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第25話 何の参考にもならなかったです
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見習い冒険者になった僕とファンは、街のパトロールを行っていた。
十分ベテランの年齢なのにまだEランク冒険者だというポッツから、詳しいやり方を教わりつつ治安の悪い区域を巡回していると、二人組の男が揉めているところに出くわした。
「ここはおれに任せておきな!」
先輩らしくお手本を見せてくれるようで、ポッツが割り込んでいく。
「おいおい、喧嘩はよくないぜ、お二人さん? まずは何があったか、おれに事情を話してみるのはどうだい?」
「ああっ? なんだ、てめぇ!?」
「おっさんは引っ込んでやがれ!」
「ぶごっ!?」
あ、殴られた。
「ま、待て待て! と、とにかく話し合おう! なっ、なっ? おれを殴ったところで、何の解決にもならないぜ!」
「うるせぇ、雑魚が命令するんじゃねぇ!」
「ぶっ殺すぞ、こら!」
「ぎゃっ?」
二人組にボコボコにされるポッツ。
最初はあえて攻撃を受けているだけかと思ったが、どうもそんな感じではない。
普通にダメージを喰らって、かなり痛がっている。
しかしそれで怒りが収まったのか、ひとしきりポッツを暴行した後は言い争いを再開することなく、二人組はそのまま別々の方向に去っていった。
「ふ、ふう……一件落着だなっ!」
満足げに頷くポッツだが、顔があちこち赤く腫れている。
一体どこが一件落着なのか。
「……大丈夫? かなり痛そうだけど」
「だ、大丈夫だ! それよりちゃんと見ていたかっ? 参考になっただろう! 冒険者たるもの、身体を張るのは当然だからな!」
「いえ、何の参考にもならなかったです」
ポッツが最底辺のEランク冒険者である理由は、火を見るより明らかだ。
単純に弱すぎるのである。
「ええと……痛そうなので治しておくね? ヒール」
「見る見るうちに痛みが引いていく……っ!? 君は白魔法を使えるのかっ?」
「まぁ、一応」
「それはすごい! 白魔法の使い手は希少だからな! 冒険者になれば、きっと色んなパーティから引く手あまたになるだろう!」
ポッツは懲りることなくパトロールを続けた。
壁に落書きをしている少年たちに注意して殴られ、ホームレスたちの縄張り争いを止めようとして蹴られ、逃げるひったくりを捕まえようとしてあっさり吹き飛ばされた。
「はぁはぁ……どうだ? パトロールもなかなか大変な仕事だろう?」
「……そうですね」
確かにポッツの実力では、パトロールが精一杯の仕事に違いない。
ファンがぼそりと呟く。
「どれも斬ればいいだけ」
この二人、両極端すぎる……。
「ここから先はさらに危険な一帯だ。なにせ、街有数のギャングの拠点がある」
緊張の面持ちで告げるポッツ。
「ただ、今日ばかりは少し事情が違っているかもしれないな。なにせつい昨夜、そのギャングの拠点が一夜にして壊滅したらしいんだ。詳しいことはまだおれも知らないが、すでに街中で噂になっている」
そこで僕はファンと顔を見合せた。
「それって」
「間違いないわ」
よくよく見てみると、この辺りの光景に見覚えがあった。
もう少し向こうにいけば、恐らく昨晩、ファンが復讐のために乗り込んだギャングの拠点があるだろう。
「見ろ、騎士団の連中が建物の前に集まっている。どうやら噂は本当だったようだな。なんにしても、ありがたい限りだ。ギャング同士の抗争で、一般人が犠牲になることも少なくなかったからな。ただ、残念ながら手放しで喜べるってわけじゃない。各勢力のパワーバランスが崩れたことで、大きな抗争に発展する可能性もある」
「冒険者が集まって、一つずつ潰していくってことはできないの?」
なぜギャングを放置しているのか気になって、僕はポッツに訊いた。
「ううむ、それはもっともな話なんだが……事情は少々ややこしくてな。実はギャングが引退した冒険者の受け皿になっている部分もあって、なかなか手を出せないんだ」
ポッツは歯痒そうに言う。
ついでに騎士団は騎士団で、駐屯所の上層部がギャングから裏金を貰っているらしく、黙認している状態なのだとか。
どこの世界も人間というのは似たようなものだな。
およそ五時間にわたる街のパトロールを終えた僕とファンは、続けて次の仕事を行うことにした。
できるだけ早く見習いとして実績を積み上げ、冒険者になりたいからである。
その次の仕事というのが、街の清掃なのだが、
「一日に二つも仕事を請け負うとは、なかなか気合が入っているな! そうだ! 次のこの清掃の仕事も、おれがお前さんたちの指導を行うことになった! おれは週に二回はこの仕事をしているから、分からないことがあれば何でも聞いてくれ!」
またしてもポッツが教育係らしい。
週に三回パトロールで、週に二回街の清掃か……。
「とはいえ、清掃の仕事はごくごく単純! 落ちているゴミを片っ端から拾って焼却場に持っていく! それだけだ!」
別に教育係なんて要らない内容だった。
「それだけでいいんだ? 落書きを消したり、糞尿を水で流したりしなくていいの?」
「むっ……相変わらず鋭いな。確かにそこまでできれば素晴らしい! だが生憎と、ゴミを片づけるだけで精一杯でな……とてもではないが、手が回らないのだ!」
「なるほど、確かにあちこちにゴミが放置されてるもんね」
酷いのがやはり治安の悪い区域だ。
場所によってはゴミの回収自体がないらしく、道路の端がゴミ捨て場のようになっている。
ただ、そのまま放置していてはネズミや害虫などが繁殖し、感染症の原因になりかねない。
それで底辺冒険者や見習いにこうした依頼が回ってくるのだろう。
「大変そうだわ」
「確かにかなりの重労働だね」
【アイテムボックス】を使えば楽勝なんだが、生憎とすでに容量が限界である。
まぁでも、他にもやりようはたくさんあるな。
例えば影騎士たちに任せるとか。
「いや、そもそも捨てるだけなら、亜空間に放り込めばいいか」
十分ベテランの年齢なのにまだEランク冒険者だというポッツから、詳しいやり方を教わりつつ治安の悪い区域を巡回していると、二人組の男が揉めているところに出くわした。
「ここはおれに任せておきな!」
先輩らしくお手本を見せてくれるようで、ポッツが割り込んでいく。
「おいおい、喧嘩はよくないぜ、お二人さん? まずは何があったか、おれに事情を話してみるのはどうだい?」
「ああっ? なんだ、てめぇ!?」
「おっさんは引っ込んでやがれ!」
「ぶごっ!?」
あ、殴られた。
「ま、待て待て! と、とにかく話し合おう! なっ、なっ? おれを殴ったところで、何の解決にもならないぜ!」
「うるせぇ、雑魚が命令するんじゃねぇ!」
「ぶっ殺すぞ、こら!」
「ぎゃっ?」
二人組にボコボコにされるポッツ。
最初はあえて攻撃を受けているだけかと思ったが、どうもそんな感じではない。
普通にダメージを喰らって、かなり痛がっている。
しかしそれで怒りが収まったのか、ひとしきりポッツを暴行した後は言い争いを再開することなく、二人組はそのまま別々の方向に去っていった。
「ふ、ふう……一件落着だなっ!」
満足げに頷くポッツだが、顔があちこち赤く腫れている。
一体どこが一件落着なのか。
「……大丈夫? かなり痛そうだけど」
「だ、大丈夫だ! それよりちゃんと見ていたかっ? 参考になっただろう! 冒険者たるもの、身体を張るのは当然だからな!」
「いえ、何の参考にもならなかったです」
ポッツが最底辺のEランク冒険者である理由は、火を見るより明らかだ。
単純に弱すぎるのである。
「ええと……痛そうなので治しておくね? ヒール」
「見る見るうちに痛みが引いていく……っ!? 君は白魔法を使えるのかっ?」
「まぁ、一応」
「それはすごい! 白魔法の使い手は希少だからな! 冒険者になれば、きっと色んなパーティから引く手あまたになるだろう!」
ポッツは懲りることなくパトロールを続けた。
壁に落書きをしている少年たちに注意して殴られ、ホームレスたちの縄張り争いを止めようとして蹴られ、逃げるひったくりを捕まえようとしてあっさり吹き飛ばされた。
「はぁはぁ……どうだ? パトロールもなかなか大変な仕事だろう?」
「……そうですね」
確かにポッツの実力では、パトロールが精一杯の仕事に違いない。
ファンがぼそりと呟く。
「どれも斬ればいいだけ」
この二人、両極端すぎる……。
「ここから先はさらに危険な一帯だ。なにせ、街有数のギャングの拠点がある」
緊張の面持ちで告げるポッツ。
「ただ、今日ばかりは少し事情が違っているかもしれないな。なにせつい昨夜、そのギャングの拠点が一夜にして壊滅したらしいんだ。詳しいことはまだおれも知らないが、すでに街中で噂になっている」
そこで僕はファンと顔を見合せた。
「それって」
「間違いないわ」
よくよく見てみると、この辺りの光景に見覚えがあった。
もう少し向こうにいけば、恐らく昨晩、ファンが復讐のために乗り込んだギャングの拠点があるだろう。
「見ろ、騎士団の連中が建物の前に集まっている。どうやら噂は本当だったようだな。なんにしても、ありがたい限りだ。ギャング同士の抗争で、一般人が犠牲になることも少なくなかったからな。ただ、残念ながら手放しで喜べるってわけじゃない。各勢力のパワーバランスが崩れたことで、大きな抗争に発展する可能性もある」
「冒険者が集まって、一つずつ潰していくってことはできないの?」
なぜギャングを放置しているのか気になって、僕はポッツに訊いた。
「ううむ、それはもっともな話なんだが……事情は少々ややこしくてな。実はギャングが引退した冒険者の受け皿になっている部分もあって、なかなか手を出せないんだ」
ポッツは歯痒そうに言う。
ついでに騎士団は騎士団で、駐屯所の上層部がギャングから裏金を貰っているらしく、黙認している状態なのだとか。
どこの世界も人間というのは似たようなものだな。
およそ五時間にわたる街のパトロールを終えた僕とファンは、続けて次の仕事を行うことにした。
できるだけ早く見習いとして実績を積み上げ、冒険者になりたいからである。
その次の仕事というのが、街の清掃なのだが、
「一日に二つも仕事を請け負うとは、なかなか気合が入っているな! そうだ! 次のこの清掃の仕事も、おれがお前さんたちの指導を行うことになった! おれは週に二回はこの仕事をしているから、分からないことがあれば何でも聞いてくれ!」
またしてもポッツが教育係らしい。
週に三回パトロールで、週に二回街の清掃か……。
「とはいえ、清掃の仕事はごくごく単純! 落ちているゴミを片っ端から拾って焼却場に持っていく! それだけだ!」
別に教育係なんて要らない内容だった。
「それだけでいいんだ? 落書きを消したり、糞尿を水で流したりしなくていいの?」
「むっ……相変わらず鋭いな。確かにそこまでできれば素晴らしい! だが生憎と、ゴミを片づけるだけで精一杯でな……とてもではないが、手が回らないのだ!」
「なるほど、確かにあちこちにゴミが放置されてるもんね」
酷いのがやはり治安の悪い区域だ。
場所によってはゴミの回収自体がないらしく、道路の端がゴミ捨て場のようになっている。
ただ、そのまま放置していてはネズミや害虫などが繁殖し、感染症の原因になりかねない。
それで底辺冒険者や見習いにこうした依頼が回ってくるのだろう。
「大変そうだわ」
「確かにかなりの重労働だね」
【アイテムボックス】を使えば楽勝なんだが、生憎とすでに容量が限界である。
まぁでも、他にもやりようはたくさんあるな。
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「いや、そもそも捨てるだけなら、亜空間に放り込めばいいか」
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