39 / 45
第39話 万能職だ
しおりを挟む
ダンジョンを目当てに数多くの冒険者が集う迷宮都市メルエーズには、彼らをターゲットに腕のいい鍛冶職人が数多く工房を構えている。
そんな中にあって、【戦場鍛冶師】のゼタは、一、二を争う鍛冶職人として知られていた。
その最大の理由はやはり、【戦場鍛冶師】という、生産系の鍛冶師としては珍しい武闘派の天職だ。
この世界でスキルを習得するためには、魔物を倒してレベルを上げる必要がある。
だが普通の生産系天職では戦闘力が低いため、レベル上げが容易ではない。
ゆえに自ら戦闘もこなせる【戦場鍛冶師】は、鍛冶スキルを身に着けることにおいて大きなアドバンテージがあるのだ。
さすがは上級職である。
そんな彼女が、巨大ハンマーを構えて好戦的な笑みを浮かべた。
「手加減は苦手だからよ……最低限の強さはねぇと死ぬぜぇ!」
ゲームでもそうだったが、彼女に武具を打ってもらうためには、一対一で戦って勝たなければならないのだ。
俺は鞘から〈鋼の剣〉を抜く。
「おらあああああっ!!」
雄叫びと共に勢いよく躍りかかってきたゼタが、巨大ハンマーを豪快に打ち下ろしてきた。
まともに喰らったら確実に大ダメージだ。
後方に飛び退って躱すと、一瞬遅れて叩きつけられるような凄まじい風圧。
足が地面から離れて吹き飛ばされてしまいそうになるが、どうにか耐えた。
間髪入れずに飛びかかってくるゼタ。
「逃げてるだけじゃアタシは認めさせられねぇぞッ! 〈ブレイクインパクト〉ッ!」
「~~~~っ!」
ゼタが振り下ろした巨大ハンマーが地面を叩くと、そこから同心円状に衝撃波が発生した。
車と正面衝突したような衝撃を受け、俺は思い切りぶっ飛ばされた。
「【戦場鍛冶師】の攻撃スキル、〈ブレイクインパクト〉……いきなり使ってきたか」
使用者を中心に、半径二メートル近い範囲の敵にまとめてダメージを与える、厄介な攻撃スキルだ。
しかもHPがごっそり減らされてしまっている。
相手は上級職である上に、レベル的にもかなり格上だ。
大口を叩いて戦いを挑んだものの、普通にやり合っていては勝てない相手である。
「はっ、テメェも期待外れかよ!」
「安心しろ、勝負はここからだ」
そう言って、俺は〈鋼の剣〉を空中に放り投げた。
「は?」
「〈気配隠蔽〉」
ゼタが唖然とする隙に〈気配隠蔽〉を発動し、彼女の認識から外れてみせる。
「っ!? どこにいきやがった……? まさか隠密系のスキルを使えるのかっ!?」
消えた俺を捜し、狼狽えながらも周囲を見回すゼタ。
さすがに〈気配隠蔽〉といえど、一対一ではいつまでも姿をくらまし続けることはできない。
「いたっ!」
見つかってしまった。
だが詠唱を終えるのに十分な時間は稼げている。
「〈フリージング〉」
別に魔法を使ってはいけないルールなんて決めてなかったしな?
「~~~~ッ!?」
いきなり吹き付けてきた猛烈な冷気を浴びて、ゼタの身体が『凍結』していく。
「青魔法だとっ!? どういうことだ!? 構えていた剣はブラフで、本当は剣士じゃなかったのかっ!?」
身動きが取れなくなって苛立つゼタに背後から接近すると同時、ちょうど先ほど投げた〈鋼の剣〉が落ちてきたので、それをキャッチしつつ、
「〈渾身斬り〉!」
「がああああああっ!?」
無防備なゼタの背中に〈渾身斬り〉を叩き込んでやった。
「今度は〈渾身斬り〉だとっ!? 剣士系の天職持ちしか使えねぇスキルじゃねぇか!? テメェどうなってやがるんだ!?」
驚愕しながらこちらを振り返るゼタだが、すでに俺の姿はそこにはない。
「〈ファイアアロー〉」
「あっちいいいっ!?」
今度は赤魔法を浴びせてやる。
「ちょっと待ちやがれっ! その戦い方はズルいぞ、テメェ!?」
思わずといった様子でゼタが叫んだ。
【戦場鍛冶師】は強力な天職だが、基本的には近距離戦闘タイプなので、こんなふうに距離を取られた相手との戦いは非常に苦手なのである。
「戦い方の指定なんてなかったはずだが」
「がっ!? そ、そうだけどよっ!? くそっ、またいなくなりやがったっ!」
そうして複数のスキルを組み合わせることで、先ほど受けたダメージ以降、俺は完封勝ちしたのだった。
「テメェ一体、どんな天職だ? あんな戦い方するやつ、今まで見たことねぇぞ?」
戦いに勝利したあと、ゼタが訝しげに聞いてきた。
「万能職だ」
俺はあえてそう答える。
当初と違い、今や五つのアビリティと二十二個のスキルを獲得しているのだ。
そろそろ万能職と名乗ってもおかしくない頃合いだろう。
「万能職だァ? んなもん、聞いたことねぇんだが……まぁいい、アタシの武器を使う最低限の資格はあるみてぇだしよ。〈ミスリルの剣〉がご所望だったよな?」
「ああ」
「作るには〈ミスリル鉱〉が最低でも五つ要るんだが、生憎と今は在庫を切らしてるんだ。持ち込みしてくれるなら安く作れるが、そうでなければ一つにつき200万ゴルド貰うぜ?」
ちなみに〈ミスリルの剣〉の作成費用は2000万ゴルドらしい。
〈ミスリル鉱〉までゼタに頼むと、3000万ゴルドが必要になってしまうわけだ。
「もしくは今からアタシと一緒にダンジョンに潜って、手に入れるってパターンもあるぜ。その場合、一つ100万ゴルドにまけてやらァ。運よくたくさん入手できりゃ、さらに安くできるかもしれねぇぞ」
そんな中にあって、【戦場鍛冶師】のゼタは、一、二を争う鍛冶職人として知られていた。
その最大の理由はやはり、【戦場鍛冶師】という、生産系の鍛冶師としては珍しい武闘派の天職だ。
この世界でスキルを習得するためには、魔物を倒してレベルを上げる必要がある。
だが普通の生産系天職では戦闘力が低いため、レベル上げが容易ではない。
ゆえに自ら戦闘もこなせる【戦場鍛冶師】は、鍛冶スキルを身に着けることにおいて大きなアドバンテージがあるのだ。
さすがは上級職である。
そんな彼女が、巨大ハンマーを構えて好戦的な笑みを浮かべた。
「手加減は苦手だからよ……最低限の強さはねぇと死ぬぜぇ!」
ゲームでもそうだったが、彼女に武具を打ってもらうためには、一対一で戦って勝たなければならないのだ。
俺は鞘から〈鋼の剣〉を抜く。
「おらあああああっ!!」
雄叫びと共に勢いよく躍りかかってきたゼタが、巨大ハンマーを豪快に打ち下ろしてきた。
まともに喰らったら確実に大ダメージだ。
後方に飛び退って躱すと、一瞬遅れて叩きつけられるような凄まじい風圧。
足が地面から離れて吹き飛ばされてしまいそうになるが、どうにか耐えた。
間髪入れずに飛びかかってくるゼタ。
「逃げてるだけじゃアタシは認めさせられねぇぞッ! 〈ブレイクインパクト〉ッ!」
「~~~~っ!」
ゼタが振り下ろした巨大ハンマーが地面を叩くと、そこから同心円状に衝撃波が発生した。
車と正面衝突したような衝撃を受け、俺は思い切りぶっ飛ばされた。
「【戦場鍛冶師】の攻撃スキル、〈ブレイクインパクト〉……いきなり使ってきたか」
使用者を中心に、半径二メートル近い範囲の敵にまとめてダメージを与える、厄介な攻撃スキルだ。
しかもHPがごっそり減らされてしまっている。
相手は上級職である上に、レベル的にもかなり格上だ。
大口を叩いて戦いを挑んだものの、普通にやり合っていては勝てない相手である。
「はっ、テメェも期待外れかよ!」
「安心しろ、勝負はここからだ」
そう言って、俺は〈鋼の剣〉を空中に放り投げた。
「は?」
「〈気配隠蔽〉」
ゼタが唖然とする隙に〈気配隠蔽〉を発動し、彼女の認識から外れてみせる。
「っ!? どこにいきやがった……? まさか隠密系のスキルを使えるのかっ!?」
消えた俺を捜し、狼狽えながらも周囲を見回すゼタ。
さすがに〈気配隠蔽〉といえど、一対一ではいつまでも姿をくらまし続けることはできない。
「いたっ!」
見つかってしまった。
だが詠唱を終えるのに十分な時間は稼げている。
「〈フリージング〉」
別に魔法を使ってはいけないルールなんて決めてなかったしな?
