105 / 175
第四膜 ダンジョン雪山ダブルデート編
百五射目「いただきます」
しおりを挟むガタガタガタガタ……
コトコトコト……
身体がやさしく揺すられる。
牛車の補助席で、
俺はゆっくりと目を覚ました。
「味を聞いてもいいか?」
「すごい、美味しいですっ」
一成さんと直穂の会話が聞こえる。
なにか食べているのだろうか。
と、そこで、俺は身体を横に倒して、なにか柔らかいものの上に、頭をあずけていると気づいた。
柔らかくて、あったかくて、幸せな気分になる。
そうかこれは、直穂の膝枕。
いや、太もも枕だ。
俺は、ゆっくり目を開けた。
やはりそうだ。直穂の太もも。
そして俺の頭には、直穂の左手が添えられていた。
「おはよう。お陰でぐっすり眠れたよ」
俺は直穂に感謝を告げ、身体を起こす。
「うわ、起きたのっ? お、おはよ……」
直穂は驚いたようで、ちょっと俺から身を引いた。
俺の身体にはじわっと汗が滲んでいた。
そとの景色は山の中、太陽はそこそこ高く、日差しも強くなっていた。
直穂の右手には、大きめのサンドイッチが握られていた。
そういえば、お腹が減ったな。
「ねぇ、少しじっとしてて」
直穂は俺にそう言って、俺のほっぺたに左手を添えた。
そして顔を近づけてくると、俺の口元をペロリと舐めた。
「……!?」
突然のキスに、俺の心臓が飛び上がると。
直穂は頬を染めて、はにかんだ口を開いた。
「よだれ、ごちそうさま」
思わず抱きしめて、それからディープキスを絡めたい衝動を、何とか堪えた。
可愛すぎるだろ俺の彼女。
こ、こんなシュチュエーション。二次元でも見たことないぞ。
「ねぇ、お腹へってない? 一成さんから貰ったハンバーガー、食べる?」
直穂はそう言って、先ほどのサンドイッチを差し出してきた。
「あぁ食べる。ありがとうございます」
俺はハンバーガーに右手をのばしたが、直穂の左手に阻まれた。
「口、開けて」
直穂は左手で俺の手を握って降ろすと、
右手で俺の口元に、ハンバーガーを近づけてきた。
俺は口を大きく開ける。
「あーん」
直穂が嬉しそうににやけながら、食べかけハンバーガーを俺の口の中へ……
ガコンッ!!
と牛車が大きく揺れた。
車輪が岩か木の根を踏んだのか、身体が浮くぐらい、車内が大きく揺れた。
さすがにケガ人は出なかったが、問題は俺の顔面だった。
べちゃあぁあ。
と、食べかけハンバーガーの断面が、俺の顔に押し付けられて、
俺の鼻や頬っぺたは、ソースや肉汁まみれになっていた。
「ごっ、ごめんっ……ど、どうしよ……」
直穂が血相を変えて、慌てふためいていた。
俺も動揺していたが、あわあわと両手を震わせる可愛い直穂を見て、心が癒された。
「落ち着いて。俺は別に怒ってないから。むしろドジキャラ可愛いって感じ」
「で、でもどうしよ…… 一成さんっ。何か拭けるものはありませんか?」
そんな彼女の口を、俺は二本指で優しく塞ぐ。
「拭くなんてもったいないよ。さっきみたいに、舐めてとってくれない?」
俺は、恥ずかしさに打ち勝ち、そんな要望を口にした。
直穂の顔が、みるみるうちに赤くなる。
「舐める!? 私が? 私の口の中なんて、綺麗なものじゃないよ?」
「いやむしろ、君の唾液で汚してほしいというか」
「……ふーん。とんだ変態だね……」
「いやか?」
「ううん、私も変態だからいい」
ぼそっと呟いて、深呼吸をして。
「……いただきます」
直穂のあかい舌が、俺の鼻先へと伸びてきた。
互いに背中に腕をまわし、胸を重ねて抱きしめ合う。
「若いっていいなぁ……青春かぁ……」
一成さんのしみじみとした声が、隣の席から届いてきて。
俺たちは急に恥ずかしくなった。
「見ろ、あれがマグダーラ山脈だ」
小さな山の頂上まで上り詰めて、
一成さんが、さらに上を人差し指でさした。
「あれが……上が見えねぇ……」
「富士山よりもぜんぜん高そうだね、アレ……」
それは遥か高く、雲の向こうの空へと続く山々だった。
切り立った崖のような山脈。
まるで巨大な壁のように、俺たちを待ち構えていた。
「ワシが送れるのは麓までだ。 お前たち、地図は持っているのか?」
「持ってます」
一成さんの問いかけに、俺は首を縦に振った。
マグダーラ山脈の地図ならある。
地図というより分厚い図鑑だったが、フィリアのカバンに入ってたはずだ。
「ならいい。だが、帰り道も大変だろう……」
一成さんはポロシャツのポケットに手を突っ込んで、何か四角形の石を取り出した。
「これは王国の一級通行証だ、コレを見せれば、ガロン王国内の関所を、審査なしで越えられるんだが。
あれを見ろ。あそこに村があるだろう?」
一成さんは、今度は下向きに指さした。
山の上からそこを見下ろすと、確かに木造の家屋がぽつぽつと並んでいた。
「あの村は、20年前に廃村になったんだがな。
今でも、シーベルトって名前の男が住み着いているんだ。
コイツを見せてワシの名を言えば、どこでも連れて行ってくれるはずだ」
一成さんは、貴重な魔導具だという四角形の石を渡してきた。
両側には剣と薔薇の彫刻があり、
真ん中には日本語で「ガロン王国一級通行許可証」という文字が彫られていた。
「これって高いモノですよね? 貰っていいんですか?」
俺が聞き返すと、一成さんがヘンっと鼻を鳴らした。
「逆だ。 こんな礼しか出来なくて申し訳ないと思っている。
お前たちは街を守った英雄だぜ?
他に困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ」
「そうですか、では、受け取っておきます」
俺は一成さんの手から、石造りの通行許可証を受け取った。
俺たちを乗せた牛車は、山をおりていき、マグダーラ山脈の入口へと向かって行った。
「よし。ワシが送れるのはここまでだ。
……確かこの先に、転移魔法陣がある。好きな層まで飛べるはずだ」
森に囲まれた山道を登り、石の階段の前で、牛車は止まった。
「なるほど、どうもありがとうございました」
俺と直穂は牛車から降りる。
そして荷車の荷台から、四つのバッグと二つの寝袋を、道端へと降ろした。
「では健闘を祈るぞ。二人の勇敢なる英雄よ。 お前たちに白菊ともかの加護があらんことを」
一成さんはそう言って、両手を合わせて深く一礼をした。
俺と直穂も、応えるように慌てて頭を下げた。
「では失礼させてもらう。 また困ったことがあれば、遠慮なワシを頼ってくれ」
「はい! ありがとうございました!」
別れの挨拶を交わして。
一成さんは俺たちを置いて、元来た道を牛車で引き返していった。
2
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う
月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる