追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾

文字の大きさ
上 下
38 / 48

第38話 そのときはそのときだわ

しおりを挟む
 新たに発見したゴブリンの巣穴。
 今までとはゴブリンの数も質も違う、凶悪な巣穴だった。

 だがそんなことなどお構いなしに、ファンはどんどん奥へと進んでいく。
 ゴブリンの上位種、ホブゴブリンやレッドキャップだけでなく、弓で矢を放ってくるゴブリンアーチャーや、天井や壁などに擬態しながら急襲してくるハイドゴブリンなども現れたが、ファンを止めることはできなかった。

「ああもう、見えなくなっちゃった!」

 一方僕はというと、魔石や素材を集めるので精いっぱい。
 ファンが先へ先へ行ってしまうため、完全に置いていかれてしまっていた。

「グギャギャ!」
「ファイアボール」

 生き残りのゴブリンがいたので、火の玉をぶつけて倒しておく。

「……まったく、こんな冒険の仕方してたら、本当に痛い目を見るよ」

 巣穴の中は広大で分かれ道も多く、まるで迷路のようだった。
 普通なら仲間がどこにいるのか分からなくなったりするだろうが、こっそりマーキングの魔法をかけているので、完全にはぐれる心配はない。

「移動が止まった? よし、今のうちに追いつこう」

 ファンの移動が落ち着いた隙に、僕はペースを上げた。

 ただ、所々にトラップが仕掛けてあるので注意が必要だ。
 ゴブリンが作ったものなのでどれも非常に単純なトラップだが、先を進んだファンが幾つか発動させた形跡がある。

 ……どれも無理やり突破しているようだが。

「シャドウクローン」

 僕はそんな危険な真似はしない。
 影で作り出した分身を先に行かせることで、トラップをあらかじめ避けていく。

 そうして辿り着いたのは、これまでにない広さの空間だった。

「ぐっ……」
「ファン!?」

 小柄な身体がこちらに吹き飛んできて、地面を転がる。

「大丈夫っ?」
「…………問題ないわ」

 その空間には軽く百体を超えるだろうゴブリンの姿があった。
 ホブゴブリンやレッドキャップも少なくない。

 だがいくら数が多くとも、今のファンを止めることは不可能だ。

 他とは遥かに違う威圧感を放つゴブリンがいた。

「こいつは……まさか、ゴブリンジェネラル?」

 将軍の名に相応しい、堂々たる体躯のゴブリンだ。
 巨大な剣を片手で持ち、分厚い鎧を身に着けている。

「あいつにやられたのか」
「ええ。あいつ強いわ」

 かなりダメージを負わされたようで、ファンはすでに立ち上がるのもやっとといった印象だったが、

「……倒す!」

 地面を蹴り、将軍ゴブリンに躍りかかった。
 縮地で一気に距離を詰めると、渾身の斬撃を叩き込む。

「ギグギ」

 だが将軍ゴブリンは衝撃で僅かに後退しただけで、即座に反撃の剣を振るった。
 ゴウッ、と風圧が離れた場所にいるこちらにまで届くほどの斬撃だ。

 ファンはその斬撃を躱したものの、それで数メートル吹き飛ばされ、強引に距離を取らされてしまう。
 そこへ将軍ゴブリンが再び剣を振るった。

 すると離れているというのに、ファンの腕から血が噴き出す。

「斬撃を飛ばすことができるのか……っ!」

 腕を斬られながらも、ファンはまたも縮地で距離を詰めた。
 しかし着こんだ鎧のせいでファンの攻撃がまったく通らない。

「相手が悪すぎるっ! ファン、そいつは僕に任せて周りの雑魚たちを倒して!」
「……」
「聞こえてる!? このままだとやられるよ!」

 だが僕の訴えを余所に、ファンは執拗に将軍ゴブリンに挑み続ける。
 梃子でも引く気はないらしい。

「せめて魔法で援護を……」
「加勢は不要だわ。一人で倒してやる」

 頑なな彼女だが、その斬撃はやはり将軍ゴブリンの分厚い鎧に弾き返されるだけだ。
 そのときだった。

 ファンの再三の一撃が将軍ゴブリンの胴部に叩き込まれると同時、それまでずっと剣を弾いていた鎧の一部が四散し、血飛沫が舞った。

「ギギギッ!?」
「……これで剣が通るわ!」

 幾度も繰り返し斬撃を見舞ったことで鎧を脆くし、ついには破壊してしまったのだ。

 初めてのダメージを負わされて驚く将軍ゴブリンへ、すかさずファンは追撃を見舞う。
 同じ箇所を、今度はより深く剣が抉った。

 大量の血を噴き出しながら、将軍ゴブリンがその場に膝をつく。

「あそこから戦況をひっくり返すなんて……っ!」

 予想していなかった展開に驚かされ、僕は思わず叫ぶ。

「「「グギャギャギャギャ~~~~~ッ!!」」」

 ここまで一対一の戦いを見守るだけだったゴブリンたちが、ボスのピンチと理解して一斉に動き出した。
 無論、邪魔はさせない。

「サイクロン。ウォーターフォール」

 二つの第四階級魔法を連続で放つ。
 猛烈な竜巻がゴブリンどもを吹き飛ばし、滝のような水がゴブリンどもを押し流した。

「雑魚は任せておいて!」
「そうするわ!」

 ファンは一気に攻勢に出た。
 将軍ゴブリンは血を流しながらも必死に応戦したが、一部分にせよ鎧を破壊された動揺が隠し切れず、明らかに精彩を欠いていた。

 最初は圧倒されながらも、一歩たりとも引かずに挑み続けてきたファンとは、もはや気持ちの面で負けている。
 将軍ゴブリンが倒れるまで、そう時間がかからなかった。




 ……どうやら僕は大きな勘違いしていたらしい。

 僕はかつてハイオークにやられそうになり、ティラに助けてもらった経験から、安全第一で生きていくことを誓った。
 だがそれはあくまで僕の生き方だ。

 ファンにはファンの生き方がある。

 僕はいつの間にか自分の生き方を押し付けようとしていたらしい。
 彼女が痛い目を見て、それで僕のように学んでほしいと、上から目線で勝手なおせっかいを焼こうとしていたのだ。

「一つ聞かせてもらっていい? もっと強くなりたいって言ったけど、もし無理をして途中で死んじゃったらどうするの?」
「そのときはそのときだわ。それまでの人間だったというだけ」

 ……僕は思った。
 彼女こそ、物語の主人公になるようなタイプだと。

 途中で野垂れ死ぬか、それとも英雄になるか。
 未来は分からないけれど。

「僕は絶対、真似はしたくないけどね」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...