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第44話 生きてやがったのか

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〈逆境湧血〉の残り時間が20秒を切った。

「リスクを冒して攻め切るしかないっ!」

 幸い〈超集中〉のクールタイムは終了している。
 スキルを再発動すると、俺は危険な超接近戦を仕掛けた。

 ――残り18秒。

 通常攻撃を連続で叩き込む。
 デスアーマーが攻撃モーションを取った。

 これは巨剣のぶん回しだ。
 そうと悟った瞬間に思い切り身を低くすると、頭の上を凄まじい風圧と共に剣が通り抜けていく。

 ――残り16秒。

 身体を起こす時間も惜しいとばかりに、俺は斬撃をお見舞いしながら立ち上がる。
 二発、三発と攻撃が入ったところで、再びデスアーマーが攻撃モーションに。

 今度は超高速の連続斬りだ。
 上段からの振り下ろしを横転して躱すと、続く水平斬りも転がりながら避けることができ、最後の下段からの斜め斬りには、

「パリィッ!」

 プレイヤースキルで放つパリィを合わせた。
 高い攻撃値を誇るデスアーマーであるが、〈逆境湧血〉で引き上げた攻撃値があれば、この連続斬りにパリィが通じるのだ。

 そして最後の攻撃をキャンセルされ、一瞬の硬直状態にあるデスアーマーへ、すかさず〈二連斬り〉!

 ――残り13秒。

 硬直状態から復活したデスアーマーが、すぐさま次の攻撃モーションに入る。

 これは……漆黒の闘気っ!
 触れただけでダメージを受ける攻撃で、距離を取る以外の回避方法はない。しかも本気モードとなった今、先ほどよりも効果範囲が拡大している。

「……っ!」

 慌てて距離を取りつつ、俺は〈アイテムボックス〉から〈鋼の剣〉を取り出し、デスアーマー目がけて投擲した。
 デスアーマーに直撃して、僅かながらHPを削ることに成功する。

 ――残り10秒。

「〈渾身斬り〉!」

 ちょうどクールタイムを終えた〈渾身斬り〉をデスアーマーに叩き込む。

 ――残り8秒。

 直後にデスアーマーの「飛ばす斬撃」。

 ――残り6秒。

 斬撃を二回叩き込むが、三回目を防がれてしまった。
 カウンターをなんとか躱す。

 ――残り4秒。

 今度は一撃、二撃、三撃目まで入れることができたが、まだHPを削り切れない。
 巨剣のぶん回しがきたが、避けながらもう一撃。

 ――残り2秒。

 デスアーマーが漆黒の闘気のモーションに入る。
 しかしもはや距離を取っている暇などない。

 HPはもう残り僅かのはずだ。
 俺は一縷の望みにかけて、そのまま猛攻を継続。

 クールタイムが終わった〈二連斬り〉も叩き込む。

 ――残り1秒。

 そして漆黒の闘気が吹き出す、その寸前だった。

「オアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 大絶叫と共にデスアーマーが大きく身を反らしたかと思うと、その場に膝をついた。
 そうして光の粒子と化し、消えていく。

 ――残り0秒。

 同時に〈逆境湧血〉の効果時間が終わった。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……さ、さすがに死ぬかと思ったぞ……あと一瞬でも最後の攻撃が遅かったら、やられていたのはこっちだった……」

 無意識のうちに詰めていた息を一気に吐き出し、俺はその場にへたり込む。
 心臓の動悸が凄まじく、痛いほどだ。

 しかし同時にかつてない達成感があった。
 ゲームでは味わえない、本当の命を懸けた死闘に、アドレナリンが出まくって異常なほど気持ちが高揚している。

 辛うじて冷静さを保っていた頭の一部で、HPが1の瀕死状態なままであることを思い出した俺は、最後の一本になっていた〈ポーション〉を〈アイテムボックス〉から取り出して飲む。

 死地を潜り抜けた分、恩恵もあった。
 レベル100の魔物を倒したことで、まずはレベルが一気に8も上昇した。

―――――――――
【レベル】63
―――――――――

 さらには称号も獲得する。

―――――――――
〈ミスター下剋上〉レベル30以上格上との戦闘時、全ステータス10%上昇。
―――――――――

 レベルが30以上格上の魔物を、単身で倒した者に与えられる強力な称号である。
 正直、現実化したこの世界で、この称号を取得するのは難しいと思っていた。

 そしてドロップアイテムの〈死騎の鎧片〉。

―――――――――
〈死騎の鎧片〉防具用の鍛冶素材として使える希少アイテム。
―――――――――

 この手のアイテムを鍛冶素材に利用すると、武器や防具の性能が大幅にアップするのだ。
 さらに特殊効果を付与することも可能である。

 と、そこで最下層に階段が出現。
 これを使えば一気に地上まで脱出することができるのだ。

 そうして地上に戻ったところで、

「おっ、ゼタがいるな。無事に戻ってきたようだ」

 途中で逸れたゼタを発見する。
 深淵に落ちていった俺を捜して最下層まで降りていってたらどうしようと思っていたが、杞憂だったらしい。

 まぁあそこで落下して生きているはずないもんな。
 白状かもしれないが、ダンジョンをよく知る人間なら、二次被害を避けるために放置するのが最善の判断である。

「悪かったな、途中で離脱してしまって」
「~~~~~~ッ!?」

 俺が声をかけると、こちらを振り返ったゼタは驚愕したように目を見開いた。

「な、な、なっ……い、生きてやがったのか!?」
「ああ。どうにかな」
「一体どうやって!?」
「なぜか最下層の地面に叩きつけられる寸前に、落下の勢いが弱まったんだ。それで普通に着地できた」
「ど、どういうことだ……? 意味が分からねぇんだが……」
「俺にも分からん」

 そもそもあのローブ男が何者だったのか、何の目的であんなことをしたのか、何一つ分からなかった。
 完全にゲーム時代の前例にない事態なのだ。

「くく、むしろそうこなくっちゃな。何でもかんでもゲーム通りだと逆につまらないだろう」
「何か言ったか?」
「何でもない。それより〈ミスリルの剣〉の他にもう一つ、頼みたいものができたんだ」
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