上 下
15 / 45

第15話 一回死んでもいいなら

しおりを挟む
 俺の不意打ちを喰らったブラックミノタウロスは、何度も地面を転がった後、ぐったりして頭の上で星を回している。

「ブラックミノタウロスの突進は脅威だが、突進中の横からの不意打ちに弱い。特に急所の顔面でダメージを受けると、吹っ飛んでしばらくスタン状態になる」
「あ、あなたは、さっきの……っ!?」

【魔術士】の女がようやく俺の姿に気が付く。
〈気配隠蔽〉を使っているので、すぐには認識できなかったのだろう。

「ブヒイイッ!!」

 とそこへ、反対側からはハイオークが躍りかかってきた。
 ブラックミノタウロスへの攻撃で、すでに俺のことも認識できているようだ。

 猛烈な速度で振り回される斧をまともに喰らったら、一撃でHPが全損しかねない。
 俺は〈超集中〉スキルを発動した。

 斧の動きが一気に遅くなる。
 ギリギリの間合いでそれを回避しつつ、同時に〈血濡れのナイフ〉を斧の刃の横からぶつけてやった。

 バキイインッ!!

「ブヒッ!?」

 斧が弾かれたように跳ね上がって、ハイオークの巨体がバランスを崩す。

 プレイヤースキルでのパリィである。
 攻撃のステータスが違い過ぎるため、正面からぶつけてもナイフごと粉砕されてしまうが、今のように横から上手くぶつけることによって、彼我の攻撃値を無視したパリィを発生させることが可能なのだ。

 ハイオークの斧は巨大で面積があるので、比較的それがやりやすい。

「はぁっ!」
「ブギッ!?」

 できた隙を突いて、俺は宙返りしながらハイオークの豚鼻を思い切り蹴り上げた。
 攻撃スキルの〈月面蹴り〉である。

 急所の鼻にダメージを受けたハイオークは、あまりの痛みに、つい斧を手放して両手で鼻を押さえた。

「お前たち、大丈夫か!?」

 そこへCランク冒険者のバークが、仲間を引き連れて駆けつけてきた。

「む? これは……?」

 なぜかスタン状態になっているブラックミノタウロスとハイオークに気づいて、一瞬怪訝そうに眉根を寄せる。
〈気配隠蔽〉を使用している俺のことは見えていないようだ。

「よく分からぬが、チャンスだ! 一気に片づけるぞ!」
「「「おうっ!」」」
「お前たちはいったん退避しろ!」
「「「は、はいっ!」」」

 ベテラン冒険者たちがブラックミノタウロスとハイオークに猛攻を仕掛け、その間に若い三人組が慌てて後退していく。

「獲物を横取りされてしまったが……まぁ仕方ないか。さすがに俺一人だと荷が重いしな。多少は経験値も入るだろう」

 二体の強敵のことはバークたちに任せ、周辺の魔物でも片づけていくことに。

 まだ〈超集中〉の効果が持続しているので、敵の攻撃を見切るのは容易い。
 なので恐れずにガンガン攻撃していく。

 二、三体ほどを倒したところで効果が切れてしまう。

「む、そろそろ〈気配隠蔽〉も切れそうだな。俺もいったん下がるか」

〈気配隠蔽〉なしで、この乱戦の中を戦い続けるのは危険だ。
 不意の一撃を喰らって、一気にHPを持っていかれるかもしれない。

「いや、今の俺には〈根性論〉がある。一回死んでもいいなら大丈夫だろう」

 すぐに思い直して、俺は退くのをやめた。
 そうして〈気配隠蔽〉が切れると、今まで俺のことなどスルーしていた魔物たちが、俺の存在に気づいて次々と襲いかかってきた。

 しかも他の冒険者たちから随分と離れてしまっているので、完全に周りを囲まれてしまっている。

「ははっ、いいねぇっ!」
「ウキイイッ!!」

 飛びかかってきた猿の魔物、クロウエイプの爪撃を躱し、カウンターの斬撃をお見舞いする。

「ギャッ!?」
「シャアアアッ!」
「吹き飛べ!」

 背後から迫ってきていた蛇の魔物、イビルスネイプは〈ウィンドソード〉の風で吹き飛ばした。

 こうした乱戦において、〈ウィンドソード〉は本当に役に立つ。
 もちろん魔物の重量によっては通じないことがあるのだが、そういう相手はちゃんと把握できているので問題ない。

―――――――――
【レベル】30→31
―――――――――

 おっ、またレベルが上がったぞ。

 そうこうしている間に〈気配隠蔽〉のクールタイムが終わり、俺は再び姿を潜めながらの戦いに移行する。

「ちょっとだけダメージを喰らってしまったな」

―――――――――
【HP】168/201
―――――――――

 まともに受けた攻撃はなかったものの、いかんせん防御値が低いのでHPがそれなりに削られていた。
 ちなみに本来のHPは155なのだが、〈HP上昇Ⅰ〉で20%、〈戦意鼓舞〉で10%増えている。この手のステータス上昇系のスキル効果は乗算にはならない。

 一応ポーションを持ってはいるが、この程度なら回復するまでもないだろう。

 その後は冒険者の陰に隠れつつ、安全に魔物を倒し続けた。
 冒険者たちも先ほどの若手の失態から学習したのか、できるだけ一団となって戦うことで安定感を増し、危なげなく魔物を減らしていく。

 やがて逆側から来ていた騎士団と合流した。

「残る魔物は少数です! 一気に叩きます!」
「「「おおおおっ!!」」」

 魔物の数はすでに、当初の三分の一以下となっている。
 最後は騎士団と協力し、魔物を掃討していった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

結婚三年目、妊娠したのは私ではありませんでした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:32,269pt お気に入り:1,213

私を追い出すのはいいですけど、この家の薬作ったの全部私ですよ?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:11,411pt お気に入り:13,038

公爵令嬢のRe.START

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14,400pt お気に入り:2,865

【R18】セクスギア 奥にイクほど 気持ちイイ(伝説の冒険者は語る)

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:84

サンタが街に男と女とB29

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:6

音の魔術師 ――唯一無二のユニーク魔術で、異世界成り上がり無双――

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:2,369

処理中です...