クラス転移した俺のスキルが【マスター◯―ション】だった件 (新版)

スイーツ阿修羅

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第五膜 零れた朝露、蜜の残り香編

百三十四射目「罪責」

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―ヨウコ視点―

 どうして……
 身体の自由が効かない。
 気づいたら、私たちは、誠也せいやさんにナイフを突き刺していた。
 止まらない。止められない。
 自分の身体が、自分の意志とは関係なく暴れまわる。
 どうして……

「ニーナ姉っ! ヨウコ姉ちゃんっ! 助けてっ!」

 私の大切な弟が叫んでいる。 
 私達は、まるで操り人形のように、戦わされていた。
 
 私の病気を治療してくれたフィリアさんを、私の手は傷つけてしまった。
 誠也せいやさんを、何度も傷つけてしまった。

「いやだ……なんでっ、止まってよっ!!」

 嘆いても、嘆いても、身体は言うことを聞かなかった。
 
 痛い、痛い、痛い……
 
「マナトっ! ヨウコっ! 落ち着いて、大丈夫だからっ!」

 そんななか、ニーナ姉は、私たちにそんな言葉をかけてくれた。

誠也せいやさんも直穂なおほさんもみんな、私達を解放しようと戦ってくれているからっ!
 きっと大丈夫っ!
 私達を助けてくれるはずだからっ!」

 ニーナ姉の言葉に、私はなんとか正気を保ちながら、
 私は抗った。
 目の前には、苦しそうに顔を歪めながら、私と戦う誠也さんがいた。

「コードM」

 その号令で、私の身体はまた動いた。
 後ろにジャンプして、投げつけられた薬瓶をキャッチする。
 その手は私の意志とは関係なく、私の口元へ、

「だめぇぇぇぇぇぇ!!!」

 直穂なおほさんと行宗さんが、血相を変えて私達の方へと走り込む。
 嫌な予感はずっとあった。
 禍々しい真紅の液体。

 この液状の薬を飲んでしまったら、わたしたちは、きっとろくな目に遭わない。
 怖くて、怖くて、身体が震えて、
 それでも、
 瓶の口に口づけし、赤い液体は私の口の中へ、喉の奥へと流れ込んでいった。
 飲み込んでしまった。

 すぅぅ……と、頭が冴え渡り、
 身体が熱をもち、
 信じられないぐらい身体が軽くなった。
 私は、強い。
 すごく強くなった。
 まるで神様になったみたいに、頭がふわふわして、気持ちよかった。

 そう思ったのもつかの間。
 身体がまた、勝手に動いた。
 動きが速すぎて、何が起こったか分からなった。

 気づいたときには、もう遅かった。
 目の前には、血を吐く誠也せいやさん。
 私とニーナ姉の剣が2本、誠也せいやさんの腹部を深々と貫いていた。

「あ……?」

 私とニーナ姉の声が重なる。
 乾いた裏返った、絶望の声。
 
「せ、いや……?」

 フィリア姉の、愕然とした声が、頭の中にこだました。
 そして私たちの身体は、
 無情にも、また勝手に動き始めた。
 今度こそ、誠也せいやさんの息の音を止めようと……

 だ、だめ、だめっ、
 嫌だっ!!
 私はっ、人殺しなんかしたくないっ!
 止まれっ!! 止まれっ!
 止まれ私の身体っ!

「だめぇぇええええ!!!」

 そんなとき、直穂なおほさんの叫び声が聞こえて、
 空から純白の光が降ってきた。
 それは、私とニーナ姉の身体を包み込んで、
 灼いて、熱くて、溶けてしまいそうで、
 痛くて、痛くて、死にそうなほど痛くて……
 でも……

 ありがとう、
 私を止めてくれて……





―フィリア視点―

「せ、いや……」

 ニーナとヨウコによって、誠也せいやのお腹が刺された。
 こんどはナイフなんて甘いものじゃない、長い剣だ。
 早く治療しないと、死んでしまう。

 あ……あぁ……

 わけが分からなかった。
 なんて地獄だろうか……
 どうして、ギルアがここにいるんだ。
 また、オレで遊びにきたのか?
 酷い目にあわせにきたのか?
 怖い、怖いよ……

 オレはっ、ギルアに、壊された。
 王国軍に捕まっていた一週間、寝ても起きても、痛くて、辛くて、死んだほうがマシな地獄だった。
 怖い、怖い……
 助けて、せいや……
 お願いだっ。
 もう、怖いのは、嫌だよっ……





新崎直穂にいざきなおほ視点― 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 2発の閃光を放って、伸び切った右手が、ガタガタと震える。

「あ……あぁ……うぅ……」

 心臓が凍えるほど冷たいくせに、心音だけは早鐘を打っていた。
 汗がどっと噴き出る。身体がずっしりと重い。

 もう、取り返しがつかない……
 ない、ない、やっぱりないよ……

 一発目を打ち込んだ砂煙の向こう側。
 あるはずのものがなかった。
 マナトくんの生命の気配・・・・・が、なかった。

「……っうぅぅっ!!!」

 マナトくんが、死んだっ。
 殺した。
 殺してしまったっ!
 私の手で、私の閃光でっ!

 行宗ゆきむねがっ、右腕を犠牲にしてまで守ったマナトくんをっ!!
 私は……
 殺してしまったんだ……

  っつ………!

 あぁ……あぁ………!!!

 あぁああああっ!!

 全身が戦慄した。
 一瞬が永遠に感じた。
 まるで私だけが、世界から切り離されたみたいに、
 この世の全てから否定されて、後ろ指を刺されて拒絶されたみたいに……

 私、新崎直穂にいざきなおほは、人殺しだ。
 私の閃光は、マナトくんの息の根を止めた。

「あぁあああぁあああっ!!」

 声にならない絶叫。
 自分の声とは思えない。
 もういっそ、消えてしまいたい、この世から、
 私は、生きていてはいけない人間なんだ。

『マナト……??』

 その時、心の声が聞こえた。
 裏返ったみたいな、信じられないみたいな、そんな声だった。

 そして、私は、
 飛びかかってきたニーナの拳で、殴り飛ばされた。

 私の身体は一瞬で地面に叩き落される。
 痛い、痛い、痛い……

 涙で前が、何にも見えなかった。

『いやだ……もう戦いたくないっ……』

 そう訴え続けるニーナの生命の気配が、私に追い打ちをかけようと、再び襲いかかってきた。

「はぁ……はぁ……」

 私は……私は……
 私はどうすればいいの?

 何も出来ずに、今度はお腹を抉られる私。
 空高くぶっ飛ばされて、慌てて超回復を自分にかける。

「強いな、ニーナちゃん。
 当然か、マルハブシの猛毒を飲んだんだもんね……」

 私は力なく、そんなことを呟いた。

『それは……さっき飲まされた薬のことですかっ?』

 ニーナの意識が、私に問いかける。

「うん……そうだよ。
 強さと引き換えに、1時間後に死んでしまう薬……
 私は、誰も助けられない。
 あなたも、ヨウコも……マナトも……
 1時間後には、みんな死ぬ……」

 絶望……
 何の意味もない戦い。
 ニーナが私を倒しても、私がニーナを倒しても、
 ニーナの命は助からない……

『そんな……嘘だっ……嘘だっ!!』

 動転したニーナの様子を、冷たい目で眺めている自分がいた。
 そんな自分に、また自己嫌悪してしまう。
 気持ち悪い。
 戦いたくない。
 私が◯ねばいいのに……
 
 希望はもう、どこにもない……
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