87 / 115
③
12-6 『at_me』の暴走~鈍感は罪~
しおりを挟む
「……なるほど」
一通りの話を聞いて、独り言のように呟く。これでどうして、群司さんがきたのか理解がいった。
だが、それでもまだ分からないことがいくつかある。
めぐるちゃんは話し終えると再び俯いてしまった。極力こちらを見ないようにしているのと、会話もしないようにしているようだ。
この状態の子にさらに質問するというのは気が引けるが、群司さんも言っていた。「全部説明してやれ」と。なら俺も、とことん聞くべきだとそう思った。
「けど、どうして俺と会うことを嫌がっていたんだ?」
「いくつかありますけど……一つはロリコンだったから」
「……ああ、うん。なんか、ごめん……」
あまりにもド直球な言葉に少し凹む。
あかりちゃん相手だとこんなことならなかったのに。……それなりに付き合いがあって、友達だとも思っていたからかな?
しかし、めぐるちゃんは俺の態度に、慌てたように付け足してくる。
「あ、違います……! 巧人さんのことが嫌だったわけじゃなくて! 私のほうがアレだというか!」
「あ、アレ?」
すごく焦ってる。何を言いたいのか全く分からない。
「えっとアレって言うのはまた別の理由で……あの……そ、そうでしゅ!」
あ、噛んだ。両手で口抑えてる。痛そう。
でもごめんね。すごくかわいいよ。
「ロリコンだからこそ、巧人さんは私と会うことは嫌かなと思いまして」
あー……。まぁ、そうかもしれないな。今のようにロリコンでなくなっている状態でなかったとしても、俺なら遠慮したくなる状況だ。
それは、今回のあかりちゃんの連絡先のことと同じようなもので……でも、さらにその上をいくものだ。俺じゃ手が出ない。
……でも、さすがだ。俺のことをよく理解している。そんなところもまた群司さんと違うところだ。しっかりと馴染む感じだ。
「ありがとう。めぐるちゃん。俺のこと考えてくれて」
「い、いえ! これくらいは全然です!」
めぐるちゃん、おかしなテンションだな。たぶん、それで気まずい感じの空気をなくそうとしているんだろうな。若干日本語が変だし。
まぁ、コミュニケーションをまともにとれないような状況や、沈んだ気持ちでいられるよりはマシだ。今もちゃんと顔を上げて、こっちを見ているし。
「よかったよ」
「な、なにがですか?」
「さっきより表情が柔らくなった。自然体っていうかな? ちゃんとめぐるちゃんの素をみることができて嬉しいよ」
俺はそう言って微笑む。恥ずかしそうにほんのり顔を赤くし、伏せてしまう。けれど、すぐに窺うように少し顔を上げると、意地悪そうな……拗ねたような声で言った。
「た、巧人さんのほうこそ、全然素じゃないです」
「そうかな?」
俺は気にしてないけど……いや、今は『素』ではないか。
「そうです。私の知っている巧人さんならここで襲っちゃいます」
「襲わないよ。人に変なキャラづけをしないで」
どんな人間だと思われてるんだよ、俺は。
つーか、俺は紳士だって何度も言ってただろうに。
「きっとあかりちゃんのことで頭がいっぱいになってるんです。だから襲わないんです」
「いや、元から襲わないってば。それに今は、あかりちゃんのことよりもめぐるちゃんのことのほうで頭がいっぱいだったし」
「!? やっぱりケダモノ……! ……襲う?」
そんな上気して期待したような表情で首を傾げるな。
まったく、けしからんな。そんないけない顔する悪い子には、大人の怖さってものを思い知らせてやるぞ。
まぁ、今の俺じゃ色々と無理だからやりはしないけど。
「まぁでも、めぐるちゃんの知っている俺じゃないってのはあってるけどね」
「? どういう意味ですか?」
「さっき群司さんには話したけど……俺、今ロリコンじゃなくなってるから」
「え……ええー!?」
めぐるちゃんは驚いて思わず、声を上げる。そのせいで、何人かの人がこちらを見た。
「めぐるちゃん、ここ喫茶店の中だからね、声抑えて。ね?」
「できるわけないよ! だって、あの巧人さんがロリコンじゃなくなっただなんて……。そんなのもう巧人さんじゃないよ!」
いや、まったくもってその通りだから何も言わないけど。
「まぁ……それで、群司さんにはこれも言ったけど、俺はまた戻りたいんだよ」
「も、元に戻るためだったら私手伝います!」
「え? いや、別にいい」
ロリコンに戻るとかは、今回の件に関係ないし。原因もわかってる。戻るための方法も色々と試しているし、相談できる相手もいる。
だから俺は否定したつもりで言ったのだが……。
「いいんですね! じゃあえと、えっと……なにすればいいですか! お兄ちゃんとか呼べばいいですか!」
勘違いされた。お兄ちゃんと呼ばれること……はものすごく魅力的ではあるが、それはダメだ。
兄のいる人の、兄にはなれない。その人から、奪うことはできない。
それは『ロリコン鉄の掟』第十九条に反するぜ。
「いや、いいっていうのは遠慮するってことで……」
「遠慮なんてしなくていいです! 私もロリコンじゃない巧人さんなんて見てられませんから!」
「うん。その気持ちは俺も嬉しいけどね、そのことはちゃんと他に相談できる人がたくさんいるから。それよりも、他の人には相談できない、また別件のあかりちゃんの話を……」
「いいえ! 戻るためのお話をすることが最優先事項です! このままだと、巧人さんは白く燃え尽き、抜け殻になってしまいます!」
ダメだ。何か暴走状態になってる。こっちの声が届いてないと言うか、何を言っても聞かない。
けれど、これは周りでよく見る状態だから、対処法はそれなりに心得ている。
「めぐるちゃん」
「なんです――っ!?」
俺は一声名前を呼びかけると、身を乗り出してめぐるちゃんの頭を撫でた。
手を置かれたことに驚き、撫でられることに状況がついていかないのか、放心。
そして、すぐさま顔を赤くした。
「なななな! なにをしゅ……するんでしゅか!」
言い直したのにまた噛んでる。可愛い。そんな微笑ましい気持ちで、なでなでとし続ける。
「あう、うぅ……」
めぐるちゃんのほうも、俺の手から逃げたり、払おうとしたりはせずになすがままになっている。嫌がってない……というか、恥ずかしいだけで嬉しそうだ。……もう少し続けよう。
そうし続けていると、めぐるちゃんが大人しくなってきたので、手をどける。
「あっ……」
そうすると、めぐるちゃんからは寂しそうな声が小さく上げる。っく、そんな顔されたらまたなでてあげたくなるが……ここは耐えろ。
俺はあくまでも平静を保って話しかける。
「落ち着いた?」
「……はい。すみません」
「いいよ。それだけ、俺のことを心配してくれたってことなんだから。嬉しく思うよ。でもね、ロリコンに戻るってことは、今はいいんだ。それよりも、あかりちゃんのこと、それはめぐるちゃんにしか話せないことなんだ。めぐるちゃんだけの……『at_me』だからこその、特別なんだよ」
俺がそう語り掛けると、めぐるちゃんは暖かな表情で微笑んだ。
「はい。でも本当に、何か手伝えることがあったら言ってください。それこそ、私だからできることもあると思いますから」
「うん……。ありがとう」
めぐるちゃんの優しさが心に染みる。ん~……これで小学生だなんて。とてもそうとは思えないくらいしっかりしてるな~……。
けど、あの『at_me』なんだよな……。
それが不思議に思って俺はたずねた。
一通りの話を聞いて、独り言のように呟く。これでどうして、群司さんがきたのか理解がいった。
だが、それでもまだ分からないことがいくつかある。
めぐるちゃんは話し終えると再び俯いてしまった。極力こちらを見ないようにしているのと、会話もしないようにしているようだ。
この状態の子にさらに質問するというのは気が引けるが、群司さんも言っていた。「全部説明してやれ」と。なら俺も、とことん聞くべきだとそう思った。
「けど、どうして俺と会うことを嫌がっていたんだ?」
「いくつかありますけど……一つはロリコンだったから」
「……ああ、うん。なんか、ごめん……」
あまりにもド直球な言葉に少し凹む。
あかりちゃん相手だとこんなことならなかったのに。……それなりに付き合いがあって、友達だとも思っていたからかな?
しかし、めぐるちゃんは俺の態度に、慌てたように付け足してくる。
「あ、違います……! 巧人さんのことが嫌だったわけじゃなくて! 私のほうがアレだというか!」
「あ、アレ?」
すごく焦ってる。何を言いたいのか全く分からない。
「えっとアレって言うのはまた別の理由で……あの……そ、そうでしゅ!」
あ、噛んだ。両手で口抑えてる。痛そう。
でもごめんね。すごくかわいいよ。
「ロリコンだからこそ、巧人さんは私と会うことは嫌かなと思いまして」
あー……。まぁ、そうかもしれないな。今のようにロリコンでなくなっている状態でなかったとしても、俺なら遠慮したくなる状況だ。
それは、今回のあかりちゃんの連絡先のことと同じようなもので……でも、さらにその上をいくものだ。俺じゃ手が出ない。
……でも、さすがだ。俺のことをよく理解している。そんなところもまた群司さんと違うところだ。しっかりと馴染む感じだ。
「ありがとう。めぐるちゃん。俺のこと考えてくれて」
「い、いえ! これくらいは全然です!」
めぐるちゃん、おかしなテンションだな。たぶん、それで気まずい感じの空気をなくそうとしているんだろうな。若干日本語が変だし。
まぁ、コミュニケーションをまともにとれないような状況や、沈んだ気持ちでいられるよりはマシだ。今もちゃんと顔を上げて、こっちを見ているし。
「よかったよ」
「な、なにがですか?」
「さっきより表情が柔らくなった。自然体っていうかな? ちゃんとめぐるちゃんの素をみることができて嬉しいよ」
俺はそう言って微笑む。恥ずかしそうにほんのり顔を赤くし、伏せてしまう。けれど、すぐに窺うように少し顔を上げると、意地悪そうな……拗ねたような声で言った。
「た、巧人さんのほうこそ、全然素じゃないです」
「そうかな?」
俺は気にしてないけど……いや、今は『素』ではないか。
「そうです。私の知っている巧人さんならここで襲っちゃいます」
「襲わないよ。人に変なキャラづけをしないで」
どんな人間だと思われてるんだよ、俺は。
つーか、俺は紳士だって何度も言ってただろうに。
「きっとあかりちゃんのことで頭がいっぱいになってるんです。だから襲わないんです」
「いや、元から襲わないってば。それに今は、あかりちゃんのことよりもめぐるちゃんのことのほうで頭がいっぱいだったし」
「!? やっぱりケダモノ……! ……襲う?」
そんな上気して期待したような表情で首を傾げるな。
まったく、けしからんな。そんないけない顔する悪い子には、大人の怖さってものを思い知らせてやるぞ。
まぁ、今の俺じゃ色々と無理だからやりはしないけど。
「まぁでも、めぐるちゃんの知っている俺じゃないってのはあってるけどね」
「? どういう意味ですか?」
「さっき群司さんには話したけど……俺、今ロリコンじゃなくなってるから」
「え……ええー!?」
めぐるちゃんは驚いて思わず、声を上げる。そのせいで、何人かの人がこちらを見た。
「めぐるちゃん、ここ喫茶店の中だからね、声抑えて。ね?」
「できるわけないよ! だって、あの巧人さんがロリコンじゃなくなっただなんて……。そんなのもう巧人さんじゃないよ!」
いや、まったくもってその通りだから何も言わないけど。
「まぁ……それで、群司さんにはこれも言ったけど、俺はまた戻りたいんだよ」
「も、元に戻るためだったら私手伝います!」
「え? いや、別にいい」
ロリコンに戻るとかは、今回の件に関係ないし。原因もわかってる。戻るための方法も色々と試しているし、相談できる相手もいる。
だから俺は否定したつもりで言ったのだが……。
「いいんですね! じゃあえと、えっと……なにすればいいですか! お兄ちゃんとか呼べばいいですか!」
勘違いされた。お兄ちゃんと呼ばれること……はものすごく魅力的ではあるが、それはダメだ。
兄のいる人の、兄にはなれない。その人から、奪うことはできない。
それは『ロリコン鉄の掟』第十九条に反するぜ。
「いや、いいっていうのは遠慮するってことで……」
「遠慮なんてしなくていいです! 私もロリコンじゃない巧人さんなんて見てられませんから!」
「うん。その気持ちは俺も嬉しいけどね、そのことはちゃんと他に相談できる人がたくさんいるから。それよりも、他の人には相談できない、また別件のあかりちゃんの話を……」
「いいえ! 戻るためのお話をすることが最優先事項です! このままだと、巧人さんは白く燃え尽き、抜け殻になってしまいます!」
ダメだ。何か暴走状態になってる。こっちの声が届いてないと言うか、何を言っても聞かない。
けれど、これは周りでよく見る状態だから、対処法はそれなりに心得ている。
「めぐるちゃん」
「なんです――っ!?」
俺は一声名前を呼びかけると、身を乗り出してめぐるちゃんの頭を撫でた。
手を置かれたことに驚き、撫でられることに状況がついていかないのか、放心。
そして、すぐさま顔を赤くした。
「なななな! なにをしゅ……するんでしゅか!」
言い直したのにまた噛んでる。可愛い。そんな微笑ましい気持ちで、なでなでとし続ける。
「あう、うぅ……」
めぐるちゃんのほうも、俺の手から逃げたり、払おうとしたりはせずになすがままになっている。嫌がってない……というか、恥ずかしいだけで嬉しそうだ。……もう少し続けよう。
そうし続けていると、めぐるちゃんが大人しくなってきたので、手をどける。
「あっ……」
そうすると、めぐるちゃんからは寂しそうな声が小さく上げる。っく、そんな顔されたらまたなでてあげたくなるが……ここは耐えろ。
俺はあくまでも平静を保って話しかける。
「落ち着いた?」
「……はい。すみません」
「いいよ。それだけ、俺のことを心配してくれたってことなんだから。嬉しく思うよ。でもね、ロリコンに戻るってことは、今はいいんだ。それよりも、あかりちゃんのこと、それはめぐるちゃんにしか話せないことなんだ。めぐるちゃんだけの……『at_me』だからこその、特別なんだよ」
俺がそう語り掛けると、めぐるちゃんは暖かな表情で微笑んだ。
「はい。でも本当に、何か手伝えることがあったら言ってください。それこそ、私だからできることもあると思いますから」
「うん……。ありがとう」
めぐるちゃんの優しさが心に染みる。ん~……これで小学生だなんて。とてもそうとは思えないくらいしっかりしてるな~……。
けど、あの『at_me』なんだよな……。
それが不思議に思って俺はたずねた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。
10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。
婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。
その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。
それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー?
【作者よりみなさまへ】
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前
地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。
あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。
私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。
アリシア・ブルームの復讐が始まる。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる