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第19話 無事に集合できたようですね
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『岩窟迷宮』は岩でできた洞穴状のダンジョンで、幾つものルートに枝分かれした複雑な構造をしている。
一つ一つの道はそれほど広くないため、何十人もの部隊がまとまって進んでいくには、さすがに厳しい。
それゆえ騎士団、冒険者、そしてアルベール隊と、三つの部隊に分かれてダンジョンの最奥を目指すことになった。
もちろん俺は冒険者部隊だ。
〈迷宮暴走〉真っ只中のダンジョンだが、魔物の大群を吐き出したばかりということもあって、道中の魔物との遭遇率はそれほど高くない。
ただし時間が経過するほど、魔物が加速度的にどんどん増えていく。
昨日の今日でダンジョンに挑むのには、そうした事情があった。
「しかしお前さん、アルベール卿とどういう関係なんだ? 随分と怒鳴られていたようだが……」
バークが恐る恐る聞いてくる。
「あまり詮索しない方がいいと思うぞ」
「そ、そうだな……」
俺の脅しに、バークはすんなりと引き下がった。
彼からしても、アルベール家の存在は恐ろしいのだろう。
なにせ、この国の三大貴族の一つだ。
しかもあの男の様子からも分かる通り武闘派で、武力を背景に強大な権力を握ってきたことから、正直あまり良い噂もない。
前世の記憶を取り戻せてよかったな。
あんな家で生涯を終えるなど御免である。
途中、何度か魔物と交戦したが、Cランク冒険者ばかりの精鋭隊だけあって、ほとんど危なげなく撃破し、順調にダンジョンを進んでいった。
そうして二時間ほどで、ダンジョンの最奥、ボス部屋へと続く通路に辿り着く。
すでに騎士団とアルベール隊は到着しており、ボス攻略に向けて周囲に警戒しながら待機していた。
「無事に集合できたようですね」
セレスティアが全体を見回しながら告げる。
「このダンジョンのボスは、クイーンロックタラントラと呼ばれる蜘蛛の魔物です。その名の通り身体が石のように硬く、高い防御力を有する点も厄介ですが、それ以上に危険なのが、その周囲に子蜘蛛のロックタラントラが生まれ続けることです」
クイーンロックタラントラはレベル45の魔物。
そして子蜘蛛といっても、全長二メートルくらいあるロックタラントラは、レベル30の魔物である。決して侮れる相手ではない。
しかもロックタラントラは、放っておくと何十体にも増えてしまう。
「ですが子蜘蛛の撃破を優先していては、長期戦になってしまいます。相手は幾らでも子蜘蛛を増やせるのに対し、こちらの戦力は有限ですから。なので子蜘蛛は無視して、一気にクイーンタラントラを叩くというのがここのボス攻略のセオリーです」
攻撃力に秀でたメンバーでボスをガンガン攻撃し、残る者たちが邪魔な子蜘蛛をできるだけ引きつける、というのがセレスティアの提案する作戦だった。
「ならば殿下、我らはぜひボスの攻撃に専念させていただきたい。ここにいるのはアルベールが誇る精鋭剣士ばかり。いかに防御力に秀でたボスであろうと、我らの攻撃力で粉砕してみせましょうぞ」
アルベール卿が自信満々に進言する。
実際、アルベール隊は、【剣帝】のアルベール卿を筆頭に、剣士系の天職持ちばかりで構成されていて、攻撃力だけで言えば圧倒的だ。
さらにアルベール卿は軽く鼻で笑って、
「子蜘蛛どもは、そこにいる冒険者らに任せればよいでしょう」
明らかに見下した様子に冒険者たちがイラついたようだったが、さすがに相手は侯爵、ぐっと堪えている。
「そうですね……では、アルベール卿にはボスの攻撃をお任せいたします。わたくしたちはサポートしつつ、隙を見て攻撃にも参加させていただきますね。冒険者の皆様には、子蜘蛛の対応をお願いできますか?」
「……かしこまりました」
セレスティアの提案に、バークが頷く。
「ちょっといいだろうか」
俺は手をあげて発言を求めた。
「何でしょう?」
「貴様……」
忌々しげに睨んでくるアルベール卿を余所に、俺は言った。
「確かにその攻略法は間違っていない。ただし、普段のダンジョンなら。……今このダンジョンは〈迷宮暴走〉状態にある。ボスも強化されていて、同じやり方は通じないんだ」
ゲーム時代の通りならば、強化ボスに対して、ボス撃破を優先させるという単純な作戦は通じない。
しかも通常ならレベル45であるボスも、レベル55に強化されているし、生み出される子蜘蛛もレベル30からレベル35になっている。
ゲームのときは、イベント仕様で大人数での戦いになるし、難度調整のために強化されているのかと思っていたが……。
「冒険者風情が、殿下に意見しようとは……っ! そもそもこのダンジョンで、過去に〈迷宮暴走〉が起こったことは一度もない! なのに貴様、なぜ知ったようなことを言える!?」
「ぐ……」
アルベール卿の指摘に、俺は何も言い返せない。
前世のゲームで得た知識だなんて言えないしな。
「なるほど、確かに〈迷宮暴走〉状態のボスであるということには、留意が必要ですね」
一方、セレスティアは俺の意見を一蹴することなく、一定の理解を示してくれた。
この器の違いよ。
「万一先ほどの作戦が通じなかった場合、いったん撤退し、戦略を練り直さなければならないかもしれませんが……いずれにしても一度戦ってみるしかないでしょう」
一度戦うまでもなく、俺ならすでに攻略法を知っているのが、さすがにそれを今ここで口にしても意味がなさそうだ。
結局そのままボス戦に突入することになったのだった。
一つ一つの道はそれほど広くないため、何十人もの部隊がまとまって進んでいくには、さすがに厳しい。
それゆえ騎士団、冒険者、そしてアルベール隊と、三つの部隊に分かれてダンジョンの最奥を目指すことになった。
もちろん俺は冒険者部隊だ。
〈迷宮暴走〉真っ只中のダンジョンだが、魔物の大群を吐き出したばかりということもあって、道中の魔物との遭遇率はそれほど高くない。
ただし時間が経過するほど、魔物が加速度的にどんどん増えていく。
昨日の今日でダンジョンに挑むのには、そうした事情があった。
「しかしお前さん、アルベール卿とどういう関係なんだ? 随分と怒鳴られていたようだが……」
バークが恐る恐る聞いてくる。
「あまり詮索しない方がいいと思うぞ」
「そ、そうだな……」
俺の脅しに、バークはすんなりと引き下がった。
彼からしても、アルベール家の存在は恐ろしいのだろう。
なにせ、この国の三大貴族の一つだ。
しかもあの男の様子からも分かる通り武闘派で、武力を背景に強大な権力を握ってきたことから、正直あまり良い噂もない。
前世の記憶を取り戻せてよかったな。
あんな家で生涯を終えるなど御免である。
途中、何度か魔物と交戦したが、Cランク冒険者ばかりの精鋭隊だけあって、ほとんど危なげなく撃破し、順調にダンジョンを進んでいった。
そうして二時間ほどで、ダンジョンの最奥、ボス部屋へと続く通路に辿り着く。
すでに騎士団とアルベール隊は到着しており、ボス攻略に向けて周囲に警戒しながら待機していた。
「無事に集合できたようですね」
セレスティアが全体を見回しながら告げる。
「このダンジョンのボスは、クイーンロックタラントラと呼ばれる蜘蛛の魔物です。その名の通り身体が石のように硬く、高い防御力を有する点も厄介ですが、それ以上に危険なのが、その周囲に子蜘蛛のロックタラントラが生まれ続けることです」
クイーンロックタラントラはレベル45の魔物。
そして子蜘蛛といっても、全長二メートルくらいあるロックタラントラは、レベル30の魔物である。決して侮れる相手ではない。
しかもロックタラントラは、放っておくと何十体にも増えてしまう。
「ですが子蜘蛛の撃破を優先していては、長期戦になってしまいます。相手は幾らでも子蜘蛛を増やせるのに対し、こちらの戦力は有限ですから。なので子蜘蛛は無視して、一気にクイーンタラントラを叩くというのがここのボス攻略のセオリーです」
攻撃力に秀でたメンバーでボスをガンガン攻撃し、残る者たちが邪魔な子蜘蛛をできるだけ引きつける、というのがセレスティアの提案する作戦だった。
「ならば殿下、我らはぜひボスの攻撃に専念させていただきたい。ここにいるのはアルベールが誇る精鋭剣士ばかり。いかに防御力に秀でたボスであろうと、我らの攻撃力で粉砕してみせましょうぞ」
アルベール卿が自信満々に進言する。
実際、アルベール隊は、【剣帝】のアルベール卿を筆頭に、剣士系の天職持ちばかりで構成されていて、攻撃力だけで言えば圧倒的だ。
さらにアルベール卿は軽く鼻で笑って、
「子蜘蛛どもは、そこにいる冒険者らに任せればよいでしょう」
明らかに見下した様子に冒険者たちがイラついたようだったが、さすがに相手は侯爵、ぐっと堪えている。
「そうですね……では、アルベール卿にはボスの攻撃をお任せいたします。わたくしたちはサポートしつつ、隙を見て攻撃にも参加させていただきますね。冒険者の皆様には、子蜘蛛の対応をお願いできますか?」
「……かしこまりました」
セレスティアの提案に、バークが頷く。
「ちょっといいだろうか」
俺は手をあげて発言を求めた。
「何でしょう?」
「貴様……」
忌々しげに睨んでくるアルベール卿を余所に、俺は言った。
「確かにその攻略法は間違っていない。ただし、普段のダンジョンなら。……今このダンジョンは〈迷宮暴走〉状態にある。ボスも強化されていて、同じやり方は通じないんだ」
ゲーム時代の通りならば、強化ボスに対して、ボス撃破を優先させるという単純な作戦は通じない。
しかも通常ならレベル45であるボスも、レベル55に強化されているし、生み出される子蜘蛛もレベル30からレベル35になっている。
ゲームのときは、イベント仕様で大人数での戦いになるし、難度調整のために強化されているのかと思っていたが……。
「冒険者風情が、殿下に意見しようとは……っ! そもそもこのダンジョンで、過去に〈迷宮暴走〉が起こったことは一度もない! なのに貴様、なぜ知ったようなことを言える!?」
「ぐ……」
アルベール卿の指摘に、俺は何も言い返せない。
前世のゲームで得た知識だなんて言えないしな。
「なるほど、確かに〈迷宮暴走〉状態のボスであるということには、留意が必要ですね」
一方、セレスティアは俺の意見を一蹴することなく、一定の理解を示してくれた。
この器の違いよ。
「万一先ほどの作戦が通じなかった場合、いったん撤退し、戦略を練り直さなければならないかもしれませんが……いずれにしても一度戦ってみるしかないでしょう」
一度戦うまでもなく、俺ならすでに攻略法を知っているのが、さすがにそれを今ここで口にしても意味がなさそうだ。
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