クラス転移した俺のスキルが【マスター◯―ション】だった件 (新版)

スイーツ阿修羅

文字の大きさ
上 下
59 / 181
第三膜 寝取られ撲滅パーティ編

五十九射目「リリィの武器」

しおりを挟む
 ……………

 ………

 ゆっくりと目を開いて、空を眺める……
 そこには、マルハブシの明かりは消えて、真っ暗闇の夜かあった。
 満点の星空が広がっている。
 宝石をばら撒いたような天の川が、大空を横切るように、壮大にあった。
 綺麗だ……
 昔、おじいちゃんおばあちゃんの家で見たような、田舎の澄んだ夜空。
 
 月より明るく輝いていた、神獣マルハブシは、跡形もなく消滅していた。
 大きな魔法の余韻が、いまだにビリビリと大気を震撼させている。
 なんだ、この魔法は……
 神獣マルハブシを、骨も残さず、消し去るほどの魔法なんて。
 もしかしてユリィさんは、賢者の俺や天使の直穂よりも、強いのではないだろうか?


「【超回復ハイパヒール】!!」

 直穂なおほの声がした。
 振り返ると直穂なおほが、浅尾あさおさんの抱えた白フードの少女へと駆けつけていたようで、
 血まみれの少女に回復魔法を使っていた。
 浅尾さんの安心した表情を見るに、どうやら少女は無事らしい。

 一方、リリィさんとユリィは、魔法を撃った姿勢のままだった。
 ぐったりとしたユリィを抱え込んだままのリリィさんは、地面に座り込んでいた。

「ユリィっ……流石ですよっ」
「おねぇさま……はぁ、はぁぁ……」

 ユリィは疲れた様子で、リリィさんにもたれかかっていた。
 あんなトンデモ魔法を放った直後である。
 疲れるのは無理もない。


「おい……奴はどこにいった?」
「何がおこったんだ??」
「マルハブシが消えた??」

 そして周囲の軍人たちが、混乱したような声をつぎつぎとあげた。
 その声は次第に勢いを増して、
 ついには怒号が飛んできた。

「貴様らっ!! 神獣マルハブシをどこへやったっ!? あれの生け捕りには、1100万ガロンの価値がある!! 吐けっ! やつをどこに隠したっ!!」

 一際大きな声で、木の上から叫ぶ男は、小太りの中年だった。
 身に着けているのは、威厳のある軍服。この軍隊のリーダーだろうか?
 ご丁寧に、手から炎を出しているので、彼の位置や、怒った表情まで繊細にみえた。

 神獣マルハブシを生け捕りにするだと?
 
「大きく光っていたモンスターなら、あたしの妹が魔法で倒しましたが? なにか文句でもありますか?」

 リリィさんの声とは思えない、低い声だった。
 リリィさんの言葉に、周囲の軍服たちは動揺した。

「は? 倒したって?」
「嘘つけよ…… 神獣を一撃なんて無理だ。骨も残さず倒すなんてあり得ない……」
「いや……だがしかし、これは……」 
「どこかに転移させたのでは?」

 そんな中で、小太り男は、目を血走らせて俺達へと怒鳴った。

「貴様ら……全員、両手を上げて降伏しろ!!」

 あまりの迫力に、俺だけでなく直穂や浅尾さんも、ビクリと身体を硬直させた。
 ユリィも、不安そうに姉を見上げていた。
 ただ、リリィさんだけが、不安げな様子もなく、堂々とソイツを睨みつけた。

「それはこちらのセリフです、今なら見逃してあげますよ? 死にたくないのなら、あなた達全員、すぐにこの場から立ち去ってください」

 リリィさんは、怒った声でそう言った。
 
「ふふっ。ガキのくせに面白い事をいうなぁ? 今お前らを囲んでいるのは、ガロン王国軍の精鋭部隊だぞ? たった五人で戦えるとでも?
 さらに教えてやろう。お前たちの足元には、爆破魔法陣が仕掛けられている。俺の機嫌一つで、お前らは爆死するんだよ!!」


 爆破魔法陣だと!?
 俺は、自分の足元を確認した。
 だが、目立った魔法陣の模様は見つからなかった。
 
「あなた方の多重詠唱型魔法陣と、あたしの高速詠唱、どちらが早いか勝負してみますか? 10秒だけ待ってあげます。 先ほどのモンスターと一緒に、天国に行きたい者は、どうぞご自由にこの場に残って下さい」

「貴様っ! うっ、嘘をつくなっ!! でまかせだろうつ!!」

 小太り男は、嫌な汗を振りまきながら、両手をブンブンと左右に振った。

「10、9、8、7……」

 リリィさんは静かな声で、でも確実に一つづつ、10から0までの数字を数え始めた。
 リリィさんの伸ばした両手の先に、真っ白な光が集まっていく。
 
「……いっ……嫌だっ!! 俺はまだ死にたくねぇよっ!! 逃げるぞっ!!」
「……あいつは、きっと魔女だっ、バケモンだっ!!」
「でも、神獣は消えてるんだろ? なら、アイツらが倒したのは本当なんじゃないか?」
「おい! 俺を置いていくなっ!!」

 周囲の軍服たちは、動揺を隠せずに、一人、また一人と、森の中へと駆けだした。

「おいまて貴様らっ!! 分かりやすい嘘に騙されおってっ!! 逃げるなっ!! 王国の反逆者として処刑されたいのか!?」

 小太り男が激怒をするが、その口は隣にいた若者に塞がれた。

「大隊長…… ここは退くべきです。もし、あの少女の言葉が本当で、彼らが神獣マルハブシを一撃で倒したのなら、俺達に勝ち目はありません。強さの次元が違います」

「ギルア貴様っ、このまま尻尾を巻いて逃げろと言うのか!? ここで退けば、私は責任を取らされて、首を斬られてしまうっ!?」

「安心してください。俺がなんとかします。信じてください。
 今回は相手が悪かったんです。あの少女は得体えたいがしれません。 王国軍に囲まれた上で、あなたの脅迫を受けても、一切動揺する様子がない。 どう考えても普通の少女ではありません」

「た……確かにそうだな」

「逃げましょう、ヤツの機嫌を損ねないうちに」

 小太り男は、ギルアという青年の助言によって、背中を向けてこの場から走りだした。

 王国軍が、みんな逃げていく。

 この場に残っているのは、俺とリリィさんとユリィ。
 白いフードの少女を抱えながら、唖然としている直穂と浅尾さん。

 さらにもう一人、男がいたのだ。
 30代くらいのおじさんである。
 血まみれで釘を刺されたおじさんは、仰向けに倒れたまま、逃げていく王国軍を凝視していた。
 そしてついに、大声をあげた。 

「待てっ!! 待ちやがれえぇぇっ!! 頼むっ! 頼むっそこの金髪少女っ!! あいつらを皆殺しにしてくれっ!! ぶち殺してくれっ!! あいつらは、フィリアをっ!! あの純粋なフィリアを、ぐちゃぐちゃに汚しやがったんだっ!!!」

 その男は、リリィさんに懇願した。
 ボロボロと涙を流して、歯をぐっと噛み締めていた。

 血まみれの惨状に気づいた直穂が、焦った様子で男に駆け寄った。
 リリィさんは、男の叫びを無視した様子で、じっと王国軍を睨みながら、ただ数字を数えていた。

「……2、1、ゼロ。 ユリィ? 近くに潜伏している王国軍はいますか?」

「いませんっ…… みんな逃げました」

「そうですか…… はぁぁ………」

 そのときリリィさんは、心底安堵した様子でため息をついた。
 
「なんでっ……! なぜ逃したんだっ! アイツらはフィリアをっ、酷い目にっ!! ゴホッ!! ごほっ!!」

 血まみれのおじさんは涙目で、リリィさんを恨めしそうに睨んで、
 そして吐血した。
 新崎さんが、慌てた様子で男に駆け寄り。

「【超回復ハイパヒール】!!」

 と、彼を治療した。

「はぁ………はぁ、あり、ありがとう……」

 その男はぐったりとした様子で、新崎さんに感謝した。

「フィリアを、助けてくれてっ、本当にありがとうっ……彼女は無事なのか!? どうなのだっ!?」

「気絶してますけど、もう大丈夫ですよ。フィリアちゃんの怪我は、私が治しましたから」

 直穂の優しい声に、男はフッと脱力して、ボロボロと涙を溢れかえした。

「ぅっ、ぅううっ、うわぁあぁぁぁあ!!」

 大人の人が、こんなに泣いているのは初めてみた。
 でも、それは悲し涙ではない。嬉し涙だろう。
 彼にとって、フィリアという女の子は、すごく大切なのだろう。

 俺は、胸が暖かくなった。
 勇気を出して、マルハブシをぶん殴って良かったと思った。
 俺の勇気で、この人は救われたのだ。
 それは凄く嬉しくて、気分がいい。

「すいません。でも、あたしには、王国軍を皆殺しにする魔法なんて使えませんから。二人の命が無事なだけで、満足して下さい」

 リリィさんが、申し訳なさそうにそう言った。

「あぁ、そうだなっ、ありがとう金髪少女っ」

「リリィです」

「そうか、リリィ。 ありがとうっ。ありがとうっ、私の名は誠也せいやだっ、私の大切なフィリアを救ってくれて、ありがとうっ!!」

 誠也せいやと、男は名乗った。
 日本人っぽい名前だな、と思った。
 ん? あれ? 
 リリィさん、なんか変なことを言わなかったか?
「あたしには、王国軍を皆殺しにする魔法なんて使えません」
 って、

「ちょっと待って、リリィさん。皆殺しにすると言って王国軍を脅したのは、嘘をついていたのか?」

「そうですよ。 迫真の演技だったでしょう? 私は特殊スキルも強力な応用スキルも使えませんからね」

 リリィさんは、ニヤリと意地悪そうな笑みでそう言った。

「えっ? 嘘で騙したってコトか?? もし見破られていたらどうなってたんだ?」

「そりゃあ、私も行宗さんも殺されてますよ。でも安心して下さい、あたしはバレるような嘘はつきませんから。王国の貴族にとって、嘘は最大の武器ですからね」

「そ、そうなのか……」

 リリィさんが言うなら、そうなのか?
 俺は、心臓がサッと冷えた感覚に陥った。
 もしかして、実は先ほど、とんでもない大ピンチだったのか?

「ユリィの魔法は本物ですからね。 神獣マルハブシを一撃で倒したのも本当です。 
 それを目の当たりにした彼らなら、私の嘘も信じてしまうでしょう。
 ユリィの魔法なら、王国軍を一瞬で皆殺しに出来たかもしれません。
 まあユリィは、連続で魔法を使えないので無理でしたが。
 ユリィは、私と違って天才なんです」

 リリィさんは、少し辛そうな顔でそう言った。
 俺はリリィさんに抱かれたユリィへと、視線を落とした。
 いつのまにか、幼いユリィは、あどけない顔で、スヤスヤと眠りについていた。

「今日は、2回も魔法を使わせてしまいました。おまけに水泳までしたんです。ユリィには無理をさせました。明日のためにも、早くログハウスに戻らなければいけませんね」

 リリィさんは微笑みながら、ユリィのおでこをさらさら撫でた。
 そのリリィさんの表情は、寂しそうにも見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

処理中です...