11 / 48
第11話 こんな小さなスペースに
しおりを挟む
家庭教師たちの授業で忙しい日々を送りつつも、僕はあることに熱中していた。
それは魔道具のクラフトだ。
あれからさらに複数の新しい魔道具を完成させていた。
【冷蔵ボックス】に【洗濯ボックス】、【食器洗いボックス】、【掃除ボックス】、それに【加熱ボックス】。
箱シリーズと呼んでいるこれらは、どれも前世の知識にあった便利な家事アイテムである。
ちなみになぜ家事アイテムばかりかというと。
実は、以前クラフトした【常夜ランプ】や【温水シャワー】、【暖房クッション】といったものが、侍女たちに見つかってしまったのだ。
まぁ、こっそり使っていたとはいえ、自室で利用していたのだからいずれバレてもおかしくなかったんだけど。
そしてこれらの魔道具の存在が、彼女たちの間で話題沸騰した。
それはそうだろう。
魔法というファンタジー能力が実在しているとはいえ、使える人は限られているし、科学文明は前世のそれに遠く及ばない。
夜通し使えて燃料費の要らない照明器具も、寒い冬にあっという間に湯を沸かしてくれる給湯器も、部屋を暖めてくれる暖房器具も、日々、忙しく仕事――特に病弱な母の介護――に追われている彼女たちにはありがたいものだった。
そんなわけで、色んな家事アイテムをクラフトしたのである。
「殿下のお陰で、仕事が大幅に楽になりました!」
「前々から天才に違いないと思ってましたけど、まさか僅か五歳でこんな大発明をされるなんて!」
「魔法のティラ先生に教えてもらいながらだけどね。あと、このことは他で言いふらさないでね? そんなに幾つもクラフトできないし、知られたら召し上げられちゃうかもしれないから」
「そ、それは嫌です……」
「絶対に黙っておきます!」
さすがに一人でクラフトしたというのは異常だと思うので、ティラのお陰だということにしておいた。
「わたし、魔道具のことはあまり詳しくないんですが……?」
「大丈夫、どうせ分からないからさ」
勝手に自分を利用され、ティラがジト目で睨んでくる。
「それにしても、よくこんな色んなアイデアを思いつきますね」
「そ、そうかな?」
実際には思いついているわけではなく、単に前世の知識を思い出しているだけだ。
「いえ、思いつくだけなら誰でもできるかもしれません。ですが、アイデアを実際に形にしてしまうのはもっと難しいはず……。ちょっと使っている魔法陣を見せてもらっても?」
「いいよ」
魔道具を分解し、中身を見せてあげる。
「こんな小さなスペースに、この複雑な魔法陣を……? 相当な魔力操作スキルがなければ不可能な芸当です……」
魔道具を作る上で重要なのが、魔法陣をできるだけ小さくすることだ。
そうしなければ、できあがるものが大きくなり過ぎる。
だが、魔法陣を小さくするのは簡単ではない。
ミニチュアを作るのに指先の器用さが必要なように、非常に繊細な魔力操作が要求されるのである。
「それに魔法以外の仕掛けも随分と細かいですね」
魔道具なので魔法の構成も非常に重要なのだが、それだけではダメだ。
ユーザビリティや安全性、素材の耐久性、魔法の効果が最大限発揮できるような構造、さらには魔力のエネルギー効率などなど。
特に箱シリーズで苦労したのは素材だ。
大型の魔道具なので普通の金属では重くなり過ぎてしまうし、かといって木材では耐久性などに不安が残る。
そこで第四階級黄魔法のクリエイトメタルを使った。
これは金属を生成できる魔法で、僕は試行錯誤の末、できるだけ軽くて丈夫でしかも熱や低温、サビなどに強い金属を生み出すことに成功したのだ。
魔道具の素材を用意する上で、この魔法は今後も非常に役立つだろう。
もちろんいくら軽い金属だといっても、すべて金属製だとまだまだ重たい。
そこで利用したのが、樹木の魔物トレントの素材。
そのまま木材として使うわけではなく、樹液を利用するのだ。
トレントの樹液は、硬くなると柔軟性と光沢を持ち、非常にプラスチックに近い素材になるのである。漆みたいなものだね。
そしてこの半年間に新しくクラフトしたのは、家事用の魔道具だけではない。
「できた!」
手のひらに乗る程度の小型の魔道具だ。
でも自分で言うのもなんだが、こいつは非常に画期的なアイテムだった。
その名も【魔力ハブ】。
遠く離れた場所まで、自分の魔力を飛ばすことが可能になる魔道具だ。
要するに魔力の中継器である。
第四階級の無属性魔法、エクステンションを応用した。
これは魔力の操作範囲を一時的に拡大できる魔法である。
「こいつをこの辺に置いて……」
王宮の中庭の途中に【魔力ハブ】を設置すると、僕はできる限りそこから離れる。
「ひとまずこれくらいかな」
おおよそ五十メートルほど距離を取ったところで、僕はその中継器に向かって魔力を飛ばした。
現在、僕が魔力を到達させられる距離はせいぜい五十メートルほど。
でもこの中継器を間に挟めば……。
「よし、距離が百メートルに伸びたぞ!」
さらに僕は別のことを確かめる。
ファイアボールの魔法陣を展開し、火の玉を発射した。
発動した魔法を自在に動かすためには、魔力操作が必須だ。
つまり、魔力が届いている必要があった。
僕が放ったファイアボールは、百メートル先でも魔力操作によって右に左にと動かすことができた。
さらに、普通は間に障害物などがある場合、魔力が阻害されてしまうのだけれど、中継器を迂回することでこの課題を解決した。
壁の向こう側にあるはずのファイアボールを、操ることができるようになったのである。
「この中継器、上手く使えば色々と応用が利きそうだね」
それは魔道具のクラフトだ。
あれからさらに複数の新しい魔道具を完成させていた。
【冷蔵ボックス】に【洗濯ボックス】、【食器洗いボックス】、【掃除ボックス】、それに【加熱ボックス】。
箱シリーズと呼んでいるこれらは、どれも前世の知識にあった便利な家事アイテムである。
ちなみになぜ家事アイテムばかりかというと。
実は、以前クラフトした【常夜ランプ】や【温水シャワー】、【暖房クッション】といったものが、侍女たちに見つかってしまったのだ。
まぁ、こっそり使っていたとはいえ、自室で利用していたのだからいずれバレてもおかしくなかったんだけど。
そしてこれらの魔道具の存在が、彼女たちの間で話題沸騰した。
それはそうだろう。
魔法というファンタジー能力が実在しているとはいえ、使える人は限られているし、科学文明は前世のそれに遠く及ばない。
夜通し使えて燃料費の要らない照明器具も、寒い冬にあっという間に湯を沸かしてくれる給湯器も、部屋を暖めてくれる暖房器具も、日々、忙しく仕事――特に病弱な母の介護――に追われている彼女たちにはありがたいものだった。
そんなわけで、色んな家事アイテムをクラフトしたのである。
「殿下のお陰で、仕事が大幅に楽になりました!」
「前々から天才に違いないと思ってましたけど、まさか僅か五歳でこんな大発明をされるなんて!」
「魔法のティラ先生に教えてもらいながらだけどね。あと、このことは他で言いふらさないでね? そんなに幾つもクラフトできないし、知られたら召し上げられちゃうかもしれないから」
「そ、それは嫌です……」
「絶対に黙っておきます!」
さすがに一人でクラフトしたというのは異常だと思うので、ティラのお陰だということにしておいた。
「わたし、魔道具のことはあまり詳しくないんですが……?」
「大丈夫、どうせ分からないからさ」
勝手に自分を利用され、ティラがジト目で睨んでくる。
「それにしても、よくこんな色んなアイデアを思いつきますね」
「そ、そうかな?」
実際には思いついているわけではなく、単に前世の知識を思い出しているだけだ。
「いえ、思いつくだけなら誰でもできるかもしれません。ですが、アイデアを実際に形にしてしまうのはもっと難しいはず……。ちょっと使っている魔法陣を見せてもらっても?」
「いいよ」
魔道具を分解し、中身を見せてあげる。
「こんな小さなスペースに、この複雑な魔法陣を……? 相当な魔力操作スキルがなければ不可能な芸当です……」
魔道具を作る上で重要なのが、魔法陣をできるだけ小さくすることだ。
そうしなければ、できあがるものが大きくなり過ぎる。
だが、魔法陣を小さくするのは簡単ではない。
ミニチュアを作るのに指先の器用さが必要なように、非常に繊細な魔力操作が要求されるのである。
「それに魔法以外の仕掛けも随分と細かいですね」
魔道具なので魔法の構成も非常に重要なのだが、それだけではダメだ。
ユーザビリティや安全性、素材の耐久性、魔法の効果が最大限発揮できるような構造、さらには魔力のエネルギー効率などなど。
特に箱シリーズで苦労したのは素材だ。
大型の魔道具なので普通の金属では重くなり過ぎてしまうし、かといって木材では耐久性などに不安が残る。
そこで第四階級黄魔法のクリエイトメタルを使った。
これは金属を生成できる魔法で、僕は試行錯誤の末、できるだけ軽くて丈夫でしかも熱や低温、サビなどに強い金属を生み出すことに成功したのだ。
魔道具の素材を用意する上で、この魔法は今後も非常に役立つだろう。
もちろんいくら軽い金属だといっても、すべて金属製だとまだまだ重たい。
そこで利用したのが、樹木の魔物トレントの素材。
そのまま木材として使うわけではなく、樹液を利用するのだ。
トレントの樹液は、硬くなると柔軟性と光沢を持ち、非常にプラスチックに近い素材になるのである。漆みたいなものだね。
そしてこの半年間に新しくクラフトしたのは、家事用の魔道具だけではない。
「できた!」
手のひらに乗る程度の小型の魔道具だ。
でも自分で言うのもなんだが、こいつは非常に画期的なアイテムだった。
その名も【魔力ハブ】。
遠く離れた場所まで、自分の魔力を飛ばすことが可能になる魔道具だ。
要するに魔力の中継器である。
第四階級の無属性魔法、エクステンションを応用した。
これは魔力の操作範囲を一時的に拡大できる魔法である。
「こいつをこの辺に置いて……」
王宮の中庭の途中に【魔力ハブ】を設置すると、僕はできる限りそこから離れる。
「ひとまずこれくらいかな」
おおよそ五十メートルほど距離を取ったところで、僕はその中継器に向かって魔力を飛ばした。
現在、僕が魔力を到達させられる距離はせいぜい五十メートルほど。
でもこの中継器を間に挟めば……。
「よし、距離が百メートルに伸びたぞ!」
さらに僕は別のことを確かめる。
ファイアボールの魔法陣を展開し、火の玉を発射した。
発動した魔法を自在に動かすためには、魔力操作が必須だ。
つまり、魔力が届いている必要があった。
僕が放ったファイアボールは、百メートル先でも魔力操作によって右に左にと動かすことができた。
さらに、普通は間に障害物などがある場合、魔力が阻害されてしまうのだけれど、中継器を迂回することでこの課題を解決した。
壁の向こう側にあるはずのファイアボールを、操ることができるようになったのである。
「この中継器、上手く使えば色々と応用が利きそうだね」
58
お気に入りに追加
1,862
あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる