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③
10-3 絵夢への気持ち
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「きゃうん!」
絵夢は小さく悲鳴を上げる。だがそこには、その痛みという快楽に顔をとろけさせ、恍惚の表情で全身を震わせる変態の姿があった。
その様子に俺の顔が引きつる。やばい……怖いよ、こいつ。
「ご主人様!」
その声にハッとする。絵夢を見れば、こっちを潤んだ瞳でみている。どうやらモードが完全に切り替わったようだ。
「絵夢は……絵夢はダメなメイドにございます! どうかご主人様、この卑しい雌豚めにもっとお仕置きを!」
(いや、お前はメイドじゃないだろ)
と、心の中でだけ突っ込む。他にも鞭で叩いてもお前にはご褒美でしかないだろとか、まずお前にやれって言われてやってるんだ、とか言いたいことはたくさんある。
でもどうせ、言葉に出したところで聞きはしないだろう。こうやって妄想、トリップしている状態のやつは大抵そうだ。
しかし、よく漫画とかで瞳にハートがでることがあるが、絵夢がこの状態になると実際に見えるな。どんだけ、叩かれたいんだよ。
「ご主人様、早くお仕置きを! 嬲り、乏しめ、罵り……ご主人様専用の雌奴隷になるまでご調教を!」
絵夢は『お仕置き』と称して貪欲に求めてくる。まさに、快楽主義と言っても過言ではない。
(けど、慣れないんだよな)
例え何度やっても慣れることはないだろう。この叩くという行為。自分の手で他人を傷つけるという行為は。
もちろん、絵夢がそれを望んでいるということはわかっている。それで喜ぶ者がいるのもわかっている。分かっているうえで……やっぱり理解できない。
今の絵夢は、普段とは違う。それに従順になっているはずだ。今なら、いつもとは違ったことを言ってくれるかもしれない。何か、分かるのかもしれない。
俺はその疑問を聞いてみる。
「絵夢は……どうして、俺をご主人様だと言うんだ?」
「ご主人様はご主人様だからです!」
「じゃあ、お前にとって俺はどういうご主人様なんだ?」
「どういう?」
絵夢は俺のそれ質問に首を傾げる。
「お前の要望を、ただただ忠実にやってくれるやつか? それとも、お前を喜ばせることができれば、それでいいのか?」
ここで、俺が鞭で叩かずとも、じらしプレイだと一人で盛り上がる。それが絵夢だ。
じゃあ、俺という存在は何なのだろうか?
絵夢にご主人様だと祭り上げられ、利用されている。そんな程度の存在なのか?
結局絵夢は、自分だけが楽しければいい。そういうやつなのだろうか。
「答えてくれ。お前にとって俺は何なんだ?」
「……ご主人様はご主人様です」
呟くようにそう答えて、絵夢はゆっくりと喋り始めた。
「私は、ダメダメな人間です。ですから、そんな私にお仕置きをしてくれる。そのことに、尊敬し感謝しているのです。お仕置きは私という存在を見てくれているということ。そして与えられた痛みは、その人が私だけに向けたもの。それを感じることが嬉しいのです」
……そうか。絵夢は単純に、求めているんだ。自分の欲求を満たしてくれる人を。
利用とかじゃない。その人が自分を相手してくれていることを、嬉しく思っている。
でも、きっとそれはまだ自分勝手。そうであることは変わりないんだ。
「俺は、この鞭で叩くっていう事が好きじゃない。それでも、お前はやれっ言うのか?」
「いいえ。無理には……」
「でもな」
続けて話そうとする絵夢をそこで遮る。
「本当に、否定したとしても、お前は求めてくるだろ? 追い払おうとしても、それで興奮するだろ?」
「…………」
絵夢は俺の言葉に黙る。自分でも、その通りだとわかっているんだろう。
「別にな、それを怒っているんじゃない」
自分勝手……というより、その強引さは、絵夢の性格でもあるから。悪いわけではないし、治す必要もない。
「たださ、もっと自分の体を大事にしろよ。強引に迫って、ただ事じゃない怪我をするかもしれない。求めた相手が、冗談じゃ済まないような酷いことをしてくるかもしれない。誰彼構わずにそんなことしていたら、そのうち取り返しのつかないことになるぞ」
そうだ。俺が叩くことを嫌がったのは全部。
俺が理解できないと思ったのも全部。それだ。簡単な理由だった。
『取り返しのつかないこと』
俺は心配なんだ。絵夢のことが。いつもの絵夢が消えてしまうことが、嫌なんだ。
だから、俺は自分で大切な人を……友達を、傷つけたくないと思ったんだ。
たとえ、それを望まれていても。変わらないままでいてほしいから。
この道具なら、別にその心配はない。そういうプレイに使うために開発されたもので、安全は保障されているから。だから、今から続けていくのも別にいい。慣れないけれど、絵夢がこれで変わることはないってわかっているから。
でも、これから先、今のままだったら……不安なんだ。
「信じているからです」
その言葉で、自然と落ちていた視線を上げる。絵夢は、真っ直ぐに曇りのない目で見つめていた。
「私はご主人様のことを信じ、そのすべてを委ねているのです。この体を、捧げているのです。それができるのは……『ご主人様』だけなんです」
ご主人様だけ。それはさっきまでの意味と同じじゃない。『誰でも』いいってわけじゃない。だったら……
「……そっか。わかったよ」
俺は絵夢に微笑みかける。絵夢は俺が心配するまでもなく、ちゃんと、自分で選んでいるんだ。信じれる人だけに託しているんだ。だから俺は、そんな絵夢の言葉を信じよう。絵夢が俺を信頼してくれているように。
「では早速! もう焦らされて焦らされて、失禁してしまいそうです!」
「するなよ。汚い」
それと、お前は本当にMになると、汚い言葉使うようになるよな。下ネタで顔を赤くしていたお前はどうした。
「ああ……その目。軽蔑の眼差し! 最高です!」
だから、嬉しがるなよ。……って、こんな目で見ているからまた喜ぶのか。
「ご主人様! さぁどうぞ! 私を思う存分、その鞭で叩いて、お仕置きしてください!」
「……わかってるよ」
そう。わかったよ。どうして、叩かれて喜ぶのか。その理由も。
だから少しだけ、真面目に付き合ってやるよ。
「お前は、ご主人様に対して、命令してんじゃない。この変態ドMの駄メイドめ」
「ああ、すみませんご主人様! ですから……ですからもっと、この私を叱ってください!」
「だからそう言うのをやめろっていってんだ……よ!」
そうして俺は鞭を絵夢に振り下ろす。暑い日であるということもあって半袖だった絵夢の腕に当たりパシンっと、小気味の良い音が鳴る。あたった箇所がじんわりと赤くなっていく。
「あっ……駄目です。ご主人様……その程度では、お仕置きになりません。もっと激しく! でないと、物覚えの悪い私は、反省しません。ご主人様の手で、体に刻み付けてください!」
「そうかよ。だったら……これでいいか!」
さっきよりも力を込めて叩く。さらに、あえて一度目と同じ場所を叩いた。すると、先ほどよりも大きく、「あっ」っと声を上げた。そこにはどことなく、艶が混じっている。
「ああ……すみません、ご主人様。お仕置きされているのに、体が喜んでしまっています。でもそれは、ご主人様が私をお叱りしてくださるからこそ! 絵夢はご主人様の寵愛をこの身に受けられて……幸せです!」
「ああ。俺も、お前が喜ぶからこそ。こうしてやっているんだ。お前のためにしてやっているんだ。だから……」
俺は手に持った鞭をぎゅっと握る。そうしてさらに、絵夢にもう一撃を食らわせつつ、叫んだ。
「だからお前は、この俺から送られる刺激を、その身で感じ取って受け止めろ!」
「はひぃ! ご主人様!」
「いい返事だ……よし!」
その後は、何度も何度も、鞭を振るい続けた。俺も自分でできる限り考えて、あらゆる角度から全身を叩いていった。
そうして、腕が疲れ一息をついていたところで、絵夢は微笑みながら、一粒の涙を流し、呟いた。
「愛しています……ご主人様」
絵夢は小さく悲鳴を上げる。だがそこには、その痛みという快楽に顔をとろけさせ、恍惚の表情で全身を震わせる変態の姿があった。
その様子に俺の顔が引きつる。やばい……怖いよ、こいつ。
「ご主人様!」
その声にハッとする。絵夢を見れば、こっちを潤んだ瞳でみている。どうやらモードが完全に切り替わったようだ。
「絵夢は……絵夢はダメなメイドにございます! どうかご主人様、この卑しい雌豚めにもっとお仕置きを!」
(いや、お前はメイドじゃないだろ)
と、心の中でだけ突っ込む。他にも鞭で叩いてもお前にはご褒美でしかないだろとか、まずお前にやれって言われてやってるんだ、とか言いたいことはたくさんある。
でもどうせ、言葉に出したところで聞きはしないだろう。こうやって妄想、トリップしている状態のやつは大抵そうだ。
しかし、よく漫画とかで瞳にハートがでることがあるが、絵夢がこの状態になると実際に見えるな。どんだけ、叩かれたいんだよ。
「ご主人様、早くお仕置きを! 嬲り、乏しめ、罵り……ご主人様専用の雌奴隷になるまでご調教を!」
絵夢は『お仕置き』と称して貪欲に求めてくる。まさに、快楽主義と言っても過言ではない。
(けど、慣れないんだよな)
例え何度やっても慣れることはないだろう。この叩くという行為。自分の手で他人を傷つけるという行為は。
もちろん、絵夢がそれを望んでいるということはわかっている。それで喜ぶ者がいるのもわかっている。分かっているうえで……やっぱり理解できない。
今の絵夢は、普段とは違う。それに従順になっているはずだ。今なら、いつもとは違ったことを言ってくれるかもしれない。何か、分かるのかもしれない。
俺はその疑問を聞いてみる。
「絵夢は……どうして、俺をご主人様だと言うんだ?」
「ご主人様はご主人様だからです!」
「じゃあ、お前にとって俺はどういうご主人様なんだ?」
「どういう?」
絵夢は俺のそれ質問に首を傾げる。
「お前の要望を、ただただ忠実にやってくれるやつか? それとも、お前を喜ばせることができれば、それでいいのか?」
ここで、俺が鞭で叩かずとも、じらしプレイだと一人で盛り上がる。それが絵夢だ。
じゃあ、俺という存在は何なのだろうか?
絵夢にご主人様だと祭り上げられ、利用されている。そんな程度の存在なのか?
結局絵夢は、自分だけが楽しければいい。そういうやつなのだろうか。
「答えてくれ。お前にとって俺は何なんだ?」
「……ご主人様はご主人様です」
呟くようにそう答えて、絵夢はゆっくりと喋り始めた。
「私は、ダメダメな人間です。ですから、そんな私にお仕置きをしてくれる。そのことに、尊敬し感謝しているのです。お仕置きは私という存在を見てくれているということ。そして与えられた痛みは、その人が私だけに向けたもの。それを感じることが嬉しいのです」
……そうか。絵夢は単純に、求めているんだ。自分の欲求を満たしてくれる人を。
利用とかじゃない。その人が自分を相手してくれていることを、嬉しく思っている。
でも、きっとそれはまだ自分勝手。そうであることは変わりないんだ。
「俺は、この鞭で叩くっていう事が好きじゃない。それでも、お前はやれっ言うのか?」
「いいえ。無理には……」
「でもな」
続けて話そうとする絵夢をそこで遮る。
「本当に、否定したとしても、お前は求めてくるだろ? 追い払おうとしても、それで興奮するだろ?」
「…………」
絵夢は俺の言葉に黙る。自分でも、その通りだとわかっているんだろう。
「別にな、それを怒っているんじゃない」
自分勝手……というより、その強引さは、絵夢の性格でもあるから。悪いわけではないし、治す必要もない。
「たださ、もっと自分の体を大事にしろよ。強引に迫って、ただ事じゃない怪我をするかもしれない。求めた相手が、冗談じゃ済まないような酷いことをしてくるかもしれない。誰彼構わずにそんなことしていたら、そのうち取り返しのつかないことになるぞ」
そうだ。俺が叩くことを嫌がったのは全部。
俺が理解できないと思ったのも全部。それだ。簡単な理由だった。
『取り返しのつかないこと』
俺は心配なんだ。絵夢のことが。いつもの絵夢が消えてしまうことが、嫌なんだ。
だから、俺は自分で大切な人を……友達を、傷つけたくないと思ったんだ。
たとえ、それを望まれていても。変わらないままでいてほしいから。
この道具なら、別にその心配はない。そういうプレイに使うために開発されたもので、安全は保障されているから。だから、今から続けていくのも別にいい。慣れないけれど、絵夢がこれで変わることはないってわかっているから。
でも、これから先、今のままだったら……不安なんだ。
「信じているからです」
その言葉で、自然と落ちていた視線を上げる。絵夢は、真っ直ぐに曇りのない目で見つめていた。
「私はご主人様のことを信じ、そのすべてを委ねているのです。この体を、捧げているのです。それができるのは……『ご主人様』だけなんです」
ご主人様だけ。それはさっきまでの意味と同じじゃない。『誰でも』いいってわけじゃない。だったら……
「……そっか。わかったよ」
俺は絵夢に微笑みかける。絵夢は俺が心配するまでもなく、ちゃんと、自分で選んでいるんだ。信じれる人だけに託しているんだ。だから俺は、そんな絵夢の言葉を信じよう。絵夢が俺を信頼してくれているように。
「では早速! もう焦らされて焦らされて、失禁してしまいそうです!」
「するなよ。汚い」
それと、お前は本当にMになると、汚い言葉使うようになるよな。下ネタで顔を赤くしていたお前はどうした。
「ああ……その目。軽蔑の眼差し! 最高です!」
だから、嬉しがるなよ。……って、こんな目で見ているからまた喜ぶのか。
「ご主人様! さぁどうぞ! 私を思う存分、その鞭で叩いて、お仕置きしてください!」
「……わかってるよ」
そう。わかったよ。どうして、叩かれて喜ぶのか。その理由も。
だから少しだけ、真面目に付き合ってやるよ。
「お前は、ご主人様に対して、命令してんじゃない。この変態ドMの駄メイドめ」
「ああ、すみませんご主人様! ですから……ですからもっと、この私を叱ってください!」
「だからそう言うのをやめろっていってんだ……よ!」
そうして俺は鞭を絵夢に振り下ろす。暑い日であるということもあって半袖だった絵夢の腕に当たりパシンっと、小気味の良い音が鳴る。あたった箇所がじんわりと赤くなっていく。
「あっ……駄目です。ご主人様……その程度では、お仕置きになりません。もっと激しく! でないと、物覚えの悪い私は、反省しません。ご主人様の手で、体に刻み付けてください!」
「そうかよ。だったら……これでいいか!」
さっきよりも力を込めて叩く。さらに、あえて一度目と同じ場所を叩いた。すると、先ほどよりも大きく、「あっ」っと声を上げた。そこにはどことなく、艶が混じっている。
「ああ……すみません、ご主人様。お仕置きされているのに、体が喜んでしまっています。でもそれは、ご主人様が私をお叱りしてくださるからこそ! 絵夢はご主人様の寵愛をこの身に受けられて……幸せです!」
「ああ。俺も、お前が喜ぶからこそ。こうしてやっているんだ。お前のためにしてやっているんだ。だから……」
俺は手に持った鞭をぎゅっと握る。そうしてさらに、絵夢にもう一撃を食らわせつつ、叫んだ。
「だからお前は、この俺から送られる刺激を、その身で感じ取って受け止めろ!」
「はひぃ! ご主人様!」
「いい返事だ……よし!」
その後は、何度も何度も、鞭を振るい続けた。俺も自分でできる限り考えて、あらゆる角度から全身を叩いていった。
そうして、腕が疲れ一息をついていたところで、絵夢は微笑みながら、一粒の涙を流し、呟いた。
「愛しています……ご主人様」
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