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第四膜 ダンジョン雪山ダブルデート編
百八射目「二日目」
しおりを挟むごぉぉぉお!!
遠くから、騒がしい音が響いてくる。
ドゴゴゴゴゴ……
なんだ? 何が起こっている。
ドゴゴゴゴゴゴゴォ!!!
地面がガタガタと揺れていた。
炎揺らめく地下室。
俺は思わず飛び起きた。
「な、直穂っ!? なんだこの音はっ!? 無事かっ!?」
慌てて身体を起こし、あたりを見渡すと。
そこには何気ない日常があった。
フィリアと誠也さんと直穂が、3人で焚火を囲んでいて。
手作業をしながら、ギョッと驚いた顔で俺を見ていた。
「ブッ!! あははははっ!」
直後、
われんばかりの大爆笑が、地下室の中にこだました。
「おはよ、ぷふっ、行宗っ。
うははっ! だいじょーぶだよ。落ち着いて。
この凄い音は、上の吹雪の音だからっ!」
「ったく行宗。 ぷくく…… なんて慌てっぷりだよっ!」
直穂とフィリアの笑い声が重なる。
「吹雪?」
俺は聞き返した。
確かにこのゴォォォという音は、外から絶え間なく聞こえてきていた。
外は吹雪なのか?
「かなり激しい雪嵐だ。 しばらく外に出れないだろう」
誠也さんが、石を持った両手でゴリゴリと薬草を擦り潰しながら、答えてくれた。
「それは、薬を作ってるんですか?」
「ああ。行宗くんも手伝ってくれ。
【サルファ・メルファ】討伐用の解毒薬だ」
「なるほど……」
俺は寝袋から出て、直穂の隣に腰を下ろした。
「おはよう直穂」
「おはよ、行宗」
直穂はあぐらをかきながら、硬い木の棒をナイフで削っていた。
「俺にも手伝えることはあるか?」
「勿論あるけど。お腹すいてないの? まずは何か食べなよ」
「確かにそうだな」
俺は、一成さんから貰った袋の中から、パンとジャムを取り出した。
柑橘系のジャムを、丸いパンに塗りながら、三人に尋ねてみる。
「凄い轟音だな…… 今日はここから出られないって事か?」
「うん。
外に出たら強すぎる暴風で、身体が空へと舞いあがって……
腕と足がバラバラに千切れちゃうらしいよ?」
直穂が真顔でそう言った。
「冗談だろ!? 怖っ」
「うんっ冗談だよ。ぷふふっ!」
俺をからかって、ふきだした直穂の顔に、俺のデコピンを喰らわせてやろうかと思ったが、
くそ可愛かったのでやめた。
「身体が吹き飛ぶっていうのは本当らしいよ。 視界も最悪だし。おとなしく嵐が過ぎるのを待つしかないって」
直穂が説明を付け加えた。
「しかしマズくないか? この吹雪はいつ止むんだ?
浅尾さんのタイムリミットまで、時間に余裕はないっていうのに……」
吹雪が収まるまでこの地下室で、何もせず時が過ぎるのを待てというのか?
「俺が賢者になれば、たぶん嵐のなかでも動けるはずだ……」
そうだ、俺の賢者は、"生命の気配"が見えるんだ。
視界の悪い吹雪の中でも、俺の賢者なら、モンスターを集められるはずだ。
「だめだ、危険すぎる。
この嵐のなかで、たった十分間で何ができる?」
誠也さんに冷静に否定されてしまった。
「気持ちはわかるが行宗。今は待つしかねぇよ。
ゆっくり薬やポーションの調合する時間ができたから、むしろ幸運と思おうぜ。
大丈夫、いつかきっと嵐はやむ。
今は、いまできる事をするしかない」
フィリアは、ニヤリと笑って、そう言った。
だがその声は、少し震えていた。
フィリアだって不安なんだろう。
父さんの病気を治すために必要な、"キルギリスの骨"が見つからず、下山のタイムリミットが迫るなかで、この大吹雪だ。
不安にならない訳がない。
「そうだな。嵐はきっとやむ。
俺たちは絶対にみんなで、ハッピーエンドを迎えるんだ!」
俺は、力強く拳を握った。
すごく不安で、災難ばかりだけど……
不安で怖い時だからこそ、
そばで励ましてくれる仲間の存在が温かかった。
「そうだ。せっかく時間があるのだ。
行宗くん。あとで私が、剣の振り方を教えてやろう」
「誠也さん…… ありがとうございます。お願いします」
外の吹雪は、ごうごうと轟き、
焚き火がぱちぱちと鳴る。
地下室の中は、かまくらのようなものだ。
なかなか暖かい。
俺と直穂は、この世界にきて初めて、ゆるやかな時間を過ごしていた。
今までずっと、ゆっくり腰を下ろせる状況じゃなかったからな。
クラス転移してから、今までずっと、歩き続けていた気がする。
4人で作業する。
ときに静かで、ときに賑やかな時間。
とても心地よくて、安心していた。
フィリアの薬の調合を手伝い、誠也さんに剣術を教えてもらう……
時間はあっという間に過ぎていく。
「出来たぞ! これが対【サルファ・メルファ】解毒剤だ。
飲むだけで解毒してくれる劇薬だ。
ただし忠告だ。飲んでいいのは人生で一度だけだからな?
