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038 破壊

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階段を昇って1Fに出ると、暗部のメンバー、リーデルとフィッツェリアは壁にもたれかかるようにして気を失っていた。

<つまらん相手だったよ>

バーグルーラは大きなあくびをしてそう言った。

「ありがとう、バーグルーラ。あとはみんなと一緒に広場に出ていてくれ。俺がシェリルを連れてくる。集まったらシシリーの移動ムーブでカーライルに帰ろう」

頷く面々を残して、俺は魔導兵装サイコスーツを操縦して飛び立った。
兵装スーツにはシシリーの空間魔術、浮遊フローティングの機能が組み込まれており、宙に浮いたり猛スピードで飛行したりできるようだ。

天井を突き破って2Fへ。そのまま次々に壁を破壊して一直線にフランネル財務大臣のもとへ向かう。
俺の記憶探知マインドディテクション残留思念感応サイコメトリーも、レミーが創り上げた擬似的な知能であるハーヴェストと共有させることができ、感知できた人物の居場所を特定することができた。

シェリルはやはりフランネルとともに財務大臣執務室にいる。

<目標地点到達まであと10秒です>

ハーヴェストが表示してくれた王宮内マップで、シェリルを示す印が点滅している。

フランネルがシェリルに何をしているかまではわからないが、いずれにしても俺は必ず奴をぶちのめすだろう。


…………………………………………


シェリルはこのフランネル財務大臣の執務室に連れてこられてから、ただひたすらに呆れ続けていた。

「…よくこんなになるまで溜めておけたものね」

執務室の奥に置かれた大きな机からは大量の書類が溢れかえって雪崩を起こし、床にまで紙の束がいくつも散乱していた。

「わ、私だって頑張ったんです!一生懸命!でも…でもシェリルさんがいないと全然追いつかなくて…!」

フランネルは丸々と肥えた背中をさらに丸々と丸め、床に突っ伏して泣き出した。

いつもの尊大な態度は一体どこへ行ったのか。

だが、本当はそんなものは元々どこにもなかった。彼は幼少の頃から気が小さくて臆病で、だからこそ将来への不安を打ち消そうと必死に勉学に励み、王宮で職を手に入れ、その臆病さをもって頭角を現し、最後は財務大臣にまで上り詰めたのだった。
そのポジションについてからは、まわりのすべてが敵に見え、過剰なストレスから暴飲暴食に走って大いに肥え太り、怯える小型犬のように周囲を恫喝し、優秀な者ほど執拗にいじめ抜いて未然に叩き潰すようになった。

臆病すぎて尊大になった。それがフランネル財務大臣だった。

魔法学園を主席で卒業したシェリルに対しても、最初は同じように恫喝し、いじめ抜いて意のままに操り、その美貌を我が者にしたいという思惑で接した。
しかしその野望はあっという間に打ち砕かれることになる。

あまりにシェリルが優秀すぎた。

どれだけ無謀な仕事量を与えても一瞬で終わらせ、そればかりか上司であるフランネルに対して「仕事の振り方が下手すぎる」と叱責し、フランネルも激昂して「上司にその物言いは何事か」と恫喝するも、今度は「人にはそれぞれ器がある」「上司になりたいのなら相応の器を持て」「お前にはその努力の形跡さえも見えない」「一体どういう了見で生きているのか」「黙っていないでさっさと答えろ」「お前は豚だから人の言葉も理解できないのか」などなど、ありとあらゆる角度から徹底的に責め倒され、フランネルはとうとう最後には幼児のように泣き崩れた。

以来、フランネルはシェリルに絶対服従を誓い、シェリルの前でだけは泣いていい、ということを勝手に決め、毎日毎日「この問題の処理は僕には難しすぎるからシェリルさんにやって欲しい」「シェリルさんにやってもらわないとお仕事が終わらないの」などと甘えに甘え続けてシェリルがいた10年間という時を過ごした。

そしてこのたび、シェリルを執務室に連行し、人払いを済ませると土下座して泣き出した。
「どうしていなくなっちゃったんですか!」などと喚きながら。

もうかれこれ数時間は泣き続けている。

最初こそシェリルは「私とティモシーをこんな目に合わせておいて、ただで済まされると思っているのか」とフランネルに対して怒りの言葉を発していたが、そう言えば言うほどにフランネルが泣き声を大きくするばかりなので、次第に呆れ返ることしかできなくなってしまった。

…どうしたものかしら。
面倒だわ。もうこの豚を殺して帰ってしまおうかしら。

こんな小物を斬っても剣が汚れるだけなので嫌だけど埒が明かないので仕方ないと、返却させた自分のレイピアに手をかけたその時だった。

執務室の壁が破壊され、虹色の鈍い輝きを放つ真っ黒な金属の塊があらわれた。


…………………………………………


一体どういう状況なんだ。

俺が天井や壁を破壊して最短距離で財務大臣執務室に到着すると、レイピアに手をかけたシェリルと土下座の体勢で泣き腫らした顔のフランネルの2人が、どちらもきょとんとした表情でこちらを見ている。

拘束を解いたシェリルに対して命乞いするフランネルという図式か?

それにしては争った形跡もない。

では、なんだ。
あれか、こういうプレイなのか?フランネルってそういう趣味なのか?
確かにシェリルはよく似合うし、気持ちはわからなくないけど。

まあ、いい。

とりあえず俺は機械操作マシンテレパス魔導兵装サイコスーツの頭部の兵装を解除した。

「ティモシー!」

シェリルの表情が明るく輝く。

「助けに来たよ、シェリル」

シェリルは両目に涙をいっぱいに溜めてこちらに駆け寄る。
やはりシェリルも怖かったのだろう。

「私…私……」

シェリルはそう言って俺に寄り添い、黒虹鉄鋼ラクラルライトの装甲の胸部におでこをくっつけた。
それを見たフランネルが顔を歪め、大粒の涙をこぼして泣き声を上げた。

マジで一体なんなんだコイツは…。

「ねえ、あの豚、どうするの?」

シェリルが顔を上げて尋ねる。

「…う~ん、本当は殺すつもりで来たんだけど、なんだかな…」

俺は右手の拳をフランネルに向け、ガシャン!と前腕部から魔光斉射砲サイコマシンガンの銃口を飛び出させる。

「ひっ!ひいっ!」と泣きわめくフランネル。

ズガガガガガガガガガッ!

俺がフランネルの足元の床を撃ち抜くと、フランネルは恐怖にガタガタと震え、股間から湯気が立ち昇る液体を漏らした。

「俺たちはもう帰るけど今度また俺たちや俺たちの仲間、カーライルの街や国に手を出してみろ。その時は殺すぞ。お前の家族も知人も王も全員だ。わかったか?」

フランネルは声も出せずに何度も必死に頷いている。
俺が左手の手のひらを窓のあるほうの壁に向け、魔光爆炎砲サイコバズーカを放つと、フランネルはその轟音で泡を吹いて気絶した。

俺はシェリルを抱きかかえると、壁に大きく空いた穴から外へと飛び立った。
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