上 下
25 / 48

第25話 何の参考にもならなかったです

しおりを挟む
 見習い冒険者になった僕とファンは、街のパトロールを行っていた。
 十分ベテランの年齢なのにまだEランク冒険者だというポッツから、詳しいやり方を教わりつつ治安の悪い区域を巡回していると、二人組の男が揉めているところに出くわした。

「ここはおれに任せておきな!」

 先輩らしくお手本を見せてくれるようで、ポッツが割り込んでいく。

「おいおい、喧嘩はよくないぜ、お二人さん? まずは何があったか、おれに事情を話してみるのはどうだい?」
「ああっ? なんだ、てめぇ!?」
「おっさんは引っ込んでやがれ!」
「ぶごっ!?」

 あ、殴られた。

「ま、待て待て! と、とにかく話し合おう! なっ、なっ? おれを殴ったところで、何の解決にもならないぜ!」
「うるせぇ、雑魚が命令するんじゃねぇ!」
「ぶっ殺すぞ、こら!」
「ぎゃっ?」

 二人組にボコボコにされるポッツ。

 最初はあえて攻撃を受けているだけかと思ったが、どうもそんな感じではない。
 普通にダメージを喰らって、かなり痛がっている。

 しかしそれで怒りが収まったのか、ひとしきりポッツを暴行した後は言い争いを再開することなく、二人組はそのまま別々の方向に去っていった。

「ふ、ふう……一件落着だなっ!」

 満足げに頷くポッツだが、顔があちこち赤く腫れている。
 一体どこが一件落着なのか。

「……大丈夫? かなり痛そうだけど」
「だ、大丈夫だ! それよりちゃんと見ていたかっ? 参考になっただろう! 冒険者たるもの、身体を張るのは当然だからな!」
「いえ、何の参考にもならなかったです」

 ポッツが最底辺のEランク冒険者である理由は、火を見るより明らかだ。
 単純に弱すぎるのである。

「ええと……痛そうなので治しておくね? ヒール」
「見る見るうちに痛みが引いていく……っ!? 君は白魔法を使えるのかっ?」
「まぁ、一応」
「それはすごい! 白魔法の使い手は希少だからな! 冒険者になれば、きっと色んなパーティから引く手あまたになるだろう!」

 ポッツは懲りることなくパトロールを続けた。
 壁に落書きをしている少年たちに注意して殴られ、ホームレスたちの縄張り争いを止めようとして蹴られ、逃げるひったくりを捕まえようとしてあっさり吹き飛ばされた。

「はぁはぁ……どうだ? パトロールもなかなか大変な仕事だろう?」
「……そうですね」

 確かにポッツの実力では、パトロールが精一杯の仕事に違いない。
 ファンがぼそりと呟く。

「どれも斬ればいいだけ」

 この二人、両極端すぎる……。

「ここから先はさらに危険な一帯だ。なにせ、街有数のギャングの拠点がある」

 緊張の面持ちで告げるポッツ。

「ただ、今日ばかりは少し事情が違っているかもしれないな。なにせつい昨夜、そのギャングの拠点が一夜にして壊滅したらしいんだ。詳しいことはまだおれも知らないが、すでに街中で噂になっている」

 そこで僕はファンと顔を見合せた。

「それって」
「間違いないわ」

 よくよく見てみると、この辺りの光景に見覚えがあった。
 もう少し向こうにいけば、恐らく昨晩、ファンが復讐のために乗り込んだギャングの拠点があるだろう。

「見ろ、騎士団の連中が建物の前に集まっている。どうやら噂は本当だったようだな。なんにしても、ありがたい限りだ。ギャング同士の抗争で、一般人が犠牲になることも少なくなかったからな。ただ、残念ながら手放しで喜べるってわけじゃない。各勢力のパワーバランスが崩れたことで、大きな抗争に発展する可能性もある」
「冒険者が集まって、一つずつ潰していくってことはできないの?」

 なぜギャングを放置しているのか気になって、僕はポッツに訊いた。

「ううむ、それはもっともな話なんだが……事情は少々ややこしくてな。実はギャングが引退した冒険者の受け皿になっている部分もあって、なかなか手を出せないんだ」

 ポッツは歯痒そうに言う。

 ついでに騎士団は騎士団で、駐屯所の上層部がギャングから裏金を貰っているらしく、黙認している状態なのだとか。
 どこの世界も人間というのは似たようなものだな。




 およそ五時間にわたる街のパトロールを終えた僕とファンは、続けて次の仕事を行うことにした。
 できるだけ早く見習いとして実績を積み上げ、冒険者になりたいからである。

 その次の仕事というのが、街の清掃なのだが、

「一日に二つも仕事を請け負うとは、なかなか気合が入っているな! そうだ! 次のこの清掃の仕事も、おれがお前さんたちの指導を行うことになった! おれは週に二回はこの仕事をしているから、分からないことがあれば何でも聞いてくれ!」

 またしてもポッツが教育係らしい。
 週に三回パトロールで、週に二回街の清掃か……。

「とはいえ、清掃の仕事はごくごく単純! 落ちているゴミを片っ端から拾って焼却場に持っていく! それだけだ!」

 別に教育係なんて要らない内容だった。

「それだけでいいんだ? 落書きを消したり、糞尿を水で流したりしなくていいの?」
「むっ……相変わらず鋭いな。確かにそこまでできれば素晴らしい! だが生憎と、ゴミを片づけるだけで精一杯でな……とてもではないが、手が回らないのだ!」
「なるほど、確かにあちこちにゴミが放置されてるもんね」

 酷いのがやはり治安の悪い区域だ。
 場所によってはゴミの回収自体がないらしく、道路の端がゴミ捨て場のようになっている。

 ただ、そのまま放置していてはネズミや害虫などが繁殖し、感染症の原因になりかねない。
 それで底辺冒険者や見習いにこうした依頼が回ってくるのだろう。

「大変そうだわ」
「確かにかなりの重労働だね」

【アイテムボックス】を使えば楽勝なんだが、生憎とすでに容量が限界である。

 まぁでも、他にもやりようはたくさんあるな。
 例えば影騎士たちに任せるとか。

「いや、そもそも捨てるだけなら、亜空間に放り込めばいいか」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

農民レベル99 天候と大地を操り世界最強

九頭七尾
ファンタジー
【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。 仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて―― 「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」 「片手で抜けますけど? こんな感じで」 「200キロはありそうな大根を片手で……?」 「小麦の方も収穫しますね。えい」 「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」 「手刀で真空波を起こしただけですけど?」 その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。 日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。 「これは投擲用大根だ」 「「「投擲用大根???」」」

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

スクールカースト最底辺の俺、勇者召喚された異世界でクラスの女子どもを見返す

九頭七尾
ファンタジー
名門校として知られる私立天蘭学園。 女子高から共学化したばかりのこの学校に、悠木勇人は「女の子にモテたい!」という不純な動機で合格する。 夢のような学園生活を思い浮かべていた……が、待っていたのは生徒会主導の「男子排除運動」。 酷い差別に耐えかねて次々と男子が辞めていき、気づけば勇人だけになっていた。 そんなある日のこと。突然、勇人は勇者として異世界に召喚されてしまう。…クラスの女子たちがそれに巻き込まれる形で。 スクールカースト最底辺だった彼の逆転劇が、異世界で始まるのだった。

一人息子が勇者として旅立ちました。でもお母さん、心配なのでこっそり付いていっちゃいます [壁]ω・*)

九頭七尾
ファンタジー
「だってあの子、すっごく弱いんだもの……魔王を倒すなら、せめてお母さんみたいにキングオークくらい瞬殺できないとダメでしょう?」 片田舎の村で母と二人きりで静かに暮らしていた心優しき少年・リオン。 しかしあるとき勇者に選ばれ、旅立つことに。 「お母さんのためにも早く世界に平和を取り戻すんだ!」 だが彼は知らなかった。 その母親が秘かに後を付いてきていることを。 その母親が自分よりも遥かに強かったことを。 そして幾度となくピンチを助けられていることを。 「リオンちゃんはまだまだ子供だから、やっぱりお母さんが護ってあげないとダメですね!」 あるときは王宮の侍女に、あるときは謎の最強助っ人に扮しながら、今日もお母さんは勇者の息子を見守ります。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...