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第26話 鼻が死にそうだわ
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「今日はここのゴミを片づける!」
貧民区の一画。
道のど真ん中に積み上げられたゴミの山があった。
ゴミ処理場はここからそれなりの距離がある。
こんな大量のゴミをそこまで運ぶだけでも重労働だが、それ以上にこちらの意欲を萎えさせる大きな要因があった。
鼻が曲がりそうなほど強烈な悪臭だ。
腐った生ゴミや糞尿まで放置されているのだから当然だろう。
「……鼻が死にそうだわ」
獣人で鼻が利くファンは涙目だ。
よく見るとネズミや害虫の姿もある。
正直、大金を積まれてもやりたくない仕事だった。
「はっはっはっ! なかなかハードそうな仕事だろう! だが冒険者を目指すなら越えていかなければならない壁だ! コツは〝無〟になること! 無心になれば、ゴミの汚さも臭いも気にならなくなる!」
「ディメンションホール」
「って、ゴミが消えていく!?」
ポッツが威勢よくコツを教えてくれていたが、その横で僕は時空魔法を使っていた。
これは時空魔法の中では最も簡単な第一階級魔法で、亜空間へと通じる穴を作り出すというもの。
完全に一方通行の穴なので、ここにモノを放り込んでしまうと、再びそれを取り出すことは不可能だ。
だがゴミを捨てるにはもってこいである。
「こ、こんな魔法、見たことないぞ……?」
「二人はこれを使って」
「「箱?」」
「【無限ゴミ箱】。ゴミを幾らでも捨てることができるよ」
この【無限ゴミ箱】は、まさに僕が今使っているディメンションホールの魔法を利用したものだった。
「す、すごいぞ!? 本当にゴミが消えていく! なんて素晴らしい魔道具だ!」
興奮した様子のポッツ。
いつも自力でごみ処理をしている彼からすれば、夢のような魔道具なのだろう。
気づけばあっという間に大量のゴミが消え去っていた。
「こんなに早く片付いてしまうなんて……っ! な、なあ! こんな便利なもの、一体どこで手に入れたんだ!?」
「僕がクラフトしたものだよ」
「自分で作ったのか!? ど、どうやって作るんだ!?」
よほど気に入ったのか、ポッツは鼻息を荒くしながら聞いてくる。
「いや、魔法が使えないおれじゃ、聞いたところでチンプンカンプンだ……っ! くっ、こんなことなら魔法を学んでおくべきだった……」
「よかったら一つあげようか?」
「いいのか!?」
「うん。どうせ何個かあるし」
しかも【無限ゴミ箱】は、クラフト自体はそう難しいものではない。
超難解な時空魔法を理解していれば、の話だが。
「おおおおおおおおおっ! これがあればゴミ処理がめちゃくちゃ捗るぞっ! ありがとう! ありがとう!」
感動で涙まで流しながら礼を言ってくるポッツ。
正直ここまで喜んでくれたら、こっちも嬉しい。
「今の【無限ゴミ箱】だと、泥状のものを捨てるのは大変だよね。次に会うときまでに、泥や液体を吸い込めるタイプのものをクラフトしておくよ」
「そんなことまでできるのか!? 神か! 君は神なのか!」
ついには両手を合わせて拝まれてしまった。
翌日、僕とファンは下水道へと繋がる街の水路沿いにやってきていた。
下水道の掃除。それが今日の見習い仕事だ。
「またこの人ね」
「他にいないのかな……」
僕たちを待っていた教育係は、三回連続となる中年のEランク冒険者、ポッツだった。
「こんな朝から仕事を請け負うなんて、お前さんたちは本当に有望だぞ! しかも下水道掃除なんて、最近の若い見習いたちがやりたがらない仕事だ!」
早朝だというのに相変わらず元気である。
水路の壁面にある入り口から下水道へと足を踏み入れる。
残念ながら前世の知識にあるような高度な下水処理能力があるわけではないため、ほとんどトイレの水がそのまま流れてきているような状態だった。
当然、昨日のゴミ山に匹敵する、いや、それ以上の悪臭だ。
ただ、僕は第二階級緑魔法のエアバブルを使い、顔の周囲に新鮮な空気を作り出ことで悪臭を無効化できる。昨日もこれを使っていた。
ファンにも使ってやる。
ポッツは慣れているのか、平気そうなので大丈夫だろう。
「掃除って、ゴミとか泥の詰まりをどうにかするってこと?」
「それもあるが、もっと重要なことがある。っと、早速いたぞ」
ポッツが下水道の奥を指さす。
通路の床で、直径三十センチくらいの何かが動いていた。
「あれは……スライム?」
「そうだ! あいつは糞尿を喰らって成長、繁殖する、ある意味で最強最悪のスライム、シットスライムだ!」
まさに糞尿の色そのものといったそのスライムは、戦闘能力こそ通常のスライムと大差ない最弱だというが、身体から汚水を発射して攻撃してくるらしい。
確かにある意味で最強最悪だ。
「斬る?」
「……遠慮しておくわ」
さすがのファンもシットスライムは斬りたくないようだ。
「だが倒さなければどんどん増えて、やがて下水から這い出してくるようになる! かつて下水掃除を怠ったがために、街中シットスライムだらけになって滅びた街もあるそうだ!」
そんな滅び方、嫌すぎる。
「誰かがやらねばならぬのだ!」
そう威勢よく叫び、ポッツは手にした長めの棍棒でシットスライムに立ち向かっていく。
……初めて彼が戦うところを見たが、少しだけかっこよく思えた。
「ファイアボール」
まぁ、その前に火の玉を直撃させ、燃やしてやったが。
わざわざ危険な接近戦を挑む意味はないしね。
貧民区の一画。
道のど真ん中に積み上げられたゴミの山があった。
ゴミ処理場はここからそれなりの距離がある。
こんな大量のゴミをそこまで運ぶだけでも重労働だが、それ以上にこちらの意欲を萎えさせる大きな要因があった。
鼻が曲がりそうなほど強烈な悪臭だ。
腐った生ゴミや糞尿まで放置されているのだから当然だろう。
「……鼻が死にそうだわ」
獣人で鼻が利くファンは涙目だ。
よく見るとネズミや害虫の姿もある。
正直、大金を積まれてもやりたくない仕事だった。
「はっはっはっ! なかなかハードそうな仕事だろう! だが冒険者を目指すなら越えていかなければならない壁だ! コツは〝無〟になること! 無心になれば、ゴミの汚さも臭いも気にならなくなる!」
「ディメンションホール」
「って、ゴミが消えていく!?」
ポッツが威勢よくコツを教えてくれていたが、その横で僕は時空魔法を使っていた。
これは時空魔法の中では最も簡単な第一階級魔法で、亜空間へと通じる穴を作り出すというもの。
完全に一方通行の穴なので、ここにモノを放り込んでしまうと、再びそれを取り出すことは不可能だ。
だがゴミを捨てるにはもってこいである。
「こ、こんな魔法、見たことないぞ……?」
「二人はこれを使って」
「「箱?」」
「【無限ゴミ箱】。ゴミを幾らでも捨てることができるよ」
この【無限ゴミ箱】は、まさに僕が今使っているディメンションホールの魔法を利用したものだった。
「す、すごいぞ!? 本当にゴミが消えていく! なんて素晴らしい魔道具だ!」
興奮した様子のポッツ。
いつも自力でごみ処理をしている彼からすれば、夢のような魔道具なのだろう。
気づけばあっという間に大量のゴミが消え去っていた。
「こんなに早く片付いてしまうなんて……っ! な、なあ! こんな便利なもの、一体どこで手に入れたんだ!?」
「僕がクラフトしたものだよ」
「自分で作ったのか!? ど、どうやって作るんだ!?」
よほど気に入ったのか、ポッツは鼻息を荒くしながら聞いてくる。
「いや、魔法が使えないおれじゃ、聞いたところでチンプンカンプンだ……っ! くっ、こんなことなら魔法を学んでおくべきだった……」
「よかったら一つあげようか?」
「いいのか!?」
「うん。どうせ何個かあるし」
しかも【無限ゴミ箱】は、クラフト自体はそう難しいものではない。
超難解な時空魔法を理解していれば、の話だが。
「おおおおおおおおおっ! これがあればゴミ処理がめちゃくちゃ捗るぞっ! ありがとう! ありがとう!」
感動で涙まで流しながら礼を言ってくるポッツ。
正直ここまで喜んでくれたら、こっちも嬉しい。
「今の【無限ゴミ箱】だと、泥状のものを捨てるのは大変だよね。次に会うときまでに、泥や液体を吸い込めるタイプのものをクラフトしておくよ」
「そんなことまでできるのか!? 神か! 君は神なのか!」
ついには両手を合わせて拝まれてしまった。
翌日、僕とファンは下水道へと繋がる街の水路沿いにやってきていた。
下水道の掃除。それが今日の見習い仕事だ。
「またこの人ね」
「他にいないのかな……」
僕たちを待っていた教育係は、三回連続となる中年のEランク冒険者、ポッツだった。
「こんな朝から仕事を請け負うなんて、お前さんたちは本当に有望だぞ! しかも下水道掃除なんて、最近の若い見習いたちがやりたがらない仕事だ!」
早朝だというのに相変わらず元気である。
水路の壁面にある入り口から下水道へと足を踏み入れる。
残念ながら前世の知識にあるような高度な下水処理能力があるわけではないため、ほとんどトイレの水がそのまま流れてきているような状態だった。
当然、昨日のゴミ山に匹敵する、いや、それ以上の悪臭だ。
ただ、僕は第二階級緑魔法のエアバブルを使い、顔の周囲に新鮮な空気を作り出ことで悪臭を無効化できる。昨日もこれを使っていた。
ファンにも使ってやる。
ポッツは慣れているのか、平気そうなので大丈夫だろう。
「掃除って、ゴミとか泥の詰まりをどうにかするってこと?」
「それもあるが、もっと重要なことがある。っと、早速いたぞ」
ポッツが下水道の奥を指さす。
通路の床で、直径三十センチくらいの何かが動いていた。
「あれは……スライム?」
「そうだ! あいつは糞尿を喰らって成長、繁殖する、ある意味で最強最悪のスライム、シットスライムだ!」
まさに糞尿の色そのものといったそのスライムは、戦闘能力こそ通常のスライムと大差ない最弱だというが、身体から汚水を発射して攻撃してくるらしい。
確かにある意味で最強最悪だ。
「斬る?」
「……遠慮しておくわ」
さすがのファンもシットスライムは斬りたくないようだ。
「だが倒さなければどんどん増えて、やがて下水から這い出してくるようになる! かつて下水掃除を怠ったがために、街中シットスライムだらけになって滅びた街もあるそうだ!」
そんな滅び方、嫌すぎる。
「誰かがやらねばならぬのだ!」
そう威勢よく叫び、ポッツは手にした長めの棍棒でシットスライムに立ち向かっていく。
……初めて彼が戦うところを見たが、少しだけかっこよく思えた。
「ファイアボール」
まぁ、その前に火の玉を直撃させ、燃やしてやったが。
わざわざ危険な接近戦を挑む意味はないしね。
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