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2-5 姉への欲情

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「くっ! ダメだ。変化がない」

 今日も懲りずに、部屋でパソコンの画面に向かっていた。
 持っている画像は見まくったので、今回はネット上の新たなものを探していた。が、変化はないのだ。

 くそ! 神よ! 俺が一体何をしたっていうんだ!
 俺はただ小学校のみんなの住所を覚えたり、捜査資料として写真を撮ったり、電柱から様子を見守ったりしていただけじゃないか! それなのにこんな仕打ち……酷すぎるぜ。

 実際、理由もまだ分からず仕舞い。ただ、白瀬は自信関係してないってことは分かったが。だからこそ、事態は複雑化している。

 俺はロリコンとしての自分に戻りたい。だって、それこそが俺の真の姿なんだ。あの、純真無垢な子達を愛していた姿こそが。

 けど俺、このままじゃ愛って何なのか忘れてしまいそうだ。
 ディスプレイ右端に映る時間を確認する。もう十二時を回り、日付が変わろうとしていた。

「流石に寝るか」

 また明日、考えるしかない。諦めたらそこで終わりだ。そう、どっかの太っちょ先生も言っていた。前向きに考えよう。

「たっくん!」

 パソコンの電源を落とし、布団に入ろうというところで、唯愛が部屋に入ってきた。そしてそのまま俺の背中に抱きついてくる。

「たっくん! たっくん、たっくん、たっくん、たっくん、たっくん、たっくん!!」
「うざい。離れろ」

  って、それって俺の服……いや、前に俺があげたやつか。また着てんのな。もしかしてそれが寝間着とか?

「いや! たっくんの頼みでもそれは聞けない! 私はこの時をずっと待ってたんだから!」
「この時?」

 そういえば、もう少しで日を跨ぐところだったな……。ああ、そうか。前に俺が言った期限。五日間俺の部屋には絶対に入るなってやつ。それが丁度さっき切れたってことか。
 でも、俺には関係ないな。

「とにかく、離れろ。俺はこれから寝るんだ」
「あ、久しぶりに一緒に寝るの? 待ってて、今枕持ってくるから」

 そういう問題じゃない。ただ、枕を取りに行くためなのか、俺から離れてくれたことだけは感謝する。

「お前が俺の横にいたら寝れねーよ」
「大丈夫! お姉ちゃんがたっくんをぎゅーってして、子守唄を歌ってあげるから!」

 もっと、寝れない。

「いいから、とっとと出てけ」
「そんなに邪険にしなくてもいいじゃない……私、我慢したんだよ?」
「あーはいはい。すごいねー」
「最近はね、たっくんを怒らせちゃったから、約束のお部屋以外でも我慢していたの。たっくんのことを見るたびに、抱きつきたくなる衝動を無理やり抑え込んで、期間が終わるまではそっとしておこうって」

 そういや、『ロリコン魂消滅事件』のことで頭がいっぱいで忘れていたが、唯愛の抱きつきとかはなかったな。それを考えると、確かに唯愛は相当自重していたと言える。

「もちろん、誘惑はそこら中にあったよ。たっくんの洗濯物だったり、たっくんがお風呂に入った後の残り湯だったり、妄想中のたっくんの言葉攻めだったり……」

 おい。全体的におかしいが、最後のは誘惑でも何でもないだろ。

「でも、私はその全部を跳ね除けたの!」

 それで普通だよ。

「たっくんの洗濯物は、私の洗濯物と一緒に洗うことで何とかカバーし、残り湯は全身で浸かる程度に抑え、言葉攻めも、途中でやめた」

 いや、それは普通じゃないな。洗濯物とか、唯愛ぐらいの時期なら、一緒に洗うのを拒むレベルだろ。つーか、それで抑えているってどうなんだ? それ以上っていうと……嗅いだり、咥えたり、飲んだりか? 言葉攻めはよく分からんが。

「これだけ我慢したんだよ! 私! おかげでもう、欲求不満だよ!」

 あれでも欲求不満になるんだな。欲求不満……欲求不満ねぇ。……あれ? それって俺もじゃね?
 唯愛に宣言した日から、俺は一度もマイマシンガンからただの一つも弾を撃ってない。……ははは。健全な男子高校生が禁欲生活とか、壊れるわ。
 でも……グリップがあれじゃあ、撃てないんだよなぁ。

「だからたっくんの匂いをもっと近くで……はぁ……はぁ……嗅がせてよぉ」

 唯愛は再び俺に抱きついてくる。今度は、正面からだった。
 俺は呆れたように唯愛に体を預けていたが、そこで違和感を覚える。

 うん? どうした俺のマシンガン……いや、野に咲いた一輪の花よ。まるで、水を与えれたかのごとく、すくすくと成長して……って、

(はぁ!?)

 え? え? どういうこと!? どうなってんの! なんかでっかく……

「んんんんー……はぁ……たっくん~」

 ぞわり……

 唯愛が俺の首筋に鼻を当てて、思いっきり息を吸い込んできた。普段なら気持ち悪いという反応をするのだが

(なぜ!?)

 気持ち悪いぐらいに反応しているのは、あっちだった。これはつまり、俺が唯愛に欲情している――ということ。
 ……これ。相当やべーぞ。
 俺は、事態がどれだけ深刻なものだったのか、今にして理解する。

(それよりも、俺のこれが気づかれる前に唯愛を離さないと)

 唯愛のことだ。俺がこんな状態になっていたら。しかも、唯愛に抱きつかれているところでなら、唯愛は強引にでも濡れ場へと持って行ってしまうだろう。それだけは絶対に避けなければ。

「あれ? くんくん……この立ち込めてくるたっくんの男の匂いは……それに何か固いものがお腹に当たって」

 はい。ばれたー! でも立ち止まるな。強行手段だ。押し切れ!
 てか、どうなんってんだその鼻は!

「マジで離れろ! 唯愛!」
「きゃ!」

 両手を前に突き出し、唯愛を引き剥がし距離をとった。

「たっくん……ひどいよ。お姉ちゃんのこと突き飛ばすなんて……でも、そんな強引な感じも……いい!」

 ふぅ……どうやら誤魔化せたみたいだな。今回ばかりは、唯愛が変態で助かったぜ。いや、変態でなけれなまず、抱きつかれることもなかったから、こんな事態には……。

「だけどたっくん……私はもっと優しくされたいっていうか……たっくんとラブラブ、イチャイチャしたいよ!」
「俺はしたくない」

 誤魔化せたが、さらに面倒になったな。

「たっくんひどいよ! お姉ちゃん、ちゃんと約束守ったんだよ! だったら、ご褒美があってもいいじゃない!」
「あれは罰であって、報酬があると考えることがおかしい」
「ぶぅぶぅ。たっくんとの久しぶりの会話なのに……たっくん、冷たいよぉ~」
「知るか。俺はいつも通りだ」
「でも……よかったよ」

 唯愛はそういって、目を細める。

「たっくん、最近元気なかったから。ほとんど部屋に引き籠っていたし、思い詰めたような表情していたから。たっくんとの約束を破るわけにもいかないし、またたっくんを怒らせても悪いかなって思って声もかけられなかった。……ごめんね。お姉ちゃん、たっくんのために何もできなくて」
「唯愛姉……」

 ……そっか。なんだかんだで俺のこと、元気づけようとしてくれたんだな。

「気にすんなよ。唯愛姉は俺のこと心配してくれたんだろう? そして自分で考えて、そっとしておくのが一番だって思ったんだろう? だったら、謝る必要はないよ。それに、困ったこととか悩みがあったときは俺は、自分から唯愛姉のこと頼りたいと思うよ」
「……たっくん」
「唯愛姉……ありがとう」

 真剣な眼差しで唯愛に語りかける。すると、唯愛は身を震わせて……顔を輝かせて俺にまた抱きついてきた。

「たっくん今、唯愛姉って言った! 久しぶりに聞くよ! たっくんの唯愛姉! だってたっくんが私のこと唯愛姉って呼ぶのって、私のこと尊敬しているときくらいだよね! きゃー! たっくんに尊敬されちゃったー!」

 いや~抱きつくってシーン。何回も見てる気がする。そうか。今日――いや、もう昨日だけど――学校で白瀬が伊久留にしていたからか。
 って、折角振りほどいたのに逆戻りしちまった!

「呆れているときにも言うぞ」
「しかもたっくんにあんなにも真剣で、なおかつ優しげな顔で見つめられながら、ありがとうだなんて……!! 私嬉しすぎだよぉ~! ああ……!! やっぱり私は、たっくんのことが大好き!」

 聞いてないな。
 さて、どうしよう。おさまりかけていた下半身の律動運動も再開し始める。それに白瀬の時が凄すぎて、全然気づかなかったが、胸も少し高鳴っているな。

「はあぁぁああ……たっくん~」

 今の状態の唯愛なら、意識がないから放っておいても大丈夫――というのがいつもだが、今回はそうもいかないようだ。ここから抜け出さなければいけない。

「あれを使うか」

 俺には、この場から抜け出す方法が一つだけ思いつく。実はこの状況から抜け出すのには一つだけ裏技があるのだ。

 それを知ったのはつい最近――トイレに行きたいけど抱きつかれて、膀胱が爆発しそうになった時。その時に知った。その方法とは……

「唯愛に……殺される」

 こういうことを言う。簡単に言えば悪口を言う。すると……

「!? 私はたっくんにそんな酷いことしないよ!」

 このように、一瞬にして現実世界に引き戻せる。ちなみにこの言葉は、あの日と同じ言葉だ。
 戻ったらあとは簡単だ。

「離れろ」

 俺は唯愛を押し退ける。

「たっくん! 私はそんな酷いことしない!」
「繰り返さなくていいから。冗談だって……いや待てよ。愛ゆえに殺すとかあるらしいからな。俺、マジで殺されるかも」
「だからしないってば!」
「でも、自分では気づかないうちにやるかも……寝てるときとか」
「そんな殺し方、私のほうが怖すぎるよ!」
「窒息死なら或いは……」

 ぽよんと並んだ二つの脂肪の塊を見つつ答える。

「う……否定できない!」

 よし。ようやく落ち着いてきた……と思ったけど、何故か窒息死の下りのところからまた大きくなってしまった。まぁ、全体の五割もないからいいか。

「しかし、寝るはずだったのにずいぶんと時間を潰された」

 けど唯愛が部屋に来る前に寝ていたら、やばかったな。約一週間分溜まってるのが、朝の生理現象の時辺りで、唯愛に反応してしまい、暴発したと思う。

「あ、そうだね。じゃあ私は部屋に戻るね」

 そしてそれが分かっている今、この家で寝ることはできなくなった。なぜなら、寝ていたら絶対、唯愛は俺のベッドにやって来る。そうしたら結局、同じだ。

 たとえ、今日俺の部屋に来なくても、そのうち来るのは目に見えている。俺が唯愛で息子が興奮していると、ばれるのも時間の問題だろう。

「俺、友達の家に泊まりに行くわ」

 だから俺はこうするほかない。

「ええ!? 今からそんなの……ダメだよたっくん! それじゃあ不良さんになっちゃうよ!」

 確かに。この時間に外を出歩くのはな。ばれたら補導されてもおかしくない。それに友達……大輝も起きているだろうか。まぁ、その時はその時だな。

「お姉ちゃんは認めません! たっくんには真っ当な道を歩んでもらいます。非行なんてさせません」

 真っ当じゃない道を歩んでいるやつに、言われたくない。だが、部屋の入り口に立たれたら部屋から出れないな。

「ちょっとこっちにこい」
「え? な、なに?」

 唯愛の腕を掴んで、自分のベッドのところまで連れていき寝かせる。

「ほわぁ~ 全身がたっくんに包まれて……」

 しばらく放置していると、

「すぅ……すぅ……」

 と寝息を立て始めた。

「単純なやつだな」

 ここまで簡単に終わるんだったら、最初からすればよかったかもな。

「ううん~……たっくん……そんなところ汚いから……舐めちゃダメ……だよぉ~」

 眠りに落ちて数分で、どんな夢見ているんだ。

「まぁ、俺のこと心配してくれていたのは素直に礼を言うよ」

 起きていたら、絶対に面倒なことになるから言わないがな。
 俺は気持ちよさそうに眠る唯愛を尻目に着替えを済ませ、家を出た。
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