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第29話 そしてサインをくれ
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「下水道を奇麗に保つ魔道具なんて……本当にそんなものを作れるのか……?」
「うん、この前、倒したビッグシットスライムの魔石を使えばね」
僕たちは再びポッツと共に下水道にやってきていた。
「ここが端っこだね」
「ああ。下水道はずっと緩やかな坂になっていて、各家庭からの排水を引き受けつつ、最終的には近くの川に流れ出る。ここはその川とは、街を挟んでちょうど反対側だ」
街を貫く形で通る、長い下水道の起点。
そこに僕は、とある魔道具を設置した。
大きな箱状の土台の上に、砲身のような筒状の物体が付いた魔道具だ。
「随分と物騒な感じの形状だが……これがその魔道具なのか?」
「そうだよ。まぁ見ててよ」
僕はその魔道具を起動する。
すると筒の部分から、凄まじい勢いで水が発射された。
「な、な、な、何だこれは!?」
「僕がクラフトした【無限ウォーターキャノン】だよ」
青魔法を利用し、永久に水を放出し続けるようにした魔道具だ。
下水道には、街の各所に降った雨水が取り込まれる仕組みになっている。
雨水によって汚水が流れていくようにするためだ。
だけど、雨は必ずしも定期的に降ってくれるわけではない。
長い間、雨が降らないと上手く汚水が流れず、下水道がどんどん汚れていく。
「それでこの魔道具なんだ。常に水を流し続けることで、汚水が貯まらないようにできるはずだよ」
単に水を出し続けるだけだし、構造自体は非常に簡単だ。
ただ、街の下水道をカバーするには大量の水が必要になる。
「それだけ動力源となる魔力が要るんだ。ビッグシットスライムの魔石がなければ、すぐにはクラフトできなかったよ。ビッグシットスライムがいてくれたお陰でシットスライムの発生を防げるようになるなんて、ちょっと皮肉な感じだね」
ちなみに金属は水で腐食しやすいので、それを防ぐために砲身の内側には、つい最近、手に入れたばかりの撥水性の高い素材を使っていた。
リザードマンの鱗である。
沼地に棲息しているだけあって、水に強いのだ。
リザードマンのいる狩り場を選んだ理由の一つが、素材をこの魔道具のクラフトに利用できるかもしれないと思ったからだった。
「て、て、て、天才だあああああああああっ!」
突然、ポッツが叫んだ。
「馬鹿なおれでも分かる! お前さんは天才だ! 将来きっと歴史に名を残す! よ、よかったらサインをもらってもいいか!?」
「お、大袈裟だよ」
鼻息荒く迫られ、僕は思わず後退る。
「いいや! 間違いない! 逆になぜ冒険者になろうとしているのか不思議なくらいだぞ!? こんなすごい魔道具をクラフトできるなら、それだけで十分に食っていけるだろうに!」
「うーん、そうかもしれないけど……でも、僕はもっといろんな魔道具をクラフトしてみたいんだ」
魔道具を作るには素材が要る。
今すでに頭の中で構想を練っている魔道具の中には、適切な素材がないせいで作れていないものも少なくなかった。
「すでにクラフト済みの魔道具も、素材の改良余地があるしね」
例えば【洗濯ボックス】なんかは、【無限ウォーターキャノン】と同じようにリザードマンの鱗を使うことで、よりサビに強いものにできるだろう。
「各地を旅しながら、クラフトに役立つ素材を探してみたいんだ。ついでに高度な魔道具になるとより魔力密度の高い魔石も必要になるしね」
「す、凄すぎるぜ! その歳で、そこまではっきりと目的をもって生きているなんて……っ! やっぱりお前さんは将来、大物になるぜ! 間違いない! そしてサインをくれ!」
「別に構わないけど……」
仕方がないのでサインを書いてあげたら、めちゃくちゃ喜ばれた。
「どう考えてもお前さんは見習いにしておいていい人材じゃない! そっちの獣人の嬢ちゃんもな! 一刻も早く試験を受けられるよう、おれからギルドに訴えておくぜ!」
下水道を後にすると、ポッツはそう威勢よく受け合った。
「……私は何もしてないけど?」
ポッツはああ言ってくれたが、一応僕たちは油断せずに見習いの仕事を続けた。
迷子犬を探す依頼では、嗅覚に優れたファンが大いに活躍し、依頼主の家から二百メートルほど離れた場所にある公園で発見した。
どうやら頻繁に迷子になってしまう犬らしかったので、いる方角や距離が分かる魔道具【探知チョーカー】をクラフトしてプレゼントすると、大いに感謝された。
目印を付けた相手を追跡できる、第二階級の無属性魔法のマーキングを組み込んでクラフトしたものだ。
ストーカー被害に遭っているという女性の護衛依頼では、怪しい男を見つけたものの、何もしていないとしらを切られてしまった。
ファンは「斬ればいい」と主張したが、さすがにそういうわけにはいかない。
一度は見逃すことにして、代わりに依頼女性に【スタン銃】をあげた。
第二階級緑魔法サンダースタンを活用した銃型の護身用魔道具で、相手を麻痺状態にできる。
そして後日、男に襲われたところをこの【スタン銃】で無事に撃退し、現行犯として騎士団に突き出すことができたと喜ばれたのだった。
「魔道具の持つ最大の価値って、やっぱり魔法を使えない人でも使える点だよね」
自分がクラフトした魔道具が誰かの問題を解決し、その人が喜んでくれると、こちらも嬉しくなる。
「もっと色んな魔道具をクラフトできるようになりたいな」
「うん、この前、倒したビッグシットスライムの魔石を使えばね」
僕たちは再びポッツと共に下水道にやってきていた。
「ここが端っこだね」
「ああ。下水道はずっと緩やかな坂になっていて、各家庭からの排水を引き受けつつ、最終的には近くの川に流れ出る。ここはその川とは、街を挟んでちょうど反対側だ」
街を貫く形で通る、長い下水道の起点。
そこに僕は、とある魔道具を設置した。
大きな箱状の土台の上に、砲身のような筒状の物体が付いた魔道具だ。
「随分と物騒な感じの形状だが……これがその魔道具なのか?」
「そうだよ。まぁ見ててよ」
僕はその魔道具を起動する。
すると筒の部分から、凄まじい勢いで水が発射された。
「な、な、な、何だこれは!?」
「僕がクラフトした【無限ウォーターキャノン】だよ」
青魔法を利用し、永久に水を放出し続けるようにした魔道具だ。
下水道には、街の各所に降った雨水が取り込まれる仕組みになっている。
雨水によって汚水が流れていくようにするためだ。
だけど、雨は必ずしも定期的に降ってくれるわけではない。
長い間、雨が降らないと上手く汚水が流れず、下水道がどんどん汚れていく。
「それでこの魔道具なんだ。常に水を流し続けることで、汚水が貯まらないようにできるはずだよ」
単に水を出し続けるだけだし、構造自体は非常に簡単だ。
ただ、街の下水道をカバーするには大量の水が必要になる。
「それだけ動力源となる魔力が要るんだ。ビッグシットスライムの魔石がなければ、すぐにはクラフトできなかったよ。ビッグシットスライムがいてくれたお陰でシットスライムの発生を防げるようになるなんて、ちょっと皮肉な感じだね」
ちなみに金属は水で腐食しやすいので、それを防ぐために砲身の内側には、つい最近、手に入れたばかりの撥水性の高い素材を使っていた。
リザードマンの鱗である。
沼地に棲息しているだけあって、水に強いのだ。
リザードマンのいる狩り場を選んだ理由の一つが、素材をこの魔道具のクラフトに利用できるかもしれないと思ったからだった。
「て、て、て、天才だあああああああああっ!」
突然、ポッツが叫んだ。
「馬鹿なおれでも分かる! お前さんは天才だ! 将来きっと歴史に名を残す! よ、よかったらサインをもらってもいいか!?」
「お、大袈裟だよ」
鼻息荒く迫られ、僕は思わず後退る。
「いいや! 間違いない! 逆になぜ冒険者になろうとしているのか不思議なくらいだぞ!? こんなすごい魔道具をクラフトできるなら、それだけで十分に食っていけるだろうに!」
「うーん、そうかもしれないけど……でも、僕はもっといろんな魔道具をクラフトしてみたいんだ」
魔道具を作るには素材が要る。
今すでに頭の中で構想を練っている魔道具の中には、適切な素材がないせいで作れていないものも少なくなかった。
「すでにクラフト済みの魔道具も、素材の改良余地があるしね」
例えば【洗濯ボックス】なんかは、【無限ウォーターキャノン】と同じようにリザードマンの鱗を使うことで、よりサビに強いものにできるだろう。
「各地を旅しながら、クラフトに役立つ素材を探してみたいんだ。ついでに高度な魔道具になるとより魔力密度の高い魔石も必要になるしね」
「す、凄すぎるぜ! その歳で、そこまではっきりと目的をもって生きているなんて……っ! やっぱりお前さんは将来、大物になるぜ! 間違いない! そしてサインをくれ!」
「別に構わないけど……」
仕方がないのでサインを書いてあげたら、めちゃくちゃ喜ばれた。
「どう考えてもお前さんは見習いにしておいていい人材じゃない! そっちの獣人の嬢ちゃんもな! 一刻も早く試験を受けられるよう、おれからギルドに訴えておくぜ!」
下水道を後にすると、ポッツはそう威勢よく受け合った。
「……私は何もしてないけど?」
ポッツはああ言ってくれたが、一応僕たちは油断せずに見習いの仕事を続けた。
迷子犬を探す依頼では、嗅覚に優れたファンが大いに活躍し、依頼主の家から二百メートルほど離れた場所にある公園で発見した。
どうやら頻繁に迷子になってしまう犬らしかったので、いる方角や距離が分かる魔道具【探知チョーカー】をクラフトしてプレゼントすると、大いに感謝された。
目印を付けた相手を追跡できる、第二階級の無属性魔法のマーキングを組み込んでクラフトしたものだ。
ストーカー被害に遭っているという女性の護衛依頼では、怪しい男を見つけたものの、何もしていないとしらを切られてしまった。
ファンは「斬ればいい」と主張したが、さすがにそういうわけにはいかない。
一度は見逃すことにして、代わりに依頼女性に【スタン銃】をあげた。
第二階級緑魔法サンダースタンを活用した銃型の護身用魔道具で、相手を麻痺状態にできる。
そして後日、男に襲われたところをこの【スタン銃】で無事に撃退し、現行犯として騎士団に突き出すことができたと喜ばれたのだった。
「魔道具の持つ最大の価値って、やっぱり魔法を使えない人でも使える点だよね」
自分がクラフトした魔道具が誰かの問題を解決し、その人が喜んでくれると、こちらも嬉しくなる。
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