36 / 48
第36話 ギャングは潰すべきね
しおりを挟む
「げふ。満足」
「銀貨1枚と銅貨6枚になります」
「ぎぎぎ、銀貨1枚と銅貨6枚!?」
ファンがめちゃくちゃ食べまくったことで会計の際にポッツが再び涙したものの、少しこっちも出そうかという提案は即座に突っぱねるという男気を見せた。
「きょ、今日はおれの奢りっていう約束だったからな!」
かなりやけくそ気味だけど。
幸い酔いの方はすっかり冷めた様子である。
そうして店を出て、解散しようとしたときだった。
目の前をふらふらと横切る人影があった。
目は虚ろで、足取りが覚束ない。
何か小さくぶつぶつと呟いているかと思っていると、いきなり「あああああっ!」という奇声を発し、急に周囲に怯えて震え出した次の瞬間には、今度は大声で笑い出す。
かなり高齢の男……にも見えるが、もしかしたらそれほど歳はいってないかもしれない。
「……クスリをやってそうだね」
「よく分かったな? そうだ。あの男は間違いなく、魔薬の常習者だ」
魔薬。
飲めば一時的な高揚感や全能感を得られる薬物である。
だが危険な副作用を持ち、常用し続けると脳や精神が破壊され、やがては廃人と化してしまう。
「この街には、ああいう魔薬の被害者が少なくない」
ポッツがいつになく不愉快そうに言う。
「……ギャングのせいだ。やつらは魔薬が人の人生を壊す代物だと知ったうえで、それを売り捌き、資金源にしてやがる」
この街でギャング同士の抗争が激しいのは、魔薬で大金を稼げるからだという。
さらにそのお金は騎士団やギルド職員などへの賄賂となり、摘発を逃れているそうだ。
「時には一般人がその抗争に巻き込まれることもある。あいつらはこの街のガンのような存在だ……っ!」
過去にあった忌々しい事件を思い出しているのか、ポッツは声を荒らげた。
正義感の強い彼にとって、ギャングの存在は許せないのだろう。
「間違いないわ」
同意を示すファン。
彼女もギャングのせいで不利益を被った一人だからな。
「ギャングは潰すべきね」
「おお、お前さんのような才能ある新人が、そう言ってくれるのは頼もしいな」
実際に彼女は一つギャングを潰している。
「だがやつらは強大だ。やはり資金が豊富で、高性能な武具を容易に集められるのが大きい。それで構成員たちが普段から魔物を狩って、実戦を積んでるという話も聞く。しかも普段は対立しているギャング同士が、時に手を組むこともある。騎士団や冒険者ギルドがなかなか手を出せないのも、本気で潰そうとしたら自分たちもただじゃ済まないと理解してるからだ」
それでギャングがほとんど野放しにされているという。
つい先日、その一つが何者かに潰された一件が、界隈を大いに驚かせたのも当然だった。
「だが、手がないわけじゃない。やつらを弱体化させる方法があるかもしれないんだ。祝勝会のあとで悪いが……少し時間はあるか? ……お前さんたちなら、信頼ができる。ぜひ見てもらいたいものがあるんだ」
ポッツの案内で連れてこられたのは、街中にある倉庫のような建物だった。
中に入ると、空気が重たい感覚があった。
「魔力濃度が高い?」
危険な魔物が生息する森の深いところほどではないが、明らかに外とは魔力濃度が違っているのだ。
「さすがだな。あえて魔力の濃い状態を保っているんだ。あるものを育てるためにな」
そこには大量の鉢がずらりと並んでいた。
何らかの植物を育成しているのか、葉が出ているものもある。
「これは……もしかして、薬草?」
「そうだ。ポーション生成の原料として知られる薬草、エイム草を自家栽培しているんだ」
「薬草の自家栽培? 薬草って、魔力濃度の高い自然環境でしか育たないはずじゃ?」
「常識的にはそうだ。だが、おれたちはその常識を覆そうとしている」
どうやらポッツが一人でやっていることではないらしい。
「ここまでくるのにかなり苦労したぜ。エイム草は繊細でな。単に魔力濃度を高く保つだけじゃ、育ってくれない。土や水はもちろん、温度や湿度などにも相当な注意が必要なんだ。少しでも環境が変わると、すぐに枯れてしまう」
「すごいね。エイム草って探してもなかなか手に入らなくて、だから効果の高いポーションは凄く貴重なんだよね」
そのため世界のポーションは非常に高価だ。
一介の冒険者では手が届かない。だから白魔法を使える者が、色んなパーティから引っ張りだこになるのである。
一応、粗悪なポーションであれば、他の薬草を使って作ることができた。
粗悪といっても、傷の治りを早めたりとか、前世の基準なら十分な効果を持っているのだけれど。
「ああ。つまりこの技術は、冒険者業界に革命を起こすものだ。……いや、それだけじゃない。魔薬の撲滅にも繋がる」
「魔薬の撲滅に……?」
関連性がよく分からず、僕は首を傾げる。
