46 / 48
第46話 こんな形で終わっちまうなんて
しおりを挟む
「ひゃははははっ!」
耳障りな哄笑が狭い室内に響き渡っていた。
「底辺冒険者のクソ雑魚のくせに、まだ死なずに粘るたァ、なかなか根性あるじゃねぇか! ひゃはははっ!」
笑い声の主は、興奮した様子の青年だ。
目の焦点がどこか合っておらず、口の端からは涎が垂れている。
薄れかけた意識の中、恐らく魔薬の常習者だろうとポッツは推測した。
その身体はボロボロだ。
ギャングの襲撃を受け、どこかに連れてこられた彼は、その構成員たちに暴行され続けていた。
「(構成員の中に魔薬の常習者までいるとは……噂には聞いてたが、相当ヤバいギャングのようだな……)」
ブラッドウォールという名の新興のギャングだ。
非常に好戦的で、他のギャングとの激しい抗争が絶えない悪名高い集団だが、最近その勢力を大きく伸ばしていた。
その躍進を支えているのが、有力ギャングに匹敵するほどの魔薬の生産力だ。
だがその魔薬は、これまであった魔薬よりも強烈な効果をもつ反面、副作用が酷く、非常に危険な代物であった。
使用者があっという間に廃人と化してしまうことから、他のギャングすら眉を顰めるようなものだという。
そんな彼らが、非常に不都合な情報を得たのはほんの数週間前。
それはとある底辺冒険者が薬草の栽培に取り組んでおり、万一それが成功すれば、魔薬の原料となる魔草の確保に大きな支障が出るかもしれない、というものだった。
魔薬は彼らにとっての生命線。
あくまで可能性の話であったとしても、邪魔な芽は早いうちに潰しておきたい。
それで白昼堂々、薬草栽培の拠点を襲撃し、代表者を拉致してきたのである。
「早く……殺せ……」
「ひゃはははっ、どうせ殺すんなら、ゆっくりじっくり嬲り殺していく方が楽しいに決まってるじゃねぇかよォ!」
声を絞り出すようなポッツの訴えを青年は一蹴する。
「(とんでもない連中に目をつけられてしまったな……)」
ブラッドウォールはこの街に数あるギャングの中でも、ひと際まともではない。
残った仲間たちが二度と同じ取り組みをしようなどと思わないよう、ポッツの無残な死体を返却するくらいのことはやるだろう。
「(ここで殺されるにしても、それじゃあマジで犬死だ……くそったれ……)」
ポッツには冒険者としての才能がなかった。
この歳になってもずっと最底辺で、昇格していく後輩たちを何人も見送ってきた。
同時に、自分と同じような冒険者もたくさん見てきた。
食べていけずに辞めていった者も少なくない。
「(必死にやっていたら、いつかは何かで大きな結果を残せるかもしれない……そう思って、腐らずに頑張ってきた)」
その思いが実ったのか、薬草栽培のアイデアが降ってきたときは歓喜した。
しかもそれが、かつての同業者たちを救い、街を救うことに繋がるのなら、これ以上ないことである。
「(それが道半ばで……こんな形で終わっちまうなんて……はは……けどやっぱ、これが俺の人生なんだろ――)」
ぼごっ!
「ひゃはははっ! あ? やべぇ、ちょっと今のは強くやり過ぎちまったか? まぁ、仕方ねぇなァ。そろそろ終わりにしちまうか」
青年の蹴りが側頭部に直撃し、ポッツの意識が一瞬で刈り取られる。
それで飽きがきたのか、青年は詰まらなさそうに言うと、ナイフを取り出してポッツの首に突き立てようと振り下ろす。
ガキンッ!
