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第7話 やはりゲームとまったく一緒だな
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俺たちが進んだのは、ダンジョンの本道からは大きく逸れた、人気の少ない支道の方だった。
必ず階層構造になっている祠とは異なり、ダンジョンの造りは様々だ。
こうした洞窟タイプの場合、大抵は明確な階層が存在せず、道が無数に枝分かれした複雑な構造をしている。
ちなみにダンジョンはそうした大まかな構造こそ一定だが、細部については可変で、入るたびに少しずつ変化しているので注意が必要だ。トラップの配置なんかもそうである。
「実は偶然見つけたんだけど、このルート、穴場っぽいんだよね!」
無口な【盗賊】バルアを先頭に、ずんずん奥へと進んでいく。
リーネが言う通りあまり知られていない道のようで、他の探索者とすれ違うようなことはない。
「「「グギャギャギャ!!」」」
時々遭遇するのは、醜悪な顔に子供のような体格をした小鬼の魔物、ゴブリンである。
ゴブリンのレベルはせいぜい10程度なので、レベル20前後の四人パーティからすれば、何の脅威にもならない。
「穴場というか、単にあまり稼げないだけでは?」
ゴブリンを倒しても、ドロップするのは〈小鬼の角〉や〈錆びた剣〉といった価値の低いアイテムばかりだ。
駆け出し冒険者といえど、さすがにこれでは生活していけないだろう。
「そう思うでしょ? でも、この先にすっごい良い狩り場があるんだよね!」
そうして進み続けること、三十分。
「……道が途切れているぞ?」
辿り着いたのは袋小路だった。
どう見てもリーネが言うような良い狩り場とは思えない。
「ね、すっごく良い狩り場でしょ? 逃げ道がなくって……さぁ!」
次の瞬間、リーネが俺目がけて青系統の攻撃魔法〈スプラッシュ〉を発動。
勢いよく水流が迫ってきたが、俺はそれを横っ飛びで回避した。
「あははははっ! よく避けたわねぇ! 無職のくせに、意外と俊敏じゃない!」
先ほどまでの気さくなお姉さんといった雰囲気とは一変し、嘲笑を響かせる。
さらに【剣士】ラウルと【盗賊】バルアがニヤニヤ笑いながら、それぞれ剣とナイフを抜いた。
「くくくっ、まさかこんなにホイホイと釣られるとはなぁ。無職なんかと、パーティを組むわけねぇだろうが」
ラウルが馬鹿にし切ったように言う。
「ほぉら、悪いことは言わないから、お姉さんたちに有り金ぜぇんぶ、寄こしなさいよぉ。知ってるんだからね? 無職のくせにどうやって素材を手に入れたのか分かんないけどさ、あんたが買い取りカウンターで結構な額を受け取ってたこと」
「この身なりだ。どっかの貴族の子供で、どうせ無職だと分かって、追い出されたんだろう。その代わり最低限の援助はしてもらったってところだろうぜ。たまにいるんだよなぁ、そういう可哀そうな貴族サマがよ。まぁこっちとしてはお陰で稼がせてもらってるけどなぁ!」
彼らは俺のような右も左も分からない駆け出しのカモを見つけ、人気のないダンジョンに連れ込んでは、強奪を繰り返しているのだろう。
「……やはりゲームとまったく一緒だな」
実はこの三人組、ゲーム時代にも登場していて、これと同じイベントが発生したのである。
見た目もそのままなので、声をかけられた瞬間にピンときたほどだ。
「? ゲーム?」
「いや、こっちの話だ」
「おいおい、こんな状況で独り言とは、随分と余裕じゃねぇか」
こいつらの意図を分かったうえで、あえて乗ってやったのだから、余裕なのは当然である。
もちろんこれが乗るだけの価値のあるイベントだからだ。
そうでなければ、わざわざ時間をかける意味などない。
次の瞬間、俺は隠し持っていた石を取り出すと、ラウルの顔面めがけて投擲した。
「がっ!?」
急所にダメージを負い、一時スタン状態になるラウル。
実はこの方法、低レベルの魔物だけでなく、低レベルの人間相手にも効果があるのだ。
しかもスキル〈投擲〉と〈命中上昇Ⅰ〉のお陰で、命中率と威力が上がっている。
「なっ!? こいつ、一人であたしたちとやり合う気――ぎゃっ!?」
慌てて攻撃魔法を使おうとしたリーネの顔にも、石をお見舞いしてやる。
女だからといって容赦などしない。
リーネも一時スタン状態にできたが、その間に俊敏なバルアがナイフを閃かせて躍りかかってきていた。
ガキンッ!
タイミングよくこちらもナイフを合わせることで、バルアの攻撃を弾く。
バルアが驚きで目を見開くのが分かった。
【剣士】が習得できるスキルの中に、敵の攻撃を剣で弾く〈パリィ〉が存在している。
だが実は、かなりのプレイヤースキルが要求されるものの、〈パリィ〉を習得していなくても、同様の効果を発生させることが可能なのだ。
相手との攻撃力に差があり過ぎると難しいのだが、幸いバルアは、無職と攻撃値が同等の【盗賊】。
レベル差もほとんどない。
さらにパリィに成功すると、相手の武器を跳ね上げることができるため、一瞬の隙ができる。
俺はすかさずナイフを翻し、バルアの右太腿を斬りつけた。
【盗賊】の厄介な敏捷の高さを奪うには、足を攻撃するのがセオリーだ。
ゲームでも負傷部位の動きが鈍くなるという設定が存在していた。
「この野郎っ……!」
そこへスタン状態から解放されたラウルが飛びかかってきた。
しかしそのモーションから、次に繰り出してくる攻撃スキルが丸分かりだ。
「〈スピニングピアース〉ッ! なにっ!?」
刀身を高速回転させながらの刺突。
斜線上にいる敵をまとめて貫く、【剣士】の強力な攻撃スキルであるが、来ると分かっていれば回避するのは難しくない。
しかも発動後の隙が大きく、対人戦でこの攻撃スキルと使うなんて愚の骨頂だ。
俺は躱しざまに、ナイフでラウルの身体を何度も斬りつけた。
「おらっ」
そして再びリーネの顔面へと石を投げつける。
「ぎゃん!?」
必ず階層構造になっている祠とは異なり、ダンジョンの造りは様々だ。
こうした洞窟タイプの場合、大抵は明確な階層が存在せず、道が無数に枝分かれした複雑な構造をしている。
ちなみにダンジョンはそうした大まかな構造こそ一定だが、細部については可変で、入るたびに少しずつ変化しているので注意が必要だ。トラップの配置なんかもそうである。
「実は偶然見つけたんだけど、このルート、穴場っぽいんだよね!」
無口な【盗賊】バルアを先頭に、ずんずん奥へと進んでいく。
リーネが言う通りあまり知られていない道のようで、他の探索者とすれ違うようなことはない。
「「「グギャギャギャ!!」」」
時々遭遇するのは、醜悪な顔に子供のような体格をした小鬼の魔物、ゴブリンである。
ゴブリンのレベルはせいぜい10程度なので、レベル20前後の四人パーティからすれば、何の脅威にもならない。
「穴場というか、単にあまり稼げないだけでは?」
ゴブリンを倒しても、ドロップするのは〈小鬼の角〉や〈錆びた剣〉といった価値の低いアイテムばかりだ。
駆け出し冒険者といえど、さすがにこれでは生活していけないだろう。
「そう思うでしょ? でも、この先にすっごい良い狩り場があるんだよね!」
そうして進み続けること、三十分。
「……道が途切れているぞ?」
辿り着いたのは袋小路だった。
どう見てもリーネが言うような良い狩り場とは思えない。
「ね、すっごく良い狩り場でしょ? 逃げ道がなくって……さぁ!」
次の瞬間、リーネが俺目がけて青系統の攻撃魔法〈スプラッシュ〉を発動。
勢いよく水流が迫ってきたが、俺はそれを横っ飛びで回避した。
「あははははっ! よく避けたわねぇ! 無職のくせに、意外と俊敏じゃない!」
先ほどまでの気さくなお姉さんといった雰囲気とは一変し、嘲笑を響かせる。
さらに【剣士】ラウルと【盗賊】バルアがニヤニヤ笑いながら、それぞれ剣とナイフを抜いた。
「くくくっ、まさかこんなにホイホイと釣られるとはなぁ。無職なんかと、パーティを組むわけねぇだろうが」
ラウルが馬鹿にし切ったように言う。
「ほぉら、悪いことは言わないから、お姉さんたちに有り金ぜぇんぶ、寄こしなさいよぉ。知ってるんだからね? 無職のくせにどうやって素材を手に入れたのか分かんないけどさ、あんたが買い取りカウンターで結構な額を受け取ってたこと」
「この身なりだ。どっかの貴族の子供で、どうせ無職だと分かって、追い出されたんだろう。その代わり最低限の援助はしてもらったってところだろうぜ。たまにいるんだよなぁ、そういう可哀そうな貴族サマがよ。まぁこっちとしてはお陰で稼がせてもらってるけどなぁ!」
彼らは俺のような右も左も分からない駆け出しのカモを見つけ、人気のないダンジョンに連れ込んでは、強奪を繰り返しているのだろう。
「……やはりゲームとまったく一緒だな」
実はこの三人組、ゲーム時代にも登場していて、これと同じイベントが発生したのである。
見た目もそのままなので、声をかけられた瞬間にピンときたほどだ。
「? ゲーム?」
「いや、こっちの話だ」
「おいおい、こんな状況で独り言とは、随分と余裕じゃねぇか」
こいつらの意図を分かったうえで、あえて乗ってやったのだから、余裕なのは当然である。
もちろんこれが乗るだけの価値のあるイベントだからだ。
そうでなければ、わざわざ時間をかける意味などない。
次の瞬間、俺は隠し持っていた石を取り出すと、ラウルの顔面めがけて投擲した。
「がっ!?」
急所にダメージを負い、一時スタン状態になるラウル。
実はこの方法、低レベルの魔物だけでなく、低レベルの人間相手にも効果があるのだ。
しかもスキル〈投擲〉と〈命中上昇Ⅰ〉のお陰で、命中率と威力が上がっている。
「なっ!? こいつ、一人であたしたちとやり合う気――ぎゃっ!?」
慌てて攻撃魔法を使おうとしたリーネの顔にも、石をお見舞いしてやる。
女だからといって容赦などしない。
リーネも一時スタン状態にできたが、その間に俊敏なバルアがナイフを閃かせて躍りかかってきていた。
ガキンッ!
タイミングよくこちらもナイフを合わせることで、バルアの攻撃を弾く。
バルアが驚きで目を見開くのが分かった。
【剣士】が習得できるスキルの中に、敵の攻撃を剣で弾く〈パリィ〉が存在している。
だが実は、かなりのプレイヤースキルが要求されるものの、〈パリィ〉を習得していなくても、同様の効果を発生させることが可能なのだ。
相手との攻撃力に差があり過ぎると難しいのだが、幸いバルアは、無職と攻撃値が同等の【盗賊】。
レベル差もほとんどない。
さらにパリィに成功すると、相手の武器を跳ね上げることができるため、一瞬の隙ができる。
俺はすかさずナイフを翻し、バルアの右太腿を斬りつけた。
【盗賊】の厄介な敏捷の高さを奪うには、足を攻撃するのがセオリーだ。
ゲームでも負傷部位の動きが鈍くなるという設定が存在していた。
「この野郎っ……!」
そこへスタン状態から解放されたラウルが飛びかかってきた。
しかしそのモーションから、次に繰り出してくる攻撃スキルが丸分かりだ。
「〈スピニングピアース〉ッ! なにっ!?」
刀身を高速回転させながらの刺突。
斜線上にいる敵をまとめて貫く、【剣士】の強力な攻撃スキルであるが、来ると分かっていれば回避するのは難しくない。
しかも発動後の隙が大きく、対人戦でこの攻撃スキルと使うなんて愚の骨頂だ。
俺は躱しざまに、ナイフでラウルの身体を何度も斬りつけた。
「おらっ」
そして再びリーネの顔面へと石を投げつける。
「ぎゃん!?」
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