「実はな、魔薬の元となる魔草もまた、こんなふうに栽培されているんだ。しかもエイム草と比べると遥かに簡単だ。何の知識もない人間が、すぐに生産できるくらいにな」
そしてそれを担っているのが、元冒険者たちだという。
「この街は近くに良質な狩り場が幾つもあって、冒険者業が盛んな街だ。それゆえ多くの冒険者たちが一獲千金を求めて集まってくるんだが……その全員が、必ずしも夢を叶えられるわけじゃない」
十分な稼ぎを得られずに辞めていく者も少なくないという。
さらに年齢や怪我で引退する者もいる。
「生憎とこの街には、彼らの受け皿が十分にない状態だ。だから美味しい話に飛びつく。それが誰かの人生を終わらせ得る、悪魔の所業だと理解していながら、な」
「銀貨1枚と銅貨6枚になります」
「ぎぎぎ、銀貨1枚と銅貨6枚!?」
ファンがめちゃくちゃ食べまくったことで会計の際にポッツが再び涙したものの、少しこっちも出そうかという提案は即座に突っぱねるという男気を見せた。
「きょ、今日はおれの奢りっていう約束だったからな!」
かなりやけくそ気味だけど。
幸い酔いの方はすっかり冷めた様子である。
そうして店を出て、解散しようとしたときだった。
目の前をふらふらと横切る人影があった。
目は虚ろで、足取りが覚束ない。
何か小さくぶつぶつと呟いているかと思っていると、いきなり「あああああっ!」という奇声を発し、急に周囲に怯えて震え出した次の瞬間には、今度は大声で笑い出す。
かなり高齢の男……にも見えるが、もしかしたらそれほど歳はいってないかもしれない。
「……クスリをやってそうだね」
「よく分かったな? そうだ。あの男は間違いなく、魔薬の常習者だ」
魔薬。
飲めば一時的な高揚感や全能感を得られる薬物である。
だが危険な副作用を持ち、常用し続けると脳や精神が破壊され、やがては廃人と化してしまう。
「この街には、ああいう魔薬の被害者が少なくない」
ポッツがいつになく不愉快そうに言う。
「……ギャングのせいだ。やつらは魔薬が人の人生を壊す代物だと知ったうえで、それを売り捌き、資金源にしてやがる」
この街でギャング同士の抗争が激しいのは、魔薬で大金を稼げるからだという。
さらにそのお金は騎士団やギルド職員などへの賄賂となり、摘発を逃れているそうだ。
「時には一般人がその抗争に巻き込まれることもある。あいつらはこの街のガンのような存在だ……っ!」
過去にあった忌々しい事件を思い出しているのか、ポッツは声を荒らげた。
正義感の強い彼にとって、ギャングの存在は許せないのだろう。
「間違いないわ」
同意を示すファン。
彼女もギャングのせいで不利益を被った一人だからな。
「ギャングは潰すべきね」
「おお、お前さんのような才能ある新人が、そう言ってくれるのは頼もしいな」
実際に彼女は一つギャングを潰している。
「だがやつらは強大だ。やはり資金が豊富で、高性能な武具を容易に集められるのが大きい。それで構成員たちが普段から魔物を狩って、実戦を積んでるという話も聞く。しかも普段は対立しているギャング同士が、時に手を組むこともある。騎士団や冒険者ギルドがなかなか手を出せないのも、本気で潰そうとしたら自分たちもただじゃ済まないと理解してるからだ」
それでギャングがほとんど野放しにされているという。
つい先日、その一つが何者かに潰された一件が、界隈を大いに驚かせたのも当然だった。
「だが、手がないわけじゃない。やつらを弱体化させる方法があるかもしれないんだ。祝勝会のあとで悪いが……少し時間はあるか? ……お前さんたちなら、信頼ができる。ぜひ見てもらいたいものがあるんだ」
ポッツの案内で連れてこられたのは、街中にある倉庫のような建物だった。
中に入ると、空気が重たい感覚があった。
「魔力濃度が高い?」
危険な魔物が生息する森の深いところほどではないが、明らかに外とは魔力濃度が違っているのだ。
「さすがだな。あえて魔力の濃い状態を保っているんだ。あるものを育てるためにな」
そこには大量の鉢がずらりと並んでいた。
何らかの植物を育成しているのか、葉が出ているものもある。
「これは……もしかして、薬草?」
「そうだ。ポーション生成の原料として知られる薬草、エイム草を自家栽培しているんだ」
「薬草の自家栽培? 薬草って、魔力濃度の高い自然環境でしか育たないはずじゃ?」
「常識的にはそうだ。だが、おれたちはその常識を覆そうとしている」
どうやらポッツが一人でやっていることではないらしい。
「ここまでくるのにかなり苦労したぜ。エイム草は繊細でな。単に魔力濃度を高く保つだけじゃ、育ってくれない。土や水はもちろん、温度や湿度などにも相当な注意が必要なんだ。少しでも環境が変わると、すぐに枯れてしまう」
