上 下
28 / 60

第28話 睡眠レタスだ

しおりを挟む
「やめておけよ」

 巨漢の前に立ちはだかるルイス。
 店内がざわついた。

「やめた方がいいのはお前だっ! 相手は冒険者だぞ!?」
「一般人が敵うはずねぇ! 殺されるぞ!」

 その作業着姿から、どうやらルイスのことをただの一般人だと思っているようだ。

「どきやがれっ! さもねぇと、てめぇもぶち殺すぞ!?」

 一方、完全に頭に血が上っている巨漢は、ルイスの注意に耳を貸すはずもなかった。
 そのまま太い拳を振り上げると、ルイス目がけて豪快に殴りかかってくる。

「おっと」

 ぱしっ。

 その拳を軽く手で払うルイス。
 すると巨漢は拳を逸らされ、そのまま勢いよく回転。

「は?」

 本人も何が起こったのか分からないままに、ぐるぐる二回くらいその場で回って、最後はよろめいて床にひっくり返った。

「「「え?」」」

 予想さえしていなかった光景に、店内にいた客たちがそろって唖然とする。

「い、今、何が起こったんだ?」
「分からん……ボーマンが回転して、転んだ……?」
「ぶふっ、あいつ、酔ってやがるから、自分でバランス崩して転んだんだろうぜ!」
「なんだ、そういうことか!」

 ルイスが拳を払ったのが見えなかったようで、ボーマンが自滅したと勘違いする客たち。
 一方、酔っぱらっている張本人もまた、そう思ってしまったらしい。

「いてて……くそっ、てめぇのせいで、足を滑らせちまったじゃねぇかよ!?」
「足が滑った?」

 ルイスからしたら何のことか理解できなかった。

「今度こそ、ぶっ殺してやる……っ!」

 身体を起こした巨漢は、背中に提げていた斧を手に取り、躍りかかってくる。

「おいおい、武器まで使うなんて、酔ってるからって許されることじゃないだろ」

 ルイスはそう嘆息しつつ、直径一メートルほどの巨大なカボチャを取り出した。

「「「何だ、あれは!?」」」
「カボチャだ」
「「「カボチャ!? しかもどこから出てきた!?」」」

 客たちが思わずツッコむ中、巨漢が斧を思い切り振り下ろしてきた。

「んなもので、オレの斧を防げるとでも思ってんのか……っ! 死ねぇっ!」

 ルイスはそれをカボチャでガード。
 その場にいた誰もがカボチャごとルイスの身体が両断される展開を予想していたが、しかし斧の刃は数センチほどめり込んだだけで、途中であっさり停止してしまった。

「「「マジで受け止めた!?」」」
「盾にも使えるよう、硬く作ったカボチャだからな」
「「「そんなカボチャ聞いたことない!」」」

 巨漢は「ば、ばかな」と呻きながらも、すぐさま斧を振り上げる。
 するとカボチャも一緒に付いてきた。

「なっ……」

 カボチャ付きの斧を手にする巨漢の光景が滑稽だったのか、思わず吹き出す者たちがいた。

「ぶふっ……斧が、ハンマーみたいに……」
「お、おい、聞こえるぞ」

 しかし巨漢は周りの嘲笑を聞き咎めるどころではなかった。

「何だ、この重さは……っ!? うおっ……」

 斧と一体になったカボチャの予想外の重量にふら付き、後ろのカウンターに腰をぶつけてしまう。
 もはや斧を手にしてはいられず、床に置かざるを得なかった。

「ボーマンが持ってられねぇとか、あのカボチャ、そんなに重たいのか……?」
「けど、さっきあいつは片手で持っていたが……」

 ボーマンは慌てて斧からカボチャを外そうとするも、意外としっかり刺さっているようで、まったく抜けない。

「くそっ……何なんだよ、このカボチャは!?」

 ルイスは斧を使えなくなったボーマンに近づいていくと、何を思ったか、またしてもどこからともなくレタスを取り出し、

「えい」
「むぐっ!?」

 無理やりその口の中へと放り込んだ。

「っ!? 何しやが……って、うまあああああああああいっ!? もぐもぐもぐっ!」

 あまりの美味しさに、思わず咀嚼して呑み込んでしまう巨漢。
 次の瞬間、その目が虚ろになったかと思うと、

「あれ、なんか……急激に……眠気が…………ぐご~」

 鼾を掻いて眠ってしまった。

「「「何を食べさせた!?」」」
「睡眠レタスだ」
「「「睡眠レタス!?」」」

 その名の通り、睡眠を促す効果を持ったレタスである。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。  ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。  その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。  無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。  手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。  屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。 【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】  だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

処理中です...