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第三膜 寝取られ撲滅パーティ編
五十九射目「リリィの武器」
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……………
………
ゆっくりと目を開いて、空を眺める……
そこには、マルハブシの明かりは消えて、真っ暗闇の夜かあった。
満点の星空が広がっている。
宝石をばら撒いたような天の川が、大空を横切るように、壮大にあった。
綺麗だ……
昔、おじいちゃんおばあちゃんの家で見たような、田舎の澄んだ夜空。
月より明るく輝いていた、神獣マルハブシは、跡形もなく消滅していた。
大きな魔法の余韻が、いまだにビリビリと大気を震撼させている。
なんだ、この魔法は……
神獣マルハブシを、骨も残さず、消し去るほどの魔法なんて。
もしかしてユリィさんは、賢者の俺や天使の直穂よりも、強いのではないだろうか?
「【超回復】!!」
直穂の声がした。
振り返ると直穂が、浅尾さんの抱えた白フードの少女へと駆けつけていたようで、
血まみれの少女に回復魔法を使っていた。
浅尾さんの安心した表情を見るに、どうやら少女は無事らしい。
一方、リリィさんとユリィは、魔法を撃った姿勢のままだった。
ぐったりとしたユリィを抱え込んだままのリリィさんは、地面に座り込んでいた。
「ユリィっ……流石ですよっ」
「おねぇさま……はぁ、はぁぁ……」
ユリィは疲れた様子で、リリィさんにもたれかかっていた。
あんなトンデモ魔法を放った直後である。
疲れるのは無理もない。
「おい……奴はどこにいった?」
「何がおこったんだ??」
「マルハブシが消えた??」
そして周囲の軍人たちが、混乱したような声をつぎつぎとあげた。
その声は次第に勢いを増して、
ついには怒号が飛んできた。
「貴様らっ!! 神獣マルハブシをどこへやったっ!? あれの生け捕りには、1100万ガロンの価値がある!! 吐けっ! やつをどこに隠したっ!!」
一際大きな声で、木の上から叫ぶ男は、小太りの中年だった。
身に着けているのは、威厳のある軍服。この軍隊のリーダーだろうか?
ご丁寧に、手から炎を出しているので、彼の位置や、怒った表情まで繊細にみえた。
神獣マルハブシを生け捕りにするだと?
「大きく光っていたモンスターなら、あたしの妹が魔法で倒しましたが? なにか文句でもありますか?」
リリィさんの声とは思えない、低い声だった。
リリィさんの言葉に、周囲の軍服たちは動揺した。
「は? 倒したって?」
「嘘つけよ…… 神獣を一撃なんて無理だ。骨も残さず倒すなんてあり得ない……」
「いや……だがしかし、これは……」
「どこかに転移させたのでは?」
そんな中で、小太り男は、目を血走らせて俺達へと怒鳴った。
「貴様ら……全員、両手を上げて降伏しろ!!」
あまりの迫力に、俺だけでなく直穂や浅尾さんも、ビクリと身体を硬直させた。
ユリィも、不安そうに姉を見上げていた。
ただ、リリィさんだけが、不安げな様子もなく、堂々とソイツを睨みつけた。
「それはこちらのセリフです、今なら見逃してあげますよ? 死にたくないのなら、あなた達全員、すぐにこの場から立ち去ってください」
リリィさんは、怒った声でそう言った。
「ふふっ。ガキのくせに面白い事をいうなぁ? 今お前らを囲んでいるのは、ガロン王国軍の精鋭部隊だぞ? たった五人で戦えるとでも?
さらに教えてやろう。お前たちの足元には、爆破魔法陣が仕掛けられている。俺の機嫌一つで、お前らは爆死するんだよ!!」
爆破魔法陣だと!?
俺は、自分の足元を確認した。
だが、目立った魔法陣の模様は見つからなかった。
「あなた方の多重詠唱型魔法陣と、あたしの高速詠唱、どちらが早いか勝負してみますか? 10秒だけ待ってあげます。 先ほどのモンスターと一緒に、天国に行きたい者は、どうぞご自由にこの場に残って下さい」
「貴様っ! うっ、嘘をつくなっ!! でまかせだろうつ!!」
小太り男は、嫌な汗を振りまきながら、両手をブンブンと左右に振った。
「10、9、8、7……」
リリィさんは静かな声で、でも確実に一つづつ、10から0までの数字を数え始めた。
リリィさんの伸ばした両手の先に、真っ白な光が集まっていく。
「……いっ……嫌だっ!! 俺はまだ死にたくねぇよっ!! 逃げるぞっ!!」
「……あいつは、きっと魔女だっ、バケモンだっ!!」
「でも、神獣は消えてるんだろ? なら、アイツらが倒したのは本当なんじゃないか?」
「おい! 俺を置いていくなっ!!」
周囲の軍服たちは、動揺を隠せずに、一人、また一人と、森の中へと駆けだした。
「おいまて貴様らっ!! 分かりやすい嘘に騙されおってっ!! 逃げるなっ!! 王国の反逆者として処刑されたいのか!?」
小太り男が激怒をするが、その口は隣にいた若者に塞がれた。
「大隊長…… ここは退くべきです。もし、あの少女の言葉が本当で、彼らが神獣マルハブシを一撃で倒したのなら、俺達に勝ち目はありません。強さの次元が違います」
「ギルア貴様っ、このまま尻尾を巻いて逃げろと言うのか!? ここで退けば、私は責任を取らされて、首を斬られてしまうっ!?」
「安心してください。俺がなんとかします。信じてください。
今回は相手が悪かったんです。あの少女は得体がしれません。 王国軍に囲まれた上で、あなたの脅迫を受けても、一切動揺する様子がない。 どう考えても普通の少女ではありません」
「た……確かにそうだな」
「逃げましょう、ヤツの機嫌を損ねないうちに」
小太り男は、ギルアという青年の助言によって、背中を向けてこの場から走りだした。
王国軍が、みんな逃げていく。
この場に残っているのは、俺とリリィさんとユリィ。
白いフードの少女を抱えながら、唖然としている直穂と浅尾さん。
さらにもう一人、男がいたのだ。
30代くらいのおじさんである。
血まみれで釘を刺されたおじさんは、仰向けに倒れたまま、逃げていく王国軍を凝視していた。
そしてついに、大声をあげた。
「待てっ!! 待ちやがれえぇぇっ!! 頼むっ! 頼むっそこの金髪少女っ!! あいつらを皆殺しにしてくれっ!! ぶち殺してくれっ!! あいつらは、フィリアをっ!! あの純粋なフィリアを、ぐちゃぐちゃに汚しやがったんだっ!!!」
その男は、リリィさんに懇願した。
ボロボロと涙を流して、歯をぐっと噛み締めていた。
血まみれの惨状に気づいた直穂が、焦った様子で男に駆け寄った。
リリィさんは、男の叫びを無視した様子で、じっと王国軍を睨みながら、ただ数字を数えていた。
「……2、1、ゼロ。 ユリィ? 近くに潜伏している王国軍はいますか?」
「いませんっ…… みんな逃げました」
「そうですか…… はぁぁ………」
そのときリリィさんは、心底安堵した様子でため息をついた。
「なんでっ……! なぜ逃したんだっ! アイツらはフィリアをっ、酷い目にっ!! ゴホッ!! ごほっ!!」
血まみれのおじさんは涙目で、リリィさんを恨めしそうに睨んで、
そして吐血した。
新崎さんが、慌てた様子で男に駆け寄り。
「【超回復】!!」
と、彼を治療した。
「はぁ………はぁ、あり、ありがとう……」
その男はぐったりとした様子で、新崎さんに感謝した。
「フィリアを、助けてくれてっ、本当にありがとうっ……彼女は無事なのか!? どうなのだっ!?」
「気絶してますけど、もう大丈夫ですよ。フィリアちゃんの怪我は、私が治しましたから」
直穂の優しい声に、男はフッと脱力して、ボロボロと涙を溢れかえした。
「ぅっ、ぅううっ、うわぁあぁぁぁあ!!」
大人の人が、こんなに泣いているのは初めてみた。
でも、それは悲し涙ではない。嬉し涙だろう。
彼にとって、フィリアという女の子は、すごく大切なのだろう。
俺は、胸が暖かくなった。
勇気を出して、マルハブシをぶん殴って良かったと思った。
俺の勇気で、この人は救われたのだ。
それは凄く嬉しくて、気分がいい。
「すいません。でも、あたしには、王国軍を皆殺しにする魔法なんて使えませんから。二人の命が無事なだけで、満足して下さい」
リリィさんが、申し訳なさそうにそう言った。
「あぁ、そうだなっ、ありがとう金髪少女っ」
「リリィです」
「そうか、リリィ。 ありがとうっ。ありがとうっ、私の名は誠也だっ、私の大切なフィリアを救ってくれて、ありがとうっ!!」
誠也と、男は名乗った。
日本人っぽい名前だな、と思った。
ん? あれ?
