上 下
57 / 60

第57話 おかわりは頼んでねぇぞ

しおりを挟む
 それは一体の魔物の仕業だった。
 三本の角を有し、凄まじい突進力を有するトリケリウスという名の亜竜だ。

 一度獲物を見つけると、永遠に追い続けるという凶悪な性質も持つことから、樹海に挑む戦士たちに非常に恐れられている。

 そのトリケリウスが、城壁に強烈な突進を見舞ったのだ。
 並の魔物の攻撃ではビクともしなかったはずの壁が粉砕され、一気に穴が空いてしまう。

「ま、まずいですわっ! 街の中に、侵入されてしまいますの!」

 トリケリウスは穴を開けただけでは満足せず、城壁の中へと突入していこうとする。
 その先には、武装した非戦士たちが、万一に備えて待機しているが、彼らがこの魔物を撃退できるとはとても思えない。

 慌てて城壁の上から魔法部隊が攻撃魔法を放つが、トリケリウスは亜竜だけあって、非常に硬い鱗を有している。
 そのためちょっとやそっとの魔法では、傷をつけることすら不可能だ。

 さらにこのトリケリウスが開けた穴に、他の魔物が続いていく。
 このままでは街中に魔物が溢れかえることになってしまうだろう。

 と、そのときだった。
 突如として空から降ってきた巨大な氷塊が、トリケリウスを直撃、そのまま押し潰してしまった。

「へ?」

 もちろん、エリザがやったわけではない。
【青魔導師】である彼女も、氷系の魔法は得意としているが、あんな巨大な氷塊を生み出せる技量は到底ない。

「まったく、わらわが控えておいてよかったのう」

 溜息混じりの声。
 エリザが慌ててその声が聞こえてきた方向に視線を向けると、そこにいたのは、

「ギルドマスターっ!?」

 この都市バルセールの冒険者ギルドのマスター、バネットだった。

「あまり年寄りを戦場に駆り出すもんではないぞ?」

 十歳ぐらいの女の子にしか見えない姿でそう嘆息すると、彼女はトリケリウスに続いて街に侵入しようとしていた魔物へ、氷の槍を次々と射出する。
 一本も外すことなく魔物の身体を射貫き、あっさり全滅させてしまった。

「そ、そういえば、ギルマスの天職も確か、あたくしと同じ【青魔導師】……お、同じ天職でも、ここまで違うんですの……」

 バネットの参戦で、ひとまず街の中への魔物の侵入を防ぐことができた人間側だったが、城壁の外でも優勢に戦いを進めていた。

「これで半分近くは倒せたんじゃないっすか!」
「うん、見た感じそれくらいだね。まだ油断はできないけれど、この調子なら……っ!?」
「? どうしたっすか、ジーク? 何が……」

 城壁の上にいるため、状況を把握しやすいリオとジーク。
 そんな彼らが思わず言葉を失ったのは、遥か向こうの方から、猛烈な砂煙が押し寄せてきていたためだ。

「え? これって、デジャブってやつっすか? さっきも同じようなのを見た気が……」
「……見たね、確実に。そしてそれは魔物の大群が巻き上げた砂煙だったよ」
「じゃあ、あれは何っすか?」
「第二波?」
「そんなの聞いてないっすよおおおおおおおおおおっ!?」

 城壁の上にいた他の者たちも徐々に遠くから近づいてくるそれに気づいたらしく、どんどん騒めきが広がっていった。

「千体って話じゃなかったのかよ!?」
「さらに後方から、同じような大群が押し寄せて来てたってこと!?」
「マジか!? 最初の千体だけで、もうお腹いっぱいだぞ!?」

 あちこちから悲鳴が上がるが、まだ地上で戦っている者たちは、第二波の接近に気づいていない。
 残り五百体あまりとなった魔物の群れを、一気に殲滅しようと奮闘している。

 やがて残り三百体ほどまで魔物が減ってきたところで、ようやく彼らも第二波の存在を認識した。
 なにせそのときには砂煙どころか、地上からでもはっきりと先頭集団の姿を確認できるようになっていたのである。

「新手だと!?」
「冗談じゃねぇ!? もう限界だぞ!?」
「体力もほとんど残ってねぇよ!」

 戦士たちが絶叫する中、さすがのアンジュも愕然と息を呑む。

「おいおいおい……おかわりは頼んでねぇぞ……?」

 リオは城壁の上で頭を抱えていた。

「終わったっす……せっかく冒険者になれたのに……おれたちの冒険者人生、短かったっすね……」
「なんか大変なことになってるな?」
「大変どころじゃないっすよ、ジーク! よくそんな他人事みたいに言えるっすね!?」
「え? 今のは僕じゃないけど……」
「へ?」

 そこで二人はもう一人の存在に気づいて、思わず叫んだ。

「「ルイス!?」」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ポリゴンスキルは超絶チートでした~発現したスキルをクズと言われて、路地裏に捨てられた俺は、ポリゴンスキルでざまぁする事にした~

喰寝丸太
ファンタジー
ポリゴンスキルに目覚めた貴族庶子6歳のディザは使い方が分からずに、役に立たないと捨てられた。 路地裏で暮らしていて、靴底を食っている時に前世の記憶が蘇る。 俺はパチンコの大当たりアニメーションをプログラムしていたはずだ。 くそう、浮浪児スタートとはナイトメアハードも良い所だ。 だがしかし、俺にはスキルがあった。 ポリゴンスキルか勝手知ったる能力だな。 まずは石の板だ。 こんなの簡単に作れる。 よし、売ってしまえ。 俺のスキルはレベルアップして、アニメーション、ショップ、作成依頼と次々に開放されて行く。 俺はこれを駆使して成り上がってやるぞ。 路地裏から成りあがった俺は冒険者になり、商人になり、貴族になる。 そして王に。 超絶チートになるのは13話辺りからです。

転生少女は欲深い

白波ハクア
ファンタジー
 南條鏡は死んだ。母親には捨てられ、父親からは虐待を受け、誰の助けも受けられずに呆気なく死んだ。  ──欲しかった。幸せな家庭、元気な体、お金、食料、力、何もかもが欲しかった。  鏡は死ぬ直前にそれを望み、脳内に謎の声が響いた。 【異界渡りを開始します】  何の因果か二度目の人生を手に入れた鏡は、意外とすぐに順応してしまう。  次こそは己の幸せを掴むため、己のスキルを駆使して剣と魔法の異世界を放浪する。そんな少女の物語。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【本編完結済】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!

O.T.I
ファンタジー
★本編完結しました! ★150万字超の大長編!  何らかの理由により死んでしまったらしい【俺】は、不思議な世界で出会った女神に請われ、生前やり込んでいたゲームに酷似した世界へと転生することになった。  転生先はゲームで使っていたキャラに似た人物との事だったが、しかしそれは【俺】が思い浮かべていた人物ではなく……  結果として転生・転性してしまった彼…改め彼女は、人気旅芸人一座の歌姫、兼冒険者として新たな人生を歩み始めた。  しかし、その暮らしは平穏ばかりではなく……  彼女は自身が転生する原因となった事件をきっかけに、やがて世界中を巻き込む大きな事件に関わることになる。  これは彼女が多くの仲間たちと出会い、共に力を合わせて事件を解決し……やがて英雄に至るまでの物語。  王道展開の異世界TS転生ファンタジー長編!ここに開幕!! ※TS(性転換)転生ものです。精神的なBL要素を含みますので、苦手な方はご注意ください。

処理中です...