追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾

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第15話 第五階級、ヤバ過ぎる

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「正直そろそろ魔物と戦いたいな……」

 僕は頭を悩ませていた。

 魔法の才能が周囲にバレはじめ、気兼ねなく街の外で魔法の訓練ができるようになったのはよかったのだが、すでにそれだけでは物足りなくなりはじめていた。

 なにせティラとの訓練を経て、以前より格段に強くなったはずなのだ。
 それを実戦で試すことができない状況は、歯痒くてストレスが溜まる。

 レベルも上げて第五階級魔法が使えるようになりたいし、魔道具のクラフトのために魔石も欲しかった。

「またこっそり抜け出して森に行くか? いやいや、あの一件で反省し、誓ったはずだ。僕は命大事にをモットーに生きていくと」

 いくら強くなったといえ、一人で森に挑むのは危険だ。
 万一のときに命を失うリスクが高い。

「許可をもらって、護衛の騎士たちを連れていくか? でも、さすがにまだ許可は得られないだろう」

 うーんと頭を抱えて悩んでいると、ふと脳裏に天啓が浮かんできた。

「待てよ? もしかしたら、あの魔法が使えるんじゃ……?」

 そこで僕が使ったのは第四階級黒魔法だ。

「シャドウクローン」

 魔法が発動すると、僕の影が地面から起き上がってきた。
 二次元だった影が三次元化したのだ。

 気づけば目の前に僕と瓜二つの分身が出現していた。
 ただし全身が黒いが。

 これは影から自分の分身を生み出す魔法だった。
 自分の意のままに動く上に、影なのに物理的な攻撃力も合わせ持つ。

 ただしこの影分身は、魔力が届く範囲しか動くことができない。
 あれから僕の魔力の射程距離は大きく延びたが、それでもせいぜい五百メートルくらいだ。

「けど【魔力ハブ】を使えば……」

 自分の影分身に中継器を幾つか持たせ、限界まで移動させる。
 そこに中継器を置くと射程距離が延びるので、さらに遠くへ移動させる。

 これを繰り返していけば、やがて北の森まで届くという寸法だ。

「ただ、そんなに離れていると影分身の様子が全然分からない」

 魔力で繋がっているのでどの辺りにいるのかは分かるが、意識や視界を共有できるわけではないため、この状態で魔物を倒すなんて高度な真似はできない。

「そこで最近クラフトに成功したこれらの魔道具だ」

 一つは【ビデオ帽子】。
 映像を記録するための魔道具で、僕の影分身に頭に被せる。なお、帽子型にしたのは両手が自由にできるからだ。

 もちろん映像を記録できても、再生できなければ意味がない。

 そこで二つ目。
【映像ボックス】である。

「よしよし、ちゃんと見れるぞ」

 影分身が撮影している北の森の映像が、リアルタイムで画面に映っていた。
 映像はかなり荒いため、まだまだブラッシュアップが必要だが、これで遠くにいる影分身の様子が分かる。

 ただし、ちょっとタイムラグがある。
 魔物に見つかったら対応するのは無理だろう。

「接近戦になったらやられる。逆に言えば、遠距離から確実に魔法で仕留めればいい」

 幸い影分身は影に身を潜めることが可能だ。
 樹木の影に隠れつつ、魔物を探していると、

「早速いたぞ。ゴブリンだ」

 少し離れた場所にゴブリンを発見する。

「ファイアボール」

 テレビ画面越しに第二階級赤魔法を発動。

「グギャッ!?」

 火の玉は見事、ゴブリンを直撃した。

「かなり遠距離での魔法陣の構築だったけど、上手くいったね。ただ、タイムラグは現状どうしようもないかな……」

 ともあれ、これで王宮内の自室にいながら、遠く離れた森の魔物を討伐できることが分かった。

「この調子でどんどん魔物を倒していこう」





「ん、何だろう? 急に身体が軽くなった? しかも力が湧いてくるような感じが……」

 暇さえあれば影分身を使っての魔物狩りをし続けていたある日、不意に身体の奥から力が漲ってくるような感覚があった。

「なるほど、これがレベルアップか」

 魔物を倒し続けた結果、どうやらレベルが2に上がったらしい。

「すごいね。明らかに魔力量が跳ね上がってる。それに魔力操作も以前よりスムーズだ」

 魔法陣の構築速度が大幅に向上。
 さらに魔力の射程距離が延び、中継器の数を減らしても森まで届くようになった。

 レベルアップの恩恵を受けたのは魔力だけではない。
 身体能力も上がったようで、以前から家庭教師の指導を受けている剣術でも、急に上達したと驚かれたほどだ。

 そしてレベルアップしたことで、ついに第五階級の魔法が使えるようになった。

「エレクトロハリケーン」

 第五階級緑魔法エレクトロハリケーン。
 影分身を通じてテレビ画面越しに発動したそれによって、よく晴れた青空が一瞬にして世界の破滅のような凄まじい光景と化した。

 一帯に吹き荒れる暴風の渦と共に無数の稲光が走り、轟音が響き渡る。
 階級が上がるたびに魔法の範囲が増大してきたが、これはもはや小さな街なら丸ごと覆い尽くしてしまえるほどだろう。

 王都からかなり離れた場所で試し打ちを行ったはずなのだが、僕がいる王宮からも遠くで渦巻く巨大な雲と雷の塊をはっきりと見て取ることができた。

「……第五階級、ヤバ過ぎる」

 こんな魔法、魔物相手に使っても確実にオーバーキルだ。

 せっかく使えるようになった第五階級魔法だが、封印しておくことにしたのだった。
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