追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾

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第10話 これが年の功というやつです

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 ハイオークの一件で、僕は大いに猛省した。
 大人の精神を持ったまま赤子に転生して強力なスタートダッシュを切った僕は、魔法も順調に習熟させていて、いずれは記憶にある転生主人公たちのようなチート人生を送れると思っていた。

 甘かった。

 命はたった一つしかないのだ。
 つまり一度失敗したら終わり。

 主人公のような人生なんて、本当は命がいくらあっても足りない。
 主観では、自分が主人公かどうかなんて分からないのだから、そんなリスクを冒すべきではなかったのだ。

「僕は死にたくない。せっかく異世界に転生したんだから長く生きたい。別に主人公な人生なんて求めてない。命大事に。そうだ。それを座右の銘にしよう」

 そんなわけで、危険な森でのレベリングをきっぱりやめることにした。
 もちろんティラが一緒なら今回のように不測の事態に対処できるかもしれないけれど、レベリングを焦る必要なんてない。

 第五階級魔法はいったんお預けだ。

 代わりにティラとは魔法の戦闘訓練を行うことにした。
 命を大事にと言っても、安全な場所にずっと引きこもっているわけにもいかない。なにせここは、戦争もあれば、国ごと魔物に壊滅させられることもある世界だ。

 極力リスクを冒さず、それでいて可能な限り強くならなければ。

「先日の一件で分かった通り、高位の強力な魔法は使いどころをよくよく考えなければいけません。発動まで時間がかかってしまうというのもありますが……」
「……強い魔力のせいで、相手にバレやすい」
「その通りです」

 ハイオーク相手に第四階級魔法を使おうとしたとき、後ろを向いていたはずなのに突然こちらを振り返ったのだ。
 どうやら知能の高い魔物の中には、魔力の気配を察知することができる個体がいるらしい。

 そうと知らずに強力な魔法ならと脳筋に考えてしまったのが、大きな間違いだった。

「でも、それじゃあ第四階級以上の魔法は、使いどころがあまりない気が……」
「ソロだとそうなりますね。そもそも魔法使いの単独戦闘そのものがあまり推奨されていません」
「なるほど、パーティを組んで、守ってくれる仲間がいるなら話は別か」

 仲間がいる状態なんて、まったく頭になかった。
 ……もしかしたら前世では孤独な人生だったのかもしれない。

「無論、相手に魔力の高まりを悟られないようにする方法もあります」
「そうなの?」

 魔法を発動しようとするさい、どうしても微細な魔力が周囲に漏れてしまう。
 それを察知されているわけで、逆に言えばその魔力を極力抑え込めばいいという。

「そんなこと、魔法書には書いてなかったな」
「魔法書の多くは、魔法そのものの探求を目的に書かれたものですから。魔法の戦闘利用についてはあまり学ぶことができません」
「そうなんだ」
「……家庭教師の存在意義がどんどん高まってきましたね?」
「う、うん」

 やはりティラは嬉しそうだ。




「イグナイトアローっ!」
「残念。それは氷で作った偽物ですよ」
「っ!?」
「スプラッシュ」
「うわあああっ!?」

 強烈な水鉄砲を背後から喰らい、吹き飛ばされてしまう。
 全身ずぶ濡れになりながら、僕はがっくしと肩を落とす。

「また負けた……、強すぎる!」
「ふふふ、これが年の功というやつです」

 ティラが家庭教師になって約半年。
 彼女との戦闘訓練は、非常に実りの多いものとなっていた。

 彼女の戦い方は非常に老獪で、半年も挑み続けているのに、まだ一度も勝てていない。
 二十代って言ってたけど、本当はもっと年上なんじゃ……。

 使える魔法の種類は、僕の方がすでに彼女より多い。
 だから多彩な魔法で攻め立てれば簡単に勝てると思っていたのに、まったく歯が立たないのだ。

「使える魔法が多ければいいというものでもありませんからね。一瞬の判断が求められる戦闘中においては、逆に手札が少ない方がいいという考えもあります。余計なノイズがなくなり、判断が速くなるという利点があるからです」

 確かに僕は色んな魔法を使えるせいで、迷いが生じているかもしれない。
 やっぱり別の魔法の方がよかったかもって、考えたりしちゃうし。

「多くの場合、対魔法使い戦は、魔物相手よりもずっと頭を使う必要があります。逆に言えば、より難度の高い魔法使い相手の戦いに慣れていけば、魔物との戦いが楽になるはずですよ。さあ、もう一戦いきましょう」

 そう告げて、ティラは第三階級青魔法アイススピアの魔法陣を展開する。

 だがすぐには放ってこない。
 これは魔法の〝待機〟という技術だ。いつでもすぐに発動できる状態を維持しておくというもので、彼女は頻繁に使用していた。

「……今度こそ!」

 僕は第三階級赤魔法イグナイトアローを待機させる。

「すでに完璧にものにしましたね」
「魔法の授業外でも必死に練習したからね!」

 この半年で僕もこの技術を習得していた。
 ティラに勝つには必須と言える技術だし。

 ティラはさらにまた別のアイススピアの魔法陣を描き、待機させた。

「こっちも負けないよ」

 僕もまたもう一つ、イグナイトアローの魔法陣を展開する。

「同時待機も問題なくできるようですね。では、これならどうですか?」
「まさか、三つ同時っ……」

 僕は思わず目を見開く。
 これまでずっと二つ同時にしかやってこなかったので、てっきり三つ同時はないと思っていたのだ。

「三つ同時は無理だなんて、一度も言ってないですよね?」
「ここまであえて使わずにおいたのか……っ!」

 ハッとさせられるこちらをしり目に、ティラは三つ目のアイススピアの魔法陣を作り――

「と、見せかけて」
「なっ!?」

 いきなり先に待機させていた二つのアイススピアを放ってきた。
 猛烈な速度で迫りくる氷の槍に、僕はぎりぎりで二本の火の矢をぶつけて相殺させる。

「ふふふ、やっぱり三つ同時待機なんて無理ですよ?」

 ……この家庭教師、かわいい見た目のくせして意外と性格が悪いのだ。
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