「~~~~ッ!?」
いきなり吹き付けてきた猛烈な冷気を浴びて、ゼタの身体が『凍結』していく。
「青魔法だとっ!? どういうことだ!? 構えていた剣はブラフで、本当は剣士じゃなかったのかっ!?」
身動きが取れなくなって苛立つゼタに背後から接近すると同時、ちょうど先ほど投げた〈鋼の剣〉が落ちてきたので、それをキャッチしつつ、
「〈渾身斬り〉!」
「がああああああっ!?」
無防備なゼタの背中に〈渾身斬り〉を叩き込んでやった。
「今度は〈渾身斬り〉だとっ!? 剣士系の天職持ちしか使えねぇスキルじゃねぇか!? テメェどうなってやがるんだ!?」
驚愕しながらこちらを振り返るゼタだが、すでに俺の姿はそこにはない。
「〈ファイアアロー〉」
「あっちいいいっ!?」
今度は赤魔法を浴びせてやる。
「ちょっと待ちやがれっ! その戦い方はズルいぞ、テメェ!?」
思わずといった様子でゼタが叫んだ。
【戦場鍛冶師】は強力な天職だが、基本的には近距離戦闘タイプなので、こんなふうに距離を取られた相手との戦いは非常に苦手なのである。
「戦い方の指定なんてなかったはずだが」
「がっ!? そ、そうだけどよっ!? くそっ、またいなくなりやがったっ!」
そうして複数のスキルを組み合わせることで、先ほど受けたダメージ以降、俺は完封勝ちしたのだった。
「テメェ一体、どんな天職だ? あんな戦い方するやつ、今まで見たことねぇぞ?」
戦いに勝利したあと、ゼタが訝しげに聞いてきた。
「万能職だ」
俺はあえてそう答える。
当初と違い、今や五つのアビリティと二十二個のスキルを獲得しているのだ。
そろそろ万能職と名乗ってもおかしくない頃合いだろう。
「万能職だァ? んなもん、聞いたことねぇんだが……まぁいい、アタシの武器を使う最低限の資格はあるみてぇだしよ。〈ミスリルの剣〉がご所望だったよな?」
「ああ」
「作るには〈ミスリル鉱〉が最低でも五つ要るんだが、生憎と今は在庫を切らしてるんだ。持ち込みしてくれるなら安く作れるが、そうでなければ一つにつき200万ゴルド貰うぜ?」
ちなみに〈ミスリルの剣〉の作成費用は2000万ゴルドらしい。
〈ミスリル鉱〉までゼタに頼むと、3000万ゴルドが必要になってしまうわけだ。
「もしくは今からアタシと一緒にダンジョンに潜って、手に入れるってパターンもあるぜ。その場合、一つ100万ゴルドにまけてやらァ。運よくたくさん入手できりゃ、さらに安くできるかもしれねぇぞ」
15
お気に入りに追加
1,166
あなたにおすすめの小説
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる