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第F膜 フィリア外伝(番外編)
六十八射目「偽りの告白」
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私のお腹には、金属の棒が貫通していた。
その金属棒は血に染まり、真っ直ぐに前方に伸びていて、
鈴のお腹へと突き刺さって、背中の向こうへと貫通していた。
一本の金属棒が、向かい合う二人のはらわたを貫通して、私達の内臓を冷たく繋げていたのだ。
視界の輪郭がグニャリと歪む。
焼けるような痛みが身体中を支配する。
その金属の棒を、私は知っていた。
王国産の金属槍である。
猛毒のついた特別製だ。
今回の戦いでも活躍した。私の部下の得意武器だ。
「……どういうつもりだ? ………ギルア!?」
私はかろうじて声を出した。
既に声は掠れていた。
出血が酷い、毒がどんどんと体を蝕んでいく、
鈴の後ろには、ギルアが立っていた。
ギルアが、猛毒の金属槍を握っていて
鈴と私の腹部を、仲良く貫通させていた。
お腹が割れるように痛い。
頭がガンガンと殴られるようだ。
腹部の風穴から、血がドバドバとあふれだす。
「いやー。すいませんねー誠也さん。
俺、考えたんです。そしたら気づいちゃったんですよ~。
あなた達を殺したら、俺が報酬を独り占めに出来るじゃないですかぁ!
そうなれば俺は大出世ですよ~! 中隊長も夢じゃないッス! 念願の贅沢生活ですよ~!! もう二度と、貧しい思いをしなくていいんっス!
そういうことで、すいません誠也さん! 俺の幸せの為に、鈴さんと一緒に死んでくださいっ」
ギルアは、いつもの調子でケラケラと笑っていた。
私は正気を疑った。
ギルアの言葉の意味が分からなかった。
なぜ私達を刺したのだ?
私と鈴は、何の為に、死ななければならないのだ?
「じゃあそういう事で、俺は失礼しますよー。
誠也さんと鈴さんは、王国のために立派に戦って、戦死したと報告しておきますねー。
今までお世話になりましたー! 天国でまた会いましょう~!」
ギルアは能天気な声で、鼻歌を歌いながら、山道を去っていく。
待て…待てよ……
……言葉が出なかった。
信じられない。
私にはギルアという人物が、とてつもなく恐ろしい生き物に見えた。
お前は、人の心を持ち合わせていないのか?
一体何を考えているのか?
私は立っている事が出来ずに、膝から崩れて背中に倒れ込んだ。
私にしがみついていた鈴も、引っ張られるように、私の胸の中へと倒れ込んでくる……
「……鈴……すまない……」
「誠也さん、私は死ぬんですか……?」
鈴は汗びっしょりで、血まみれ姿で、
私の胸の上で、浅く息をしていた。
猛毒が身体中を侵していく。
私も鈴の命は、もってあと数分……
「死ぬのが怖いか?」
私が尋ねると、鈴は弱々しい声で、ふふふっ、と笑った。
「ぜんぜん、こわくないですよ…。だいすきな人と一緒に逝けるなんて、しあわせじゃないですか……」
鈴は、心の底から安心したように、かすかなため息をついた。
「鈴はやはり、普通じゃないな……」
私はそう返事した。
鈴の持つ価値観は、やはり歪だと思う。
普通の人間は、死は恐怖の対象だ。
私だって、死ぬのは恐ろしい。
鈴とは違って、生きる意味なんて失っているというのに、死にたくないのだ。
「……え? それって……私が特別ってことですか?
………私のことが、すきってことですか……?
おしえてくださいっ……へんじをきくまで……てをはなしませんから……」
鈴は弱々しく、私と手のひらを重ね合わせた。
鈴の声は、ほとんど消えそうだった……。
私の意識も消えかけていた。
このまま私達は、穏やかに死んでいくのだろう。
私は小刻みに震える唇を、なんとか開いた。
「……あぁそうだ。私にとって鈴は特別だ。
大切な存在だ。死んで欲しくない仲間だ。
私は、お前が好きだ……」
………大切な、仕事仲間として。
そう続けようとして、やめた。
鈴のかすかな笑い声が聞こえたからだ。
私は嘘をついてしまった。
ちいさな鈴の、幸せの音を、濁したくなかった。
「よかった……」
幼くて可愛い鈴は、弱々しく鳴った。
それを最後に、その鈴は鳴ることはなくて、
愛しあう男の胸の中で、幸せにつつまれながら、静かに息をひきとった。
その金属棒は血に染まり、真っ直ぐに前方に伸びていて、
鈴のお腹へと突き刺さって、背中の向こうへと貫通していた。
一本の金属棒が、向かい合う二人のはらわたを貫通して、私達の内臓を冷たく繋げていたのだ。
視界の輪郭がグニャリと歪む。
焼けるような痛みが身体中を支配する。
その金属の棒を、私は知っていた。
王国産の金属槍である。
猛毒のついた特別製だ。
今回の戦いでも活躍した。私の部下の得意武器だ。
「……どういうつもりだ? ………ギルア!?」
私はかろうじて声を出した。
既に声は掠れていた。
出血が酷い、毒がどんどんと体を蝕んでいく、
鈴の後ろには、ギルアが立っていた。
ギルアが、猛毒の金属槍を握っていて
鈴と私の腹部を、仲良く貫通させていた。
お腹が割れるように痛い。
頭がガンガンと殴られるようだ。
腹部の風穴から、血がドバドバとあふれだす。
「いやー。すいませんねー誠也さん。
俺、考えたんです。そしたら気づいちゃったんですよ~。
あなた達を殺したら、俺が報酬を独り占めに出来るじゃないですかぁ!
そうなれば俺は大出世ですよ~! 中隊長も夢じゃないッス! 念願の贅沢生活ですよ~!! もう二度と、貧しい思いをしなくていいんっス!
そういうことで、すいません誠也さん! 俺の幸せの為に、鈴さんと一緒に死んでくださいっ」
ギルアは、いつもの調子でケラケラと笑っていた。
私は正気を疑った。
ギルアの言葉の意味が分からなかった。
なぜ私達を刺したのだ?
私と鈴は、何の為に、死ななければならないのだ?
「じゃあそういう事で、俺は失礼しますよー。
誠也さんと鈴さんは、王国のために立派に戦って、戦死したと報告しておきますねー。
今までお世話になりましたー! 天国でまた会いましょう~!」
ギルアは能天気な声で、鼻歌を歌いながら、山道を去っていく。
待て…待てよ……
……言葉が出なかった。
信じられない。
私にはギルアという人物が、とてつもなく恐ろしい生き物に見えた。
お前は、人の心を持ち合わせていないのか?
一体何を考えているのか?
私は立っている事が出来ずに、膝から崩れて背中に倒れ込んだ。
私にしがみついていた鈴も、引っ張られるように、私の胸の中へと倒れ込んでくる……
「……鈴……すまない……」
「誠也さん、私は死ぬんですか……?」
鈴は汗びっしょりで、血まみれ姿で、
私の胸の上で、浅く息をしていた。
猛毒が身体中を侵していく。
私も鈴の命は、もってあと数分……
「死ぬのが怖いか?」
私が尋ねると、鈴は弱々しい声で、ふふふっ、と笑った。
「ぜんぜん、こわくないですよ…。だいすきな人と一緒に逝けるなんて、しあわせじゃないですか……」
鈴は、心の底から安心したように、かすかなため息をついた。
「鈴はやはり、普通じゃないな……」
私はそう返事した。
鈴の持つ価値観は、やはり歪だと思う。
普通の人間は、死は恐怖の対象だ。
私だって、死ぬのは恐ろしい。
鈴とは違って、生きる意味なんて失っているというのに、死にたくないのだ。
「……え? それって……私が特別ってことですか?
………私のことが、すきってことですか……?
おしえてくださいっ……へんじをきくまで……てをはなしませんから……」
鈴は弱々しく、私と手のひらを重ね合わせた。
鈴の声は、ほとんど消えそうだった……。
私の意識も消えかけていた。
このまま私達は、穏やかに死んでいくのだろう。
私は小刻みに震える唇を、なんとか開いた。
「……あぁそうだ。私にとって鈴は特別だ。
大切な存在だ。死んで欲しくない仲間だ。
私は、お前が好きだ……」
………大切な、仕事仲間として。
そう続けようとして、やめた。
鈴のかすかな笑い声が聞こえたからだ。
私は嘘をついてしまった。
ちいさな鈴の、幸せの音を、濁したくなかった。
「よかった……」
幼くて可愛い鈴は、弱々しく鳴った。
それを最後に、その鈴は鳴ることはなくて、
愛しあう男の胸の中で、幸せにつつまれながら、静かに息をひきとった。
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