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第三膜 寝取られ撲滅パーティ編

六十一射目「獣族独立自治区」

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 白いフードのフィリアちゃんに、キスをした獣族の少年は、フィリアちゃんの友達らしい。
 フィリアちゃんは一ヶ月前ぐらいに、獣族独立自治区という、獣族達の住む国を抜け出したらしい。
 そうして今、この少年は、フィリアちゃんとの再会を喜んでキスをしたのだとか。

 という内容を、リリィさんが翻訳して聞かせてくれた。

「可愛いですね。あの子、ファーストキスだったみたいですよ。 キスは、眠っているお姫様を起こす魔法だと信じて、勇気を出したみたいです」

 リリィさんは、幼い恋愛を見守る母のように、くすくすと笑っていた。
 おかしいな。
 あの少年の方がリリィさんよりも、年上に見えるのだが。

「さて……では王国軍の仕掛けた魔法陣を、解いておきましょうか」

 リリィさんはそう言って、また獣族達へと話しにいった。


 
 ガロン王国軍が設置した爆破魔法陣は、リリィさんの手によって解除された。 
 そして俺達は、すぐ近くにあるという。獣族たちの国。
 獣族独立自治区へと、足を運んでいた。

 俺の隣にいるのは、浅尾あさおさんと直穂なおほである。
 俺達の前方では、リリィさんと、誠也せいやという30代くらいのダンディ男が、獣族達と話し合っていた。
 誠也せいやさんは獣族語を話せないようなので、リリィさんが、せわしなく翻訳している。

 リリィさんが居なければ、俺達は獣族とコミュニケーションがとれなかったのだ。
 言い方が悪いかもしれないが、リリィさんはやはり万能家電だ。
 訊けばなんでも答えてくれて、洗濯に料理も可能だし、翻訳機能まで搭載している。
 あの洞窟で、リリィさんに出会えたのは、奇跡かもしれない。

 この世界は、いい人ばかりではない。

 昨日、クラスメイトはみんな、騙されたのだから。
 召喚士ギャベルと、シルヴァ様というクソ野郎に、【マルハブシの猛毒】を飲まされて、洞窟最深部の鬼畜ボス【スイーツ阿修羅】と戦わされた。

 先ほどの、ガロン王国軍も、最低なクソ野郎だった。
 彼らは、【神獣マルハブシ】を捕まえるために、誠也せいやさんやフィリアという獣族の少女を、えさとして使っていたのだ。

 

「ごめんね行宗ゆきむねくん。また足を引っ張っちゃった……」

 隣を歩いている浅尾あさおさんが、俯きながらそう言った。

和奈かずな? 落ち込んでるの?」

「ううん、違うよ直穂なおほ。私は、怖いんだよっ……」

 心配そうに顔を覗きこむ直穂なおほに、浅尾あさおさんはさらに暗い顔をした。

「逆に聞くけどさ? どうして二人とも平然としてるの? 私達、何度も死にかけてるんだよ? 変な世界に連れて来られて、騙されて。クラスメイトと離れ離れになって……。怖くないの??
 私は、怖いよ……」

 浅尾あさおさんの声は、少し震えていた。

 どうしてだろう? と考えてみる。
 いつの間にか俺の中には、恐怖心はほとんど消えていた。
 どうしてだろう?
 すぐに答えが出た。

 俺の安心感の正体は、リリィさんへの絶大な信頼であった。
 俺は、洞窟の中で一人きりになった絶望的な状態から、リリィさんの協力のお陰で乗り越えたのだ。

 恐ろしいダンジョンから脱出できた。
 リリィさんとユリィさんという仲間が加わって。
 そして今、獣族と交流を持つことが出来たのだ。

 仲間が増えると、安心感も増えていく。 

 だが、油断は禁物だな。
 クラス転移したあの時も、クラスメイトという沢山の仲間がいた。
 あの時も、正直、油断していた。

「大丈夫だ。リリィさんを信じよう。俺達は明日のうちに、このガロン王国を出るんだ。
 リリィさんは、「公国に行けば、現実世界に帰るヒントも、クラスメイトの行方を捜すヒントもあるかもしれない」と言っていた」

 俺はそう言ったが、浅尾あさおさんの顔色は浮かばなかった。

「信じるって何?? 本当にリリィさんは信用できるの? 
 私達はリリィさんの言う通りに、ケモ耳のフィリアちゃんを助けたけれど。
 私は死にかけたんだよ? 
 行宗くんが助けてくれなかったら、私は【神獣マルハブシ】に食べられてた。
 本当に、あの子を信用していいの? 今度は騙されてないの!?」

 浅尾あさおさんは、泣きそうな顔を上げた。
 不安が溢れだしてきて、止まらないという様子で、俺の腕を震える手で握りしめた。

 浅尾あさおさんを説得する方法は分からなかった。

和奈かずな。じゃあもし、リリィちゃんが私達を騙していたとして、和奈かずなはどうするつもり? 私達だけで何かが出来ると思う?」

 直穂なおほが、真剣な顔で反論した。

「私達は無力だよ。スキルは強いけれど、この世界のことを何も知らない。
 だから、誰かに頼るしかないの。 リリィちゃんは私達の命の恩人だよ? それに、私達が元の世界に帰れるように、協力してくれるって言ってくれたし」

 直穂なおほの言葉に、浅尾あさおさんは疲れたような顔で脱力した。

「確かに……その通りだけどさっ。 ……ごめんね、私、いやな女で。 でも、不安で不安でどうしようもないの。早く家に帰りたい。普通に学校に行きたいだけなの……」

 浅尾あさおさんは立ち止まり、ポロリ、と涙を流した。
 そんな彼女を包み込むように、すかざず直穂が抱きしめた。

和奈かずな。気づけなくてごめん。無理して元気にしてたんだね……」

「うぅ……直穂なおほっ、あったかいよっ……ありがとうっ……」
 
 直穂なおほが、しくしくと泣く浅尾あさおさんの頭を撫でる。
 男の俺には、決して出来ない行為であった。

 俺は、抱き合う二人を見て、ふたたび強く決意した。  
 必ず二人を、現実世界に連れて帰ると…… 
 
 

「どうしたんですか?」

 真後ろから、リリィさんの声がした。
 振り返ると、いつの間にか側に来ていた、ポカンとした顔のリリィさんが、
 二人と俺を、交互に見つめていた。
 
「うぅん、なんでもないよ。ありがとね、リリィちゃん。また助けてもらったね」

 浅尾あさおさんは涙を拭いて、リリィさんに笑いかけた。

「そうですか、ならば良いのですが。 はぁぁ……行宗ゆきむねさん。あたしは疲れましたよぉ。獣族反乱軍に協力してほしいと、熱心に頼まれまして…… 断るのが大変でした……」

 リリィさんは、ため息をついて愚痴をこぼした。

「苦労をかけたな、リリィさん。助かったよ。お陰で獣族戦士団と、はじめて話すことができた……」
 
 誠也せいやさんが、リリィさんの後ろに立っていた。
 誠也せいやさんは、すやすやと眠っているユリィを、背負せおっていた。


「いえいえ、あたしも楽しかったですよ。学んだ言語が通じるという経験は、嬉しいものでした」

 リリィさんは、頬を赤らめて、笑顔で返事をした。



 俺達は、獣族独立自治区へと入った。
 夜は真っ暗で明かりが少なく、景色はよく分からなかった。
 石造りの道を少し歩いて、木造の大きな屋敷へと案内された。

 ここに泊まる事になったのは、俺と直穂なおほ浅尾あさおさん。
 そしてリリィさんとユリィ。
 最後に誠也せいやさんだ。

 フィリアという獣族の女の子は、小桑原啓介こくわばらけいすけという医者の元へと、送られるそうだ。
 フィリアちゃんはまだ、意識を取り戻していないのだ。

 フィリアちゃんの親友・・だという誠也せいやさんは、フィリアちゃんについて行きたいと獣族の人に頼んだそうだが、断られていた。
 見知らぬ人間が、獣族の一般住民が棲む地域へと立ち入るのは、流石にマズイらしい。
 


 大きな寝室には、フカフカのベッドが敷かれていた。
 久しぶりの布団である。
 現実世界では当たり前の布団が、こんなにもありがたいとは。
 初夏の蒸し暑い夜だったが、
 あまりの疲れと、布団の気持ちよさに、俺たちの意識は、どんどんと奪われていく。




 それは、修学旅行みたいで楽しかった。
 中学の頃の修学旅行は、地獄のように苦しかったからな。

 今は仲間に、直穂なおほ浅尾あさおさんとユリィちゃんとリリィがいる。
 みんな女の子で、俺の大切な親友で、みんな可愛い。
 最高のハーレムじゃないか、と思うけれど、俺が恋しているのは新崎直穂にいざきなおほだけである。

 まぁ、今この大きな寝室には、誠也せいやさんという大人の男性もいるのだが。
 なんだお前は? 何者だ? 野郎は俺のハーレムから出ていけ。
 というのは冗談だ。

 誠也せいやさんは、俺たちに、何度も感謝して来た。
 「フィリアを助けてくれてありがとう」、と。
 悪い人ではないと、信じている

 明日は、リリィさんと共に公国を目指すのだ。
 アキハバラ公国っていってたっけ?
 
 まぁいいや、寝よう………
 大変な一日だったなぁ。
 明日は、どんな事が待っているのだろうか……


 ……………

 俺は、知らなかった。
 これが、このメンバーで過ごす、最後の夜になるなんて。
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