追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾

文字の大きさ
上 下
48 / 48

第48話 これをあげるよ

しおりを挟む
 ここレーネの街には、周囲に幾つかの狩り場があって、冒険者が非常に多い街だ。
 ただ、それは主に新人から中堅くらいまでの話。

 Cランク冒険者の主戦場となっているリザードマンの沼地が、最もレベルの高い狩り場だった。
 しかしその沼地も、影騎士たちがリザードマンを狩り過ぎたせいか、ほとんどリザードマンを見かけることができなくなっていた。

 そのため僕以外にも、狩り場が回復するまでしばらく拠点を移そうと考えている冒険者も少なくないようである。

「ファンも街を出るの?」
「ええ」

 ファンもその一人だ。
 まだ僕と同じEランク冒険者だけれど、元々リザードマン相手にも十分やれる力を持っているからね。

 好戦的な彼女にとって、沼地での狩りができないこの街は退屈で仕方ないだろう。

「どこにいくつもり?」
「南。魔境があるわ」

 ファンはこの国の南方にあるという魔境に向かうようだ。
 魔境は、そこらの狩り場とは比較にならないほど魔力濃度が高く、それゆえ凶悪な魔物が大量に棲息している危険地帯である。

 しかし実力のある冒険者にとっては、聖地のような場所でもあった。
 魔境の魔物の素材は高値で取引させるので、一獲千金を求めて挑む冒険者も少なくないという。

 もちろんファンの目的は金ではない。

「もっと強くなるわ。街の冒険者ギルドはぬるいから」

 受付嬢に沼地への立ち入りを禁じられたことが、相当不満だったのだろう。

「魔境にもギルドの出張所はあるみたいだけど、完全に自己責任らしいからね」
「望むところよ。セリウスはどこにいくの?」
「僕はダンジョンのある街に」
「そこも楽しそうね」

 次の目的地は、このバルステ王国から西に行った国。
 そこには大陸でも最大級のダンジョンが存在しているという。

 せっかくファンタジー世界に生まれたのだから、やっぱり一度はダンジョンに潜ってみたいよね。
 ……もちろん安全第一で。

 ダンジョンはトラップなどもあって、知能や慎重さが求められる。
 脳筋のファンには、まだ魔境の方が向いているだろう。

 それでもやはり心配なので、

「これをあげるよ」
「?」
「【リジェネの腕輪】。身に着けていると、ダメージを少しずつ回復してくれる魔道具だよ」

 ファンが死闘の果てにソロで撃破した、ゴブリンジェネラルの魔石を使ってクラフトしたものだ。
 これで少しは生存率が上がるだろう。

「……お金がないわ」
「もちろんプレゼントだよ」
「私、セリウスに貰ってばかりよ? まだ何も返せてないわ。……年上なのに」
「年上って言っても、一つだけでしょ。まぁでも、どうしてもって言うなら……その耳、モフモフさせてもらってもいい?」

 一度でいいから獣人の耳をモフモフしてみたかったのだ。

「そんなことでいいなら」
「おお、これはなかなかのモフモフ具合……」
「ん……」

 今後も彼女とパーティを組む形もあったかもしれない。
 だけど、二人とも冒険に対する価値観が真逆すぎる。

 どのみち方針が合わずに上手くいかなくなっていただろう。

「でも、またどこかで会ったら一緒に冒険でもしよう」
「ええ。それまでにもっと強くなってるわ」




「お~~い!」

 出発当日。
 街を出ようとしたところで、ポッツが駆けてきた。

「こいつは餞別だ」

 受け取ったのはポーションだった。

「栽培した薬草で作ったポーションだ。こんなものしかないが持ってってくれ」

 十本もあった。
 ポーションの希少性を考えると、大盤振る舞いだろう。

「それだけお前さんに感謝してるってことだ! 死なれたくないからな! まぁ、お前さんのことだから心配するだけ無駄かもしれないが」

 ポーションは魔道具ではないので、僕も作ることができない。
 代わりにファンにあげたように、治癒能力のある魔道具ならクラフト可能だが……ありがたく受け取っておくとしよう。

 回復魔法を使えない場面が出るかもしれないしね。
 備えあれば憂いなし、だ。

 ちなみにそのファンは、すでに街を出たらしい。
 猪突猛進な彼女らしい早さである。

「また近くに来る機会があったら、ぜひ顔を見せてくれよ! 元気でな!」
「うん、ポッツさんも元気でね」

 僕は【アイテムボックス】からセキトバを取り出した。

「って、何だ、そいつは!?」
「バイクだよ。速いんだ」

 セキトバに跨り、一気に加速する。

「は、速ぇええええええええっ!?」

 絶叫するポッツと街が、見る見るうちに遠ざかっていく。

「…………本当にとんでもない少年だったな。マジで英雄になるかもしれん」

 そんなポッツの呟きが聞こえたような気がした。

しおりを挟む
感想 14

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(14件)

ノン
2024.04.10 ノン

カクヨムでもフォローしていて、フォローリストから完結に気付きました。
早くないですか??

旅って、未だ1ヵ所だけです
もっと続けて下さい!

解除
エウブレウス

完………結………?(震え声)

解除
maniaxpace
2024.04.06 maniaxpace

ファンと行動先分かれたか。まあ妥当やね。

解除

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。