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第3.5膜 フィリアはお医者ちゃん編

八十五射目「再び賢者に」

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 見たところ浅尾あさおさんの容態は、ある程度落ち着いているようだ。
 しかし、呼吸は乱れていた。
 そして心臓の拍動も早い。

 急がないとな……
 またいつ、容態が悪化するか分からない。
 それに、こんなに強い日差しの下に、病人を晒しておく訳にはいかないからな。

 ……割と本気で、もう一度賢者になるべきだろうか?
 そうすれば早く病院につける。
 しかし、連続発射は苦手なのだが……
 どうしようかと迷っていた時。

 
 タッタッタッタッ……

 前方から、見覚えのある女の子が走ってきた。
 ケモ耳の少女は、ハァハァと息を切らしながら、山道を駆けおりてきていた。
 そして俺と和奈かずなを見るなり、目の色を変えて体を震わせた。

「ど、どうして……人間がここに??」

 その女の子は、昨晩俺たちが助け出した少女。
 フィリアちゃんだった。


 ★★★


「お前は、フィリアさん、だよな?」

 俺は目の前の女の子に尋ねた。
 目の前の少女は、昨日みたフィリアちゃんにそっくりだった。
 赤灰色のクセ毛に、赤いルビーのような瞳。
 ジト目童顔のケモ耳娘である。
 女の子は、俺達を見て、明らかに動揺していた。
 おびえているようにも見えた。

「なんで、オレの名を知ってる? まさかお前らっ、王国軍か?」

 あぁ分かった。
 それは、恐怖に染まった顔だった。
 フィリアちゃんは、顔を引きつらせて、全身は震えながらに硬直していた。

「王国軍じゃなくて、俺は万浪行宗まんなみゆきむねだ! 
 誠也せいやさんから聞いたんだ。フィリアさんは医者なんだろ?
 頼む、俺の友達を助けてくれ、急に血を吐いて、酷い腹痛なんだ。回復魔法を使っても治らないんだっ!!」

誠也せいや? 誠也せいやだと……! じゃあまさか、お前が背負っている女がリリィさんか? 
 お前たちが、オレと誠也せいやを助けてくれた人間なのか?」

「あぁ、そうだ。 昨日、王国軍に殺されかけていたフィリアさんと誠也せいやさんを、助けだしたのは俺たちだ。
 でも、俺の背中に乗っているのはリリィさんじゃない、浅尾和奈あさおかずなさんだ。
 俺は、浅尾あさおさんの病気を治してもらう為に、フィリアさんに会いにきた。
 リリィさんなら、誠也せいやさんと一緒に、独立自治区の入り口近くの旅館に残ってる」

 フィリアちゃんは、目を丸くして驚愕した。

「そうか……じゃあ、誠也せいやも無事なんだな……」

 フィリアは肩の力を抜いて、俯きながら、ゆっくりとオレに近づいてきた。
 
 ぽろり、ぽろりと涙を流して……

「任せろ。浅尾あさおさんだったよな? ……オレの命に代えてでも、絶対に治してみせる……」

 フィリアはそう言って、俺と浅尾あさおさんの手を強く握った。


「【超回復ハイパヒール】スキルも、【解毒ディスポイズン】スキルも試しましたが、効かないどころかむしろ痛みが増していくようで」
 
「……【超回復ハイパヒール】って、特殊スキルだよな、それも効かないのか?」

 フィリアは目の色を変えて、深刻な顔で、浅尾あさおさんの腹部に手を当てた。
 そして魔法を唱えた。

「【回復ヒール】!!」



「うぅぅ!! がはぁぁぁっ!!! 痛いぃぃ痛いよぉぉ!!」

 浅尾あさおさんは、フィリアの回復魔法によって、金切り声で悶絶した。
 ごほごほと咳き込んで吐き出した痰は、血で真っ赤に染まっていた。
 フィリアは浅尾あさおさんのお腹の上で、探るように手を動かしながら、回復魔法を止めなかった。

「やめっ!! やめてぇぇぇ!! 死ぬっ!! 死んじゃうっ!!」

 浅尾あさおさんは回復魔法から逃げ出そうとして、足をジタバタと動かすが、そこに力はなかった。
 ただフィリアになされるがまま、痛みのあまりにガクガクと痙攣し、腹の底から絶叫を吐いていた。
 流石に見ていられない。

「おいフィリアさん、もうこれ以上は!」

「あと少し我慢してくれっ、すぐに見つけるからっ!」

 フィリアは焦った顔で、浅尾あさおさんの身体中に、手を這わせて探っていく。
 そして、浅尾あさおさんのお腹へと、頭を近づけた。

 フィリアは、右手で回復魔法を続けたまま、左手で、浅尾あさおさんの浴衣の上着を脱がせた。
 浅尾あさおさんの浴衣が正面からひらかれる。
 ブラジャーを付けていない浅尾あさおさんの上裸が、山道の真っ只中で露わになった。

 俺は思わず目を背けた。
 直穂なおほの裸を見るより先に、浅尾あさおさんの裸をみるのは、罪悪感があった。
 浅尾なおほさんの上半身は、恐ろしいほど汗びっしょりで、荒い呼吸に合わせて膨らみが揺れているのが少し見えてしまった。

「なっ! なにやってんだっ! フィリアさんっ!」    

「なっ……」

 俺が、たまらず声を上げるのと、フィリアが声を漏らして回復魔法を中止したのは、ほとんど同時だった。
 フィリアは、空を見上げた俺へと顔を近づけ、俺の耳元でこう囁いた。

行宗ゆきむね、落ち着いて聞いてくれ。浅尾あさおさんの身体は、強力なモンスターに寄生されてるみたいだ……」
 
「え……?」

 思わず俺は、フィリアの方をみた。
 彼女の動揺した目と声色から、その深刻さが嫌でも伝わってくる。

「だから回復魔法は逆効果なんだ。 魔法は全て、浅尾あさおさんの体内のモンスターに横取りされてるから。 逆に、モンスターに栄養を与えるようなもので……」

 フィリアさんは説明を続けた。
 なるほど、そういうことか。
 浅尾あさおさんにかけた魔法は全て、体内のモンスターに奪われてしまうのか。

「治療法は、あるんだよな?」

 俺はすがるように、フィリアさんの耳元で囁き返した。
 この会話の内容は、浅尾あさおさんに伝えるべきではない。
 自分の身体の中に、モンスターがいるなんて聞いたら、パニックになってしまうだろう。

「寄生したモンスターの種類次第では、何とかなる……
 でも、厳しいかもしれない。……とにかく検査が必要だ」

「厳しい……? って、どういう意味だ?」

「最悪の場合、今日中に死に至るって事だ……」

 フィリアさんの口から、残酷な真実を伝えられて、俺は目の前が真っ暗になった。
 死ぬ? 今日中に?
 それは到底受け入れ難い、認めたくない宣告だった。


「ねぇ? フィリアちゃん、どうしたの? 治してくれるん、だよね?」

 足元からの震え声に、俺は思わず浅尾あさおさんを見下ろした。
 仰向けの浅尾あさおさんは、上の浴衣が開かれて、乳房が丸見えだったが、
 彼女はそんな些細なことを、気にする様子もなく、わなわなと震えながら、フィリアさんの身体を引っ張るように掴んでいた。

 死ぬ? のか?
 こんなに美しい身体の女の子が、明日を迎える事もなく?
 俺は、悲痛そうな顔の浅尾さんに、なんて声をかけていいのか分からなかった。
 事実をそのまま伝えるのは、あまりに残酷すぎる。

「あぁ、治療法は見つかった。
 でも今のオレは、薬を持っていないから、オレの診療所まで行かなきゃ行けない。
 行宗ゆきむね! 疲れてるみたいだけど、もう一度浅尾あさおさんを背負ってくれ!」

 フィリアはそう言って、力強い目つきでオレを見つめてきた。
 焼き付けるように熱い、真っ赤な瞳は、
「絶対に助けてやる」と訴えていた。

「そ、そっか、良かった……良かったぁ……」

 浅尾あさおさんは、心の底から安堵の声を漏らして、涙をポロリと溢れさせた。
 フィリアさんの嘘に騙されて、心底安心した様子で、全身のぐったりとさせて目を瞑った。

 俺は思う。
 こんな可愛い女の子、イキイキとした人を、見殺しにする訳にはいかない。
 俺はどんな手を使ってでも、目の前の浅尾あさおさんを助けたいと思った。
 きっと直穂なおほも、同じ風に思うだろう。
 俺達が今まで、浅尾あさおさんの笑顔に、何度救われた事だろう。
 浅尾あさおさんが一番に、新しい道に飛び込んでくれたから、俺たちはここまで来れたのだ。
 俺たちは、大切な仲間だ。
 死なせてたまるものか。
 そうだよな? 直穂なおほ

 そして俺は、決断した。

「フィリアさん、ちょっと待ってくれっ! 俺は空を飛べるんだっ!」

 俺は叫んで、パンツの中へと右手を入れた。
 そして、すでに立っていたモノを、勢いよく育てていく……

「なっ、何やってんだお前っ!? こんな時にっ!?」

 フィリアは、真っ赤な顔で発狂していた。

「いいかフィリア! 俺の特殊スキルは【自慰マスター○ーション】!! 自慰行為の発射後に賢者になれるスキルだ! 賢者になった俺は、空も飛べる!! ここから診療所まで一直線だ!!」

 もう俺は、恥も外聞も捨て去った。
 大切なモノを守るためなら、オレは、どんなに恥ずかしいシュチュエーションでも、死ぬ気でオ○ニーしてやるよ!!
 なんて、カッコ悪いセリフを脳内再生して、
 俺は、必死で必死で、高みへと登っていった。

「あーぁ、行宗ゆきむねっ……いけないんだぁ、病気で弱ってる同級生をオカズにするなんて……   直穂なおほちゃんに言ってやろー」

 浅尾あさとさんが、イタズラっぽい笑みを浮かべて、楽しそうに、ケラケラと俺をからかってきた。
 上半身の肌が、すべて丸見えの状態である。
 俺は、初めて見る同級生女子の上裸を、オカズにしていた。
 他に彼女がいる身でありながら。

 浅尾あさおさんの楽しそうな笑顔が、俺には救いだった。
 やっぱり浅尾あさおさんは、怯えている時より笑っている時の方が可愛い。
 異論は認めない。

「すまない。他に、ちょうどいいオカズがないんだ」

「ふーん、認めたね。ちゃんと私のことオカズにしてるんだ。ヘンタイっ」

 浅尾あさおさんは、上半身が裸のままで、なぜだか上機嫌にクスクスと笑った。
 病気が治ると聞いて、安心したせいだろうか?
 俺は今、怒られても仕方ない事をしているのだが?
 
 なんて言っている間に、快楽の頂上が見えてきた。
 はじめて見る美少女の生爆乳は、破壊力抜群だった。

 そして、俺は、賢者になった。
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