リリィさん、なんか変なことを言わなかったか?
「あたしには、王国軍を皆殺しにする魔法なんて使えません」
って、
「ちょっと待って、リリィさん。皆殺しにすると言って王国軍を脅したのは、嘘をついていたのか?」
「そうですよ。 迫真の演技だったでしょう? 私は特殊スキルも強力な応用スキルも使えませんからね」
リリィさんは、ニヤリと意地悪そうな笑みでそう言った。
「えっ? 嘘で騙したってコトか?? もし見破られていたらどうなってたんだ?」
「そりゃあ、私も行宗さんも殺されてますよ。でも安心して下さい、あたしはバレるような嘘はつきませんから。王国の貴族にとって、嘘は最大の武器ですからね」
「そ、そうなのか……」
リリィさんが言うなら、そうなのか?
俺は、心臓がサッと冷えた感覚に陥った。
もしかして、実は先ほど、とんでもない大ピンチだったのか?
「ユリィの魔法は本物ですからね。 神獣マルハブシを一撃で倒したのも本当です。
それを目の当たりにした彼らなら、私の嘘も信じてしまうでしょう。
ユリィの魔法なら、王国軍を一瞬で皆殺しに出来たかもしれません。
まあユリィは、連続で魔法を使えないので無理でしたが。
ユリィは、私と違って天才なんです」
リリィさんは、少し辛そうな顔でそう言った。
俺はリリィさんに抱かれたユリィへと、視線を落とした。
いつのまにか、幼いユリィは、あどけない顔で、スヤスヤと眠りについていた。
「今日は、2回も魔法を使わせてしまいました。おまけに水泳までしたんです。ユリィには無理をさせました。明日のためにも、早くログハウスに戻らなければいけませんね」
リリィさんは微笑みながら、ユリィのおでこをさらさら撫でた。
そのリリィさんの表情は、寂しそうにも見えた。
………
ゆっくりと目を開いて、空を眺める……
そこには、マルハブシの明かりは消えて、真っ暗闇の夜かあった。
満点の星空が広がっている。
宝石をばら撒いたような天の川が、大空を横切るように、壮大にあった。
綺麗だ……
昔、おじいちゃんおばあちゃんの家で見たような、田舎の澄んだ夜空。
月より明るく輝いていた、神獣マルハブシは、跡形もなく消滅していた。
大きな魔法の余韻が、いまだにビリビリと大気を震撼させている。
なんだ、この魔法は……
神獣マルハブシを、骨も残さず、消し去るほどの魔法なんて。
もしかしてユリィさんは、賢者の俺や天使の直穂よりも、強いのではないだろうか?
「【超回復】!!」
直穂の声がした。
振り返ると直穂が、浅尾さんの抱えた白フードの少女へと駆けつけていたようで、
血まみれの少女に回復魔法を使っていた。
浅尾さんの安心した表情を見るに、どうやら少女は無事らしい。
一方、リリィさんとユリィは、魔法を撃った姿勢のままだった。
ぐったりとしたユリィを抱え込んだままのリリィさんは、地面に座り込んでいた。
「ユリィっ……流石ですよっ」
「おねぇさま……はぁ、はぁぁ……」
ユリィは疲れた様子で、リリィさんにもたれかかっていた。
あんなトンデモ魔法を放った直後である。
疲れるのは無理もない。
「おい……奴はどこにいった?」
「何がおこったんだ??」
「マルハブシが消えた??」
そして周囲の軍人たちが、混乱したような声をつぎつぎとあげた。
その声は次第に勢いを増して、
ついには怒号が飛んできた。
「貴様らっ!! 神獣マルハブシをどこへやったっ!? あれの生け捕りには、1100万ガロンの価値がある!! 吐けっ! やつをどこに隠したっ!!」
一際大きな声で、木の上から叫ぶ男は、小太りの中年だった。
身に着けているのは、威厳のある軍服。この軍隊のリーダーだろうか?
ご丁寧に、手から炎を出しているので、彼の位置や、怒った表情まで繊細にみえた。
神獣マルハブシを生け捕りにするだと?
「大きく光っていたモンスターなら、あたしの妹が魔法で倒しましたが? なにか文句でもありますか?」
リリィさんの声とは思えない、低い声だった。
リリィさんの言葉に、周囲の軍服たちは動揺した。
「は? 倒したって?」
「嘘つけよ…… 神獣を一撃なんて無理だ。骨も残さず倒すなんてあり得ない……」
「いや……だがしかし、これは……」
「どこかに転移させたのでは?」
そんな中で、小太り男は、目を血走らせて俺達へと怒鳴った。
「貴様ら……全員、両手を上げて降伏しろ!!」
あまりの迫力に、俺だけでなく直穂や浅尾さんも、ビクリと身体を硬直させた。
ユリィも、不安そうに姉を見上げていた。
ただ、リリィさんだけが、不安げな様子もなく、堂々とソイツを睨みつけた。
「それはこちらのセリフです、今なら見逃してあげますよ? 死にたくないのなら、あなた達全員、すぐにこの場から立ち去ってください」
リリィさんは、怒った声でそう言った。
「ふふっ。ガキのくせに面白い事をいうなぁ? 今お前らを囲んでいるのは、ガロン王国軍の精鋭部隊だぞ? たった五人で戦えるとでも?
さらに教えてやろう。お前たちの足元には、爆破魔法陣が仕掛けられている。俺の機嫌一つで、お前らは爆死するんだよ!!」
爆破魔法陣だと!?
俺は、自分の足元を確認した。
だが、目立った魔法陣の模様は見つからなかった。
「あなた方の多重詠唱型魔法陣と、あたしの高速詠唱、どちらが早いか勝負してみますか? 10秒だけ待ってあげます。 先ほどのモンスターと一緒に、天国に行きたい者は、どうぞご自由にこの場に残って下さい」
「貴様っ! うっ、嘘をつくなっ!! でまかせだろうつ!!」
小太り男は、嫌な汗を振りまきながら、両手をブンブンと左右に振った。
「10、9、8、7……」
リリィさんは静かな声で、でも確実に一つづつ、10から0までの数字を数え始めた。
リリィさんの伸ばした両手の先に、真っ白な光が集まっていく。
「……いっ……嫌だっ!! 俺はまだ死にたくねぇよっ!! 逃げるぞっ!!」
「……あいつは、きっと魔女だっ、バケモンだっ!!」
「でも、神獣は消えてるんだろ? なら、アイツらが倒したのは本当なんじゃないか?」
「おい! 俺を置いていくなっ!!」
周囲の軍服たちは、動揺を隠せずに、一人、また一人と、森の中へと駆けだした。
「おいまて貴様らっ!! 分かりやすい嘘に騙されおってっ!! 逃げるなっ!! 王国の反逆者として処刑されたいのか!?」
小太り男が激怒をするが、その口は隣にいた若者に塞がれた。
「大隊長…… ここは退くべきです。もし、あの少女の言葉が本当で、彼らが神獣マルハブシを一撃で倒したのなら、俺達に勝ち目はありません。強さの次元が違います」
「ギルア貴様っ、このまま尻尾を巻いて逃げろと言うのか!? ここで退けば、私は責任を取らされて、首を斬られてしまうっ!?」
「安心してください。俺がなんとかします。信じてください。
今回は相手が悪かったんです。あの少女は得体がしれません。 王国軍に囲まれた上で、あなたの脅迫を受けても、一切動揺する様子がない。 どう考えても普通の少女ではありません」
「た……確かにそうだな」
「逃げましょう、ヤツの機嫌を損ねないうちに」
小太り男は、ギルアという青年の助言によって、背中を向けてこの場から走りだした。
王国軍が、みんな逃げていく。
この場に残っているのは、俺とリリィさんとユリィ。
白いフードの少女を抱えながら、唖然としている直穂と浅尾さん。
さらにもう一人、男がいたのだ。
30代くらいのおじさんである。
血まみれで釘を刺されたおじさんは、仰向けに倒れたまま、逃げていく王国軍を凝視していた。
そしてついに、大声をあげた。
「待てっ!! 待ちやがれえぇぇっ!! 頼むっ! 頼むっそこの金髪少女っ!! あいつらを皆殺しにしてくれっ!! ぶち殺してくれっ!! あいつらは、フィリアをっ!! あの純粋なフィリアを、ぐちゃぐちゃに汚しやがったんだっ!!!」
その男は、リリィさんに懇願した。
ボロボロと涙を流して、歯をぐっと噛み締めていた。
血まみれの惨状に気づいた直穂が、焦った様子で男に駆け寄った。
リリィさんは、男の叫びを無視した様子で、じっと王国軍を睨みながら、ただ数字を数えていた。
「……2、1、ゼロ。 ユリィ? 近くに潜伏している王国軍はいますか?」
「いませんっ…… みんな逃げました」
「そうですか…… はぁぁ………」
そのときリリィさんは、心底安堵した様子でため息をついた。
「なんでっ……! なぜ逃したんだっ! アイツらはフィリアをっ、酷い目にっ!! ゴホッ!! ごほっ!!」
血まみれのおじさんは涙目で、リリィさんを恨めしそうに睨んで、
そして吐血した。
新崎さんが、慌てた様子で男に駆け寄り。
「【超回復】!!」
と、彼を治療した。
「はぁ………はぁ、あり、ありがとう……」
その男はぐったりとした様子で、新崎さんに感謝した。
「フィリアを、助けてくれてっ、本当にありがとうっ……彼女は無事なのか!? どうなのだっ!?」
「気絶してますけど、もう大丈夫ですよ。フィリアちゃんの怪我は、私が治しましたから」
直穂の優しい声に、男はフッと脱力して、ボロボロと涙を溢れかえした。
「ぅっ、ぅううっ、うわぁあぁぁぁあ!!」
大人の人が、こんなに泣いているのは初めてみた。
でも、それは悲し涙ではない。嬉し涙だろう。
彼にとって、フィリアという女の子は、すごく大切なのだろう。
俺は、胸が暖かくなった。
勇気を出して、マルハブシをぶん殴って良かったと思った。
俺の勇気で、この人は救われたのだ。
それは凄く嬉しくて、気分がいい。
「すいません。でも、あたしには、王国軍を皆殺しにする魔法なんて使えませんから。二人の命が無事なだけで、満足して下さい」
リリィさんが、申し訳なさそうにそう言った。
「あぁ、そうだなっ、ありがとう金髪少女っ」
「リリィです」
「そうか、リリィ。 ありがとうっ。ありがとうっ、私の名は誠也だっ、私の大切なフィリアを救ってくれて、ありがとうっ!!」
誠也と、男は名乗った。
日本人っぽい名前だな、と思った。
ん? あれ?
リリィさん、なんか変なことを言わなかったか?
「あたしには、王国軍を皆殺しにする魔法なんて使えません」
って、
「ちょっと待って、リリィさん。皆殺しにすると言って王国軍を脅したのは、嘘をついていたのか?」
「そうですよ。 迫真の演技だったでしょう? 私は特殊スキルも強力な応用スキルも使えませんからね」
リリィさんは、ニヤリと意地悪そうな笑みでそう言った。
「えっ? 嘘で騙したってコトか?? もし見破られていたらどうなってたんだ?」
「そりゃあ、私も行宗さんも殺されてますよ。でも安心して下さい、あたしはバレるような嘘はつきませんから。王国の貴族にとって、嘘は最大の武器ですからね」
「そ、そうなのか……」
リリィさんが言うなら、そうなのか?
俺は、心臓がサッと冷えた感覚に陥った。
もしかして、実は先ほど、とんでもない大ピンチだったのか?
「ユリィの魔法は本物ですからね。 神獣マルハブシを一撃で倒したのも本当です。
それを目の当たりにした彼らなら、私の嘘も信じてしまうでしょう。
ユリィの魔法なら、王国軍を一瞬で皆殺しに出来たかもしれません。
まあユリィは、連続で魔法を使えないので無理でしたが。
ユリィは、私と違って天才なんです」
リリィさんは、少し辛そうな顔でそう言った。
俺はリリィさんに抱かれたユリィへと、視線を落とした。
いつのまにか、幼いユリィは、あどけない顔で、スヤスヤと眠りについていた。
「今日は、2回も魔法を使わせてしまいました。おまけに水泳までしたんです。ユリィには無理をさせました。明日のためにも、早くログハウスに戻らなければいけませんね」
リリィさんは微笑みながら、ユリィのおでこをさらさら撫でた。
そのリリィさんの表情は、寂しそうにも見えた。
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