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第十六話 迷宮主VS迷宮主
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コボルドロードが俺目がけて躍り掛かってきた。
速い。
巨体とは思えない速度だ。
その突進の勢いを乗せて繰り出された刺突を、俺は横転してどうにか回避する。
バァン、と背後の地面が爆ぜた。
見ると、槍の先端がダンジョンの地面を大きく抉っていた。
「槍っていうか、斧に近いな」
長い柄の先端には、戦斧のような三日月状の広い刃が付いていた。
鋼のハルベルト
強度34 斬撃37 刺突43 打撃48
鑑定してみると、どうやら鋼製らしく、こちらの鋼の剣に負けない性能だった。
特に打撃力が高い。
しかし〈武器生成+2〉でもこれくらいの武器を作れるのか。
俺の魔剣と同じようにレアドロップかもしれないな。
「燃えろ!」
俺はその魔剣を振るい、火球をコボルドロードへ放つ。
この辺りは拡張途中のため、かなり狭い。
あの巨体では避けられないだろう。
「グルアアッ!」
「っ!」
あろうことか、コボルドロードは迫りくる炎に自ら突っ込んできた。
なるほど、どうせ喰らうなら一気に潜り抜けた方がダメージが少ないと踏んだのか。
意外と賢い。
火炎に身を焼かれながらも、コボルドロードはハルベルドを振るって俺を攻め立ててくる。
狭い場所だというのに、まるでそれを感じさせない。
〈槍技+6〉のスキルを持っているだけあって、その槍捌きは脅威だった。
俺はどうにか魔剣で攻撃を捌いていくが、それだけで精一杯だ。
武器の性能では俺に分があるが、ステータスも技術もあちらの方が上。
「よし、退避!」
俺は火球を放って相手の視界を一瞬遮ると、その隙に背を向けて走り出した。
コボルドロードは俺を追い駆けてくる。
だが敏捷値でも相手の方がやや勝っている。
徐々に互いの距離が詰まっていく。
このままだとすぐに追い付かれてしまうだろう。
「――残念だが、ここは俺のフィールドだ」
「ッ!?」
ほとんど四足になって走っていたコボルドロードだが、その前脚がいきなり空を切った。
目の前の地面に、突然、巨大な穴が生じたのだ。
当然ながらそれは俺の仕業。
〈迷宮拡張+8〉を使い、地面を掘ったのだ。
しかもその落とし穴の中には、天を向いて待ち構える無数の針。
〈罠作成+5〉により生み出した槍だ。
「ギャアアアアッ!」
肉が貫かれる音に続き、コボルドロードが大きな悲鳴を上げる。
「ふぅ……上手くいった。……おっ?」
だが全身血塗れになりながらも、コボルドの王は穴から這い出してきた。
凄い生命力だ。
けど残念だったな。
俺はすぐにまた〈迷宮拡張+8〉でその穴を広げ、再びコボルドロードを穴の中へと無慈悲に転落させる。
今度はすぐには出てこられないよう、穴をもっと深く掘った。十メートルくらい。
さらに魔剣を使って炎の塊をどんどん放り込んでいく。
断末魔の声が轟き、燃え盛る炎の中でついにコボルドロードは力尽きた。
俺は迷宮主であると同時に、このダンジョンそのものでもある。
だからこそこんな芸当が可能なのだ。
てか、戦いながら自分の望み通りにフィールドを変化させることができるって……ぶっちゃけ、ダンジョンの中だと俺、最強なんじゃね……?
「お疲れ様です、マスター」
そこにミオがやってきた。
見ると、その手に大きな水晶玉のようなものを持っていた。
「これが向こうのダンジョンの核となっていた魔石です」
「獲ってきたのか」
「はい。先ほど連結した場所から、かなり近い位置にありました。これがあると、魔力が尽きるまで魔物を生成し続けられてしまいますので」
それでコボルドロードの相手を俺だけに任せたのか。
この子、賢いな。
「マスターであれば、一人でも十分だと判断しました」
「普通に戦ってたらヤバかったけどな。戦いながらフィールドを変化させるって戦法は、我ながらナイスアイデアだったと思う」
「むしろその戦法を思い付けないようでは話になりません」
「……君、もしかしてもっと早くに思い至ってたの?」
「生まれ落ちた直後には」
「マジか」
俺なんて、つい最近だぞ……自分のことなのに。
やべぇ、なんて画期的なアイデア! 俺天才かも! って思ってたんだけどな……。
さすが〈賢者+5〉……俺もぜひとも欲しいスキルなのだが、残念ながら色々試しても獲得できないんだ。
軽く嫉妬する俺を後目に、ミオは魔石を地面に置いた。
すぐにダンジョンの中に――つまりは俺の中に、その魔石が沈んでいった。
脳内に声が響いた。
『コボルドの巣穴の魔石を、ヤマモトタケルの魔石に吸収融合させました』
その途端、俺は自分の身体が大きく拡張していく感覚を覚えた。
「これは……」
意識をダンジョン本体の方に集中させる。
すると、今までなかった領域を感知することができた。
ダンジョン『コボルドの巣穴』が、俺の身体の一部としてそのまま統合されたらしい。
階層は一つしかないが、俺のダンジョンの倍くらいの広さがあった。
つまり、俺は一気に三倍近い規模になってしまったということか。
こりゃダンジョン構築計画を見直さないといけないな……。
向こうには生き残りの魔物が三十匹くらいいたようだが、俺に吸収されたことで、彼らも俺の支配下に置かれたようだ。
脳内の声は続く。
『〈迷宮拡張+6〉を吸収し、〈迷宮拡張+8〉が〈迷宮拡張+9〉になりました。
〈魔物生成+8〉を吸収し、〈魔物生成+7〉が〈魔物生成+9〉になりました。
〈武器生成+2〉を吸収し、〈武器生成+6〉が〈武器生成+7〉になりました。
〈迷宮主生成+3〉を吸収しました』
『レベルが17に上がりました。
レベルが18に上がりました。
レベルが19に上がりました。
レベルが20に上がりました』
『〈食糧生成+5〉が〈食糧生成+6〉になりました。
〈鑑定+3〉が〈鑑定+4〉になりました。
〈念話+3〉が〈念話+4〉になりました。
〈NM生成+2〉が〈NM生成+3〉になりました』
どうやら同時にレベルアップしたようだった。
速い。
巨体とは思えない速度だ。
その突進の勢いを乗せて繰り出された刺突を、俺は横転してどうにか回避する。
バァン、と背後の地面が爆ぜた。
見ると、槍の先端がダンジョンの地面を大きく抉っていた。
「槍っていうか、斧に近いな」
長い柄の先端には、戦斧のような三日月状の広い刃が付いていた。
鋼のハルベルト
強度34 斬撃37 刺突43 打撃48
鑑定してみると、どうやら鋼製らしく、こちらの鋼の剣に負けない性能だった。
特に打撃力が高い。
しかし〈武器生成+2〉でもこれくらいの武器を作れるのか。
俺の魔剣と同じようにレアドロップかもしれないな。
「燃えろ!」
俺はその魔剣を振るい、火球をコボルドロードへ放つ。
この辺りは拡張途中のため、かなり狭い。
あの巨体では避けられないだろう。
「グルアアッ!」
「っ!」
あろうことか、コボルドロードは迫りくる炎に自ら突っ込んできた。
なるほど、どうせ喰らうなら一気に潜り抜けた方がダメージが少ないと踏んだのか。
意外と賢い。
火炎に身を焼かれながらも、コボルドロードはハルベルドを振るって俺を攻め立ててくる。
狭い場所だというのに、まるでそれを感じさせない。
〈槍技+6〉のスキルを持っているだけあって、その槍捌きは脅威だった。
俺はどうにか魔剣で攻撃を捌いていくが、それだけで精一杯だ。
武器の性能では俺に分があるが、ステータスも技術もあちらの方が上。
「よし、退避!」
俺は火球を放って相手の視界を一瞬遮ると、その隙に背を向けて走り出した。
コボルドロードは俺を追い駆けてくる。
だが敏捷値でも相手の方がやや勝っている。
徐々に互いの距離が詰まっていく。
このままだとすぐに追い付かれてしまうだろう。
「――残念だが、ここは俺のフィールドだ」
「ッ!?」
ほとんど四足になって走っていたコボルドロードだが、その前脚がいきなり空を切った。
目の前の地面に、突然、巨大な穴が生じたのだ。
当然ながらそれは俺の仕業。
〈迷宮拡張+8〉を使い、地面を掘ったのだ。
しかもその落とし穴の中には、天を向いて待ち構える無数の針。
〈罠作成+5〉により生み出した槍だ。
「ギャアアアアッ!」
肉が貫かれる音に続き、コボルドロードが大きな悲鳴を上げる。
「ふぅ……上手くいった。……おっ?」
だが全身血塗れになりながらも、コボルドの王は穴から這い出してきた。
凄い生命力だ。
けど残念だったな。
俺はすぐにまた〈迷宮拡張+8〉でその穴を広げ、再びコボルドロードを穴の中へと無慈悲に転落させる。
今度はすぐには出てこられないよう、穴をもっと深く掘った。十メートルくらい。
さらに魔剣を使って炎の塊をどんどん放り込んでいく。
断末魔の声が轟き、燃え盛る炎の中でついにコボルドロードは力尽きた。
俺は迷宮主であると同時に、このダンジョンそのものでもある。
だからこそこんな芸当が可能なのだ。
てか、戦いながら自分の望み通りにフィールドを変化させることができるって……ぶっちゃけ、ダンジョンの中だと俺、最強なんじゃね……?
「お疲れ様です、マスター」
そこにミオがやってきた。
見ると、その手に大きな水晶玉のようなものを持っていた。
「これが向こうのダンジョンの核となっていた魔石です」
「獲ってきたのか」
「はい。先ほど連結した場所から、かなり近い位置にありました。これがあると、魔力が尽きるまで魔物を生成し続けられてしまいますので」
それでコボルドロードの相手を俺だけに任せたのか。
この子、賢いな。
「マスターであれば、一人でも十分だと判断しました」
「普通に戦ってたらヤバかったけどな。戦いながらフィールドを変化させるって戦法は、我ながらナイスアイデアだったと思う」
「むしろその戦法を思い付けないようでは話になりません」
「……君、もしかしてもっと早くに思い至ってたの?」
「生まれ落ちた直後には」
「マジか」
俺なんて、つい最近だぞ……自分のことなのに。
やべぇ、なんて画期的なアイデア! 俺天才かも! って思ってたんだけどな……。
さすが〈賢者+5〉……俺もぜひとも欲しいスキルなのだが、残念ながら色々試しても獲得できないんだ。
軽く嫉妬する俺を後目に、ミオは魔石を地面に置いた。
すぐにダンジョンの中に――つまりは俺の中に、その魔石が沈んでいった。
脳内に声が響いた。
『コボルドの巣穴の魔石を、ヤマモトタケルの魔石に吸収融合させました』
その途端、俺は自分の身体が大きく拡張していく感覚を覚えた。
「これは……」
意識をダンジョン本体の方に集中させる。
すると、今までなかった領域を感知することができた。
ダンジョン『コボルドの巣穴』が、俺の身体の一部としてそのまま統合されたらしい。
階層は一つしかないが、俺のダンジョンの倍くらいの広さがあった。
つまり、俺は一気に三倍近い規模になってしまったということか。
こりゃダンジョン構築計画を見直さないといけないな……。
向こうには生き残りの魔物が三十匹くらいいたようだが、俺に吸収されたことで、彼らも俺の支配下に置かれたようだ。
脳内の声は続く。
『〈迷宮拡張+6〉を吸収し、〈迷宮拡張+8〉が〈迷宮拡張+9〉になりました。
〈魔物生成+8〉を吸収し、〈魔物生成+7〉が〈魔物生成+9〉になりました。
〈武器生成+2〉を吸収し、〈武器生成+6〉が〈武器生成+7〉になりました。
〈迷宮主生成+3〉を吸収しました』
『レベルが17に上がりました。
レベルが18に上がりました。
レベルが19に上がりました。
レベルが20に上がりました』
『〈食糧生成+5〉が〈食糧生成+6〉になりました。
〈鑑定+3〉が〈鑑定+4〉になりました。
〈念話+3〉が〈念話+4〉になりました。
〈NM生成+2〉が〈NM生成+3〉になりました』
どうやら同時にレベルアップしたようだった。
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