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第7話 バレなければいいんですよ
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この世界にはレベルというものが存在しており、僕が第五階級魔法を使えないのは、レベルが一定水準に満たないからではないかという説が浮上した。
そのせいで正確に魔法陣を描き、十分な魔力を注ぎ込んだとしても、魔法が発動しないというのだ。
レベルを上げるには魔物を倒す必要がある。
だけどティラは頑として、僕の魔物討伐を認めてくれなかった。
「もちろん一人じゃ行かないよ。お姉ちゃんと一緒なら大丈夫でしょ?」
「それでもダメですよ。そもそもいち家庭教師が、一国の王子、それもまだ五歳の子供を連れて魔物の討伐に出るなんて、雇用主が許すはずないでしょう」
「う、確かに」
まぁ、禁止されたところで夜中にこっそり行くけどね?
魔石入手のために何度も魔物討伐を経験しているので、もはや夜中に王宮を抜け出すことなど朝飯前だ。
「シャドウハイディング」
第三階級闇魔法のシャドウハイディングを使えば、闇の中に身を隠しながら移動することができるので、まず見つかる心配はない。
いつもの森にやってくると、サーチングで魔物を探し、どんどん倒しまくった。
もっと深い場所にはより凶悪な魔物も棲息しているようだが、森の浅い場所であれば、アルミラージという兎の魔物やファングラットというネズミの魔物、それにゴブリンや犬の魔物コボルトといった、弱い魔物ばかりだ。
奇襲で第二階級魔法を直撃させてやれば、ほぼ確実に瞬殺できる。
稀に一撃では死なない個体もいるが、もしかしたらレベルの高い個体かもしれない。
どうやら魔物にもレベルが存在しているらしいからね。
ある程度の距離を取って奇襲しているので、仮に初撃で仕留められなかったとしても、こちらに向かってくる間に余裕をもって二発目で倒すことができる。
「魔石も回収しておこう」
レベリングだけでなく、魔道具を作るのに不可欠な魔石も入手できるので一石二鳥だ。
ただ、そう簡単にはレベルが上がらない。
レベルを一つ上げるだけでも大変だとティラが言っていた通り、何十体と討伐しても、まだレベルが上がった感じはなかった。
弱い魔物ばかりを倒しているせいかもけどしれない……。
ティラが言うには、レベルアップしたときは身体から力が漲ってくる感覚があるようで、すぐにそれと分かるらしい。
「地道にこつこつ倒していくしかないね」
まだ見ぬレベルアップに思いを馳せながら、僕は毎晩、魔物討伐に邁進し続け――
「夜中に部屋を抜け出していますよね?」
ティラにバレた。
「な、なんのことかな……?」
「しらばくれても無駄です。そこに寝ているかのように土で作った人形を置いて、こっそり真夜中に姿を眩ませているでしょう」
侍女たちの目を欺くために作った自分そっくりのゴーレム。
それが偽物であることを、ティラに気づかれてしまったようだ。
ただ、シャドウハイディングを使っているので、街の外にまで出ていることはバレていないはず。
「う、うん……実はこっそり図書室に籠って、魔法の勉強を……」
「そうですか。では、わたしがあなたに付けておいた魔力のマーキングが、街中で消失してしまったのはなぜでしょう?」
「え、そんなもの付けてたの!?」
第二階級の無属性魔法、マーキング。
付与した人や物の現在地が分かる魔法らしく、ティラは秘かにそれを使用していたらしい。
魔力が届く範囲内でしか機能しないため、途中で切れてしまったようだ。
「まさかとは思いますが、街の外に魔物を倒しに行っているなんてことないですよね?」
「そそそ、そんなことないよ?」
慌ててしらを切ろうとするが、ティラは「バレバレですけど」と苦笑する。
「では、この一件は侍女長にお伝えするといたしましょう」
「っ!? それだけはやめて!?」
王宮内におけるアーベル家の侍女たちを束ねているのが侍女長だ。
普段の指示は大雑把なくせに、何か問題が起こって自分の責任になることを異常に嫌がるタイプの人物である。
もし彼女に知られたら、侍女に夜通し監視され続ける羽目になるかもしれない。
それだけは絶対に避けたかった。
「夜中に森に入って魔物を倒してました……ごめんなさい……」
観念して白状する。
するとティラは深々と溜息を吐いて、
「……仕方ありませんね」
「?」
「少しあなたの魔法知識を確認させていただきましたが、現時点ですでにあなたを指導できることなんてほとんどありません。あるとすれば実戦的な戦闘訓練くらいでしょう。となると、必然的に街の外に行かなければいけませんからね」
「え? じゃあ、許してくれるってこと?」
予想外の言葉に思わず期待の視線を向けると、ティラは頷いた。
「無論、わたしも同行いたします。そして日中だけです。当然、夜中に抜け出すことは禁じます」
「でも、お姉ちゃんが一緒でも街の外に出るのは難しいって……」
「そうですね。ですが……」
ティラは声を潜めると、少し悪い顔をしながら言ったのだった。
「……バレなければいいんですよ、バレなければ」
そのせいで正確に魔法陣を描き、十分な魔力を注ぎ込んだとしても、魔法が発動しないというのだ。
レベルを上げるには魔物を倒す必要がある。
だけどティラは頑として、僕の魔物討伐を認めてくれなかった。
「もちろん一人じゃ行かないよ。お姉ちゃんと一緒なら大丈夫でしょ?」
「それでもダメですよ。そもそもいち家庭教師が、一国の王子、それもまだ五歳の子供を連れて魔物の討伐に出るなんて、雇用主が許すはずないでしょう」
「う、確かに」
まぁ、禁止されたところで夜中にこっそり行くけどね?
魔石入手のために何度も魔物討伐を経験しているので、もはや夜中に王宮を抜け出すことなど朝飯前だ。
「シャドウハイディング」
第三階級闇魔法のシャドウハイディングを使えば、闇の中に身を隠しながら移動することができるので、まず見つかる心配はない。
いつもの森にやってくると、サーチングで魔物を探し、どんどん倒しまくった。
もっと深い場所にはより凶悪な魔物も棲息しているようだが、森の浅い場所であれば、アルミラージという兎の魔物やファングラットというネズミの魔物、それにゴブリンや犬の魔物コボルトといった、弱い魔物ばかりだ。
奇襲で第二階級魔法を直撃させてやれば、ほぼ確実に瞬殺できる。
稀に一撃では死なない個体もいるが、もしかしたらレベルの高い個体かもしれない。
どうやら魔物にもレベルが存在しているらしいからね。
ある程度の距離を取って奇襲しているので、仮に初撃で仕留められなかったとしても、こちらに向かってくる間に余裕をもって二発目で倒すことができる。
「魔石も回収しておこう」
レベリングだけでなく、魔道具を作るのに不可欠な魔石も入手できるので一石二鳥だ。
ただ、そう簡単にはレベルが上がらない。
レベルを一つ上げるだけでも大変だとティラが言っていた通り、何十体と討伐しても、まだレベルが上がった感じはなかった。
弱い魔物ばかりを倒しているせいかもけどしれない……。
ティラが言うには、レベルアップしたときは身体から力が漲ってくる感覚があるようで、すぐにそれと分かるらしい。
「地道にこつこつ倒していくしかないね」
まだ見ぬレベルアップに思いを馳せながら、僕は毎晩、魔物討伐に邁進し続け――
「夜中に部屋を抜け出していますよね?」
ティラにバレた。
「な、なんのことかな……?」
「しらばくれても無駄です。そこに寝ているかのように土で作った人形を置いて、こっそり真夜中に姿を眩ませているでしょう」
侍女たちの目を欺くために作った自分そっくりのゴーレム。
それが偽物であることを、ティラに気づかれてしまったようだ。
ただ、シャドウハイディングを使っているので、街の外にまで出ていることはバレていないはず。
「う、うん……実はこっそり図書室に籠って、魔法の勉強を……」
「そうですか。では、わたしがあなたに付けておいた魔力のマーキングが、街中で消失してしまったのはなぜでしょう?」
「え、そんなもの付けてたの!?」
第二階級の無属性魔法、マーキング。
付与した人や物の現在地が分かる魔法らしく、ティラは秘かにそれを使用していたらしい。
魔力が届く範囲内でしか機能しないため、途中で切れてしまったようだ。
「まさかとは思いますが、街の外に魔物を倒しに行っているなんてことないですよね?」
「そそそ、そんなことないよ?」
慌ててしらを切ろうとするが、ティラは「バレバレですけど」と苦笑する。
「では、この一件は侍女長にお伝えするといたしましょう」
「っ!? それだけはやめて!?」
王宮内におけるアーベル家の侍女たちを束ねているのが侍女長だ。
普段の指示は大雑把なくせに、何か問題が起こって自分の責任になることを異常に嫌がるタイプの人物である。
もし彼女に知られたら、侍女に夜通し監視され続ける羽目になるかもしれない。
それだけは絶対に避けたかった。
「夜中に森に入って魔物を倒してました……ごめんなさい……」
観念して白状する。
するとティラは深々と溜息を吐いて、
「……仕方ありませんね」
「?」
「少しあなたの魔法知識を確認させていただきましたが、現時点ですでにあなたを指導できることなんてほとんどありません。あるとすれば実戦的な戦闘訓練くらいでしょう。となると、必然的に街の外に行かなければいけませんからね」
「え? じゃあ、許してくれるってこと?」
予想外の言葉に思わず期待の視線を向けると、ティラは頷いた。
「無論、わたしも同行いたします。そして日中だけです。当然、夜中に抜け出すことは禁じます」
「でも、お姉ちゃんが一緒でも街の外に出るのは難しいって……」
「そうですね。ですが……」
ティラは声を潜めると、少し悪い顔をしながら言ったのだった。
「……バレなければいいんですよ、バレなければ」
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