「すごいね。エイム草って探してもなかなか手に入らなくて、だから効果の高いポーションは凄く貴重なんだよね」
そのため世界のポーションは非常に高価だ。
一介の冒険者では手が届かない。だから白魔法を使える者が、色んなパーティから引っ張りだこになるのである。
一応、粗悪なポーションであれば、他の薬草を使って作ることができた。
粗悪といっても、傷の治りを早めたりとか、前世の基準なら十分な効果を持っているのだけれど。
「ああ。つまりこの技術は、冒険者業界に革命を起こすものだ。……いや、それだけじゃない。魔薬の撲滅にも繋がる」
「魔薬の撲滅に……?」
関連性がよく分からず、僕は首を傾げる。
「実はな、魔薬の元となる魔草もまた、こんなふうに栽培されているんだ。しかもエイム草と比べると遥かに簡単だ。何の知識もない人間が、すぐに生産できるくらいにな」
そしてそれを担っているのが、元冒険者たちだという。
「この街は近くに良質な狩り場が幾つもあって、冒険者業が盛んな街だ。それゆえ多くの冒険者たちが一獲千金を求めて集まってくるんだが……その全員が、必ずしも夢を叶えられるわけじゃない」
十分な稼ぎを得られずに辞めていく者も少なくないという。
さらに年齢や怪我で引退する者もいる。
「生憎とこの街には、彼らの受け皿が十分にない状態だ。だから美味しい話に飛びつく。それが誰かの人生を終わらせ得る、悪魔の所業だと理解していながら、な」
54
お気に入りに追加
1,883
あなたにおすすめの小説
農民レベル99 天候と大地を操り世界最強
九頭七尾
ファンタジー
【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。
仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて――
「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」
「片手で抜けますけど? こんな感じで」
「200キロはありそうな大根を片手で……?」
「小麦の方も収穫しますね。えい」
「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」
「手刀で真空波を起こしただけですけど?」
その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。
日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。
「これは投擲用大根だ」
「「「投擲用大根???」」」
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
【古代召喚魔法】を悪霊だとよばれ魔法学園を追放されました。でもエルフの王女に溺愛されて幸せです。だから邪魔する奴らは排除していいよね?
里海慧
ファンタジー
「レオ・グライス。君は呪いの悪霊を呼び寄せ、危険極まりない! よって本日をもって退学に処す!!」
最終学年に上がったところで、魔法学園を退学になったレオ。
この世界では魔物が跋扈しており、危険から身を守るために魔法が発達している。
だが魔法が全く使えない者は、呪われた存在として忌み嫌われていた。
魔法が使えないレオは貴族だけが通う魔法学園で、はるか昔に失われた【古代召喚魔法】を必死に習得した。
しかし召喚魔法を見せても呪いの悪霊だと誤解され、危険人物と認定されてしまう。
学園を退学になり、家族からも見捨てられ居場所がなくなったレオは、ひとりで生きていく事を決意。
森の奥深くでエルフの王女シェリルを助けるが、深い傷を負ってしまう。だがシェリルに介抱されるうちに心を救われ、王女の護衛として雇ってもらう。
そしてシェリルの次期女王になるための試練をクリアするべく、お互いに想いを寄せながら、二人は外の世界へと飛び出していくのだった。
一方レオを追い出した者たちは、次期女王の試練で人間界にやってきたシェリルに何とか取り入ろうとする。
そして邪魔なレオを排除しようと画策するが、悪事は暴かれて一気に転落していくのだった。
※きゅんきゅんするハイファンタジー、きゅんファン目指してます。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
魔の女王
香穂
ファンタジー
リウ王国正史において初の女王が即位。
在位三日。
国を腐敗させ、己の私利私欲のために数多の民を虐げたとして、魔の女王チマジムと呼ばれる――。
これは、魔の女王と呼ばれることとなる王女と、ちょっと泣き虫なマナ使いの物語。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる