追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾

文字の大きさ
上 下
3 / 48

第3話 僕ってもしかして

しおりを挟む
 どうやら魔法を発動するためには魔法陣というものが必要らしい。

 魔法陣は、紋様や文字などで構成された図形のことで、自分の魔力によって描く。
 魔力というインクで、空中のキャンバスに複雑な図を作り上げるのである。

 もちろん魔法陣には一定の法則が存在していて、法則を覚えれば既存の魔法をカスタマイズしたり、オリジナルの魔法を作り出したりすることも可能なようだ。

 この世界で一般的なのは、次の六系統の魔法らしい。

 赤魔法……火や熱に関する魔法。
 青魔法……水や氷に関する魔法。
 黄魔法……土や金属に関する魔法。
 緑魔法……風や天候に関する魔法。
 白魔法……光や治癒に関する魔法。
 黒魔法……闇や死に関する魔法。

 それぞれ魔法陣の図法が異なっていることもあり、複数の魔法を高位まで習得していくのは至難の業だという。
 いわば複数の言語を覚えるようなものだ。

 さらに当人の魔力の波長によって、得意な魔法とそうではない魔法があるらしかった。

 どの魔法に適性があるのかを調べる方法も、いくつか魔導書で紹介されていた。

 その中の一つが、火や水などに自分の魔力を通してみる、加減式と呼ばれる手法だ。
 例えば燃えている火に魔力を流してみて、火力が増したなら赤魔法の才能があることを意味し、逆に火力が低下したならまったく才能がないことを意味する、というもの。

 もちろん僕もやってみた。

 篝火に魔力を通すと……凄まじい勢いで炎が燃え上がり。
 井戸水に魔力を通すと……井戸から水が溢れ出し。
 地面に魔力を通すと……地面が大きく盛り上がり。
 そよ風に魔力を通すと……暴風へと変わり。
 窓から差し込む柔らかな陽光に魔力を通すと……部屋が真っ白になるほど苛烈な光が弾け。
 暗闇に魔力を通すと……完全な漆黒へと変貌し。

 ……あれ?
 僕ってもしかして、全系統の魔法に適性がある?




「イグナイトアロー」

 燃え盛る矢が放たれ、二十メートル先に置かれた的を直撃する。

「よし、できた!」

 僕は思わず快哉を叫んだ。

 今はじめて発動に成功したのは、第三階級赤魔法のイグナイトアローである。
 魔法には階級が存在し、高い階級になればなるほど強力になる一方で、魔法陣が複雑になり要求される魔力量も桁違いに増えていく。

 第一階級は数日、第二階級は二週間で使えるようになったのに、この第三階級には三か月もかかってしまった。

 すでに僕は一歳になっている。
 もちろん訓練は夜中にこっそり行っていた。魔法を使える一歳児なんて、このファンタジー世界でもファンタジーだからね。

 第三階級の魔法に成功したのは、このイグナイトアローが最初だ。
 これから他の赤魔法や、他の系統の第三階級魔法を練習していくつもりだった。

 なお、第四階級はまだまだ当分、難しそうである。
 第三階級よりさらに複雑な魔法陣は覚えるだけでも大変だし、それを描くのはもっと大変だ。

 魔法書には第八階級の魔法まで存在していると記されていた。
 第三階級や第四階級でもこの難度だ。第八階級なんて使えるやつはどんな化け物だろう。

 全系統の魔法に適性があることから、僕には魔法の才能があると思っていたが、第三階級で手間取っている時点で大したことないのかもしれない。




 三歳になった。
 あれから第三階級はもちろん、全系統の第四階級魔法を使いこなせるようになり、少しずつ第五階級魔法の訓練も始めているところだ。

 ただ、第五階級は本当に難しい。
 膨大な魔力量が要求されるため、一度でも発動に失敗したら、僕の魔力はあっさり底をついてしまう。かなり増えたはずなのに……。

 図書室に置かれていた魔法書はすべて読み尽くしてしまった。

 魔法書の中には、魔法の実践的な使い方なんかが書かれているものがあった。

 例えば魔法陣をより速く描く方法。
 魔力で一から魔法陣を描いていると、魔法の階級が上がれば上がるほど膨大な時間がかかってしまう。

 そこで脳内にあらかじめ記憶しておいた図形や文字を、丸ごと空中に魔力投影するのだ。
 イメージ力が要求されるが、これで発動までの時間を大幅に短縮することができる。

 基本の六系統に属さない魔法について書いた魔法書もあった。
 無属性魔法や時空魔法、重力魔法、精霊魔法、結界魔法といった魔法である。

 これらの魔法陣は、基本六系統とは図法がさらに大きく違う。
 基本六系統がせいぜい英語とドイツ語、フランス語あたりの違いだとすれば、系統外の魔法は英語と日本語くらい違っているのだ。

 そして、魔法によるクラフトについて書かれた魔法書もあった。

 魔法でのクラフト。
 単に魔法でモノを作成するというだけではない。

 魔力を動力源に特殊な性能を発揮する道具、すなわち魔道具を作り出す方法について書かれていたのだ。

 自動で衣類を洗ってくれる魔道具。
 冷めた食べ物をあっという間に温めてくれる魔道具。
 食べ物を低温保存できる魔道具。

 ……どれもどこかで聞いたことのあるものばかりである。

「洗濯機に電子レンジに冷蔵庫じゃないか」

 前世の知識がある僕からすればまったく目新しさ感じないが、この世界の人たちにとってはまさに便利さの革命ともいえるアイテムだろう。

「ん? ちょっと待って。つまり魔法クラフトが可能になれば、前世の便利アイテムをこの世界で再現できるってことだよね!」

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...