追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾

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第12話 今日は勝つよ

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「先生、今日は勝つよ」
「毎回戦う前にそう言ってますけど、今まで一度も勝てたことありませんよね?」
「今度こそ本当だよ。今日の僕は昨日までの僕じゃないから」
「ふふふ、その威勢のよさ、嫌いではありませんよ。まぁ、五歳児に負ける気はしませんが」

 ティラはまだ五歳児には絶対に負けないと思っているらしい。
 だが今回、こちらには秘策があった。

 無論すぐには使わない。
 いつもと変わらないと相手をいったん油断させておいてから、確実に成功させてみせる。

「アイスレイン」

 まず僕が放ったのは第三階級青魔法。
 広範囲にわたって氷の雨を降らせる魔法で、一つ一つは小さな氷の塊だが、まともに浴びたらめちゃくちゃ痛い。

「アイスシールド」

 それをティラは頭上に氷の盾を展開して防ぐ。
 こちらも第三階級の青魔法だ。

「イグナイトアロー、ストロングブラスト」

 さらに間髪入れず、今度は二つの魔法を同時発動。
 お馴染みの第三階級赤魔法と、強烈な突風を放つ第三階級緑魔法だ。

 火の矢が風の後押しを受け、凄まじい速度でティラに襲いかかる。
 普通なら避けることも難しい攻撃のはずだが、

「魔法の同時発動は、系統が違うものの方が難しいはずですが……アイスウォール」

 ティラはいとも簡単に第三階級青魔法の氷壁を作り出して防御。
 やはり彼女が最も得意としている青魔法は、その発動速度が段違いにはやく、正面からの攻撃では通じない。

 僕はいったん攻撃の手を緩めた。
 もちろん打つ手がなくて諦めたわけでも休憩しているわけでもない。

「魔法の隠蔽中ですか。ふふ、もう少し相手に分からないように始めた方がいいですよ?」

 魔法の待機のほかに、ティラが教えてくれた実戦的な魔法技術。
 それは魔法の隠蔽だ。

 ハイオークの一件から話題になった、魔力の高まりを隠すというだけに留まらない。
 戦う相手が魔法使いだった場合、普通は魔法陣を展開した時点でどんな魔法を放つのか知られてしまうのだが、この技術を利用すればそれを防ぐことができた。

 ちなみにやり方としては幾つかあるが、代表的なものが魔法陣の周囲を魔力の膜で覆って隠すというものだ。
 同時に魔力が外側に散逸しないよう意識すれば、魔力を感知されるリスクを減らすことができる。

 このとき展開する魔法陣の大きさを可能な限り小さくできると、より隠蔽効果が高まる。
 魔道具のクラフトで魔法陣を小さくすることに慣れている僕は、これが得意科目だった。

「どの系統の魔法ですかね? 比較的、赤魔法の使用頻度が高い印象ですが、それ以外は偏りがあまりありませんし……相手に絞らせないよう、普段からあえて使い分けているのでしょうか? やはり五歳児とは思えませんね」

 多彩な魔法を使える僕がどんな魔法を使うか分からないというのは、相手にとって嫌だろう。
 そんな状況で、ティラの意識が何もない背後に向くはずなどなかった。

「エアリアルドライブ」
「……はい?」

 まったく予期せぬ方向から迫った振動性の空気の塊。
 さすがのティラもこれには防御が間に合わないと思われたが、

「っ……ウォーターウォール!」

 第二階級青魔法をすんでのところで発動させた。
 第三階級緑魔法であるエアリアルドライブによって水柱はすぐに四散させられるが、その僅かな隙にティラは横転。

「一体どこから……っ!?」

 僕の攻撃は躱されたが、明らかに動揺している。
 そこへ僕はもう一発。

「エアリアルドライブ」
「また背後からっ……あああああああああっ!?」

 今度こそまともに喰らって吹き飛ばされるティラ。

「やった! ついに先生に攻撃が入った!」

 初めて彼女に魔法を直撃させることに成功し、僕は歓喜の声を上げる。

「僕の勝ちだよね!」
「くっ……まさか、こんなに早くやられてしまうなんて……いえ、それより、今いったい何をしたのですか? あんな方向から魔法を当ててくるなんて、あり得ないはずです」

 悔しそうに顔を顰めながら、よろよろと立ち上がるティラ。
 五歳児に一矢報いられたことより、先ほどの謎現象の方がずっと気になるようだ。

「ふふん、これを見てよ!」

 軽く足元の土を払うと、中から出てきたのは僕がクラフトした魔道具【魔力ハブ】だ。

「何ですか、これは?」
「魔力の中継器だよ。あらかじめこの辺りの地面に埋めておいたんだ」
「魔力の中継器……?」

 何のことか分からないと首を傾げるティラに、僕はその性能を説明する。

「つまり、この中継器を介することで、わたしの背後に魔法陣を展開させた、ということですか……?」
「そういうこと。もちろんしっかり隠蔽も施しながらね」

 離れた場所に魔法陣を展開させるのは非常に難しい。
 遠ければ遠いほど魔力が弱まるため、繊細な操作ができなくなるからだ。

 だがこの中継器によって魔力がしっかり届くようになれば、もっと楽に魔法陣を描くことが可能になる。

「同時待機も使っていましたね?」
「うん」

 ある魔法を待機させつつ、別の魔法をさらに待機させるのは非常に難しい。
 二つの魔法を同時に発動する方がずっと簡単だ。

 エアリアルドライブ一発ではティラに防がれる可能性がある――実際そうなった――と考えて、もう一発待機させておいたのである。

「でも分かってる。今回は魔道具を使っての勝ちだから、まだ完全な勝ちじゃないってことは。ただ、負けてばかりは悔しいと思って、いったんどんな手を使ってでも勝っておきたいと思ったんだ」
「……随分な負けず嫌いですね。ですが、嫌いではありません」

 苦笑するティラ。
 それからぼそりと、

「この様子では……普通に負かされてしまう日も、そう遠くはないかもしれませんね……」
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