追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾

文字の大きさ
上 下
23 / 48

第23話 無一文なんだったね

しおりを挟む
「ま、ま、待ってくれっ……ぼ、ぼくが悪かったっ! 許してくれっ! もちろんタダでとは言わないっ! 望みがあれば言ってくれ! か、金でもなんでも用意しよう! だ、だから、命だけは……」
「そうね、私の望みはただ一つよ。……死ね」
「ぎゃあああああっ!?」

 必死に命乞いする男の太腿に、ファンは剣をぶっ刺した。

「……容赦ないね」
「やられたら、やり返す。それが私のモットーよ」

 まぁこの男、明らかにロクでもないやつだし、生かしておいたら今後さらに被害者が増えるだけだろう。

「サイレント」
「?」
「どんなに叫んでも喚いても、声が周囲に漏れないようにしておいたよ。心置きなくやればいいと思う」
「感謝するわ」
「余計なことするんじゃねええええええええっ! つーか、てめぇら、ぼくにこんなことしてタダで済むと思うなよぉっ!? ぼくはこの街でも有数のギャングの幹部だっ! 組の連中が黙ってねぇ――」
「お前が黙れ」
「あぎゃああああああっ!?」

 悲鳴を轟かせ、男は涙と鼻水を巻き散らしながら地面を転がる。

「もしかして、しっかり痛めつけるタイプ?」
「いいえ、そんな悪趣味ではないわ」

 ザンッ、とファンはあっさり止めを刺した。
 男の悲鳴が途絶える。

 すでに興味を失ったのか、ファンは男の死体を放置したまま踵を返してどこかに向かって歩き出す。

「どこに行くの?」
「ギャングの拠点よ」
「え?」
「こいつが死んで、命を狙われるわ。その前に、こっちから乗り込んで潰すのよ」

 お、おう……なんて好戦的な……。

「数も多いだろうし、返り討ちに遭うかもしれないよ? むしろその可能性が高いと思う」
「そのときはそのときよ。少しでも多く道連れにしてから死んでやるわ」

 この獣耳っ娘、血気盛ん過ぎだろ。

「……乗りかかった舟だし、力を貸すよ。ただし安全なところからね」
「?」




 ギャングの拠点近くにやってきた。
 すでにこの辺りは彼らの縄張りらしく、見張りの構成員が常に一帯を見回っているという。

「シャドウナイツ」
「っ?」

 影の中から突如として姿を現した騎士たちに、ファンが驚く。

「こいつらを同行させるよ。放っておけば勝手に敵を攻撃してくれるから」
「……あなた、もしかして割とすごい魔法使い?」
「まだまだ修行中の身だよ」

 もちろん僕は一緒に行かない。
 今の僕なら大抵のことには対処できるが、あえてリスクを冒すような真似はしない。なにせ安全第一が僕のモットーだ。

「行ってくるわ」

 ファンはそう短く告げると、塀を飛び越えて敷地内へ。
 影騎士たちがその後を追う。

「あの様子だと正面から建物に突入しそうだね。だったら、あえて派手な合図を上げた方がいいかな」

 ついでの援護として、僕は建物の屋根を狙って魔法を放った。

 ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

 第四階級赤魔法のエクスプロージョンだ。
 猛烈な爆発音が夜の闇に轟き、屋根の一部が吹き飛ぶ。

「な、何が起こった……?」
「爆発だ!」
「見ろ、屋根が吹き飛んでいるぞ!?」

 建物内から慌てたような声が響いてきたが、やがてそれが怒号や悲鳴へと代わり、激しい交戦の音が聞こえてくるのだった。




 ファンは小一時間ほどで戻ってきた。
 途中まで怒声や絶叫が響き渡っていたが、そのときにはすっかり辺りは静寂に満ちていた。

「終わった?」
「ええ、ばっちりよ」

 拠点にいた構成員たちにしっかり引導を渡してきたようだ。
 まさかギャングも、たった一人の少女に全滅させられるとは思ってもいなかっただろう。

「助かったわ。お陰で自由の身になれて、復讐もできた。これ、お礼よ」

 そう言って、硬貨や高そうな装飾品を渡してこようとするファン。
 間違いなくギャングの拠点から奪ってきたものだ。

「いやいや、要らないよ。だってそれ、違法に入手したものかもしれないし」
「……確かにそうね」

 ファンは自分の取り分にしようとしていたものも含め、躊躇なく庭に放り捨てた。
 僕はともかく、やつらのせいで酷い目に遭った彼女は別に持って帰っても良いんじゃないかとも思ったけれど、なかなか潔い。

「その代わり、お金を貸してほしいわ」
「そっか、君、無一文なんだったね……」
「必ず返すから。法外な高金利でなければだけど」
「法外だったら踏み倒す気だね」
「ふふっ、そうかもしれないわ」

 幸いお金には余裕がある。
 というのもこの街にくる道中で、【アイテムボックス】に入れておいた魔物の素材などを売って換金しておいたからだ。

「ただ、その前に早くここから離れよう。ギャング同士の抗争かと思って、衛兵っぽい人たちが集まってきてるから。見つかったら面倒なことになる。……ついでに宿のありそうな場所を教えてくれたら嬉しいな?」

 そうしてファンの案内で、無事に宿の多い一帯に辿り着き、この日の宿を確保することができたのだった。

「とりあえず君もここに泊まりなよ。宿泊代は出してあげるから。もちろん、後でしっかり返してもらうけど」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...