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第23話 無一文なんだったね
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「ま、ま、待ってくれっ……ぼ、ぼくが悪かったっ! 許してくれっ! もちろんタダでとは言わないっ! 望みがあれば言ってくれ! か、金でもなんでも用意しよう! だ、だから、命だけは……」
「そうね、私の望みはただ一つよ。……死ね」
「ぎゃあああああっ!?」
必死に命乞いする男の太腿に、ファンは剣をぶっ刺した。
「……容赦ないね」
「やられたら、やり返す。それが私のモットーよ」
まぁこの男、明らかにロクでもないやつだし、生かしておいたら今後さらに被害者が増えるだけだろう。
「サイレント」
「?」
「どんなに叫んでも喚いても、声が周囲に漏れないようにしておいたよ。心置きなくやればいいと思う」
「感謝するわ」
「余計なことするんじゃねええええええええっ! つーか、てめぇら、ぼくにこんなことしてタダで済むと思うなよぉっ!? ぼくはこの街でも有数のギャングの幹部だっ! 組の連中が黙ってねぇ――」
「お前が黙れ」
「あぎゃああああああっ!?」
悲鳴を轟かせ、男は涙と鼻水を巻き散らしながら地面を転がる。
「もしかして、しっかり痛めつけるタイプ?」
「いいえ、そんな悪趣味ではないわ」
ザンッ、とファンはあっさり止めを刺した。
男の悲鳴が途絶える。
すでに興味を失ったのか、ファンは男の死体を放置したまま踵を返してどこかに向かって歩き出す。
「どこに行くの?」
「ギャングの拠点よ」
「え?」
「こいつが死んで、命を狙われるわ。その前に、こっちから乗り込んで潰すのよ」
お、おう……なんて好戦的な……。
「数も多いだろうし、返り討ちに遭うかもしれないよ? むしろその可能性が高いと思う」
「そのときはそのときよ。少しでも多く道連れにしてから死んでやるわ」
この獣耳っ娘、血気盛ん過ぎだろ。
「……乗りかかった舟だし、力を貸すよ。ただし安全なところからね」
「?」
ギャングの拠点近くにやってきた。
すでにこの辺りは彼らの縄張りらしく、見張りの構成員が常に一帯を見回っているという。
「シャドウナイツ」
「っ?」
影の中から突如として姿を現した騎士たちに、ファンが驚く。
「こいつらを同行させるよ。放っておけば勝手に敵を攻撃してくれるから」
「……あなた、もしかして割とすごい魔法使い?」
「まだまだ修行中の身だよ」
もちろん僕は一緒に行かない。
今の僕なら大抵のことには対処できるが、あえてリスクを冒すような真似はしない。なにせ安全第一が僕のモットーだ。
「行ってくるわ」
ファンはそう短く告げると、塀を飛び越えて敷地内へ。
影騎士たちがその後を追う。
「あの様子だと正面から建物に突入しそうだね。だったら、あえて派手な合図を上げた方がいいかな」
ついでの援護として、僕は建物の屋根を狙って魔法を放った。
ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
第四階級赤魔法のエクスプロージョンだ。
猛烈な爆発音が夜の闇に轟き、屋根の一部が吹き飛ぶ。
「な、何が起こった……?」
「爆発だ!」
「見ろ、屋根が吹き飛んでいるぞ!?」
建物内から慌てたような声が響いてきたが、やがてそれが怒号や悲鳴へと代わり、激しい交戦の音が聞こえてくるのだった。
ファンは小一時間ほどで戻ってきた。
途中まで怒声や絶叫が響き渡っていたが、そのときにはすっかり辺りは静寂に満ちていた。
「終わった?」
「ええ、ばっちりよ」
拠点にいた構成員たちにしっかり引導を渡してきたようだ。
まさかギャングも、たった一人の少女に全滅させられるとは思ってもいなかっただろう。
「助かったわ。お陰で自由の身になれて、復讐もできた。これ、お礼よ」
そう言って、硬貨や高そうな装飾品を渡してこようとするファン。
間違いなくギャングの拠点から奪ってきたものだ。
「いやいや、要らないよ。だってそれ、違法に入手したものかもしれないし」
「……確かにそうね」
ファンは自分の取り分にしようとしていたものも含め、躊躇なく庭に放り捨てた。
僕はともかく、やつらのせいで酷い目に遭った彼女は別に持って帰っても良いんじゃないかとも思ったけれど、なかなか潔い。
「その代わり、お金を貸してほしいわ」
「そっか、君、無一文なんだったね……」
「必ず返すから。法外な高金利でなければだけど」
「法外だったら踏み倒す気だね」
「ふふっ、そうかもしれないわ」
幸いお金には余裕がある。
というのもこの街にくる道中で、【アイテムボックス】に入れておいた魔物の素材などを売って換金しておいたからだ。
「ただ、その前に早くここから離れよう。ギャング同士の抗争かと思って、衛兵っぽい人たちが集まってきてるから。見つかったら面倒なことになる。……ついでに宿のありそうな場所を教えてくれたら嬉しいな?」
