クラス転移した俺のスキルが【マスター◯―ション】だった件 (新版)

スイーツ阿修羅

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第3.5膜 フィリアはお医者ちゃん編

八十三射目「父さんとオレ」

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『それで、父さんの具合はどうなんだ?』

 オレのそんな問いかけに対して、ジルクははぁっと一息ついてから、暗い顔で答えた。

啓介けいすけさんは……今日は夜中から、テラードさんの家に行っている。緊急の用事だ。子供が生まれるんだよ』

『そう……か』

 父さんや村の人の名前を聞いて、オレはまた現実に引き戻された。
 そして、ここは確かに、オレの故郷なのだと実感した。

『あのなフィリア。 啓介けいすけさんはな……、お前の事をずっと心配してたんだぞ。……もう、バカな真似はするな。お前は啓介けいすけさんの代わりになるんだよフィリア。啓介けいすけさんが死んだ後。お前がこの村の医者になるんだ』

『…………バカな真似って、なんだよそれ……』

 ジルクは強い口調で、オレの家出を非難してきた。
 オレはかなりイラっとした。
 バカな真似ってなんだよ。
 オレはただ、父さんの病気を治す薬を取りに行くために、独立自治区を出ただけだ。
 

『頼むフィリア。お前しかいないんだ。俺も頑張ってるつもりだけどよ。悔しいけど、俺よりもお前の方が医者としては優秀だ。だから頼む。お前が啓介けいすけさんの後を継いで……』

いやだ・・・っ!!』

 オレは大声を上げた。
 ジルクはギョッとした顔で硬直をした。
 でもオレは、これだけは譲れなかった。

『父さんの命を諦めろっていうのか!? ふざけんなよっ! 治す方法はあるんだぞ! マグダーラ山脈に行けば、拒魔病を治す薬なんて簡単に作れる!! ジルクお前は、治療法があるのに諦めろって言うのかよっ!! オレは医者だぞっ! 可能性がある限り、どんな手を使ってでもっ!!』

 バチィィッ!!

 頬っぺたを思い切り殴られた。
 ジルクはオレを、涙目で睨めつけてくる。
 ああもう、痛ぇよクソが……
 
『フィリアてめぇいい加減にしろ! そう息巻いて村を飛び出した結果が、今のお前だろ!!
 マグダーラ山脈にはたどり着けず、王国軍に掴まって、あと少しのところで死にかけていたんだぞ!!
 ホントにお前は自分勝手なんだよっ!! お前の父さんと母さんがっ!、そして俺がっ!、どれだけお前の事を心配してたか知ってるか!? 命はもっと大切にしろっ!! お前は医者として、将来この村を支える存在なんだ! 啓介さんや俺にとって、大切な存在なんだよっ!!』

『……………』

 何も言い返せなかった。
 目の前のジルクは泣いていた。
 その涙は、オレの為の涙だった。
 ジルクの言っていることは正論だ。
 間違っているのはオレだ。
 そんな事は分かっていた。

 獣族にとって、独立自治区の外の世界は、命が幾つあっても足りないという。
 出会う人間すべてが敵なのである。

 そして人間の棲む地域の中でも、マグダーラ山脈は、最も危険な場所の一つである。
 世界最強クラスの魔獣や神獣も生息し、一流の冒険者でも滅多に近づかない場所である。

 オレは父さんに、マグダーラ山脈に連れていって貰った事があるが。
 あの父さんですら、魔獣との戦闘は避けていたのだ。
 戦闘スキルのないオレには、危険すぎる地域である。

 でも……でも……

『……父さんが死ぬのは……ぜったい嫌だっ……嫌なんだよっ……!』

 オレは、ボロボロと泣いてしまった。
 ジルクの身体を、よわよわしくポカポカと殴る……
 ジルクなんかに、泣き顔は見せないつもりだったのに、涙が止まらないや……
 まあオレもジルクの泣き顔を見れたから、これは痛み分けだな。

『フィリア……辛いな……お前が一番つらいよな…… ごめんな……俺はなんにも出来なくて……』

 ジルクは、そんなオレを優しく抱きしめてきた。
 なんでだよっ……
 なんでこんな時に限って、優しくするんだよ。
 もっと辛くなるだろうが、泣いちゃうだろうがっ……
 いつもは捻くれた奴のくせにっ……くそっ……
 
 あぁ……やっぱり嫌だよっ……オレは父さんのことが大好きだ。死んで欲しくないんだ。
 もっと医学の事を教えて欲しい。
 オレが彼氏を連れて来て、結婚して、子供を作って育つまで……
 もっともっと、ずっと未来まで、オレは父さんに見届けてほしいんだ。

 ねぇ父さん。オレさ、はじめて好きな人が出来たんだ。
 誠也せいやっていう、優しい人なんだ。
 誠也は32才だがら、オレとは18才くらい離れてるけど……
 でも、恋心に年の差なんて関係ないよな……
 父さんは34才だから、誠也せいやとは二才しか変わらないんだよな。
 どうかな? オレと誠也せいやはお似合いだと思う?
 
 あぁ……誠也せいやにも早く会いたい。
 謝らなきゃいけない。
 オレが誠也せいやを巻き込んだせいで、誠也せいやは王国軍に数々の拷問を受けた。
 許してくれるだろうか?
 きっと、許してくれないだろう。憎まれているかもしれない。 
 それは本当に辛いな。
 でも、精一杯謝ろう……


 そんな中でも、ジルクはオレの身体を強く抱きしめて、頭をすりすりと撫でまわしてくる。

『痛いよ……』

 そう言って、オレはジルクの身体を、両手で押し返した。

『ごめん……』

 ジルクは申し訳なさそうに、固まったままオレを見ていた。
 オレは、ちょっと気まずくなって、ジルクから目を逸らした。

『ちょっと、外出てくる……』

 オレは涙を隠しながら、一人部屋を出て、随分と懐かしい気のする、家の庭へと出た。
 晴れた夏の朝の爽やかな冷気にあたりながら、オレはぼーっと放心していた。
 この庭には思い出が詰まっている。

 昔のオレは、わがままでヤンチャな女の子だった。
 まぁ、それは今も変わらないかもしれないけどな、
 オレは、家出いえでしてたんだから……



 このアルム村は、貧しい村だ。
 乾季に入ると多くの死者が出る。
 そもそも作物が育ちにくいのだ。 
 この土地には魔石の成分が多く含まれているから、大気中の魔力濃度は他と変わらないくせに、普通の食物は育たないという特殊な土地だ。

 そんなオレは、村で一番裕福な家に育った。
 オレの父さんは小桑原啓介こくわばらけいすけ
 「生きる救世主」と、崇められている男である。

 だけどオレは、父さんの本当の娘ではない。
 拾われたのだ。七年前に。
 戦争孤児だったオレを、啓介けいすけは助けてくれた。
  
 そんなオレは、同年代の子供たちから嫌な顔をされた。
 なぜならオレは、他の子達が生きるか死ぬかの瀬戸際で必死に働いている時に、自分の部屋でのんびりと本を読んでいたからだ。
 オレは人間語の勉強ができたけれど、他の子達には人間語を勉強する余裕なんてなかった。

 オレの家では、お父さんもお母さんも忙しかった。
 いつも朝から晩まで家を開けて、医者として働いていたからだ。
 オレは寂しくて、連れて行ってくれと何度も頼んだ。
 でも「危ないからダメだ」と言われた。

 オレはずっと、裕福な大きな家のなかで一人ぼっちだった。
 もう我慢できなくて、父さんに尋ねたのだ。

『どうして父さんは、仕事ばっかりするんだよっ。オレともっと遊んでよっ。オレのことが嫌いなのか? オレが本当の娘じゃないからかっ!?』

 オレが父さんに泣きつくと、父さんは困った顔をした。

『そうだな、ごめんなフィリア…… 俺はダメな父親かもしれない。でもっ、オレは医者なんだよ。目の前に苦しんでいる人がいれば助けたいんだ。少しでも、誰かの幸せを守りたいんだよ……』

『…………』

 なにも言えなかった。
 オレだって、父さんに助けられた立場の人間だ。
 ズルいよ。大人はずるい。
 そんな正論を、苦しそうな顔で言うなんて、反論できないじゃないか……。

『ねぇ……父さんは、どうして医者になったの?』

 オレの問いに、父さんは切なそうに、懐かしそうに、にっこりと笑った。

『小さい頃、ずっと昔にな。ある医者さんが、オレのお姉ちゃんの命を救ってくれたんだ。オレはその人に感謝して、憧れて、医者を目指して勉強していたんだ……』

『そうなんだ……』

 その時、オレの胸の中がカッと熱くなった。
 今まで父さんに抱えていた不満が、嘘のように溶けて行った。
 オレは今まで、父さんが理解できなかった。
 どうしてそんなに働くのか、なぜオレに構ってくれないのかと。
 でも……今、全部理解できた。

『ねぇ父さん。オレも、医者になりたい! 父さんみたいに、カッコいい医者になりたいんだっ!』

 気づいたときには、オレは叫んでいた。
 オレは父さんに憧れていた。
 父さんは、オレと同じく裕福な立場だけど、オレとは違って友達が沢山いる。
 多くの人に尊敬されているのだ。嫉妬する人なんて少ない。
 
 部屋の中に、逃げてばっかじゃダメだ。
 引きこもって目を背けるのはダメだ。

 オレは皆とは違う。
 勉強の才能もあって、環境にも恵まれている。

 だからオレも、父さんと一緒に働きたい。
 この獣族の村から、苦しむ人を減らすために……。

 それからオレは医者を目指して、父さんの手伝いをした。
 同い年の子供たちに、頑張って話しかけた。
 最初は煙たがられたけど、頑張って、頑張って、少しは仲良くなれた。
 
 10才になって、ジルクという男の子が、隣町からやってきて、この家の門を叩いた。
 ジルクは激怒していた。

『どうして、オレの母さんを見捨てたんだっ!』

 って叫んで、オレの父さんの顔をガンガンと殴りつけた。

 父さんは、時折みせる死んだような顔で、すまない、すまないといい続けた。
 ジルクのお母さんが死んだあの日、父さんは、他の患者の手術に追われていたのだ。
 だから、ジルクのお母さんの容態の急変に、駆けつけられなかった。

 その後数日が過ぎて。
 ジルクは再びこの家の門を叩くと、オレの父さんに頭を下げた。

「弟子にしてください」

 と、土下座して頼んでいた。
 オレは、「何があったのだ?」 と衝撃を受けたが、ジルクは、
 
『医者になりたい……あなたのような立派な医者に……』

 と、涙を流して、父さんに「医学を教えてくれ」と、頼み込んでいた。
 ジルクは、オレの家で暮らすことになった。
 オレやオレの母さんと一緒に、父さんの医者の仕事を手伝うようになった。

 ジルクはオレに対して、常にライバル心を燃やしていて、よくオレに嫌がらせをしてきた。
 昔はよく、殴り合いの喧嘩に発展していた。
 そしていつの間にか、喧嘩は口喧嘩になって、今では冗談で揶揄いあう間柄だ。
 長い年月を経て、少しは仲良くなれたと思う。
 
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