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第33話 むしろスリルが欲しいわ
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「また随分と溜まったね」
【映像ボックス】の画面に映っていたのは、大量の素材や魔石だった。
沼地に棲息するリザードマンを、シャドウナイツが倒して得たものだ。
【アイテムボックス】がないため、いったん沼地からほど近いところに生えている木の洞に隠しておいて、定期的に回収している。
試験に合格して正式な冒険者となり、明日は依頼で街の外に行くつもりだった。
見習いだと基本、街の外の依頼は受けられなかったからね。
なので今日のうちにいったん回収をしておきたかったのだ。
「ん? 随分と密度の高い魔石があるな?」
他のものとは明らかに輝きの違う魔石があった。
ハイオークやビッグシットスライムの魔石に匹敵するだろう。
「シャドウナイツがリザードマンの上位種でも倒してくれたのかな」
この沼地にはごく稀に、リザードマンの上位種であるエルダーリザードが出現するという。
僕はすぐに【ホースバイク】のセキトバに乗って沼地に向かうと、素材と魔石を回収して街にUターン。
「よし、この魔石があれば、もう一つ【アイテムボックス】を作れそうだ」
すぐに空間魔法を使い、【アイテムボックス】をクラフトする。
これでシャドウナイツが入手した素材や魔石を、大量に保管しつつ、持ち歩くこともできるようになった。
素材を隠すため、わざわざ沼地の内外を行ったり来たりする必要はない。
もっと沼地の奥にまでシャドウナイツを突入させられるようになり、より効率よくリザードマン狩りができるだろう。
「聞いたぞ! 二人とも合格したんだってな! おめでとう!」
いったいどこで聞きつけてきたのか、翌日冒険者ギルドに行くと、ポッツが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「うん、ポッツさんのお陰だよ」
「いやいや、おれは大したことしてないぞ! お前さんたちの実力だ!」
「でも、ギルドに僕たちのことを良く言ってくれたんでしょ?」
「むしろ事実をそのまま伝えただけだ! 最初は誇張だと思われたがな! はっはっは!」
にもかかわらずギルドが話を信用してくれたのは、きっとポッツの人徳によるものだろう。
ランクはEだが……。
「こいつは祝勝会をしないとな! よかったら今晩、メシくらい奢らせてくれ! 遠慮は要らない! 単におれが酒を飲むアテが欲しいだけだからな!」
「それならお言葉に甘えようかな。ファンは?」
「奢りなら食べるわ」
そういうことになった。
僕たちが依頼を終えて戻ってきた夕方以降、また冒険者ギルドで落ち合うことにして、ひとまずポッツと別れる。
ちなみに僕らがこれから挑戦する依頼は次の通り。
〈岩場に棲息する岩ゴブリンの討伐。討伐した数に応じた報酬。討伐を証明する部位として、岩ゴブリンの角を持ち帰ること〉
岩ゴブリンは岩場に棲息しているゴブリンだ。
通常のゴブリンは緑色をしているが、周囲の岩の色と同化するように少し茶色味を帯びている。沼地のリザードマンの鱗が茶色いのと同じだ。
ほんの少しだけ動きが鈍くて防御力が高いそうだが、通常のゴブリンと強さはほぼ変わらないと考えていい。
そんなわけで、この街の駆け出しの冒険者が最初に狩るのが、この岩ゴブリンだという。
「歩いていくと一、二時間くらいはかかるみたいだから、【ホースバイク】で行くよ」
「バイク?」
「うん、これだよ」
【ホースバイク】のセキトバを【アイテムボックス】から取り出す。
「変な馬ね」
「いや、カッコいいでしょ? 後ろに乗ってよ」
ファンを後ろに乗せ、セキトバを起動する。
ブルルルルルルンッ!!
「振り落とされないよう、しっかり捕まっててね」
「分かったわ」
アクセルを回し、セキトバを発進させた。
「~~~~~~っ!?」
予想外の加速にファンが息を呑むのが分かった。
僕の腰に回した腕に力が籠る。
「……速い」
「でしょ? 大丈夫、怖くない?」
「怖くないわ。むしろ楽しい。もっと速くてもいいくらいよ」
「じゃあ、さらに加速するよ」
街道を猛スピードで疾走するセキトバ。
途中で前方を進む旅の商人らしき馬車が見えたが、あっという間に追いつき、瞬く間に抜き去っていく。
「……へ?」
後方から唖然としたような声が聞こえた気がしたが、それも一瞬で置き去りに。
「すごいわ。もっと速くできる?」
「できるけど、さすがに危ないよ」
「望むところよ。むしろスリルが欲しいわ」
この猫娘、世が世なら走り屋になっているかもしれない。
決して走りやすい道というわけではないのに、すでに時速百キロは出てるんだけどな?
「ちょっとだけでいいから」
「よくないよ。僕は君と違って安全第一なの」
前方が開けた街道なので事故る心配はないだろうが、余計なリスクは負わなくていい。
スリルとか要らないし。
まぁ彼女の身体能力があればバイクから転落しても余裕だし、僕も最悪、魔法で何とかなるだろうけど。
セキトバを飛ばしたお陰で、目的地の岩場にはほんの十分くらいで着いてしまった。
巨大な岩が無数に点在する広大な一帯で、隠れる場所が無数にありそうだ。
この広い岩場には岩ゴブリンの巣穴もたくさんあるようで、岩ゴブリンが群れで襲い掛かってくることも少なくないとか。
そして岩場の奥地に行くほどその傾向は顕著らしい。
駆け出しのEランク冒険者は、なるべく岩場の浅いところで狩りを行うべきだと、依頼を受ける際に受付嬢から念を押されたっけ。
「まとめてたくさん斬りたいから、深いとこに行くわ」
……この好戦的な猫娘は、受付嬢の忠告など完全に右から左だが。
【映像ボックス】の画面に映っていたのは、大量の素材や魔石だった。
沼地に棲息するリザードマンを、シャドウナイツが倒して得たものだ。
【アイテムボックス】がないため、いったん沼地からほど近いところに生えている木の洞に隠しておいて、定期的に回収している。
試験に合格して正式な冒険者となり、明日は依頼で街の外に行くつもりだった。
見習いだと基本、街の外の依頼は受けられなかったからね。
なので今日のうちにいったん回収をしておきたかったのだ。
「ん? 随分と密度の高い魔石があるな?」
他のものとは明らかに輝きの違う魔石があった。
ハイオークやビッグシットスライムの魔石に匹敵するだろう。
「シャドウナイツがリザードマンの上位種でも倒してくれたのかな」
この沼地にはごく稀に、リザードマンの上位種であるエルダーリザードが出現するという。
僕はすぐに【ホースバイク】のセキトバに乗って沼地に向かうと、素材と魔石を回収して街にUターン。
「よし、この魔石があれば、もう一つ【アイテムボックス】を作れそうだ」
すぐに空間魔法を使い、【アイテムボックス】をクラフトする。
これでシャドウナイツが入手した素材や魔石を、大量に保管しつつ、持ち歩くこともできるようになった。
素材を隠すため、わざわざ沼地の内外を行ったり来たりする必要はない。
もっと沼地の奥にまでシャドウナイツを突入させられるようになり、より効率よくリザードマン狩りができるだろう。
「聞いたぞ! 二人とも合格したんだってな! おめでとう!」
いったいどこで聞きつけてきたのか、翌日冒険者ギルドに行くと、ポッツが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「うん、ポッツさんのお陰だよ」
「いやいや、おれは大したことしてないぞ! お前さんたちの実力だ!」
「でも、ギルドに僕たちのことを良く言ってくれたんでしょ?」
「むしろ事実をそのまま伝えただけだ! 最初は誇張だと思われたがな! はっはっは!」
にもかかわらずギルドが話を信用してくれたのは、きっとポッツの人徳によるものだろう。
ランクはEだが……。
「こいつは祝勝会をしないとな! よかったら今晩、メシくらい奢らせてくれ! 遠慮は要らない! 単におれが酒を飲むアテが欲しいだけだからな!」
「それならお言葉に甘えようかな。ファンは?」
「奢りなら食べるわ」
そういうことになった。
僕たちが依頼を終えて戻ってきた夕方以降、また冒険者ギルドで落ち合うことにして、ひとまずポッツと別れる。
ちなみに僕らがこれから挑戦する依頼は次の通り。
〈岩場に棲息する岩ゴブリンの討伐。討伐した数に応じた報酬。討伐を証明する部位として、岩ゴブリンの角を持ち帰ること〉
岩ゴブリンは岩場に棲息しているゴブリンだ。
通常のゴブリンは緑色をしているが、周囲の岩の色と同化するように少し茶色味を帯びている。沼地のリザードマンの鱗が茶色いのと同じだ。
ほんの少しだけ動きが鈍くて防御力が高いそうだが、通常のゴブリンと強さはほぼ変わらないと考えていい。
そんなわけで、この街の駆け出しの冒険者が最初に狩るのが、この岩ゴブリンだという。
「歩いていくと一、二時間くらいはかかるみたいだから、【ホースバイク】で行くよ」
「バイク?」
「うん、これだよ」
【ホースバイク】のセキトバを【アイテムボックス】から取り出す。
「変な馬ね」
「いや、カッコいいでしょ? 後ろに乗ってよ」
ファンを後ろに乗せ、セキトバを起動する。
ブルルルルルルンッ!!
「振り落とされないよう、しっかり捕まっててね」
「分かったわ」
アクセルを回し、セキトバを発進させた。
「~~~~~~っ!?」
予想外の加速にファンが息を呑むのが分かった。
僕の腰に回した腕に力が籠る。
「……速い」
「でしょ? 大丈夫、怖くない?」
「怖くないわ。むしろ楽しい。もっと速くてもいいくらいよ」
「じゃあ、さらに加速するよ」
街道を猛スピードで疾走するセキトバ。
途中で前方を進む旅の商人らしき馬車が見えたが、あっという間に追いつき、瞬く間に抜き去っていく。
「……へ?」
後方から唖然としたような声が聞こえた気がしたが、それも一瞬で置き去りに。
「すごいわ。もっと速くできる?」
「できるけど、さすがに危ないよ」
「望むところよ。むしろスリルが欲しいわ」
この猫娘、世が世なら走り屋になっているかもしれない。
決して走りやすい道というわけではないのに、すでに時速百キロは出てるんだけどな?
「ちょっとだけでいいから」
「よくないよ。僕は君と違って安全第一なの」
前方が開けた街道なので事故る心配はないだろうが、余計なリスクは負わなくていい。
スリルとか要らないし。
まぁ彼女の身体能力があればバイクから転落しても余裕だし、僕も最悪、魔法で何とかなるだろうけど。
セキトバを飛ばしたお陰で、目的地の岩場にはほんの十分くらいで着いてしまった。
巨大な岩が無数に点在する広大な一帯で、隠れる場所が無数にありそうだ。
この広い岩場には岩ゴブリンの巣穴もたくさんあるようで、岩ゴブリンが群れで襲い掛かってくることも少なくないとか。
そして岩場の奥地に行くほどその傾向は顕著らしい。
駆け出しのEランク冒険者は、なるべく岩場の浅いところで狩りを行うべきだと、依頼を受ける際に受付嬢から念を押されたっけ。
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