追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾

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第9話 なんか少し嬉しそう

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「確かに、ほとんど豚肉みたいで美味しいね! それにもっと硬いかと思ってたけど、意外と肉が柔らかい!」

 倒したオークの肉の一部を切り取って食べてみると、予想以上に美味しかった。
 ヒートウェイブで中までしっかり火が通っていて、噛むと肉汁が溢れ出してくる。

「お姉ちゃんは食べないの?」
「わ、わたしは遠慮します……というか、つい先ほどまで生きて動いていた魔物を、よくそのまま食べられますね……」

 どうやら丸焼きは苦手なタイプらしい。

 さすがに五歳児一人でオークの巨体を丸ごと食べ切れないので、残った部分――九割以上あるが――はその場に放置だ。
 もちろん魔石はちゃんと回収しておく。

「こんなに美味しいのに勿体ないけど、仕方ないね」

 時空魔法の中にはモノを亜空間に保管できるものもあるようだが、生憎と時空魔法は非常に難解で、まだ第一階級しか使えない。

 その後、また別のオークや、樹木の魔物トレント、それに大猿の魔物マッドエイプなどと遭遇したが、いずれもサーチングからの先制攻撃で仕留めていった。
 トレントは普通の木に擬態しているが、サーチングが使える僕にはバレバレだ。

「まだレベルアップしないかなぁ」
「レベル1でこのクラスの魔物を何体も討伐していれば、そう時間はかからないと思います。普通はスライムやゴブリンなんかをこつこつ倒しながら、数か月かけて上げるものですけど……」
「あ、またオークを発見したよ」

 サーチングの魔法でオークらしい反応を感知する。
 魔力の波長が魔物によって少しずつ違うので、なんとなく種類が分かるのだ。

「……ちょっと大きい?」

 草木の向こうに見つけた魔物の影は、通常のオークより一回り以上も体格がよかった。

「っ……あれはまさか、ハイオーク!?」
「オークの上位種ってこと?」

 魔物も人間と同様にレベルアップするのだが、レベルアップを重ねていくと〝進化〟と呼ばれる現象が起こることがあるという。
 進化によって上位種になれば、レベルアップをも凌駕するステータス上昇が起こるそうだ。

 しかし当然、倒せばその分、大幅な経験値を得られる。

「……さすがに危険です。ここはわたしが――」
「大丈夫。一撃で仕留めれば一緒なんだし」

 使おうとしたのは、第四階級赤魔法のエクスプロージョン。
 以前、王宮の庭で使って建物の一部を破壊してしまった、凄まじい爆発を巻き起こす魔法だ。

 強敵を確実に倒すには、先制で最大高火力をぶつけるのがベストだろう。
 オークの上位種といえ、第四階級なら一溜まりもないはず。

 ――正直、僕は油断していた。

 ここまで魔物相手に一度も苦戦することなく瞬殺し続けていたことから、明らかにこの森を、そして魔物の危険性を、舐めてしまっていたのだ。

 魔法陣を形成しようとしたそのとき、こちらに背を向けていたはずのハイオークがいきなり振り返った。

「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「~~~~っ!?」

 響き渡った猛烈な咆哮。
 その威圧感に気圧されて萎縮し、魔力操作が乱れる。

 ほぼ完成していた魔法陣が霧散した。

「えっ……」
「ブオオオオオッ!!」

 猛スピードでこちらに躍りかかってくるハイオーク。
 魔法陣の形成に失敗してしまったことで焦った僕は、再び魔法陣を描こうとするも上手くいかない。

 魔法こそそれなりに使えるようになっていても、肉体は脆弱な五歳児だ。
 あんな巨体の一撃を喰らったら、一瞬で肉片と化すだろう。

 魔法陣が複雑な第四階級では発動が間に合わないと咄嗟に判断し、第三階級赤魔法のイグナイトアローに切り替える。

「イグナイトアローっ! イグナイトアローっ! イグナイトアローっ! くそっ、なんで上手くいかない……っ!?」

 第三階級の中では初めて成功した魔法。
 しかもそれは僅か一歳のときで、今では目を瞑ってでも使える――はずだったのに、焦燥のせいで繰り返し失敗してしまう。

 考えてみれば今まで遠距離から魔物を奇襲するばかりで、正面切って魔物の脅威と対峙したことがなかった。
 こうしていざ魔物の圧倒的な暴力を目の前にすると、ここまで乱れてしまうなんて。

「フリージング」

 猛烈な冷気が放たれた。
 ハイオークの巨体が見る見るうちに凍りついていき、やがて僕のすぐ目の前で完全な氷像と化す。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 僕はその場に尻もちをつき、息を荒らげていた。
 助かったと分かってもなかなか動悸が収まらない。

 第四階級青魔法フリージングは、凶悪な冷気で一帯を凍りつかせる魔法だ。
 発動したのはもちろんティラである。

 彼女がいなければ、僕は確実に死んでいた。

「調子に乗り過ぎてた……少し慣れてきた頃が、一番危ないっていうのに……」

 僕が落ち込んでいると、なぜかティラが笑い出した。

「ふふふっ、そんな反省ができる五歳児なんてなかなかいませんよ? むしろ逆にすごくいい経験になりましたね? 魔物相手の実戦では、普段なら当たり前にできることができなくなるなんて少なくありません。もちろん予期せぬイレギュラーだって付き物です。自信を持つことも大事ですが、安全はそれ以上に重要ですよ」
「……なんか少し嬉しそう?」
「そんなことないですよ? ようやく教師として指導できそうな点が見えて、喜んでいるなんてこと、ありませんからね?」
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