追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾

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第4話 好きだったのかもしれないね

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「よし、これでいいはず。あとは実際に点けてみて……うん、ちゃんと点くね」

 自作した照明が煌々とした光を放つのを確認し、僕は満足して頷く。

 組み込んだ第一階級白魔法、トーチの魔法陣によって光るランプである。
 すなわち魔道具だ。

 この世界の照明はろうそくや油ランプ、炬火といったもので、夜通し明かりを確保する手段は非常に限られていた。
 ろうそくや油は希少で高価だし。

 その点、僕の作ったこの照明器具――【常夜ランプ】は、動力源となる魔力さえ確保できていれば常に明かりを提供し続けてくれる。

 利用しているのは魔石だ。
 これは魔力濃度の高い場所などから手に入るもので、魔力の供給源となってくれる。

「これで夜でも魔法の研究や訓練ができるようになった」

 色んな魔道具がある中で、真っ先に照明器具をクラフトしたのは他でもない。
 明かりを確保できれば、夜中も魔法研究と訓練に没頭可能だからだ。

 ちなみにここ数か月、ずっと夜は寝ていない。
 第三階級白魔法、ディープナップを使うことで、深い睡眠を取ったのと同等の疲労回復を得ることができるのである。

 それから僕はどんどん魔法クラフトにハマっていった。

 照明器具の次は、お湯を無限に生み出す魔道具【熱々ケトル】をクラフトした。
 赤魔法だけでなく青魔法も利用しているため、わざわざ水を入れる必要もない。

 ついでに40度ぐらいのお湯が出る【温水シャワー】もクラフトした。

 これで冬でもすぐに暖かい紅茶を飲めるし、冷たい水で手を洗わなくて済む。
 ……僕の場合、わざわざ魔道具を使わなくても自前の魔法で事足りるけど。

 さらに【腕クロック】もクラフトした。

 この世界の時計はどれも大型のものばかりで、腕につけられるような小型の時計は存在していないらしい。
 しかも精度が低い上に、定期的にバネを手動で巻き上げる必要があった。

 もちろん【腕クロック】はそんな面倒な作業は不要で、精度も高い。

 他にも【暖房クッション】や【自動歯ブラシ】なんかもクラフトしている。

 魔道具はアイデアを形にしていく作業が楽しい。
 細かくて地味な工程も多いが、それがまったく苦には感じなかった。

「もしかしたら前世でもこういうのが好きだったのかもしれないね」

 魔道具には素材集めが必須だけれど、幸い木材や土、それに金属なんかはそれなりに簡単に手に入る。
 使われていない家具や調度品などが、王宮内の倉庫に大量に保管されているからだ。

 ただ、動力源となる魔石はそうはいかない。
 稀に倉庫で騎士団の詰め所で見つかるくらいである。

「もっと魔石が欲しいね。となると……やっぱり一番手っ取り早いのは魔物を倒すことか」

 魔石は魔力濃度の高い場所に発生するが、より確実なのが、魔物からゲットすることだ。

 なにせ魔物の体内には必ず魔石が存在しているらしい。
 魔石を破壊すると確実に魔物が絶命することから、魔物の心臓に相当すると言われているそうだ。

 夜中。
 僕はこっそり王宮を抜け出すと、街の端に聳え立つ城壁の前までやってきた。

「フライング」

 第三階級緑魔法で宙へと浮き上がるとそのまま城壁を飛び越え、地面に悠々と着地した。

 もはや手慣れたものだ。
 なにせ今まで魔法の練習のため、幾度となく真夜中に都市を抜け出してきたのだから。

 第三階級魔法までなら、王宮の庭でも事足りた。
 しかし第四階級を越えてくると、もはや都市の外にいかなければ大惨事になりかねない。

 一度、第四階級赤魔法のエクスプロージョンを夜の庭で発動したところ、凄まじい爆音と共に建物の一部を破壊してしまい、大騒ぎになったことがあった。
 幼児の仕業だとは誰も思うはずもなく、幸い原因不明のまま処理されたけれど。

 トーチの魔法で夜の闇を照らしながらやってきたのは、街の北部に広がる森だった。
 もちろん狙いはこの森に棲息している魔物……その体内にあるという魔石だ。

「サーチング」

 使ったのは第二階級の無属性魔法。
 周囲にいる生き物の存在を探知する魔法で、安全に夜の森を進む上で必須級のものだ。

 まだ五歳に満たないこの脆弱な身体では、魔物の奇襲を受けたらそれだけでゲームオーバーだからね。

「っ……反応があった」

 前方斜め右におよそ二十メートル。
 一体の小型の魔物の存在を探知し、僕は息を潜める。

 小さな身体を活かして木々の影に身を潜めつつ接近していくと、一体の魔物が木の幹を背もたれにしながら横になっていた。

 人間の子供ぐらいの背丈をした、醜悪な顔つきの人型の魔物である。
 恐らくゴブリンだろう。

 ファンタジー世界では有名な最弱クラスの魔物だ。
 繁殖力が高く、群れると危険な魔物であることもよく知られている。

 図書室で読んだ本の中には魔物について詳しく書かれたものがあったが、ゴブリンはこの世界でも同じようなものらしい。

「……?」

 眠っているのか目をつぶっていたゴブリンだが、僕の接近に気づいたようで瞼を開けた。

 でももう遅い。
 僕の魔法はすでに発動し、ゴブリン目がけて鋭い風の刃が飛んでいた。

 ウィンドカッター。
 第二階級緑魔法である。

 ゴブリンの首が胴体と泣き別れて宙を舞う。

 人生初の魔物討伐は、こうしてあっさりと終わってしまったのだった。
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