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第20話 我々も役目を果たすぞ
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通路の先には広大な空間が広がっていた。
その中心には巨大な岩の塊。だが俺たちが近づいていくと、ゆっくりと塊が割れてその正体が露になる。
このダンジョン『岩窟迷宮』のボス、クイーンロックタラントラだ。
放射線状に八本の足を生やし、見た目はまさに蜘蛛そのものなのだが、実は昆虫系の魔物ではなく、岩石系の魔物だったりする。
そのため全身が岩で構成されており、外骨格だけが硬いのではない。
異様な防御力の高さゆえに、長期戦必至のボスモンスターである。
動きこそ非常に緩慢で、ほとんどその場から動かないのだが、その代わり次々と子蜘蛛のロックタラントが生まれてくる。
ボスの周囲の地面が瘤のように盛り上がったかと思うと、それがロックタラントラと化した。
その数、五体。
ボスと比べるとずっと俊敏な動きの子蜘蛛たちが、一斉にこちらへ襲い掛かってきた。
「作戦通りに行きましょう! ボスを撃破し、〈迷宮暴走〉を止めるのです……っ!」
セレスティアが叫ぶと、身体から力が湧いてくる感覚があった。
スキル〈戦意鼓舞〉によって、全員のステータスが上昇したのだろう。
先陣を切って突っ込んでいったのはアルベール卿だ。
子蜘蛛の間を縫うように走り、一気にボスに迫る。
「〈八双斬り〉っ!!」
いきなり放ったのは【剣帝】の攻撃スキルだ。
一瞬の間に八回も斬撃を加えるという強力なそれが、ボスに叩き込まれた。
岩でできた身体に八つの斬撃痕が刻まれ、周囲に粉砕した石の欠片が四散する。
「さすがご当主様っ!」
「よし、我らもご当主様に続くぞ!」
さらにアルベール隊の剣士たちが、次々とボスに殺到していく。
「あ、あれが【剣帝】アルベール卿の攻撃スキル……っ!」
「なんという威力だ……」
「感心している場合ではない! 我々も役目を果たすぞ!」
冒険者たちが目を丸くしているが、バークが声を張り上げて促す。
彼らには子蜘蛛を引きつけるという役割があるのだ。
だがこの間にも、子蜘蛛はどんどん生み出され続けていた。
こちらも当然ながら全身が岩でできているのだが、糸の代わりに石の弾丸を吐き出す。
母蜘蛛を護ろうとする子蜘蛛たちによって、アルベール隊に横殴りの石の雨が降り注ぐ。
しかしそれをセレスティア率いる騎士部隊の盾が防いだ。
「アルベール卿の部隊を死守するのです! また余裕のある者たちは、ボスへの攻撃を!」
戦場を俯瞰的に見渡すことができるセレスティアの指示で、騎士たちが絶妙な攻防のバランスを取っていく。
そのお陰でアルベール隊は攻撃に専念でき、ボスの強固な身体をどんどん削っていった。
ちなみに俺も冒険者たちに交じって――俺も冒険者だが――子蜘蛛の引きつけ役に集中している。
このままボスを撃破できれば、それに越したことはないのだが……。
「子蜘蛛の増えるペースが速すぎる……っ! 俺たちだけで抑えきれなくなるぞ!?」
バークが叫んだ。
すでに子蜘蛛の数は十五体を超えており、十人しかいない冒険者だけでは荷が重くなりつつある。
「恐らく強化の影響でしょう! ですがアルベール卿のお陰で、ボスのHPはすでにかなり削られているはず! このまま一気に押し切れます! あと少しの辛抱です!」
想定内だと、力強く叱咤するセレスティア。
そのとき突然、ボスが足をまとめたかと思うと、最初の巨大な岩のように身体を丸めてしまった。
「はっ、時間稼ぎの防御体勢か。無駄なことを」
アルベール卿はそう吐き捨てながら、構わず攻撃を続けようとする。
だが次の瞬間、新たに発生した数体の子蜘蛛が、いきなりボスに向かって走り出したかと思うとそのまま身体に飛びついた。
そして子蜘蛛がボスの身体に取り込まれていく。
「なっ……子蜘蛛を吸収しただとっ!?」
「ボスのHPが回復しているぞ!?」
驚愕する人間たちを嘲笑うかのように、さらに新たな子蜘蛛が生まれ出てくると、こちらもまた自らボスに吸収されにいった。
「まさか、子蜘蛛を取り込み、回復することができるというのですか……っ?」
ここにきて初めて、セレスティアの顔に焦燥が浮かぶ。
実はこの自己回復能力こそが〈迷宮暴走〉で強化されたことで、クイーンロックタラントラが新たに獲得した能力だ。
ただでさえ防御力が高くてなかなかHPを削れないというのに、回復までするなんて厄介にもほどがある。
「これを使われる前に倒せればよかったんだが……やはり難しかったか」
実際、ボスが自己回復する前に、一気にHPを削り切るという倒し方もあるにはあった。
ただしプレイヤーが攻撃力の高い天職で、相応のレベルまで上げており、自らガンガン攻撃していく必要がある。
無職のレベル32では、圧倒的に攻撃力不足だ。
「くっ……ここはいったん撤退するしか……」
「いや、まだそう判断するのは早い。あの自己回復は決して万能ってわけじゃないんだ」
撤退を検討するセレスティアへ、俺はすかさずアドバイスする。
「っ……あなたは、この強化ボスの倒し方を知っているのですか?」
「ああ。できれば俺を信じて、言う通りにやってみてほしい」
その中心には巨大な岩の塊。だが俺たちが近づいていくと、ゆっくりと塊が割れてその正体が露になる。
このダンジョン『岩窟迷宮』のボス、クイーンロックタラントラだ。
放射線状に八本の足を生やし、見た目はまさに蜘蛛そのものなのだが、実は昆虫系の魔物ではなく、岩石系の魔物だったりする。
そのため全身が岩で構成されており、外骨格だけが硬いのではない。
異様な防御力の高さゆえに、長期戦必至のボスモンスターである。
動きこそ非常に緩慢で、ほとんどその場から動かないのだが、その代わり次々と子蜘蛛のロックタラントが生まれてくる。
ボスの周囲の地面が瘤のように盛り上がったかと思うと、それがロックタラントラと化した。
その数、五体。
ボスと比べるとずっと俊敏な動きの子蜘蛛たちが、一斉にこちらへ襲い掛かってきた。
「作戦通りに行きましょう! ボスを撃破し、〈迷宮暴走〉を止めるのです……っ!」
セレスティアが叫ぶと、身体から力が湧いてくる感覚があった。
スキル〈戦意鼓舞〉によって、全員のステータスが上昇したのだろう。
先陣を切って突っ込んでいったのはアルベール卿だ。
子蜘蛛の間を縫うように走り、一気にボスに迫る。
「〈八双斬り〉っ!!」
いきなり放ったのは【剣帝】の攻撃スキルだ。
一瞬の間に八回も斬撃を加えるという強力なそれが、ボスに叩き込まれた。
岩でできた身体に八つの斬撃痕が刻まれ、周囲に粉砕した石の欠片が四散する。
「さすがご当主様っ!」
「よし、我らもご当主様に続くぞ!」
さらにアルベール隊の剣士たちが、次々とボスに殺到していく。
「あ、あれが【剣帝】アルベール卿の攻撃スキル……っ!」
「なんという威力だ……」
「感心している場合ではない! 我々も役目を果たすぞ!」
冒険者たちが目を丸くしているが、バークが声を張り上げて促す。
彼らには子蜘蛛を引きつけるという役割があるのだ。
だがこの間にも、子蜘蛛はどんどん生み出され続けていた。
こちらも当然ながら全身が岩でできているのだが、糸の代わりに石の弾丸を吐き出す。
母蜘蛛を護ろうとする子蜘蛛たちによって、アルベール隊に横殴りの石の雨が降り注ぐ。
しかしそれをセレスティア率いる騎士部隊の盾が防いだ。
「アルベール卿の部隊を死守するのです! また余裕のある者たちは、ボスへの攻撃を!」
戦場を俯瞰的に見渡すことができるセレスティアの指示で、騎士たちが絶妙な攻防のバランスを取っていく。
そのお陰でアルベール隊は攻撃に専念でき、ボスの強固な身体をどんどん削っていった。
ちなみに俺も冒険者たちに交じって――俺も冒険者だが――子蜘蛛の引きつけ役に集中している。
このままボスを撃破できれば、それに越したことはないのだが……。
「子蜘蛛の増えるペースが速すぎる……っ! 俺たちだけで抑えきれなくなるぞ!?」
バークが叫んだ。
すでに子蜘蛛の数は十五体を超えており、十人しかいない冒険者だけでは荷が重くなりつつある。
「恐らく強化の影響でしょう! ですがアルベール卿のお陰で、ボスのHPはすでにかなり削られているはず! このまま一気に押し切れます! あと少しの辛抱です!」
想定内だと、力強く叱咤するセレスティア。
そのとき突然、ボスが足をまとめたかと思うと、最初の巨大な岩のように身体を丸めてしまった。
「はっ、時間稼ぎの防御体勢か。無駄なことを」
アルベール卿はそう吐き捨てながら、構わず攻撃を続けようとする。
だが次の瞬間、新たに発生した数体の子蜘蛛が、いきなりボスに向かって走り出したかと思うとそのまま身体に飛びついた。
そして子蜘蛛がボスの身体に取り込まれていく。
「なっ……子蜘蛛を吸収しただとっ!?」
「ボスのHPが回復しているぞ!?」
驚愕する人間たちを嘲笑うかのように、さらに新たな子蜘蛛が生まれ出てくると、こちらもまた自らボスに吸収されにいった。
「まさか、子蜘蛛を取り込み、回復することができるというのですか……っ?」
ここにきて初めて、セレスティアの顔に焦燥が浮かぶ。
実はこの自己回復能力こそが〈迷宮暴走〉で強化されたことで、クイーンロックタラントラが新たに獲得した能力だ。
ただでさえ防御力が高くてなかなかHPを削れないというのに、回復までするなんて厄介にもほどがある。
「これを使われる前に倒せればよかったんだが……やはり難しかったか」
実際、ボスが自己回復する前に、一気にHPを削り切るという倒し方もあるにはあった。
ただしプレイヤーが攻撃力の高い天職で、相応のレベルまで上げており、自らガンガン攻撃していく必要がある。
無職のレベル32では、圧倒的に攻撃力不足だ。
「くっ……ここはいったん撤退するしか……」
「いや、まだそう判断するのは早い。あの自己回復は決して万能ってわけじゃないんだ」
撤退を検討するセレスティアへ、俺はすかさずアドバイスする。
「っ……あなたは、この強化ボスの倒し方を知っているのですか?」
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