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第三膜 寝取られ撲滅パーティ編
六十射目「獣族との遭遇」
しおりを挟む突然。
ガサガサガサッ、と、木々が擦れる音がした。
何事だ、慌てて振り向くと、そこから化け物が現れた。
上半身裸でムキムキの、毛むくじゃらの男達。
顔立ちは、まるでドーベルマンのように険しく、両手には刀やら大斧やら、炎の燃え盛る松明など、各々の武器を握り締めている。
彼らには、大きな獣の耳があった。
まさか彼らが、獣族だろうか?
俺は、今日のあまりに全身が引きつった。
恐ろしい姿、オオカミ男のような人間の化け物。
「ーーー・・・ーー・・・・・・!!」
20匹ほどの獣族の、戦闘部隊囲まれて。
中央で腕を組んだ、背の高い獣男が、大声で雄叫びをあげた。
それは、獣の雄叫びにしか聞こえなかったが、何かを話しているようにもみえた。
俺は後ろを振り返ると、新崎さんと浅尾さんは怯えていた。
誠也というおじさんは、顔を真っ青にして、ガクガクと震えていた。
リリィさんだけが、冷静に彼らを見つめていた。
ユリィはぐっすりと眠っていた。
「ーー・・・・ーーーー・・・・・」
リリィさんが、雄叫びを返すように、低い呻き声をあげた。
俺には、ウーウーという獣の鳴き声にしか聞こえなかった。
「ーーー! ・・・ーーー・・・・・・・!!」
獣の戦士達はどよめいて、リリィさんへと雄叫びを返した。
俺の分からない領域で、リリィさんと獣族たちの、コミュニケーションが進んでいく。
「リリィ……… 獣族語が、分かるのか?? 彼らはなんと言っている?」
誠也さんが、呆気にとられた様子で、そうつぶやいた。
しばらくして、どうやら話し合いの結論が出たようで、
リリィさんは、はぁとため息をついて、俺達へと振り返ったり
「彼らは、獣族の娘のフィリアさんを助けてくれたことに、感謝しています。 私達を、すぐそばの獣族独立自地区に案内して、一晩、泊めてくれるそうです」
感謝してる? 泊めてくれるだと?
いやいや、あの獣族たち、怖くないか?
「どうですか? 行宗さん、新崎さん、誠也さん。 せっかくですので、彼らにもてなしてもらいませんか?」
リリィさんは、少しハイテンションで、興奮した様子だった。
「あの? 大丈夫なの? また襲われたりしない?」
不安そうに、浅尾さんが尋ねた。
「大丈夫ですよ、彼らの言葉は本当です。
王国貴族は、嘘を見抜くのも一流ですからねっ」
地震満々に胸を張るリリィだが、本当に大丈夫なのだろうか?
その自信はどこから?
「私は、行ってみたいかも…… この、フィリアちゃんと、友達になりたいし……」
そんな新崎さんの言葉に、
「王国貴族だと? お前はまさか? アキバハラ王国の貴族なのか? なぜこんな場所にっ?」
と驚く誠也さんの声が重なる。
それを聞いたリリィさんは、目をまんまるに見開らいた。
「あ…… そ、そうでしたね。あなたもいたんですね、誠也さん。……あのっ、私はあなたの命の恩人ですよねっ? だから今のは、聞かなかったことにしてくれませんかっ? 私は、王国貴族でも何でもありません。ただの人ですっ」
リリィさんは、それまでの自信が嘘のように、目をキョロキョロ泳がせながら、肩を縮こませた。
そういえば、このガロン王国と公国は、冷戦状態だったからな。
リリィさんとしても、公国の貴族だと知られるのは、リスクなのだろう。
しかし……今、アキバハラ公国と聞こえたのだが。
聞き間違いか? たまたま名前が、アキハバラに似ているだけなのだろうか?
「あぁ、もちろんだ。私は何も聞かなかったと約束する」
「はい……感謝します」
リリィさんは不安げに、冷や汗を拭っていた。
あのリリィさんが動揺するなんて……
俺は、不安を覚えずにはいられなかった。
「ーー・・・ーーー・・・・!!」
ドドドドドドドドッ!!
俺達に向かって駆け寄る音がした。
ハッと顔を上げると、小柄な獣族の少年だった。
彼は、凄い形相で、俺達に襲いかかってきたのだ。
「ーー・・!? ーーー・・・!! ーーー・!?」
他の獣族達も、心底驚いた様子で、彼を止めようと大声を上げる。
彼を追いかける者もいた。
俺は拳を握った。
俺は、レベル52だ。
きっと大丈夫、みんなを守れるっ!
え??
ちがった。
その少年は、大粒の涙を流していた。
くしゃくしゃに顔を歪めて、泣いていたのだ。
嬉し涙だろうか? 悲し涙だろうか?
彼の心の内は、分からないけど……
俺はそんな彼を、とてもじゃないが、殴れなかった。
「ーー・・!!」
彼は、俺を通り過ぎて、叫んだ。
そして浅尾さんが抱えたままの、白フードの少女、獣族のフィリアに駆け寄って。
抱きついた。
「ーー・・!! ーー・・!! ーー・・!!」
彼は、同じ言葉を連呼した。
曖昧な発音だけど、かすかに"フィリア"と、聞こえる気がする。
「ーー・・・・!! ・・・ーー!!」
獣族少年は、気絶したフィリアを強く抱きしめて。
そして、彼女の唇に、キスをした。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と、
唇同士が甘く重なり、
その少年は、フィリアとの再会に喜んでいた。
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