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第F膜 フィリア外伝(番外編)

六十六射目「獣族反乱軍」

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 翌日、早朝。
 近くの村が、獣族の部隊に襲われたという情報が入った。
 死者46人 負傷者67人。
 ここまでの大きな被害はいつぶりだろうか。
 村の警備たちは全滅したらしい。

 現場に駆けつけた時には、時すでに遅し。
 獣族は去った後で、村は火で全焼して、焼け野原となった後だった。



「いやぁぁ!! なんで守ってくれなかったのっ!? 何のためにあなた達がいるのよっ!! 娘を返せェェ!!」

 救助した女性に、ブン殴られた。
 半狂乱となって私に襲いかかる女性を、部下達が抑えつける。
 地獄絵図だ。
 母を失った子供に、手足を失った負傷者。
 夢や命を奪われた人たち。
 戦争の時には、日常だった景色だ。
 私にとっては見慣れたものだが、15年以上前のことだ。
 戦争を知らない若い部下は、ボロボロと涙を流していた。

誠也せいやさん、自分には我慢できないです。 どうして国王は、攻め込む許可を出してくれないんですか!?
 おかしいですよ! こっちは一方的に攻撃を受けているのに、獣族の領土に入ることは禁止されているなんて」
 
 女軍人ーー私の部下のすずは、悔しい涙を浮かべて、拳を震わせていた。
 気持ちはよく分かる。
 私達は不可侵協定で、獣族の領土に入ることは禁止されている。

「それが法律だ。
 獣族の領土には、戦いを望まずに平和に暮らす獣族もいる。
 ……戦う意志のない者を殺せば、また戦争が始まってしまう」
「ですが! こんな事が許されて良いんですか!? 私たちの仕事は民を守る事です! 何が不可侵協定ですか!? こんなの偽りの平和です!」

 すずは、幼い顔を涙で歪めて、悔しさを露わにしていた。
 軍服に似つかわしくない童顔の、優秀な軍人である。
 魔法操作も優れていて、回復術師として部隊を支えている。
 
 私の中隊は、40人余りで構成されている。
 国境付近の部隊であるため、全員が精鋭の戦士である。
 まあ、本当の戦争を知る私にとっては、ケツの青いガキばかりだが。

「それにっ………今日は魔力の調子が悪いんですっ……うまく回復できなくて、
 消えゆく命を、助けられなかったんです……
 自分は……何のためにここに来たのでしょうか?
 全て出遅れで、敵を追うことも出来ず、悔しさに歯を食い締めるしかできません……
 自分は無力です……」

 すずは、わぁぁぁと泣き出した。
 その場にしゃがんでうずくまり、人目もはばからずにワンワンと泣いた。
 静かな焼け野原に、すず嗚咽おえつが響きわたる。

 焼け野原は森に囲まれていた。
 すずを、あざ笑うかのように……



 ……魔力の調子が悪い……だと?
 
 すずの言葉を聞いて、何かが脳裏に引っかかった。
 同じような事が、昔にあった気がする。

 悪い予感がした……
 身体中の細胞が、危険信号を発していた。



誠也せいやさんっ! 後方部隊が到着しました!
 魔力探知機もあります。これで生存者を探せます!」

 突然の背中からの男声に、私は驚かされた。
 俺の後ろには、迷彩の軍服をまとった青年達が20人ほど、敬礼で整列していた、

 悪い予感が高まっていく……
 魔力の調子が悪いのは、おそらく魔力場が歪んでいるのだ……
 それは、魔力場を歪ませるほどに巨大な魔力塊が、ある事を意味する。

 そして、恐ろしい結論に辿り着いた。
 おそらく、原因は巨大魔法陣である。
 仕掛けたのは獣族、標的は私達ーーガロン王国軍だ。
 この場に駆けつけた部隊を、殺す為のトラップだろう。

 私の顔が、みるみるうちに青ざめていくのが分かる。
 忘れていた。
 平和ボケをしていた、考えが甘かった。
 獣族とは、どんな卑怯な手も使う。
 平気で人を殺しにくる奴らだ。
 早く、この場を離れなければいけない。
 私のミスだ。
 部下達を巻き込む訳にはいかない。

「全員退避たいひ!! おそらく巨大魔法陣だ!! 私達はおびき出された!!」

 私は叫んだ。
 だが遅かった。
 キィィィィンという音がなり、
 村全体を覆い尽くす巨大魔法陣が、大地に姿を現した。
 後方部隊が集まるタイミングを狙われたようだ。
 もう逃げられない。間に合わない。

「間に合わないっ!! 足元あしもとを固めろっ!」

 私は、叫んだ。
 地面に向かって【土壁アースウォール】スキルを連呼する。
 足元から守るように、何十もの岩石の壁が生成される。

 だが、規模が大きすぎる……
 魔力場の歪みのせいで、魔力が上手く発動しない。
 私は、必死に詠唱を続ける。
 私の不注意で、部下の命を奪うなど、あってはならない事だ。

 そして、視界を白い光が覆い、身体中が熱に包まれる。
 痛い、痛い……痛すぎる。
 身体が溶けていって、

 大爆発が起こる。
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