして見ると、大きな川をまたいで対岸のフェロー地区へ繋がる橋に、大量の人がごったがえしていた。
新しく泊まる場所を求めての移民だろうか?
目の前に広がる光景は、災害時のように慌ただしく、ところどころ騒がしかった。
「……歩いていけるのはここまでかな。
この川を越えるには、やはり空を飛ぶしかないか……」
俺はそう口を開いた。
「少し待っててくれ、賢者になってくる」
俺はそう言い残し、草むらの影に隠れてズボンを下げた。
……やはり、この街や大きな川を越えるには、空を飛ぶしかなさそうだ。
獣族であるフィリアやマナトを連れて、人間だらけの街を突っ切るなんて、いくらなんでも危険すぎる。
二人が獣族だということが知られれば、すぐに捕らえられて、処刑されてしまうだろう。
……ズボンを下げて、ふと首を傾げた。
あれ? オ◯ニーって、どうやるんだっけ??
そんな疑問をもった自分に、強烈な違和感を感じていた。
……そうだ、手を上下に動かすんだ……
不安に駆られるように、俺は手を動かした。
でも……
あれ……? あれ? あれ……?
いっこうに膨らまなかった。
どうして、だろう……?
あぁ、そうか。
そういえば俺は、オ◯ズがないと、オ◯ニ―できない人間だったじゃないか……
俺は想像するのが苦手だから、スマホやパソコンで検索して、それを見ながらじゃないと興奮できない人間なのだ……
でも、そうだ、唯一ひとり。
新崎直穂……
直穂のエッチな姿だけは、何故だか脳内で鮮明に想像できたんだ……
彼女しかいないんだ。
俺が脳内だけで想像できるのは、直穂だけしか……
「直穂……」
今はもう傍にいない、彼女の名前を口に出した。
「直穂……直穂……」
全身が震えはじめ、手先がプルプルと震えて、俺の目から涙がポロポロと溢れはじめた……
だめだ……だめだだめだだめだ……
「辛い…… なんで、いなくなっちゃったんだよぉ……」
頭のなかで彼女を想像するたびに、昨夜の彼女を思い出すたびに、涙が溢れて止まらなかった。
「……う、うぅぅ……うぁぁあぁあっ……!」
そして俺は、みっともなくすすり泣いた。
でも、左手を止めるわけにはいかなかった。
もう、オ◯ニ―どころじゃなかったけれど
……それでも俺は、賢者にならないといけないんだ!
「……フィリアとマナトを、川の向こうに届けないといけないんだっ……!」
心が壊れそうになりながら、ちっとも興奮しないまま、ただがむしゃらに手を動かしていたとき……
俺の背中が、温かい感触に包みこまれた。
「……もういい、無理するな。行宗……」
フィリアの声だった。
フィリアがうずくまる俺の背中を、後ろから抱きしめてくれて、
俺の左手に、やさしく手を置いてくれた。
「……俺は、賢者にならないと、駄目なんだ……
川の向こうで、和奈たちが俺達の帰りを待ってるから、
一刻も早く、帰らなくちゃいけないのにっ!!」
直穂から頼まれたんだ。
「浅尾和奈をよろしくお願いします」って。
俺は声を荒げた。
ほとんど不甲斐ない自分に対する怒りだった。
フィリアは俺の背中を優しくさすり続けていた。
「……オレが、オ◯ズになってやろうか?
行宗の好みかどうかは分からねぇけど、オレにだって、胸くらいはついてるから……」
そんなフィリアの言葉にたいして、俺はまた怒りを覚えた。
「バカ言うな、できるわけないだろうが?
……直穂と、誠也さんに、殺されちまうよ……」
フィリアを性的な目で見るなんて、できない。
絶対にしてはいけない。
「……はは、まぁな。……冗談だよ……」
フィリアは力ない投げやりな声で言った。
「……でも、現実問題。どうやってあの川を渡るんだ?」
フィリアにそう言われて、俺も言葉を詰まらせた。
ない……
空を飛ばずに、正攻法であの川を越える方法なんて、思いつかない。
大きな川を繋ぐ橋はいま、例外なく多くの人間達でごったがえしているのだから……
ガサ……
そんな時、マナトも俺たちのほうへ、草むらへと踏み入ってきた。
そして、
「……―――………」
なにか獣族語で、フィリアに向かって話しかけた。
「……なに? 地下通路がある、だと??」
フィリアの驚いた声に、マナトは頷いて肯定した。
5
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜
幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。
魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。
そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。
「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」
唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。
「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」
シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。
これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる