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第一膜 クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 編

十二射目「クラスメイトの一致団結」

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 ー岡野大吾おかのだいご視点ー

 (痛ぇ……痛ぇ…痛ぇ……)

 視界が真っ暗だ、目が開かない。
 頭がクラクラする。
 死んだ方がマシかと言う痛み…
 痛い、痛い痛い、痛すぎて声もでない。
 業火が背中を灼き続ける。俺の命が削られていく。
 俺は、死ぬのか…
 こんな訳の分からない世界で、訳の分からない仕打ちを受けて…。
 嫌だ、嫌だっ、死にたくねぇよ…
 俺様は、プロ野球選手に、なるんだよっ。まだ死にたくないっ…。
 
 俺は、地獄の業火に焼かれ続ける。
 あぁ、だめだ、俺はここで死ぬんだ…。
 俺は、あの赤いバリアを壊せなかった。あの仮面男に、触れる事すら出来なかった。
 くそぉ、くそぉ、くそぉ……。

 俺は、激痛と無力感の中、地面に這いつくばっていた。
 随分と長い間、そうしていた気がする。



「【超回復ハイパヒール】」

 近くで優しい声がして、俺の身体は、温かい光で包まれた。

 (なんだ、これは、天国か?)
 
 まるで温泉に浸かっているような心地良さの中で、背中の灼けるような痛みが、だんだんと退いていく……


 
「大丈夫?、立てる?」

 優しい声で、俺の目の前に手のひらが差しだされる。
 俺は、軽くなった身体を起こして顔を上げた。

 その手を差し出してくれたのは、新崎直穂にいざきなおほ、うちのクラスの学級委員長であった。


「まだ戦える?岡野おかのくん??」

 新崎にいざきは、まっすぐに俺を見て、そんな事を聞いてきた。
 いや、俺は……
 俺はもう、戦えない…
 コイツらには、どう頑張っても敵わないのだ。
 どれだけ戦っても、苦しいだけで、結局負けて死ぬのだ。
 あぁ…同じような事が、中学の時もあったなぁ……
 どれだけ頑張っても、チームでレギュラーになれなくて
 ずっと、悔しくて、苦しいばかりで。
 努力する意味があるのかって、思ってた……
 俺は、もう、頑張れない……。

「俺は……もう戦えない。アイツらには、勝てない……」

 俺は、無力感のあまり泣いていた。悔しい、悔しいけど。俺の力じゃ、どうにもならないんだ。
 

岡野おかのくんは一人じゃない。私達も戦うよ。どんな怪我をしても、私が絶対治すから。だからお願い、戦ってくれない?」

 新崎にいざきは、優しく手を差し伸べてくる。
 俺はその手に、右手を重ねた。
 新崎にいざきの手は、小刻みに震えていた。

 怖がってんじゃねぇか。お前も…。

 俺はなんとか、気だるい身体を持ち上げた。


「ねぇっ!みんなっ!一緒に戦おうよ!!あのモンスターを倒して、皆で元の世界へ帰ろう!絶対!!」
 
 新崎にいざきが、俺の隣でそう叫んだ。
 こいつ、こんなに感情を出すタイプだったっけ?


「いや、でっ、でもっ、大吾だいごでも敵わないなんて。
 俺達に勝てる訳がねぇじゃんかっ」
「あの仮面達に、勝てないし」
「どっちみち、死ぬんだよ。私達っ」

 クラスメイトのモブ共は、そんな弱音を吐き出した。
 雑魚どもめ、自分はやってもみないのに、すぐに弱音を吐きやがる。
 俺様は、お前らみたいなヌルい奴らが大嫌いだ。
 自分は、やってもみないのに、弱音を吐いて・・・
 ・・・いや、それは・・・俺じゃねぇかよ。
 

「だからこそ戦うんでしょ!大吾だいごくんだけじゃ、勝てないから、皆で戦うの!!
 うずくまってないで剣を持て!泣きたくなるなら戦え!
 戦わなければ死ぬだけだ!!
 怪我したら、私が回復ヒールで治すから!!」


 新崎にいざきは、声を荒げて叫んだ。
 クラスの皆は、いつもは大人しい学級委員長の怒鳴り声に、衝撃を受けて唖然としている。


 おい、新崎にいざき
 その役目は、俺の役目だろう。
 くそっ、弱音ばかり吐きやがって、不甲斐ねぇ。
 死ぬまで諦めてたまるか。俺は絶対に元の世界に帰って、プロ野球選手になるんだ!


 俺様は、足元に転がっていた、俺の剣を手にして、立ち上がった。
 そして、大きく息を吸って、こう言うのだ。

「お前ら!戦うぞ!!俺様は、死んでも生きてやる!!
 俺様が絶対、あの化け物を倒してやる!
 だから安心して、手を貸しやがれ!!」

 俺は、そう叫んだ。
 俺は、目の前の化け物を睨みつける。

 クラスの反応は様々だ、やる気を出す奴、まだビビってる奴、
 だが、俺のやることは変わらない。

「うぉおおおぉぉ!!!」

 俺は、空を飛び、ふざけた見た目のラスボスへと突っ込んでいく。
 
「俺様について来いやぁぁ!!」

 俺は、叫んだ。皆の絶望を吹き飛ばす為に。
 俺の恐怖心を吹き飛ばす為に!

 ラストボス【スイーツ阿修羅】は、右上の手に持つ、チュロスの剣で、俺の体を狙ってくる。
 だが、俺には見える。
 特殊スキル、【予見眼フューチャアイ】によって、集中力を要するが、一秒先の未来の景色が見えるのだ。

 俺は、チュロスの剣を軌道を交わしつつ、ケーキの形をした胸部の中心、心臓の位置へと、剣を突き刺す。

「うぉらぁぁああぁ!!!」

 ズバァァァァン!!!
 
 心臓の位置に、剣がつき刺さり、中からクリームが血飛沫を上げる。
 そこには、確かに歯応えがあった。

「!!?」
 身体が、震えた。
 危険を察知したのだ。
 特殊スキル、【野生感ワイルドセンス】の力か。
 振り変えると、巨大なドーナツが、俺に向かって襲ってきた。
 逃げなければ!

(あれ?)

 剣が抜けない。
 まずい、早く抜かないと、やられる。
 死ぬ。

 
「うぉりゃあぁああ!!!」

 ドゴォォォンッ!!

 女の雄叫びと共に、ドーナツの軌道が変わった。
 ドーナツが、彼女によって、蹴り飛ばされたのだ。

「ありがと!岡野おかの!あんたが頼りよ、私も戦う!!」

 そう言って、俺を助けてくれた彼女の名は、浅尾和奈あさおかずなだ。
 サッカー部のスポーツ女子。
 なるほど、だからキックなのか。

「アザス」

 俺は感謝を言いつつ、剣を抜きとる。
 大丈夫だ、俺だけじゃ勝てないが、皆でやれば勝てる!
 ボス攻略も野球も、チームスポーツだ!!


「うぉおおお!!効いてる、HPが減った!!」
「でも、少しだけしか…」
「いや、いける!全員でやれば倒せる!!やるしかねぇだろ!!」
「あたり前だ!死んでも生きてやる!!」

 
 クラスメイトの明るい声に、俺は上を見上げた。
 分かり辛いが、確かに、【スイーツ阿修羅】のHPバーが僅かに欠けた。
 クラスメイトが、剣を握り、拳を握りしめて、俺様たちの元へと駆けつけてくる。

 よし、やれる!俺達なら!!
 

 ★★★


「ふーん、士気が上がったねぇ」
「楽しくなりそうじゃねぇか!」
「こっ、怖いよぉ、敵がいっぱいだよぉ。吹き飛ばしちゃおうか」
「「「ドーナツホール」」」

 【スイーツ阿修羅》】の、三人女組が、ドーナツから風を送り出す。
 それは、瞬く間に爆風となり。クラスの皆を襲う。
 

 それに対して、  
「【大呼吸メガブレス】!!!」
 と、叫んで、
 その爆風を、口から吸い込む者がいた。
 吹奏楽部の、雅遥香みやびはるかだ。

「これが吹部の肺活量じゃ!」

 とか言って、その爆風を吐き返す。

 
「いけぇぇえ!!」
「アクアソード!!」
「ドラゴンクローー」
「おりゃぁああ!!!」

 と、クラスの皆が、ボスの身体に大量の攻撃をお見舞いする。

 
 ラスボスと、俺たちの本格戦闘が、今、始まった。
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