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第43話 本気モードに移行したか

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〈渾身斬り〉は敵に回避されやすいというデメリットを持つ反面、通常攻撃の二倍のダメージ量を相手に与えるとともに、一定の確率でスタン状態に追い込むことが可能だ。
 また、仮にスタン状態にならなかったとしても、敵を弾き飛ばしたり体勢を大きく崩したりすることができる。

「~~~~ッ!?」

〈逆境湧血〉と〈渾身斬り〉の組み合わせで、デスアーマーの巨躯が二、三メートルほど吹き飛ぶ。
 残念ながらスタン状態は回避されてしまったものの、背中から勢いよく倒れ込ませることができた。

 すぐに身を起こそうと手間取っているところへ、俺は〈アイテムボックス〉から〈ワイズマンロッド〉を取り出し、魔法を放つ。

「〈フリージング〉!」

 魔法でHPを削ることはできないのだが、『凍結』によって一時的に動きを封じることは可能だった。
 デスアーマーの身体が凍りつく。

 ただし大抵のボスボスモンスターは簡単に『凍結』の状態異常から復活してしまう。
 それはデスアーマーも例外ではない。

「オオオオオッ!!」

 あっさり『凍結』から立ち直るデスアーマー。
 だがそのときすでに俺は背後に回っていた。

 一瞬こちらの姿を見失い、デスアーマーが混乱する。
 すぐに気づいて振り返ろうとしたが、それより俺の攻撃の方が早かった。

「〈二連斬り〉!」

 ガガンッ!!

 一瞬で通常攻撃を二度、放つことができる攻撃スキルだ。
 敵の防御値との兼ね合いで〈渾身斬り〉ほどのダメージにはならないが、それでも〈逆境湧血〉のお陰で同レベル帯の魔物相手なら軽くHPを削り切ってしまうほどの威力がある。

 そこで俺は大きく後ろに飛び下がった。
 直後にデスアーマーが全身から漆黒の闘気を爆発させる。

 実は触れただけでダメージを受けてしまう厄介な攻撃だ。
 かなり範囲は狭いものの、ついでに『暗闇』や『混乱』、あるいは『絶命』の状態異常に侵される危険な代物でもある。

 まぁ俺は状態異常以前に、HPが1しかないので喰らったらその瞬間にお終いだが。

 やがて闘気が収まったそのタイミングで、また一瞬の隙ができる。
 俺はすかさず距離を詰めた。

「〈渾身斬り〉!」

 二度目の〈渾身斬り〉だ。
 ちなみにこのスキルのクールタイムは僅か10秒なので、短いスパンで放つことができる。

 再び吹き飛び、倒れ込むデスアーマー。
 そこへもう一度〈フリージング〉をお見舞いした。

 基本的にはこの繰り返しだ。
 一見するとこれで嵌め技が完成するように思えるが、生憎とそこまで簡単な相手ではない。

「〈渾身斬り〉!」

 ガキイイインッ!!

「……受け止められたかっ!」

 稀にこちらの〈渾身斬り〉に反応し、攻撃を防がれることがあるのだ。
 こうなると即座に向こうの連続攻撃が繰り出されてくるため、一転してピンチに陥る。

「〈超集中〉!」

 咄嗟に〈超集中〉スキルを発動し、デスアーマーが放つ斬撃をすれすれで回避する。
 こちらのHPは1しかないため、少しでも掠めただけで終了である。

 時間が引き延ばされる感覚の中、必死に猛攻を躱していく。
 一連の攻撃が終わったところで、お返しとばかりにこちらも〈二連斬り〉を叩き込んだ。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 デスアーマーが動きを止め、これまでにない強烈な雄叫びを轟かせる。
 と同時に黒い鎧を覆っていた禍々しい赤の文様が蠢き出し、その面積を増していった。

 気づけばデスアーマーの全身鎧は赤く染まっていた。

「本気モードに移行したか!」

 デスアーマーはHPが3分の1以下になると、このモードに突入するのだ。
〈逆境湧血〉の残り時間はおよそ60秒で、ギリギリ時間内に倒せるペースである。

 だが当然ながらここからはさらにシビアな戦いとなる。
〈渾身斬り〉による吹き飛ばしも発生しなくなるし、〈フリージング〉の『凍結』も無効化されてしまうのだ。

 デスアーマーが跳躍した。

 ドオオオオオオオオンッ!!

 空から地面に叩き落される斬撃。
 ゼタが使っていた〈ブレイクインパクト〉と同様、当たればダメージを受ける衝撃波が周囲に発生する。

「っ!」

 俺は地面を蹴った。
 攻撃範囲が半径十メートルを超える凶悪な衝撃波だが、タイミングよく飛び越えれば喰らわなくて済む。

 攻撃後の隙を突いての〈渾身斬り〉は、先ほどのように防がれて逆に連撃を受けるかもしれない。
〈渾身斬り〉は威力に優れる分、回避されたり防がれたりする可能性が高いのだ。

 すでに〈超集中〉の効果が切れた今、そのリスクは冒せない。
〈二連斬り〉を一発ぶち込み、すぐに飛び下がって距離を取る。

「っ……あの攻撃かっ!」

 直後、攻撃後の硬直から解けたデスアーマーが、巨大な剣を横に薙ぐように一閃。
 予兆モーションからそれを察していた俺は、その場にしゃがみ込んだ。

 放たれたのは「飛ばす斬撃」の水平バージョンだ。
 垂直方向のそれと違い、広範囲を一気に薙ぎ払うため、回避は容易ではない。

 すぐ頭の上を超高速で通過していき冷や汗を掻く。

 しゃがみ込みが最も躱しやすいのだが、発動前から動いていてもギリギリだった。
 それだけ攻撃が速すぎるのだ。

 だが強力な攻撃は同時にチャンスでもあった。
 発動後の硬直がやや長いため、ほぼ確実に攻撃を当てることができる。

「〈渾身斬り〉!!」
「~~~~ッ!」

 しかしまだHPは削り切れない。
 本気モードに移行してから、ほぼ通常攻撃しか喰らわせられなかったせいだ。

〈逆境湧血〉の残り時間は……マズい、すでに20秒を切っている!?
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