そうしてファンの案内で、無事に宿の多い一帯に辿り着き、この日の宿を確保することができたのだった。
「とりあえず君もここに泊まりなよ。宿泊代は出してあげるから。もちろん、後でしっかり返してもらうけど」
「そうね、私の望みはただ一つよ。……死ね」
「ぎゃあああああっ!?」
必死に命乞いする男の太腿に、ファンは剣をぶっ刺した。
「……容赦ないね」
「やられたら、やり返す。それが私のモットーよ」
まぁこの男、明らかにロクでもないやつだし、生かしておいたら今後さらに被害者が増えるだけだろう。
「サイレント」
「?」
「どんなに叫んでも喚いても、声が周囲に漏れないようにしておいたよ。心置きなくやればいいと思う」
「感謝するわ」
「余計なことするんじゃねええええええええっ! つーか、てめぇら、ぼくにこんなことしてタダで済むと思うなよぉっ!? ぼくはこの街でも有数のギャングの幹部だっ! 組の連中が黙ってねぇ――」
「お前が黙れ」
「あぎゃああああああっ!?」
悲鳴を轟かせ、男は涙と鼻水を巻き散らしながら地面を転がる。
「もしかして、しっかり痛めつけるタイプ?」
「いいえ、そんな悪趣味ではないわ」
ザンッ、とファンはあっさり止めを刺した。
男の悲鳴が途絶える。
すでに興味を失ったのか、ファンは男の死体を放置したまま踵を返してどこかに向かって歩き出す。
「どこに行くの?」
「ギャングの拠点よ」
「え?」
「こいつが死んで、命を狙われるわ。その前に、こっちから乗り込んで潰すのよ」
お、おう……なんて好戦的な……。
「数も多いだろうし、返り討ちに遭うかもしれないよ? むしろその可能性が高いと思う」
「そのときはそのときよ。少しでも多く道連れにしてから死んでやるわ」
この獣耳っ娘、血気盛ん過ぎだろ。
「……乗りかかった舟だし、力を貸すよ。ただし安全なところからね」
「?」
ギャングの拠点近くにやってきた。
すでにこの辺りは彼らの縄張りらしく、見張りの構成員が常に一帯を見回っているという。
「シャドウナイツ」
「っ?」
影の中から突如として姿を現した騎士たちに、ファンが驚く。
「こいつらを同行させるよ。放っておけば勝手に敵を攻撃してくれるから」
「……あなた、もしかして割とすごい魔法使い?」
「まだまだ修行中の身だよ」
もちろん僕は一緒に行かない。
今の僕なら大抵のことには対処できるが、あえてリスクを冒すような真似はしない。なにせ安全第一が僕のモットーだ。
「行ってくるわ」
ファンはそう短く告げると、塀を飛び越えて敷地内へ。
影騎士たちがその後を追う。
「あの様子だと正面から建物に突入しそうだね。だったら、あえて派手な合図を上げた方がいいかな」
ついでの援護として、僕は建物の屋根を狙って魔法を放った。
ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
第四階級赤魔法のエクスプロージョンだ。
猛烈な爆発音が夜の闇に轟き、屋根の一部が吹き飛ぶ。
「な、何が起こった……?」
「爆発だ!」
「見ろ、屋根が吹き飛んでいるぞ!?」
建物内から慌てたような声が響いてきたが、やがてそれが怒号や悲鳴へと代わり、激しい交戦の音が聞こえてくるのだった。
ファンは小一時間ほどで戻ってきた。
途中まで怒声や絶叫が響き渡っていたが、そのときにはすっかり辺りは静寂に満ちていた。
「終わった?」
「ええ、ばっちりよ」
拠点にいた構成員たちにしっかり引導を渡してきたようだ。
まさかギャングも、たった一人の少女に全滅させられるとは思ってもいなかっただろう。
「助かったわ。お陰で自由の身になれて、復讐もできた。これ、お礼よ」
そう言って、硬貨や高そうな装飾品を渡してこようとするファン。
間違いなくギャングの拠点から奪ってきたものだ。
「いやいや、要らないよ。だってそれ、違法に入手したものかもしれないし」
「……確かにそうね」
ファンは自分の取り分にしようとしていたものも含め、躊躇なく庭に放り捨てた。
僕はともかく、やつらのせいで酷い目に遭った彼女は別に持って帰っても良いんじゃないかとも思ったけれど、なかなか潔い。
「その代わり、お金を貸してほしいわ」
「そっか、君、無一文なんだったね……」
「必ず返すから。法外な高金利でなければだけど」
「法外だったら踏み倒す気だね」
「ふふっ、そうかもしれないわ」
幸いお金には余裕がある。
というのもこの街にくる道中で、【アイテムボックス】に入れておいた魔物の素材などを売って換金しておいたからだ。
「ただ、その前に早くここから離れよう。ギャング同士の抗争かと思って、衛兵っぽい人たちが集まってきてるから。見つかったら面倒なことになる。……ついでに宿のありそうな場所を教えてくれたら嬉しいな?」
そうしてファンの案内で、無事に宿の多い一帯に辿り着き、この日の宿を確保することができたのだった。
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