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第29話 死にたくなければ金を出せ

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―――――――――
【アビリティ】〈格闘の極意+3〉→〈格闘の極意+6〉
【アビリティポイント】15→0
―――――――――

 ――〈超回避〉を習得しました。
 ――〈闘気拳〉を習得しました。
 ――〈鋼の肉体〉を習得しました。

―――――――――
〈超回避〉超高速の横っ飛びで敵の攻撃を回避する。クールタイム10秒。
〈闘気拳〉闘気を全身に漲らせ、ダメージを大幅に上昇させる。ただし使用中、常にHPが減り続ける。
〈鋼の肉体〉負傷により動きが鈍くならない。
―――――――――

 新たに13のアビリティポイントを入手したお陰で、〈格闘の極意〉も強化できたが、ロンダルにある邪教集団の拠点をすべて壊滅してしまった。

 やつらの拠点は一度破壊しても、場所を変えて新たに復活する。
 ただし復活までには時間がかかってしまうので、しばらくこの街ではアビリティポイントを稼ぐことができない。

「となると、この街でやれることはもうほとんどないな。すでにダンジョンは攻略したし、近くの祠も回った」

 強いて言えば『岩窟迷宮』でレベル上げができるが、あそこは深部の魔物ですらレベル30半ばくらいだ。
 今の俺がすでにレベル35なので、効率を考えるとわざわざやる必要はない。

 そしてこの国には『岩窟迷宮』を超える難易度のダンジョンが存在しなかった。
 フィールドに登場する魔物に至っては、高くてもレベル20程度だった。

 ゲームでもこのセントルア王国は冒険の始まりの地だ。
 ゆえにフィールドに登場する魔物も総じて弱いのである。

「絶対やっておかないとダメなイベントもないはずだし……よし、そろそろ次の場所に行くとするか」






 ロンダルの街を出た俺は、ウミューに乗って西へ西へと進んだ。
 ちなみにウミューは一度懐かせると、口笛を吹くことでいつでも呼び出すことが可能である。

 街道の途中には時々、旅人が休息するための宿場町などが設けられていた。
 その宿場町の人たちからは、まれに野盗の話を聞けることがある。

「野盗の根城か。ゲームでもあったな」

 旅人などから得られる野盗の情報。
 それをもとに根城に乗り込み、全滅させるというイベントだ。

 少し寄り道をしてみることにした。
 野盗の根城には、彼らが奪った金品などが保管されているので、貴重なアイテムが手に入ることがあるのだ。

「がっ!?」
「ぎゃっ!」
「ぐはっ?」

 街道から少しそれたところにある洞窟に侵入し、中にいた野盗を倒していく。
 この辺りに出没する野盗たちのレベルはせいぜい20前後なので、今の俺の敵ではない。

 二十人ほどいたが、すぐに全滅させることができた。

「〈銅の剣〉に〈銅のナイフ〉に〈狩人の弓〉に〈盗賊の服〉……要らない装備ばっかりか。めぼしいアイテムもないし……」

 一応〈アイテムボックス〉に入るだけは入れておいた。
 売れば多少の金にはなるだろう。

「どうやら外れだったようだな。まぁこんなものか。……いや、待てよ」

 ゲームでは武具やアイテムだけしか入手できなかったが、よく考えたら金目の物を持っていないはずがない。

「おい、死にたくなければ金を出せ。あるんだろ?」
「ひぃっ」

 気絶していた一人を叩き起こし、脅して白状させた結果、

「こんなところに隠していたのか」

 洞窟の壁に埋められていた隠し金庫を発見。
 中を開けてみると、高く売れそうな宝飾類に加えて、100万ゴルドほどが保管されていた。

「宝飾類も売れば100万ゴルドくらいはいくだろう」

 大収穫である。
 やはりゲーム時代の通りにプレイしていてはダメだな。







「……さて。どうしようか」

 目的地まで半分あたりまでやってきたところで、俺はあることに頭を悩ませていた。

「今のレベルで討伐するのは正直かなり厳しいだろうな。だがゲーム時代と違って、移動にめちゃくちゃ時間がかかる。せっかく近くまで来ているわけだし、今ここで攻略できれば大きな時短になる。もちろんこの先の冒険が一気に楽になるだろう」

 この近くにいるはずの、高レベルの隠しフィールドボス。
 そのボスが必ずドロップするアイテムが、ゲーム中盤の後半まで使える非常に強力な代物なのである。

 フィールドボスというのは、ダンジョンや祠とは違い、通常のフィールドに出現するボスだ。
 常に移動し続けているタイプもいれば、同じ場所から動かない場合や、見つけにくいところに隠れている場合もある。

 だがこいつのレベルは80。
 レベル35では、攻撃が掠めただけでHPが全損するだろう。

 ゲーム時代なら確実に挑戦していただろうが、残念ながら今は一度でも死ねば終わりだ。
 さすがの俺もここは自重すべきだろう。

 と、理性では分かりつつも、めちゃくちゃ挑戦したい。

 ……ちょっと軽く見るだけでも。
 いやいや、見に行ったら最後、俺の性格なら絶対に戦いたくなってしまう。

「くっ……仕方ない、諦めて先に進もう」

 泣く泣く挑戦を諦め、未練を断ち切るようにウミューの速度を上げ、一気にこの辺りから離れてしまおうとした、そのときだった。

「ん?」

 一瞬、何かが視界の端を掠めた気がした。

「ストップ!」

 慌ててウミューを停止させつつ、俺は後ろを振り返った。
 するとちょうど人間くらいのサイズのものが、地面に横たわっていて……。

「マジか。まさかこんなところで出会えるなんて」

 俺はウミューから降りると、のもとへと駆け寄った。

「大丈夫か?」

 そこに倒れていたのは、十七、八歳くらいと思われる白髪の少女だった。
 その白い髪の間からは二つの三角耳が見えている。

 俺の存在に気付いた彼女は、ゆっくりと右手を伸ばしてきながら切実な声で訴えてくる。

「……お腹……すいた……」

 行き倒れていたのは、グラワルに登場したNPCの中でも、トップクラスの実力を誇っていたキャラの一人、猫獣人のシルミアだった。

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