「え?」
ナイフが剣で受け止められた。
一体何が起こったのかと思っていると、地面から漆黒の全身鎧が生えてくる。
「は? は? な、何だ、おま」
言葉を言い切る前に、全身鎧の剣で青年の首が飛んでいた。
「な、なんだ!?」
「騎士!? 一体どこから!?」
「う、後ろにも!?」
青年と共にポッツを痛めつけていた男たちが、あちこちから現れた漆黒の騎士に驚愕する。
慌てて逃げようとするが、もはや遅かった。
次々と斬撃をその身に浴び、絶命したのだった。
◇ ◇ ◇
ブラッドウォールというギャングの拠点に、影騎士たちを率いて乗り込んだ。
ポッツを見つけたのは、地下に設けられた薄暗い地下室だ。
「グレートヒール」
「う……ぅう……」
かなり酷い扱いを受けていたようで、ほとんど瀕死の状態だったけれど、第四階級の強力な白魔法で一気に回復を施す。
「お、俺は一体……?」
「気が付いた?」
「っ、セリウス? なぜお前さんがここに……そ、そうだ! 俺は確か、ギャングの連中に襲われて、奴らの拠点らしきところでボコボコに……って、何も痛くない?」
「回復魔法で治しておいたから」
「まさか、お前さんが助けてくれたのか? けど、ここはギャングの拠点……一体どうやって……それに、俺を暴行していた連中は……?」
「まぁ、細かいことは後でいいよ。とりあえず帰ろう。みんな心配しているからさ」
そうして薬草栽培の拠点に戻ると、ポッツの仲間たちが一斉に目を丸くした。
「ポッツ!?」
「お前、無事だったのか!?」
「ああ、どうにか生きてるぜ」
一頻り再会を喜んだ後、彼らの視線は僕に向いた。
「まさか、本当に君が助けてくれたのか……?」
「ギャングの拠点という拠点を、何者か荒らし回ってるって噂が流れてきていたが……」
「単身でギャングを潰すなんて……」
状況から考えて、誤魔化すことはできそうにない。
影騎士たちも動員したので、いずれは沼地の一件とリンクして、どちらも僕の仕業だということがバレるのも時間の問題だろう。
さすがに派手にやり過ぎたかもと思っていると、ポッツが言った。
「お前たち、余計な詮索はなしだぜ! セリウスは俺の命の恩人だ! 今回のことも他言は禁止! いいな!」
耳障りな哄笑が狭い室内に響き渡っていた。
「底辺冒険者のクソ雑魚のくせに、まだ死なずに粘るたァ、なかなか根性あるじゃねぇか! ひゃはははっ!」
笑い声の主は、興奮した様子の青年だ。
目の焦点がどこか合っておらず、口の端からは涎が垂れている。
薄れかけた意識の中、恐らく魔薬の常習者だろうとポッツは推測した。
その身体はボロボロだ。
ギャングの襲撃を受け、どこかに連れてこられた彼は、その構成員たちに暴行され続けていた。
「(構成員の中に魔薬の常習者までいるとは……噂には聞いてたが、相当ヤバいギャングのようだな……)」
ブラッドウォールという名の新興のギャングだ。
非常に好戦的で、他のギャングとの激しい抗争が絶えない悪名高い集団だが、最近その勢力を大きく伸ばしていた。
その躍進を支えているのが、有力ギャングに匹敵するほどの魔薬の生産力だ。
だがその魔薬は、これまであった魔薬よりも強烈な効果をもつ反面、副作用が酷く、非常に危険な代物であった。
使用者があっという間に廃人と化してしまうことから、他のギャングすら眉を顰めるようなものだという。
そんな彼らが、非常に不都合な情報を得たのはほんの数週間前。
それはとある底辺冒険者が薬草の栽培に取り組んでおり、万一それが成功すれば、魔薬の原料となる魔草の確保に大きな支障が出るかもしれない、というものだった。
魔薬は彼らにとっての生命線。
あくまで可能性の話であったとしても、邪魔な芽は早いうちに潰しておきたい。
それで白昼堂々、薬草栽培の拠点を襲撃し、代表者を拉致してきたのである。
「早く……殺せ……」
「ひゃはははっ、どうせ殺すんなら、ゆっくりじっくり嬲り殺していく方が楽しいに決まってるじゃねぇかよォ!」
声を絞り出すようなポッツの訴えを青年は一蹴する。
「(とんでもない連中に目をつけられてしまったな……)」
ブラッドウォールはこの街に数あるギャングの中でも、ひと際まともではない。
残った仲間たちが二度と同じ取り組みをしようなどと思わないよう、ポッツの無残な死体を返却するくらいのことはやるだろう。
「(ここで殺されるにしても、それじゃあマジで犬死だ……くそったれ……)」
ポッツには冒険者としての才能がなかった。
この歳になってもずっと最底辺で、昇格していく後輩たちを何人も見送ってきた。
同時に、自分と同じような冒険者もたくさん見てきた。
食べていけずに辞めていった者も少なくない。
「(必死にやっていたら、いつかは何かで大きな結果を残せるかもしれない……そう思って、腐らずに頑張ってきた)」
その思いが実ったのか、薬草栽培のアイデアが降ってきたときは歓喜した。
しかもそれが、かつての同業者たちを救い、街を救うことに繋がるのなら、これ以上ないことである。
「(それが道半ばで……こんな形で終わっちまうなんて……はは……けどやっぱ、これが俺の人生なんだろ――)」
ぼごっ!
「ひゃはははっ! あ? やべぇ、ちょっと今のは強くやり過ぎちまったか? まぁ、仕方ねぇなァ。そろそろ終わりにしちまうか」
青年の蹴りが側頭部に直撃し、ポッツの意識が一瞬で刈り取られる。
それで飽きがきたのか、青年は詰まらなさそうに言うと、ナイフを取り出してポッツの首に突き立てようと振り下ろす。
ガキンッ!
「え?」
ナイフが剣で受け止められた。
一体何が起こったのかと思っていると、地面から漆黒の全身鎧が生えてくる。
「は? は? な、何だ、おま」
言葉を言い切る前に、全身鎧の剣で青年の首が飛んでいた。
「な、なんだ!?」
「騎士!? 一体どこから!?」
「う、後ろにも!?」
青年と共にポッツを痛めつけていた男たちが、あちこちから現れた漆黒の騎士に驚愕する。
慌てて逃げようとするが、もはや遅かった。
次々と斬撃をその身に浴び、絶命したのだった。
◇ ◇ ◇
ブラッドウォールというギャングの拠点に、影騎士たちを率いて乗り込んだ。
ポッツを見つけたのは、地下に設けられた薄暗い地下室だ。
「グレートヒール」
「う……ぅう……」
かなり酷い扱いを受けていたようで、ほとんど瀕死の状態だったけれど、第四階級の強力な白魔法で一気に回復を施す。
「お、俺は一体……?」
「気が付いた?」
「っ、セリウス? なぜお前さんがここに……そ、そうだ! 俺は確か、ギャングの連中に襲われて、奴らの拠点らしきところでボコボコに……って、何も痛くない?」
「回復魔法で治しておいたから」
「まさか、お前さんが助けてくれたのか? けど、ここはギャングの拠点……一体どうやって……それに、俺を暴行していた連中は……?」
「まぁ、細かいことは後でいいよ。とりあえず帰ろう。みんな心配しているからさ」
そうして薬草栽培の拠点に戻ると、ポッツの仲間たちが一斉に目を丸くした。
「ポッツ!?」
「お前、無事だったのか!?」
「ああ、どうにか生きてるぜ」
一頻り再会を喜んだ後、彼らの視線は僕に向いた。
「まさか、本当に君が助けてくれたのか……?」
「ギャングの拠点という拠点を、何者か荒らし回ってるって噂が流れてきていたが……」
「単身でギャングを潰すなんて……」
状況から考えて、誤魔化すことはできそうにない。
影騎士たちも動員したので、いずれは沼地の一件とリンクして、どちらも僕の仕業だということがバレるのも時間の問題だろう。
さすがに派手にやり過ぎたかもと思っていると、ポッツが言った。
「お前たち、余計な詮索はなしだぜ! セリウスは俺の命の恩人だ! 今回のことも他言は禁止! いいな!」
104
お気に入りに追加
1,862
あなたにおすすめの小説

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる