4 / 48
第4話 好きだったのかもしれないね
しおりを挟む
「よし、これでいいはず。あとは実際に点けてみて……うん、ちゃんと点くね」
自作した照明が煌々とした光を放つのを確認し、僕は満足して頷く。
組み込んだ第一階級白魔法、トーチの魔法陣によって光るランプである。
すなわち魔道具だ。
この世界の照明はろうそくや油ランプ、炬火といったもので、夜通し明かりを確保する手段は非常に限られていた。
ろうそくや油は希少で高価だし。
その点、僕の作ったこの照明器具――【常夜ランプ】は、動力源となる魔力さえ確保できていれば常に明かりを提供し続けてくれる。
利用しているのは魔石だ。
これは魔力濃度の高い場所などから手に入るもので、魔力の供給源となってくれる。
「これで夜でも魔法の研究や訓練ができるようになった」
色んな魔道具がある中で、真っ先に照明器具をクラフトしたのは他でもない。
明かりを確保できれば、夜中も魔法研究と訓練に没頭可能だからだ。
ちなみにここ数か月、ずっと夜は寝ていない。
第三階級白魔法、ディープナップを使うことで、深い睡眠を取ったのと同等の疲労回復を得ることができるのである。
それから僕はどんどん魔法クラフトにハマっていった。
照明器具の次は、お湯を無限に生み出す魔道具【熱々ケトル】をクラフトした。
赤魔法だけでなく青魔法も利用しているため、わざわざ水を入れる必要もない。
ついでに40度ぐらいのお湯が出る【温水シャワー】もクラフトした。
これで冬でもすぐに暖かい紅茶を飲めるし、冷たい水で手を洗わなくて済む。
……僕の場合、わざわざ魔道具を使わなくても自前の魔法で事足りるけど。
さらに【腕クロック】もクラフトした。
この世界の時計はどれも大型のものばかりで、腕につけられるような小型の時計は存在していないらしい。
しかも精度が低い上に、定期的にバネを手動で巻き上げる必要があった。
もちろん【腕クロック】はそんな面倒な作業は不要で、精度も高い。
他にも【暖房クッション】や【自動歯ブラシ】なんかもクラフトしている。
魔道具はアイデアを形にしていく作業が楽しい。
細かくて地味な工程も多いが、それがまったく苦には感じなかった。
「もしかしたら前世でもこういうのが好きだったのかもしれないね」
魔道具には素材集めが必須だけれど、幸い木材や土、それに金属なんかはそれなりに簡単に手に入る。
使われていない家具や調度品などが、王宮内の倉庫に大量に保管されているからだ。
ただ、動力源となる魔石はそうはいかない。
稀に倉庫で騎士団の詰め所で見つかるくらいである。
「もっと魔石が欲しいね。となると……やっぱり一番手っ取り早いのは魔物を倒すことか」
魔石は魔力濃度の高い場所に発生するが、より確実なのが、魔物からゲットすることだ。
なにせ魔物の体内には必ず魔石が存在しているらしい。
魔石を破壊すると確実に魔物が絶命することから、魔物の心臓に相当すると言われているそうだ。
夜中。
僕はこっそり王宮を抜け出すと、街の端に聳え立つ城壁の前までやってきた。
「フライング」
第三階級緑魔法で宙へと浮き上がるとそのまま城壁を飛び越え、地面に悠々と着地した。
もはや手慣れたものだ。
なにせ今まで魔法の練習のため、幾度となく真夜中に都市を抜け出してきたのだから。
第三階級魔法までなら、王宮の庭でも事足りた。
しかし第四階級を越えてくると、もはや都市の外にいかなければ大惨事になりかねない。
一度、第四階級赤魔法のエクスプロージョンを夜の庭で発動したところ、凄まじい爆音と共に建物の一部を破壊してしまい、大騒ぎになったことがあった。
幼児の仕業だとは誰も思うはずもなく、幸い原因不明のまま処理されたけれど。
トーチの魔法で夜の闇を照らしながらやってきたのは、街の北部に広がる森だった。
もちろん狙いはこの森に棲息している魔物……その体内にあるという魔石だ。
「サーチング」
使ったのは第二階級の無属性魔法。
周囲にいる生き物の存在を探知する魔法で、安全に夜の森を進む上で必須級のものだ。
まだ五歳に満たないこの脆弱な身体では、魔物の奇襲を受けたらそれだけでゲームオーバーだからね。
「っ……反応があった」
前方斜め右におよそ二十メートル。
一体の小型の魔物の存在を探知し、僕は息を潜める。
小さな身体を活かして木々の影に身を潜めつつ接近していくと、一体の魔物が木の幹を背もたれにしながら横になっていた。
人間の子供ぐらいの背丈をした、醜悪な顔つきの人型の魔物である。
恐らくゴブリンだろう。
ファンタジー世界では有名な最弱クラスの魔物だ。
繁殖力が高く、群れると危険な魔物であることもよく知られている。
図書室で読んだ本の中には魔物について詳しく書かれたものがあったが、ゴブリンはこの世界でも同じようなものらしい。
「……?」
眠っているのか目をつぶっていたゴブリンだが、僕の接近に気づいたようで瞼を開けた。
でももう遅い。
僕の魔法はすでに発動し、ゴブリン目がけて鋭い風の刃が飛んでいた。
ウィンドカッター。
第二階級緑魔法である。
ゴブリンの首が胴体と泣き別れて宙を舞う。
人生初の魔物討伐は、こうしてあっさりと終わってしまったのだった。
自作した照明が煌々とした光を放つのを確認し、僕は満足して頷く。
組み込んだ第一階級白魔法、トーチの魔法陣によって光るランプである。
すなわち魔道具だ。
この世界の照明はろうそくや油ランプ、炬火といったもので、夜通し明かりを確保する手段は非常に限られていた。
ろうそくや油は希少で高価だし。
その点、僕の作ったこの照明器具――【常夜ランプ】は、動力源となる魔力さえ確保できていれば常に明かりを提供し続けてくれる。
利用しているのは魔石だ。
これは魔力濃度の高い場所などから手に入るもので、魔力の供給源となってくれる。
「これで夜でも魔法の研究や訓練ができるようになった」
色んな魔道具がある中で、真っ先に照明器具をクラフトしたのは他でもない。
明かりを確保できれば、夜中も魔法研究と訓練に没頭可能だからだ。
ちなみにここ数か月、ずっと夜は寝ていない。
第三階級白魔法、ディープナップを使うことで、深い睡眠を取ったのと同等の疲労回復を得ることができるのである。
それから僕はどんどん魔法クラフトにハマっていった。
照明器具の次は、お湯を無限に生み出す魔道具【熱々ケトル】をクラフトした。
赤魔法だけでなく青魔法も利用しているため、わざわざ水を入れる必要もない。
ついでに40度ぐらいのお湯が出る【温水シャワー】もクラフトした。
これで冬でもすぐに暖かい紅茶を飲めるし、冷たい水で手を洗わなくて済む。
……僕の場合、わざわざ魔道具を使わなくても自前の魔法で事足りるけど。
さらに【腕クロック】もクラフトした。
この世界の時計はどれも大型のものばかりで、腕につけられるような小型の時計は存在していないらしい。
しかも精度が低い上に、定期的にバネを手動で巻き上げる必要があった。
もちろん【腕クロック】はそんな面倒な作業は不要で、精度も高い。
他にも【暖房クッション】や【自動歯ブラシ】なんかもクラフトしている。
魔道具はアイデアを形にしていく作業が楽しい。
細かくて地味な工程も多いが、それがまったく苦には感じなかった。
「もしかしたら前世でもこういうのが好きだったのかもしれないね」
魔道具には素材集めが必須だけれど、幸い木材や土、それに金属なんかはそれなりに簡単に手に入る。
使われていない家具や調度品などが、王宮内の倉庫に大量に保管されているからだ。
ただ、動力源となる魔石はそうはいかない。
稀に倉庫で騎士団の詰め所で見つかるくらいである。
「もっと魔石が欲しいね。となると……やっぱり一番手っ取り早いのは魔物を倒すことか」
魔石は魔力濃度の高い場所に発生するが、より確実なのが、魔物からゲットすることだ。
なにせ魔物の体内には必ず魔石が存在しているらしい。
魔石を破壊すると確実に魔物が絶命することから、魔物の心臓に相当すると言われているそうだ。
夜中。
僕はこっそり王宮を抜け出すと、街の端に聳え立つ城壁の前までやってきた。
「フライング」
第三階級緑魔法で宙へと浮き上がるとそのまま城壁を飛び越え、地面に悠々と着地した。
もはや手慣れたものだ。
なにせ今まで魔法の練習のため、幾度となく真夜中に都市を抜け出してきたのだから。
第三階級魔法までなら、王宮の庭でも事足りた。
しかし第四階級を越えてくると、もはや都市の外にいかなければ大惨事になりかねない。
一度、第四階級赤魔法のエクスプロージョンを夜の庭で発動したところ、凄まじい爆音と共に建物の一部を破壊してしまい、大騒ぎになったことがあった。
幼児の仕業だとは誰も思うはずもなく、幸い原因不明のまま処理されたけれど。
トーチの魔法で夜の闇を照らしながらやってきたのは、街の北部に広がる森だった。
もちろん狙いはこの森に棲息している魔物……その体内にあるという魔石だ。
「サーチング」
使ったのは第二階級の無属性魔法。
周囲にいる生き物の存在を探知する魔法で、安全に夜の森を進む上で必須級のものだ。
まだ五歳に満たないこの脆弱な身体では、魔物の奇襲を受けたらそれだけでゲームオーバーだからね。
「っ……反応があった」
前方斜め右におよそ二十メートル。
一体の小型の魔物の存在を探知し、僕は息を潜める。
小さな身体を活かして木々の影に身を潜めつつ接近していくと、一体の魔物が木の幹を背もたれにしながら横になっていた。
人間の子供ぐらいの背丈をした、醜悪な顔つきの人型の魔物である。
恐らくゴブリンだろう。
ファンタジー世界では有名な最弱クラスの魔物だ。
繁殖力が高く、群れると危険な魔物であることもよく知られている。
図書室で読んだ本の中には魔物について詳しく書かれたものがあったが、ゴブリンはこの世界でも同じようなものらしい。
「……?」
眠っているのか目をつぶっていたゴブリンだが、僕の接近に気づいたようで瞼を開けた。
でももう遅い。
僕の魔法はすでに発動し、ゴブリン目がけて鋭い風の刃が飛んでいた。
ウィンドカッター。
第二階級緑魔法である。
ゴブリンの首が胴体と泣き別れて宙を舞う。
人生初の魔物討伐は、こうしてあっさりと終わってしまったのだった。
64
お気に入りに追加
1,883
あなたにおすすめの小説
農民レベル99 天候と大地を操り世界最強
九頭七尾
ファンタジー
【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。
仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて――
「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」
「片手で抜けますけど? こんな感じで」
「200キロはありそうな大根を片手で……?」
「小麦の方も収穫しますね。えい」
「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」
「手刀で真空波を起こしただけですけど?」
その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。
日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。
「これは投擲用大根だ」
「「「投擲用大根???」」」
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる