上 下
17 / 28

第17話 大漁

しおりを挟む
 俺が二本の足を切断したことで、アーマークラブは大きく動きが鈍っていた。
 そこへ再びリリナのフレイムランスが直撃する。
 火魔法に弱いというアーマークラブは、もはやほとんど瀕死状態だ。
 鋏を懸命に動かし攻撃してくるが、簡単に回避できる。

 物は試しとばかりに、今度は甲羅で覆われたアーマークラブの胴体へ剣を叩き込んでみた。
 すると、やはり足のときのようにすっぱりと斬ることはできなかったが、それでも甲羅に亀裂が入り、中身に剣先を届かせることはできた。

「すごい! 甲羅まで斬っちゃった!」

 リリナの驚く声が聞こえてくる。
 それからもう一発、彼女がフレイムランスを浴びせて、ようやくアーマークラブは沈黙した。

「……わたし、何の役にも立ってないです……」
「ユウトのお陰だよ。まさか、アーマークラブに物理攻撃を通すなんて」

 アーマークラブは硬い殻に覆われ、高い物理攻撃への耐性を持っている。
 だが物理攻撃がまったく効かない訳ではない。
 当然ながらその防御力を凌駕する攻撃力があるならば、ちゃんとダメージを与えることが可能だ。

 けど、俺ってそんなに攻撃力あったっけ?

 改めて〈鑑定眼・C〉でステータスを確認してみる。
 現在の俺の筋力値は、恐らく〈怪力・D〉のお陰だと思うが、レベル19でも、レベル25のリオよりも幾らか高かった。職業が勇者だからというのもあるかもしれない。

 しかしそれだけでは説明が付かない。
 リオではアーマークラブの殻に傷を付けるだけでやっと。
 ステータス上ではそんなに差があるとは思えなかった。

 他に考えられとしたら〈剣技〉だろうか。
 リオはレベルCなのに対し、俺はA。
 同じ筋力値だったとしても、剣速などの違いから、相手に与えるダメージが異なっていてもおかしくはないだろう。

 ああ、そうか、武器の差もあるかもしれない。

・セイクリッドソード:聖銀(ミスリル)を含む特殊合金製。聖教国の聖騎士たちが好んで利用している。

 俺の剣は聖教国で貰ったものなのだが、たぶんこれ、普通に一級品だろう。
 攻撃力を調べてみると、リオが使っている剣の1・5倍くらいあった。

「ユウトってすごいんだね! Eランクなのに! びっくりだよ!」
「いや、ちょっと良い剣を使ってるだけだって」
「確かに良さそうな剣だけど……それだけでアーマークラブの外殻を斬れるとは思えないよ」

 ともかく、これでアーマークラブとの戦いが随分と楽になるのは間違いない。

 当初の予定では、俺とリオの二人掛かりで動きを封じ、リリナの火魔法で倒すつもりだった。
 だが中級のフレイムランスですら二、三発は直撃させなければならない。
 当然、魔力には限りがあるため、数体相手にすると回復のための休息が必要である。

「ユウトの攻撃が効くってことは、あたしの魔法を節約できるってこと!」
「それに最初に足を斬ってしまえば、動きを封じるのも簡単だしね」

 そんな訳で、アーマークラブは主にリオが一人で引き付け、俺は隙を見て攻撃する役割に回ることになった。
 その結果、

「……びっくりするくらい、簡単に倒せちゃいますね……」

 ララの言う通り、一体を倒すのに一分程度しかかからなくなった。
 むしろアーマークラブを発見する方に時間がかかるほどだ。

「これで六体目だね」
「すごーい! もう300万も稼いじゃった! ユウトさまさまだね!」

 リリナが嬉しそうに手を叩く。
 一人当たり70万以上……薬草採取よりずっと効率がいいな。

「こんなに稼げるなら、もっと冒険者が来てても良い気がしないか?」

 ふと気になって訊いてみた。
 この階層に来て三十分以上が経ったが、まだ他の冒険者を一度も見かけない。
 広いので、たまたま見ていないだけなのかもしれないが。

「……いや、必ずしもそうでもないんだ。アーマークラブは確かに高値で売れるけれど、この大きさだからね。この場で解体するのは難しいし、このまま持ち帰らなくちゃならない。だから街まで持ち帰るのが凄く大変で、どうしてもあまり効率が良くないんだよ」
「あ、そうか」

 となると、もうそろそろ限界か。
 現時点でも持ち帰るのはなかなか骨が折れそうだ。

「って、それならこいつに入れてしまえばいいじゃん」

 俺にはアイテムバッグがある。
 試しに一匹入れてみることに。
 バッグの入り口は狭く、本来ならこの大きさだと入らないのだが、入れようとするだけで不思議な力で勝手に中へと吸い込まれていく。とても便利だ。

「えええっ!? それ、もしかしてアイテムバッグなの!?」

 リリナは目を白黒させていた。

「すごい。初めて見たよ。そんな稀少な魔導具、どうやって手に入れたんだい?」
「えっと……そこは企業秘密で」

 リオから問われるが、俺は曖昧に誤魔化した。
 勇者だということは黙っているし、さすがに聖教国のトップから貰ったなんて言っても信じてもらえないだろう。

 ちなみにこのアイテムバッグ、全部で300個までアイテムを入れることが可能らしい。
 不思議なことに大きなアイテムも小さなアイテムも、どちらも同じ一個として数えられるようだ。薬草などはできるだけまとめて束にしてしまえば、それで一個扱いになる。

 だが、数として数えられない液体や気体を入れることはできない。
 ただし袋に入れればOKであるが。
 また、建造物や生き物など、〝アイテム〟ではないものを入れることは基本的にはできなかった。

 アーマークラブ六匹がアイテムボックスに吸い込まれていった。
 一個当たりはでかいが、それでもたった六個分だ。

「これならまだまだ捕まえられるね!」

 という訳で、俺たちはさらにアーマークラブを探してフロアを探索することに。
 そうして数分ほどを歩き回った頃だった。

 これまで遭遇してきた奴らより二回り以上もでかいアーマークラブが、水溜りの中から激しい飛沫を上げて飛び出してきた。

「なっ!?」
「でかっ!」
「ひゃっ!?」

 あまりの大きさと不意打ち気味の登場に、俺たちは一瞬その場に立ち竦む。

グレートアーマークラブ
 レベル:36
 スキル:〈頑丈・B〉

 名前が少し違う。
 もしかしてネームドモンスターってやつか?
 うわっ、しかもレベル36!?

 超巨大蟹が鋏を振り回しながら突進してきた。

「っ! 皆っ、下がって!」

 咄嗟に皆を庇うように前に出て盾で防御したリオだったが、成す術もなく吹き飛ばされてしまう。

「リオ!?」
「ぐ……あ……」

 地面に叩きつけられ、痛みに呻くリオ。
 見ると、明らかに片腕がおかしな方向に曲がっていた。
 うわ、骨が折れてる……。

「だ、大丈夫ですか……っ?」

 ララがすぐさま駆け寄り、白魔法で治癒しようとする。

「こんのぉぉぉっ! フレイムランスっ!」

 リリナが火魔法を放った。
 だが超巨大蟹は鋏を振るうだけでそれをあっさりと霧消させてしまう。

「うそっ、全然、効いてない!?」
「おおおおっ!」

 リリナの魔法に対処している隙に、俺は超巨大蟹の側面へと回り込んでいた。
 通常のアーマークラブの倍以上はあろうかという太さの足を、思いきり斬り付ける。

「硬っ!」

 くそっ、さすがにこいつは刃が通らないかっ!

「うおっ!?」

 超巨大蟹がぶん回してきた鋏をギリギリ躱し、俺は素早く後退する。
 しかしそれ以上の速さで突っ込んできた。まるで迫りくる軽自動車だ。あっという間に距離が詰まる。
 に、逃げられない!

「ユウトぉぉぉっ!!!」

 俺、大ピンチです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...