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第26話 出たな、炎の魔人

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 この世界には、基本とされる魔法の種類が四つある。

 炎や熱に関する魔法――赤魔法。
 水や氷に関する魔法――水魔法。
 風や空気に関する魔法――緑魔法。
 土や岩石に関する魔法――黄魔法。

 プレイヤーが最初に選択できる天職【魔術士】は、魔導書さえ読めばこのすべての魔法を習得することが可能。
 一つの系統に特化して覚えていくプレイヤーもいれば、複数の系統を満遍なく覚えていくプレイヤーもいた。

 同系統の魔法を使い続ければ、その系統のすべての魔法で、威力や性能が上がっていく。
 そのため一つの系統に特化する方が、性能を高めやすくなるのだ。

 逆に複数の系統を満遍なく覚えていけば、様々な状況に対応できる万能型――器用貧乏型ともいう――の【魔術士】になることができる。
 どちらのスタイルを選ぶかはプレイヤー次第と言えるが、無職であれば系統を無視し、とにかく使い勝手のいい魔法を覚えていく万能型がベストだ。

「〈ファイアアロー〉と〈フリージング〉の魔導書を売ってくれ」
「〈ファイアアロー〉と〈フリージング〉ですねー。各30万ゴルドで、計60万ゴルドになりますー」

 赤系統で、炎の矢を打ち出す攻撃魔法が〈ファイアアロー〉だ。
 全体的に威力が高めの赤魔法らしく、初級にしては高威力だが、それよりも遠距離攻撃ができる点が非常にありがたい。

 一方、青系統で、猛烈な冷気を放つ攻撃魔法が〈フリージング〉。
 威力が控えめな青系統らしく、ダメージ量はあまり期待できないものの、相手を一時的な『凍結』状態にできる点が非常に有用だった。

 なお〈ウィンドカッター〉は中距離攻撃が可能な緑系統の魔法だが、その距離でわざわざ魔法を使うのなら、接近して斬撃を放ってしまえばいいため、必要度はかなり低い。

 また、砂の防壁を作り出す〈サンドウォール〉は、強度が低めなので、あえてこれを使うくらいなら避ける方がいいし、水の膜で全身を覆って敵の攻撃を弱める〈ウォーターフィルム〉も同じ理由で不要と判断した。

 そうして二冊の魔導書を購入した俺は、いったん街を出た。
【魔術士】であればすぐに読んで魔法を習得するところだが、生憎と無職では魔導書を読んでも意味がない。

「よし、行くぞ」

 俺は〈ファイアアロー〉の魔導書を地面に置くと、〈鋼の剣〉を大上段から振り下ろした。

 ズバッ!!

 刀身が魔導書を直撃。
 魔導書は真っ二つに切断されてしまった。

 次の瞬間、両断された魔導書から猛烈な魔力が噴き出してくる。
 それが人に似た形状と化していく。

 やがてそこに現れたのは、炎を身に纏う魔人だった。

「出たな、炎の魔人」

 実はこの魔人、魔導書を壊すことで出現する特殊な魔物なのである。
 そして無職の場合、こいつを撃破すれば、その魔導書の魔法を習得することが可能なのだ。

「オアアアアアッ!!」

 魔導書を破壊された怒りか、猛烈な雄叫びを轟かせる魔人。
 近づいただけでその身を覆う炎にダメージを受けてしまうため、迂闊に距離を詰めることができないが、一時的に炎を消すことができた。

「〈ウィンドソード〉!」

 その方法の一つが風だ。
 吹き荒れた豪風で、魔人が身に纏っていた炎が吹き消される。

 すかさず〈鋼の剣〉に持ち替えた俺は、距離を詰めて一気呵成に連続攻撃を叩き込む。

 頼みの炎を吹き消された状態の魔人は、もはや恐れる要素がない。
 徒手空拳で反撃してくるが、予備動作が分かりやすいため〈超集中〉スキルを使わなくても余裕で回避できる。

 十五秒ほどで炎が回復してしまうのもの、再び〈ウィンドソード〉を使えば問題ない。

「アアアアッ!?」

 やがて魔人が光の粒子となって消える。

―――――――――
【魔法】〈ファイアアロー〉
―――――――――

「よし、習得できたぞ」

 ゲーム時代と同様、無事に無職でも魔法を覚えることができた。
 今まで接近して剣で攻撃するしかなかったが、前述の通り〈ファイアアロー〉は遠距離から攻撃できる魔法なので、これで戦い方の幅が大きく広がった。

 ちなみに先ほどの炎の魔人のレベルは30で、格下なので経験値はほとんど入ってこない。
 初級の魔導書だったため低レベルなのだ。

「次は〈フリージング〉の魔導書だな」

 同じように剣で魔導書を真っ二つにすると、今度は氷の魔人が出現する。
 今度は近づくと身体が凍ってしまって一方的にやられてしまう上に、〈ウィンドソード〉では身に纏う冷気を吹き飛ばすことができない。

 先ほどまでの俺なら倒す方法がなく詰んでしまうのだが、今は〈ファイアアロー〉がある。

 遠距離攻撃ができない氷の魔人を、距離を取って炎の矢で一方的に攻撃していく。
 なお〈ファイアアロー〉の必要MPは3である。

 弱点属性でもあるので、一撃でも魔人に大ダメージを与えることができた。
〈ファイアアロー〉を先に習得したのはこのためだ。

 ちなみに魔法にはクールタイムが存在しないものの、詠唱時間というものが設定されている。
 高度な魔法になるほど詠唱に時間がかかるが、初級の魔法なら基本は三秒だ。

 詠唱中に動くと魔法がキャンセルされてしまうので、しっかり距離を取ってから使わないといけない。
 同じ属性の魔法を使えば使うほど、この詠唱時間も短縮していくことが可能だった。

 そうして氷の魔人の撃破にも成功する。

―――――――――
【魔法】〈フリージング〉
―――――――――
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