追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾

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第46話 こんな形で終わっちまうなんて

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「ひゃははははっ!」

 耳障りな哄笑が狭い室内に響き渡っていた。

「底辺冒険者のクソ雑魚のくせに、まだ死なずに粘るたァ、なかなか根性あるじゃねぇか! ひゃはははっ!」

 笑い声の主は、興奮した様子の青年だ。
 目の焦点がどこか合っておらず、口の端からは涎が垂れている。

 薄れかけた意識の中、恐らく魔薬の常習者だろうとポッツは推測した。

 その身体はボロボロだ。
 ギャングの襲撃を受け、どこかに連れてこられた彼は、その構成員たちに暴行され続けていた。

「(構成員の中に魔薬の常習者までいるとは……噂には聞いてたが、相当ヤバいギャングのようだな……)」

 ブラッドウォールという名の新興のギャングだ。
 非常に好戦的で、他のギャングとの激しい抗争が絶えない悪名高い集団だが、最近その勢力を大きく伸ばしていた。

 その躍進を支えているのが、有力ギャングに匹敵するほどの魔薬の生産力だ。
 だがその魔薬は、これまであった魔薬よりも強烈な効果をもつ反面、副作用が酷く、非常に危険な代物であった。

 使用者があっという間に廃人と化してしまうことから、他のギャングすら眉を顰めるようなものだという。

 そんな彼らが、非常に不都合な情報を得たのはほんの数週間前。
 それはとある底辺冒険者が薬草の栽培に取り組んでおり、万一それが成功すれば、魔薬の原料となる魔草の確保に大きな支障が出るかもしれない、というものだった。

 魔薬は彼らにとっての生命線。
 あくまで可能性の話であったとしても、邪魔な芽は早いうちに潰しておきたい。

 それで白昼堂々、薬草栽培の拠点を襲撃し、代表者を拉致してきたのである。

「早く……殺せ……」
「ひゃはははっ、どうせ殺すんなら、ゆっくりじっくり嬲り殺していく方が楽しいに決まってるじゃねぇかよォ!」

 声を絞り出すようなポッツの訴えを青年は一蹴する。

「(とんでもない連中に目をつけられてしまったな……)」

 ブラッドウォールはこの街に数あるギャングの中でも、ひと際まともではない。
 残った仲間たちが二度と同じ取り組みをしようなどと思わないよう、ポッツの無残な死体を返却するくらいのことはやるだろう。

「(ここで殺されるにしても、それじゃあマジで犬死だ……くそったれ……)」

 ポッツには冒険者としての才能がなかった。
 この歳になってもずっと最底辺で、昇格していく後輩たちを何人も見送ってきた。

 同時に、自分と同じような冒険者もたくさん見てきた。
 食べていけずに辞めていった者も少なくない。

「(必死にやっていたら、いつかは何かで大きな結果を残せるかもしれない……そう思って、腐らずに頑張ってきた)」

 その思いが実ったのか、薬草栽培のアイデアが降ってきたときは歓喜した。
 しかもそれが、かつての同業者たちを救い、街を救うことに繋がるのなら、これ以上ないことである。

「(それが道半ばで……こんな形で終わっちまうなんて……はは……けどやっぱ、これが俺の人生なんだろ――)」

 ぼごっ!

「ひゃはははっ! あ? やべぇ、ちょっと今のは強くやり過ぎちまったか? まぁ、仕方ねぇなァ。そろそろ終わりにしちまうか」

 青年の蹴りが側頭部に直撃し、ポッツの意識が一瞬で刈り取られる。
 それで飽きがきたのか、青年は詰まらなさそうに言うと、ナイフを取り出してポッツの首に突き立てようと振り下ろす。

 ガキンッ!

「え?」

 ナイフが剣で受け止められた。
 一体何が起こったのかと思っていると、地面から漆黒の全身鎧が生えてくる。

「は? は? な、何だ、おま」

 言葉を言い切る前に、全身鎧の剣で青年の首が飛んでいた。

「な、なんだ!?」
「騎士!? 一体どこから!?」
「う、後ろにも!?」

 青年と共にポッツを痛めつけていた男たちが、あちこちから現れた漆黒の騎士に驚愕する。
 慌てて逃げようとするが、もはや遅かった。

 次々と斬撃をその身に浴び、絶命したのだった。



   ◇ ◇ ◇



 ブラッドウォールというギャングの拠点に、影騎士たちを率いて乗り込んだ。
 ポッツを見つけたのは、地下に設けられた薄暗い地下室だ。

「グレートヒール」
「う……ぅう……」

 かなり酷い扱いを受けていたようで、ほとんど瀕死の状態だったけれど、第四階級の強力な白魔法で一気に回復を施す。

「お、俺は一体……?」
「気が付いた?」
「っ、セリウス? なぜお前さんがここに……そ、そうだ! 俺は確か、ギャングの連中に襲われて、奴らの拠点らしきところでボコボコに……って、何も痛くない?」
「回復魔法で治しておいたから」
「まさか、お前さんが助けてくれたのか? けど、ここはギャングの拠点……一体どうやって……それに、俺を暴行していた連中は……?」
「まぁ、細かいことは後でいいよ。とりあえず帰ろう。みんな心配しているからさ」

 そうして薬草栽培の拠点に戻ると、ポッツの仲間たちが一斉に目を丸くした。

「ポッツ!?」
「お前、無事だったのか!?」
「ああ、どうにか生きてるぜ」

 一頻り再会を喜んだ後、彼らの視線は僕に向いた。

「まさか、本当に君が助けてくれたのか……?」
「ギャングの拠点という拠点を、何者か荒らし回ってるって噂が流れてきていたが……」
「単身でギャングを潰すなんて……」

 状況から考えて、誤魔化すことはできそうにない。
 影騎士たちも動員したので、いずれは沼地の一件とリンクして、どちらも僕の仕業だということがバレるのも時間の問題だろう。

 さすがに派手にやり過ぎたかもと思っていると、ポッツが言った。

「お前たち、余計な詮索はなしだぜ! セリウスは俺の命の恩人だ! 今回のことも他言は禁止! いいな!」
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