賭けさせ法師

Kain

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厠横

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「おい、阿保う師」
背は中ぐらい、少しばかり、ふっくらした少年が声をかけた。
「なんでしょうか」
黒い法衣に、羽織った金刺繍の袈裟が目立つ男が嬉しそうに返事をした。

厠の横、人通りもあまり多くなく、静かな中、二人は話しを始めた。

「おまえはいつまでこの町にいるんだ」
少年は、眉間にしわを寄せ、問いかけた。
「そうですねえ、、、ここの賭博場をすべて巡ったらでしょうかね」
男は、少年の顔を見ず、葉の色が変わり始めた樹を見つめていた。
「おまえ、そんなこと言って、うちの賭博場は町に三つしかねえんだぞ」
「おまえはもう、かれこれ三週間もいるでねえか」
少年は男の答えに不満を隠せない。
「おめえの評判は何ひとつよくない」
「酒は飲む、博打は打つ」
「はたまた朝方、お前の宿から女が出てくるのを見たってやつもいるぞ」
樹を揺らし、少年の髪をなびかせた風は、少年の熱をすこし運んで行った。
「おまえの、お経とお説法だけはみんなほめてただがな、、、」
「よかった」
男は、少しほっとした表情で言った。
「なにがよかっただ、それ以外はてんで駄目でねえか」
少年はの憤りはまだおさまっていないようだ。
「あ」
「なんだ」
男は、はっとした。
「ごめんなさい、いま私に話しかけていましたか」
「あたりめえだ、おらはさっきからずっと、おまえに話しかけてただ」
少年の怒りに気付いたのか、男は少し申し訳なさそうにしていた。
「おまえ、おらの話、なんも聞いてなかっただか」
「ごめんなさい、ちょっと他のことに気がいっていましたので」
少年が、間髪を空けずに言う。
「おまえ、おらの話を聞いてねえで、なに考えてただ」
「いやあ、樹の葉をですね」
「樹の葉」
訝しげに少年は聞いた。
「おまえ、僧職のくせして、おらに嘘つくだか?」
男は、諭すように言う。
「いやいや、ほんとですよ」
「ついね、またまた賭け事をしていまして」
「賭け事。誰といつ、何をだ。」
少年は、男の発言をとても怪しんだ。
男は、あっけらかん、ところてんが箸から落ちるように話し始めた。
「いえね、そこの樹があるでしょうに」
男は、先ほどからみていた、葉の色の変わり始めた樹を指し示した。
「あの樹の葉がですね、ちょうど、緑と色の変わったのが同じほどでして」
「次にあのお地蔵様の頭にのっかるのがどちらの方かと賭けていたんですよ」
男は、自慢げに言うが、少年は何も返さない。
「いやあ、嬉しいものですね」
「やはり、お地蔵様も秋の装いがいいかと思いまして」
「ちなみに、黄色って色を指定したのも当たってしまって」
「これがまた嬉しいんですよ」
男の機嫌はまるで、当てた色そのもので、とても楽しそうだ。
それに対し、少年の顔は真っ赤だった。はずれだ。
「おまえは、なんなんだ」
少年は、赤を通り越して、青だ。さらにはずれ。
男は、まだ嬉しそうに言う。
「しかも、あなたが歩いてたときに、話しかけてくれる方に、賭けたんですよ」
「こんな短時間に、二回も当たるなんて、今日は運がついているんでしょうかね」
「いえ、きっとそうに違いませんよ」
そんな上機嫌な男を、少年は一層睨みつける。
「お賭けいたしますか、勝つか負けるか」
男は、そんな少年に、急に眼を合わせて言った。
口は笑っているが、その眼は、悟りを目指す者のではなく、勝負師の眼だ。
「さあ、こんなとこにいる場合じゃありませんね」
「少し早いですが、今日は繁華街のほうにでも、行きましょうかね」
「またゆっくりとお話しいたしましょうね、失礼いたします」
男は、話し終えると、そそくさと行ってしまった。
「今日は、勝ったお銭様で、なにをしましょうかねえ」
にやけた男は、黄から赤、そしてピンクに。
「なんだ、あいつは」
少年の顔に赤が戻った。
「理解できん、、、本当に、あいつはお僧侶様なんか」
力の抜けた少年は、厠に向かった。
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