二度目以降は、命を落とす猛毒になる」
まじかよフィリアさん。さらっと怖い事をいう。
「あとはポーションを作ってから、浅尾さんの治療薬の調合のために、ある程度は薬剤を加工しておきたい」
フィリアの作業が終わる頃には、吹雪の轟音が止んできて、
急にシーンと、外が静かになった。
嵐が止んだ。
「これは酷いな……」
地上に出た俺達は、その場で四人で立ちすくんだ。
誠也さんが炎魔法で、地下室を覆っていた雪を溶かしてくれたまではいいのだが……
地上に出た俺たちは、高雪の壁にぐるりと囲まれていた。
すごい積雪量だ。
身長の何倍もあるほど積もっている。
高さは6メートルほどだろうか?
「どうする? 日もだいぶ傾いているが、動くか?」
夕暮れ前の寒空を見上げながら、誠也さんが口を開いた。
「もちろんだ。 地下室にいても、もうやることないからな」
「同意見だ」
俺たちは火魔法で、雪の壁を溶かしながら、地道に地道に進みはじめた。
生き物の気配は感じない。
炎の魔法で雪を溶かしながら、寒空の下を歩いていく。
ザザザザ……
すると、
突然、目の前の視界が開けた。
掘り進めた先に、雪が積もっていない空間があった。
「なんだ、ここは?」
厚い雪の大地を、まっすぐ横切る道があった。
まるでモーゼが、杖で大海を割ったように、
深い雪の海が、直線上に切り裂かれていた。
半径10メートル程の一本道である。
「なにかのモンスターの通った後か?」
誠也さんが呟いた。
「あぁそうだ!
それにこいつは、おそらくだが、俺たちが探してるモンスター
【サルファ・メルファ】の通った跡だ!」
フィリアは、興奮した様子で答えた。
【サルファ・メルファ】
フィリアがピックアップした、2体の超危険モンスターのうちの一つ。
猛毒を持っているが、その解毒薬はさきほどまさに完成した。
「解毒薬もポーションの準備も万全だ! まだ遠くへは行ってないはず。
もうあまり時間もないからな。
全員腹をくくれ! 戦闘準備だ!」
「おうっ!」
フィリアのかけ声に、みんなが呼応した。
雪を切り裂く一本道を、俺たちはまっすぐ走りだした。
【サルファ・メルファ】の背中を見つけるまで、そう時間はかからなかった。
切り開かれた道の先に、ギシギシと甲殻の鎧を軋まながら、雪を掘り進める【サルファ・メルファ】の姿があった。
「見つけた!
まずは行宗、直穂! 賢者と天使になってくれ!」
「「了解!」」
フィリアの声に、二人で返事をする。
もう慣れたものだ。
俺たちは手を繋いでいた。
足を止め、互いに体を向かい合い、見つめ合う。
直穂の顔は、少し引き攣っていて、
両手はプルプルと震えていた。
これから、二回刺されたら確実に死ぬモンスターと戦うのだ。
俺だってめちゃくちゃ怖い。怖くない訳がないんだ。
「寒すぎて、手が凍えるな」
「そうだね。こんな時は」
「キスしようぜ」
「うん」
互いに抱きしめ合い、背中に手を回して、舌同士を絡め合う。
興奮が高まって、体温が跳ね上がる。
直穂の口の中はあったかい。
ぽかぽかと温まって、あつくて火傷しそうだ。
ゆっくりと、舌を離した。
決意を持った目で見つめ合う。
もう、手の震えはおさまっていた。
「和奈が待ってる。頑張るよ。行宗!」
直穂が不敵に、屈託なく笑う。
「ああ! 変態カップルの力、見せてやろうぜ」
「そうだね。外でするなんてね。 とんだ変態がいたもんだっ」
直穂は頬を染めて、天使のように、はにかんだ。
「頑張ろうぜ」
「うんっ!」
俺たちはパンと両手でハイタッチをした。
そしてそれぞれ距離をとり、雪の壁の中へ穴を堀り、
別々の場所で、仲良くズボンに手を入れた。
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