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090 愛
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「全世界とか無理に決まってんだろ」
ユジカ・キーミヤンは醜悪な笑みを浮かべて中段右手の人差し指をこちらに向けた。
指先が禍々しい光を纏っている。
マズい。
「そもそもやらせないけどな!」
ユジカの指先から俺たちに向けて強烈な閃光が放たれた。
5人で手をつなぎ協力して精神破壊の拮抗を維持している俺たちに防御の手段はない。
<ぐおおおおおっ!!!>
バーグルーラが俺たちの前に舞い上がって結界を張る。
ギャギィンッ!!!と激しい音と火花を散らしてユジカの閃光がかき消される。
しかしバーグルーラがいなくなったことでこちらの精神破壊の魔力量がガクンと落ちる。
「ちょっ、バーグルーラ、戻って!!!」
俺は必死に魔力を振り絞ってユジカの精神破壊を支える。
全身の血が沸騰して脳が爆発しそうだ。
「うっぎぎぎぎぎぎぎぎ…!!!」
腹の底から魔力を燃え上がらせて耐える俺にバーグルーラは振り返って言った。
<いいか、我はこのまま奴の物理攻撃を防御しながら我も攻撃を仕掛けて注意を惹きつける>
もうこちらの精神破壊の維持には戻ってこないということか。
いや無理だよそれじゃ。ユジカの精神破壊に潰されちゃう。
<ティモシーよ、お前ならできる>
バーグルーラは俺を振り返って言った。
<この黒竜王を倒した男の底力はまだまだそんなものではないはずだ。信じているぞ>
そう言ってバーグルーラはユジカのほうへと羽ばたいていった。
買いかぶり過ぎだって。無茶言うなよ。
さっきからずっと全開の魔力なのに底力なんて、いや、愚痴を言ってる場合じゃない。
死ぬ気で何とか支えるしかない。
俺たちとユジカの間で火花を散らす精神破壊の衝突地点がグググッとこちらに近付いてくるが、それを何とか押し戻そうとする。戻せはしないがせめて押し留める。とんでもなく重くて巨大な石の塊を全身の筋力で押し返すイメージ。
身体中の血管や神経や魔力の通り道がブチブチと音を立てているような気分にさえなる。
バーグルーラはユジカが振り回す6本の腕をかいくぐり、火炎のブレスや衝撃波は放っているが、ユジカにダメージはまったくないようだ。ユジカが腕を振り回す度に猛烈な風圧がこちらに届いてくるが俺たちは何とか吹き飛ばされないように耐えている。
「…アタシも、バーグルーラを手伝ってくるよ」
シシリーが俺のほうを見ながらそう言った。
俺は必死に精神破壊を維持しながら目線だけシシリーのほうを向けて何とか言葉を返す。
「いや…今シシリーまで抜けると………」
シシリーは唇をかみしめうつむいたが、すぐに顔を上げて強い目で再び俺を見る。
「きっと、ティモシーなら大丈夫。でもこのままじゃバーグルーラがやられちゃう。それにアタシたちがユジカの気をそらせられたらティモシーの負担も軽くなるよ」
シシリーはそう言って、少し間をあけてから「それに…」と続けた。
「今こそアタシをずっと守ってきてくれたバーグルーラの力になりたいんだ」
俺は何も答えることができずにいたが、俺とシシリーの間にいるシェリルが答えた。
「行ってきなさい、ティモシーは私が守るわ。あなたはバーグルーラを守りなさい」
シシリーはシェリルの言葉に「ありがとう!行ってくる!」と返すと同時に飛び立った。
またこちらの魔力量がガクンと減る。
俺たちとユジカの間の精神破壊の衝突地点がさらにこちらに近付いてくる。最初は5:5、バーグルーラが抜けて3:7になっていたのが、さらにシシリーが抜けて2:8くらいになっている。
「がんばって!あなたならできるわ!!!」
シェリルの言葉に奮起して俺は魔力をさらに振り絞る。
脳が痺れて頭蓋骨が割れそうだ。全身の神経や血管もちぎれそう。
身体中からブチブチブチと音が聞こえる。気のせいではなく。
「ティモシーさん、私もちょっと抜けますよ!」
俺の右側からレミーが出し抜けにそう言った。
いやいやいや、無理無理無理無理。だが声を出してる余裕がない。
「さっきネクロードミレーヌさんが全世界の情報共有装置をリンクさせるって言ってましたけど、開発者の私が設定いじらなきゃ多分どうやっても無理なんですよね!なのでちょっと失礼します!」
レミーは俺の返答も待たずに手を離し、俺たちの後ろに回って何やらガチャガチャとやり始めた。
「うおおおおっ!?」
またこちら側のパワーが減ってユジカの精神破壊に押し込まれる。もう俺たちの目の前で火花が散っている。
ダメだ死ぬ。
弱気な心があらわれた時、俺の左手を握るシェリルの手にキュッと力が入った。
俺もそれを強く握り返す。
「大丈夫よティモシー!あなたならできる!!!」
その言葉に不思議と魔力が湧き上がってくる。
「うおおおおぉぉぉぉぉおぉぉおおおおおぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
俺は目を血走らせ鼻血を吹き出し全身のありとあらゆる場所から魔力を燃え上がらせ、巨大な岩石のようなユジカの精神破壊をどうにかこうにか押し支える。何とか俺たちの目の前で火花は止まっている。
バーグルーラとシシリーがユジカのまわりを飛び回り、次々と攻撃を放っている。
ユジカにダメージはまったくないが、どれだけ腕を振り回しても閃光を放っても捕まらないバーグルーラとシシリーにイライラした様子で「うるさいハエどもが!」と叫んでいる。そのおかげだろう。俺とシェリルだけで支えられているのは。
「ねえティモシー、こんな時に悪いのだけど、いいかしら」
なんだよ、まさかシェリルまでどっか行くとか言うんじゃないだろうな。
それは無理だぞ、さすがに。
俺は言葉を口に出す余裕もなく目線だけでシェリルの次の言葉を促す。
じっと俺を見つめるシェリルの瞳に、必死の形相の俺が映る。
シェリルの頬を、俺たちの目の前でバチバチと飛び散る凶悪な火花が照らしている。
少しの間があってから何かを決意したようにシェリルが言った。
「愛してるわ、ティモシー」
「え?」
ななななななななな何それ何それ何それ、どどどどどういうことなの一体。
動揺して一瞬魔力が弱まりぐぐっと押し流されそうになるがハッとなって力を込め直しどうにかこうにか精神破壊を押し返す。
シェリルは俺の左手を両手で握って身体ごと完全に俺のほうを向いている。
「好き。おかしくなるくらい好き。ずっとずっとずっと好きでずっとずっとずっとずっとあなただけを見てきたの。好き。どうしようもなく大好きなのよティモシー」
いやちょっと待って、え?なんで?なんで今?
ちょちょちょっとヤバいヤバい動揺で力が、いや集中、どうにか集中。
「本当はこの戦いが終わってから言おうと思っていたのだけど、いえ別にもう死にそうだから言うのではなくて、どうしても今ここで言いたくて、私…その、あなたと心から一緒になってこの戦いを乗り越えて、それからその、一緒になりたいの」
シェリルが俺の左手をぎゅうっと両手で握り締める。
「私と、結婚してください」
ええええええええええええええええ急展開。
急すぎるよ突然、どうしようどうすればいいんだ目の前には敵の魔力が迫ってきてるし力を緩めたら死ぬ。死んだら結婚も何もないしそもそもなんでシェリルは俺のこと、いや今はもうそれはいい、とにかくシェリルは俺が好きで結婚したい。じゃあ俺は?俺はどうなのか、いや待って考える余裕なんてない。でも。
どうにか魔力を集中させながら脳をフル回転させて今までを振り返る。
ラノアール王国から俺を追ってきたシェリル。恐ろしい氷の女帝だと思っていたシェリル。数々の冒険、ドワーフ鉱山でエルフの隠れ里への森の中で地下の墓地でいろんなところで俺を守ってくれたシェリル。俺よりも小さくて細いのにどこにそんな力があるのかすごい強さで俺を守り続けてくれたシェリル。暗部に拉致されてラノアールに向かう馬車の中で俺を守れなかった自分を責めて少女のようにボロボロ泣いていたシェリル。クールに見えて恥ずかしがり屋でがんばり屋で一生懸命でホントは涙もろくて可愛くてあったかくて誰よりも優しいシェリル。そのシェリルが生きるか死ぬかの瀬戸際で俺の手を握り締めて大好きで結婚したいと言ってくれている。勇気を振り絞って。
俺は必死に魔力を維持したままシェリルに顔を向ける。
汗だくで鼻血も吹き出て目も血走って酷い顔だろうけど構うものか。
「俺も好きだよ、結婚しようシェリル。これからは俺がお前を守る」
シェリルの大きく見開いた目からポロッと涙がこぼれてパアアッと今まで見たこともないような華やかな笑顔を見せた。氷の女帝と呼ばれたシェリルが真夏のひまわりみたいだ。
俺は輝くような笑顔のシェリルに頷く。
「まずは一緒にアイツを倒そう!終わったら結婚パーティーだ!!!」
そう言ってユジカに向き直った俺にシェリルが「はい!!!」と言ってシェリルもまたユジカに向き直る。俺の左手をぎゅうううっと握り締めて「もう二度と離さないわ」と言う。
身体の底から魔力が信じられないくらいに湧き上がってくる。シェリルからも燃え盛る炎みたいな魔力を感じる。2人ならやれる俺たちならやれる。
バリバリバリバリと激しく閃光をほとばしらせながらユジカの精神破壊を押し返していく。
背後でレミーが「ひゅーひゅー!末永くお幸せに!いや~いいもん見た!いいもん見ましたよ!」などと騒いでいるが、いいから早くやってくれ、情報共有装置の設定変更を。
<ふははははは!この黒竜王が2人の結婚を祝福しよう!!!>
ユジカのまわりを飛び回るバーグルーラから思念が伝わる。
え、なんであんな遠いのになんで聞こえてるの。
<先ほどからずっと思念共有しているのだから当たり前だろう>
まあそうかすっかり忘れてた。
「アタシは最初からこうなること知ってたよ!おめでとう!!!」
シシリーもユジカのまわりを飛び回りながらそう叫ぶ。
最初からってのはよくわからないがまあ祝福はありがたく受け取ろう。
「ワシもカーライルの王として2人の国民の門出を祝おう!!!」
情報共有装置から展開されている光の板の中でカーライル王がそう言う。ん?カーライル王にも聞こえてたのか。いやでも通話ってずっとつながってたっけなどうだっけ。レミーが俺とシェリルの隣りに戻ってきて言う。
「ちょうどさっき情報共有装置の設定変更が完了しました!すでに全世界の情報共有装置を強制同時起動して通話状態にしてますよ!なのでさっきのプロポーズも全世界に流れてます!」
はああああああああああああああ!?
全世界!!!!!
全世界って!!!!!!!!!!
シェリルも見なくても顔が真っ赤になってるのがわかる。シェリルは俺の左腕にしがみついてモジモジし始めた。2人の動揺で魔力が弱まる。ヤバいヤバい集中しようシェリル。初めての2人の共同作業なんだから。ね。
照れながらイチャつく俺とシェリルを見てなのか何なのか、ユジカ・キーミヤンが憤怒の表情を浮かべて怒鳴った。
「ふざけんなリア充が!!!爆発しろおぉおぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
ユジカ・キーミヤンから今までとは比べ物にならないほど凄まじい魔力が放出される。
俺とシェリルの魔力が一気に押し流される。ヤバいダメだ新婚早々死ぬ。
「他人の幸せを妬むなよ教皇!魔王の僕も2人を祝福する!さあ僕たちの思念の力を送るよ!みんなで邪魔者をやっつけよう!!!」
情報共有装置の光の板から魔王ネクロードミレーヌがそう言うと俺たちの魔力に途方も無いパワーが乗ってユジカ・キーミヤンの魔力を押し返し始める。
バーグルーラとシシリーも俺たちのほうに戻ってきて一緒に思念の力を放つ。
全員の声が揃う。
<「「「「行けえぇぇぇえぇええぇぇえええぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!」」」」>
ユジカ・キーミヤンは醜悪な笑みを浮かべて中段右手の人差し指をこちらに向けた。
指先が禍々しい光を纏っている。
マズい。
「そもそもやらせないけどな!」
ユジカの指先から俺たちに向けて強烈な閃光が放たれた。
5人で手をつなぎ協力して精神破壊の拮抗を維持している俺たちに防御の手段はない。
<ぐおおおおおっ!!!>
バーグルーラが俺たちの前に舞い上がって結界を張る。
ギャギィンッ!!!と激しい音と火花を散らしてユジカの閃光がかき消される。
しかしバーグルーラがいなくなったことでこちらの精神破壊の魔力量がガクンと落ちる。
「ちょっ、バーグルーラ、戻って!!!」
俺は必死に魔力を振り絞ってユジカの精神破壊を支える。
全身の血が沸騰して脳が爆発しそうだ。
「うっぎぎぎぎぎぎぎぎ…!!!」
腹の底から魔力を燃え上がらせて耐える俺にバーグルーラは振り返って言った。
<いいか、我はこのまま奴の物理攻撃を防御しながら我も攻撃を仕掛けて注意を惹きつける>
もうこちらの精神破壊の維持には戻ってこないということか。
いや無理だよそれじゃ。ユジカの精神破壊に潰されちゃう。
<ティモシーよ、お前ならできる>
バーグルーラは俺を振り返って言った。
<この黒竜王を倒した男の底力はまだまだそんなものではないはずだ。信じているぞ>
そう言ってバーグルーラはユジカのほうへと羽ばたいていった。
買いかぶり過ぎだって。無茶言うなよ。
さっきからずっと全開の魔力なのに底力なんて、いや、愚痴を言ってる場合じゃない。
死ぬ気で何とか支えるしかない。
俺たちとユジカの間で火花を散らす精神破壊の衝突地点がグググッとこちらに近付いてくるが、それを何とか押し戻そうとする。戻せはしないがせめて押し留める。とんでもなく重くて巨大な石の塊を全身の筋力で押し返すイメージ。
身体中の血管や神経や魔力の通り道がブチブチと音を立てているような気分にさえなる。
バーグルーラはユジカが振り回す6本の腕をかいくぐり、火炎のブレスや衝撃波は放っているが、ユジカにダメージはまったくないようだ。ユジカが腕を振り回す度に猛烈な風圧がこちらに届いてくるが俺たちは何とか吹き飛ばされないように耐えている。
「…アタシも、バーグルーラを手伝ってくるよ」
シシリーが俺のほうを見ながらそう言った。
俺は必死に精神破壊を維持しながら目線だけシシリーのほうを向けて何とか言葉を返す。
「いや…今シシリーまで抜けると………」
シシリーは唇をかみしめうつむいたが、すぐに顔を上げて強い目で再び俺を見る。
「きっと、ティモシーなら大丈夫。でもこのままじゃバーグルーラがやられちゃう。それにアタシたちがユジカの気をそらせられたらティモシーの負担も軽くなるよ」
シシリーはそう言って、少し間をあけてから「それに…」と続けた。
「今こそアタシをずっと守ってきてくれたバーグルーラの力になりたいんだ」
俺は何も答えることができずにいたが、俺とシシリーの間にいるシェリルが答えた。
「行ってきなさい、ティモシーは私が守るわ。あなたはバーグルーラを守りなさい」
シシリーはシェリルの言葉に「ありがとう!行ってくる!」と返すと同時に飛び立った。
またこちらの魔力量がガクンと減る。
俺たちとユジカの間の精神破壊の衝突地点がさらにこちらに近付いてくる。最初は5:5、バーグルーラが抜けて3:7になっていたのが、さらにシシリーが抜けて2:8くらいになっている。
「がんばって!あなたならできるわ!!!」
シェリルの言葉に奮起して俺は魔力をさらに振り絞る。
脳が痺れて頭蓋骨が割れそうだ。全身の神経や血管もちぎれそう。
身体中からブチブチブチと音が聞こえる。気のせいではなく。
「ティモシーさん、私もちょっと抜けますよ!」
俺の右側からレミーが出し抜けにそう言った。
いやいやいや、無理無理無理無理。だが声を出してる余裕がない。
「さっきネクロードミレーヌさんが全世界の情報共有装置をリンクさせるって言ってましたけど、開発者の私が設定いじらなきゃ多分どうやっても無理なんですよね!なのでちょっと失礼します!」
レミーは俺の返答も待たずに手を離し、俺たちの後ろに回って何やらガチャガチャとやり始めた。
「うおおおおっ!?」
またこちら側のパワーが減ってユジカの精神破壊に押し込まれる。もう俺たちの目の前で火花が散っている。
ダメだ死ぬ。
弱気な心があらわれた時、俺の左手を握るシェリルの手にキュッと力が入った。
俺もそれを強く握り返す。
「大丈夫よティモシー!あなたならできる!!!」
その言葉に不思議と魔力が湧き上がってくる。
「うおおおおぉぉぉぉぉおぉぉおおおおおぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
俺は目を血走らせ鼻血を吹き出し全身のありとあらゆる場所から魔力を燃え上がらせ、巨大な岩石のようなユジカの精神破壊をどうにかこうにか押し支える。何とか俺たちの目の前で火花は止まっている。
バーグルーラとシシリーがユジカのまわりを飛び回り、次々と攻撃を放っている。
ユジカにダメージはまったくないが、どれだけ腕を振り回しても閃光を放っても捕まらないバーグルーラとシシリーにイライラした様子で「うるさいハエどもが!」と叫んでいる。そのおかげだろう。俺とシェリルだけで支えられているのは。
「ねえティモシー、こんな時に悪いのだけど、いいかしら」
なんだよ、まさかシェリルまでどっか行くとか言うんじゃないだろうな。
それは無理だぞ、さすがに。
俺は言葉を口に出す余裕もなく目線だけでシェリルの次の言葉を促す。
じっと俺を見つめるシェリルの瞳に、必死の形相の俺が映る。
シェリルの頬を、俺たちの目の前でバチバチと飛び散る凶悪な火花が照らしている。
少しの間があってから何かを決意したようにシェリルが言った。
「愛してるわ、ティモシー」
「え?」
ななななななななな何それ何それ何それ、どどどどどういうことなの一体。
動揺して一瞬魔力が弱まりぐぐっと押し流されそうになるがハッとなって力を込め直しどうにかこうにか精神破壊を押し返す。
シェリルは俺の左手を両手で握って身体ごと完全に俺のほうを向いている。
「好き。おかしくなるくらい好き。ずっとずっとずっと好きでずっとずっとずっとずっとあなただけを見てきたの。好き。どうしようもなく大好きなのよティモシー」
いやちょっと待って、え?なんで?なんで今?
ちょちょちょっとヤバいヤバい動揺で力が、いや集中、どうにか集中。
「本当はこの戦いが終わってから言おうと思っていたのだけど、いえ別にもう死にそうだから言うのではなくて、どうしても今ここで言いたくて、私…その、あなたと心から一緒になってこの戦いを乗り越えて、それからその、一緒になりたいの」
シェリルが俺の左手をぎゅうっと両手で握り締める。
「私と、結婚してください」
ええええええええええええええええ急展開。
急すぎるよ突然、どうしようどうすればいいんだ目の前には敵の魔力が迫ってきてるし力を緩めたら死ぬ。死んだら結婚も何もないしそもそもなんでシェリルは俺のこと、いや今はもうそれはいい、とにかくシェリルは俺が好きで結婚したい。じゃあ俺は?俺はどうなのか、いや待って考える余裕なんてない。でも。
どうにか魔力を集中させながら脳をフル回転させて今までを振り返る。
ラノアール王国から俺を追ってきたシェリル。恐ろしい氷の女帝だと思っていたシェリル。数々の冒険、ドワーフ鉱山でエルフの隠れ里への森の中で地下の墓地でいろんなところで俺を守ってくれたシェリル。俺よりも小さくて細いのにどこにそんな力があるのかすごい強さで俺を守り続けてくれたシェリル。暗部に拉致されてラノアールに向かう馬車の中で俺を守れなかった自分を責めて少女のようにボロボロ泣いていたシェリル。クールに見えて恥ずかしがり屋でがんばり屋で一生懸命でホントは涙もろくて可愛くてあったかくて誰よりも優しいシェリル。そのシェリルが生きるか死ぬかの瀬戸際で俺の手を握り締めて大好きで結婚したいと言ってくれている。勇気を振り絞って。
俺は必死に魔力を維持したままシェリルに顔を向ける。
汗だくで鼻血も吹き出て目も血走って酷い顔だろうけど構うものか。
「俺も好きだよ、結婚しようシェリル。これからは俺がお前を守る」
シェリルの大きく見開いた目からポロッと涙がこぼれてパアアッと今まで見たこともないような華やかな笑顔を見せた。氷の女帝と呼ばれたシェリルが真夏のひまわりみたいだ。
俺は輝くような笑顔のシェリルに頷く。
「まずは一緒にアイツを倒そう!終わったら結婚パーティーだ!!!」
そう言ってユジカに向き直った俺にシェリルが「はい!!!」と言ってシェリルもまたユジカに向き直る。俺の左手をぎゅうううっと握り締めて「もう二度と離さないわ」と言う。
身体の底から魔力が信じられないくらいに湧き上がってくる。シェリルからも燃え盛る炎みたいな魔力を感じる。2人ならやれる俺たちならやれる。
バリバリバリバリと激しく閃光をほとばしらせながらユジカの精神破壊を押し返していく。
背後でレミーが「ひゅーひゅー!末永くお幸せに!いや~いいもん見た!いいもん見ましたよ!」などと騒いでいるが、いいから早くやってくれ、情報共有装置の設定変更を。
<ふははははは!この黒竜王が2人の結婚を祝福しよう!!!>
ユジカのまわりを飛び回るバーグルーラから思念が伝わる。
え、なんであんな遠いのになんで聞こえてるの。
<先ほどからずっと思念共有しているのだから当たり前だろう>
まあそうかすっかり忘れてた。
「アタシは最初からこうなること知ってたよ!おめでとう!!!」
シシリーもユジカのまわりを飛び回りながらそう叫ぶ。
最初からってのはよくわからないがまあ祝福はありがたく受け取ろう。
「ワシもカーライルの王として2人の国民の門出を祝おう!!!」
情報共有装置から展開されている光の板の中でカーライル王がそう言う。ん?カーライル王にも聞こえてたのか。いやでも通話ってずっとつながってたっけなどうだっけ。レミーが俺とシェリルの隣りに戻ってきて言う。
「ちょうどさっき情報共有装置の設定変更が完了しました!すでに全世界の情報共有装置を強制同時起動して通話状態にしてますよ!なのでさっきのプロポーズも全世界に流れてます!」
はああああああああああああああ!?
全世界!!!!!
全世界って!!!!!!!!!!
シェリルも見なくても顔が真っ赤になってるのがわかる。シェリルは俺の左腕にしがみついてモジモジし始めた。2人の動揺で魔力が弱まる。ヤバいヤバい集中しようシェリル。初めての2人の共同作業なんだから。ね。
照れながらイチャつく俺とシェリルを見てなのか何なのか、ユジカ・キーミヤンが憤怒の表情を浮かべて怒鳴った。
「ふざけんなリア充が!!!爆発しろおぉおぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
ユジカ・キーミヤンから今までとは比べ物にならないほど凄まじい魔力が放出される。
俺とシェリルの魔力が一気に押し流される。ヤバいダメだ新婚早々死ぬ。
「他人の幸せを妬むなよ教皇!魔王の僕も2人を祝福する!さあ僕たちの思念の力を送るよ!みんなで邪魔者をやっつけよう!!!」
情報共有装置の光の板から魔王ネクロードミレーヌがそう言うと俺たちの魔力に途方も無いパワーが乗ってユジカ・キーミヤンの魔力を押し返し始める。
バーグルーラとシシリーも俺たちのほうに戻ってきて一緒に思念の力を放つ。
全員の声が揃う。
<「「「「行けえぇぇぇえぇええぇぇえええぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!」」」」>
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弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
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